ちょっと誰かに聞いて欲しいわ。
愚痴よ、愚痴。
何のって・・・そりゃあ・・・
「なぁ柊沢。昨日シャンプー変わってたけど、アレどうしたんだ?」
「ああ、クレフさんに頂いたのですよ。セフィーロで採れた植物を調合したとかで」
「ふーん・・・」
「お気に召しませんでした?」
「・・・いや、良い匂いだな。お前からいつもより甘い香りするし」
コレよコレ!こ・の・ふ・た・り!!
あぁ〜もう、ここ教室よ!?昼休みよ!?皆で楽しくランチタイムよ!?
なのになのに、小狼と柊沢君の近さったら・・・遠目から見たらピッタリくっついてるみたい!
会話の内容だってああなのに、ベッタリしちゃって!ああもう!!
真冬のこの教室がこーんなに暑いのは、きっとストーブの所為じゃないわ!!
「苺鈴ちゃ〜ん、どうしたの〜?」
「・・・な、なんでもないわ」
思わずク〜ッ!と握り拳を作ると、後ろから木之本さんのぽややんとした声に呼ばれる。
クルリと振り向くと、木之本さんと大道寺さんが私を見てポカンとしていた。
・・・そりゃあ、お弁当も食べずに後ろ見たまま怒ってるんだものね、そりゃ変だわ。
折角の楽しいお昼休みなんだから、あのバカップルはほっといて女の子同士のお喋りよ!
ちなみに今日のお弁当は大道寺さんが作ってくれた。すごく美味しい。
私もたまに料理を教わってる。大道寺さんは洋食が得意みたい。
・・・小狼のお弁当は、柊沢君が作ったけど。
それがまたすごく美味しそうで、ほんとーに腹立つぅ!私の努力は何なのよ!!
小狼も小狼で嬉しそうに顔緩めながら食べちゃうし、全くもー!
「そーだ!苺鈴ちゃん、知世ちゃん、今度のスキー合宿、どっちにする?」
「ん?あぁ、スキーとスノボーがあるのよね」
「そうですわねぇ、さくらちゃんはどちらになさいますの?」
高校では、毎年有志でスキー合宿があるらしいの。
勿論今年入学した私達は、ほとんどが参加するんだけど・・・どっちのコースにしようかな。
私はあんまり雪と触れ合った事が無いし、初心者向けのスキーコースにしたいんだけど。
「んー・・・私はスキーかな。まだスノボーは怖いから」
「それでしたら、私もスキーに致しますわ。苺鈴ちゃんはいかがなさいます?」
「私もスキーが良い!だって初心者だもの、まずは基本からよね!」
「やったぁ!じゃあ、一緒に滑ろうね!」
木之本さんがニコニコ笑いながらタコさんウィンナーを頬張る。
相変わらずほわほわポヤヤンで、癒されるわねぇ、この子。
背中まで伸びた髪の毛が唯一”成長したなぁ”と思わせる所だったり。
「そう言えば李君、スキー合宿の希望票、もう提出しました?」
む。
どうやら小狼と柊沢君もスキーについて話してるみたい。
ほっとこう。と思いつつも、耳だけは一字一句聞き漏らさず2人の会話をキャッチする。
「・・・スノボーにした」
「おや、意外ですねぇ。スキーになさるかと思ったのに」
えぇ!?小狼スノボーなの!?
そう言えば小狼、小学校の時にスキーやったって言ってたっけ。
なら大丈夫そうだけど・・・今回はどうやら一緒に滑る機会はなさそう。ちょっと残念。
・・・まぁどうせ、小狼はずーっと柊沢君とくっ付いてるんだから、意味無いわね。
「お前は出したのか?」
「いえ、まだ・・・迷っていたのですが、私もスノボーにしましょうか」
「そうしとけ」
ホーラやっぱり!何処行っても2人はくっ付いてるのよ!
前に皆で遊園地行った時だって、映画観に行った時だって、春のキャンプの時だって!
もういっその事2人で溶けてくっついちゃえば良いじゃない。って思うくらいずーっと。
でも、いくら柊沢君が女の子みたいな見た目してるからって・・・
観覧車で2人っきりになるのはどうかと思うわ。
映画館で、柊沢君が小狼の肩に頭を預けるのもダメよ。
キャンプ先で、2人こっそり部屋抜け出して星空観賞してるのはもーっとよ!
「もしまた李君がコントロールを失ったら、私が受け止めてあげますからね」
「・・・怪我したらどうするんだ。俺が受け止める側なら良いけど」
「おや、私が転ぶとでも?」
「・・・ちょっとくらいバランス崩せよ、俺が受け止めてやるから」
あー!もう!どーしてそんなに顔近づけて喋るのよ!
受け止めるだの受け止めないだの、転ばなきゃ良いだけの話でしょ!!
大体柊沢君も小狼も運動神経抜群なんだから転びやしないわよっ!!
「苺鈴ちゃ〜ん、眉間に皺寄ってるよ・・・?」
「どうなさいましたの?」
「・・・なぁんでもないわっ!」
お弁当も美味しいし!と笑うと、大道寺さんもニッコリ笑い返してくれる。
ホントーに美人よね、大道寺さん。
色白だし髪の毛なんてツヤツヤしてるし。
・・・でも柊沢君のが肌白いのよね。アレおかしいわよ、ビョーキよビョーキっ!
振り返って柊沢君を見ても、やっぱり白い。白過ぎる。色素が無いじゃないの!!
美白パックとかやってる私と肌交換して欲しいくらいだわ!!
髪の毛だってキューティクルばりばりだし、アレでケアしてないなんて信じないんだから!
って!あぁもう!小狼が柊沢君のほっぺ触ってるし!何してんのよ!教室だって言ったでしょ!
「雪みたいだよな、お前の肌」
「そうですか?」
「真っ白だしツルツルしてるし。あぁ、でも暖かいか」
「ふふっ、くすぐったいですよ」
もー・・・もーもーもー!
思わず牛になった気分だけど、それでも唸りたくなるわ。
そこでもしほっぺにチューとかしたら箸投げ付けるんだからね。
チラリと周りを見ると、教室にいる佐々木さんや柳沢さん達が話してるのが眼に入る。
・・・どーしてあの2人の事、気にならないの!?
あ、なんか微笑みながら手を振ってきた。私も笑って振り返す。じゃなくて!
明らかに貴女達のがあのバカップルに近いじゃない!どーして無視出来るのよ!!
「あ、李君、口の所にご飯ついてますよ」
「ん?・・・あぁ、悪い」
もー良いわよ、今更ご飯粒取ってあげるくらいじゃ驚かないわよ。
どーせそのご飯粒を柊沢君が食べるんでしょ。わかってるんだからね!!
バカップルのやる事なんて毎回決まってるのよ!!お決まりよ!!
「ひゃっ!?ちょ、ちょっと、李君、汚いですよ・・・!」
「別に、汚くないだろ。お前の指」
「で、でも・・・ええと・・・」
・・・ちょっと待って。
今のは予想外だわ。
何で柊沢君じゃなくて、小狼が食べるのよ!!
おかしいでしょ!なんで指丸ごと口に入れるの!?
柊沢君ももうちょっと怒ったりしなさいよ!小狼も少しは考えなさいよ!!
思わずキーッ!と箸を2人に向けて投げそうになったその時。
ポンポン。と、優しく頭を叩かれる。
何!?と振り返ると、大道寺さんが微笑みながら私の頭を撫でていた。
ちなみに木之本さんはキョトーンとしてる。あぁ、きっと貴女にはあのバカップルが見えないのね。
「まぁまぁ、あのお2人の仲が宜しいのは、いつもの事ですわ」
「そーだけど・・・ここ教室よ!?イチャつき過ぎよ!!」
「私も最初は戸惑いましたけれど・・・最近は、ついて行くのを諦めましたわ」
あのお2人の雰囲気について行こうと思ったら、息切れしてしまいますもの。
と、大道寺さんが上品に”おほほ”と笑う。
確かにそうだわ。
大道寺さんだけじゃなく、佐々木さん達も、きっとついてくのを諦めただけかも知れない。
下手に関わって火傷しても困るしね。あの2人の熱々ぶりは尋常じゃないわ。
・・・でもね。
「・・・私は、やっぱり・・・」
あの2人に、大好きな小狼に置いてけぼりにされるのは。
まだちょっとだけ、悔しいのよ。
END.
高校生のお話IN昼休み。
苺鈴ちゃんは、好きな人の好きな人を認めた後は、超良い女だと思う。
でも、彼女にとっての一番が李君なのは変わらないですし・・・
やっぱり複雑と言えば複雑かと。
本当に吹っ切れるのは、どっちかが結婚する時とかかな。
それはそうと本当にイチャつき過ぎです。しかしコレがデフォルト。