お父さんは、大学の用事で明日の朝に帰って来る。
お兄ちゃんは、バイト先でお泊りして、同じく明日の朝帰宅予定。
だから今家にいるのは私と・・・
「なぁさくら、このクッキー食うてもええか?」
人間の姿をした、ケロちゃんだけ。
「うん、良いよ」
「よっしゃ、さくらも一緒に食おうや」
「食べる!」
オレンジっぽい、金色の髪がとっても眩しい。
目つきは悪いけど、その鋭い目も綺麗な金色をしてて。
いっつも悪戯っぽく笑ってるケロちゃんは、カッコいい。
身長はお兄ちゃんと同じくらいあるのかな?
暇な時、ケロちゃんに良く抱っこしてもらうけど、世界が違うもん。
いつもはぬいぐるみみたいな、本当の姿はライオンみたいなケロちゃん。
そんなケロちゃんがどうして人型になっちゃったか。って言うと・・・
私がエリオル君に、
『ユエさんは人に近いのにケロちゃんはどうして獣なの?』
って聞いたから・・・つまり、私が発端なんだけど・・・。
エリオル君がその言葉に悪乗りして、ケロちゃんとスピネルさんを人型にしたから。
前世がクロウさんなだけあって、エリオル君はいとも簡単に2人の姿を変えちゃって。
しかも、何だか戻れないみたい・・・エリオル君なら戻せるんだけど、その気が無いらしい。
だから私は人間の姿になったケロちゃんをこっそり家に連れて帰って来て。
お父さんとお兄ちゃんにバレないように、私の部屋にいてもらってる。
流石に危ないから、ご飯とかお風呂とかは、お兄ちゃん達がいる時はエリオル君のお家で。
幸い人型になっても飛べるみたいで、部屋の窓から自由に行き来してるの。
それで、家に誰もいない時は、こうして一緒に部屋から出て自由にしてる。
一緒にご飯食べて、テレビ見て、お風呂入って、一緒にベッドで寝て。
ベッドで一緒に寝るのはいつもの事だけど、ケロちゃんはちょっと嫌そう。
・・・私のベッド、狭いから、人型だと窮屈なのかなぁ・・・?
「ほえ?ケロちゃん、何見てるの?」
私がクッキーのお供にお茶を淹れて戻ると、ケロちゃんはソファに座ってテレビを見てた。
・・・何見てるのかな?って、お茶の用意しながら見てみたら・・・
「・・・・・・ほええ〜〜っ!!コレ、心霊番組じゃない!!」
映し出されたのは、有名らしい心霊スポットを有名人が探索してる所。
おどろおどろしいBGMと、恐怖を煽るテロップとナレーション。
いかにも、な雰囲気漂う薄気味悪い廃墟の映像・・・。
ケロちゃんは涼しい顔でクッキーを食べながら、私の淹れた紅茶を啜る。
・・・私が、私が怖いの嫌いだって、知ってる癖にぃー!!!
「ケ、ケロちゃん!早くチャンネル回してよ!」
「何やさくら、怖いんか?」
「わ、私が怖がりだって知ってるのに!意地悪しないで早く変えて!!」
「ええやん、今ちょーどおもろなってきたとこや」
「面白くなーい!!」
ポカポカと笑ってるケロちゃんを叩いても、まるで効果なし。
と言うか寧ろ、私の反応をものすごく楽しんでる。
こういう意地悪な所は、お兄ちゃんとそっくり!!
むー。とほっぺを膨らませてケロちゃんを睨むけど、全然チャンネルを変える気配が無い。
仕方なく、私が自分でチャンネルを変えようとすると・・・
「きゃっ!?」
「ほら見てみぃ、あそこ、なんや女の顔みたいなんが・・・」
「いやああーーーっ!!」
ケロちゃんの膝の上にヒョイと乗せられ、無理矢理テレビを見せられてしまった。
しかも、私がテレビを視界に入れた瞬間、怖い女の人の顔みたいのが画面に映って・・・
思わず、大きな悲鳴を上げてしまった。
「ちょ、さくら、落ち着けって!」
「やだやだやだあーっ!!ケロちゃん早くテレビ消してーーっ!!」
「わ、わかったわかった!えぇと・・・ホラ、音楽番組にしたって!!」
ケロちゃんにしがみ付きながら叫ぶと、ケロちゃんは慌ててチャンネルを回した。
怖いBGMが消えて、代わりに明るい音楽と笑い声が聞こえて来る。
どうやら本当に音楽番組に変えてくれたらしくて、少しだけほっとした。
・・・でも、脳裏には既にあの怖い顔がしっかりと焼きついてしまって・・・
目を瞑る度に出て来そうな恐怖映像に、じんわり涙が浮かぶ。
だって、本当に、本当に怖かったんだもん・・・。
私が涙目になっているのを見て、ケロちゃんがわたわたと慌てる気配がした。
「さ、さくら、泣くな!ワイが悪かったから・・・」
「本当だよ!私、怖いの嫌いなのに!!」
「い、いや、ホラ、そない怖がるとは・・・な?ごめんって、機嫌直してや」
「ううぅ〜〜・・・」
優しく頭を撫でられたって、許してあげる気にならない。
こんな怖い思いをさせられたんだから、何かしてくれたって良いじゃない!
涙で曇る目でケロちゃんを睨みながら、何して貰おうか考えていた、その時。
ピー。ピー。ピー。
「きゃああああっ!!」
「うわっ!?」
突然変な音が聞こえて、思わず悲鳴をあげてケロちゃんに縋りつく。
何!?何の音!?
「やだぁ!ケロちゃあぁーん!!」
「お、落ち着けさくら!あれや、風呂沸いた音や!」
「ほえ・・・?」
「大丈夫やって、風呂沸いたん知らせるアラームやんか・・・」
「な、なんだ・・・ビックリしたぁ・・・」
「こっちの台詞や・・・」
突然聞こえるから、本当にビックリした。
ケロちゃんは私の悲鳴に驚いたみたいだけど、それだって元はと言えばケロちゃんの所為。
ケロちゃんがあんな怖いの見せなければ、私だって悲鳴上げなかったんだから!
ケロちゃんもそれについてはわかってるみたいで、特に今の悲鳴を叱るつもりはないみたい。
その代わりにまた優しく頭を撫でてくれて、苦笑いを浮かべながら言って来た。
「ホラ、風呂入ってあったまってきーや、そしたら怖いのなんか忘れるで」
「え・・・」
「?何や、ワイが先入ってええんか?」
「ち、ちが・・・」
「?」
ケロちゃんにお風呂を促されて、はっとする。
お風呂まで、暗い。
電気つけた瞬間に、怖い顔とかが目の前にあったら?
頭洗ってる時、後ろに誰かいたら?
鏡に、誰か映ってたら?
お風呂の窓に顔がぼんやり浮かんでたら?
突然、窓とかドアを叩かれたら?
・・・1人でなんて、入れない・・・!
想像しただけでも、いくつも怖いシチュエーションが浮かぶ。
それをこれから1人で、恐怖に耐えながらお風呂に入るだなんて!
絶対、絶対、無理だよぉ!!
「ケ、ケロちゃん・・・」
「んー?」
「い・・・一緒に・・・」
「え?何て?」
震えながら、ケロちゃんの服をギュっと掴んで、泣きそうになりながらお願いする。
「一緒にお風呂入って!!ケロちゃん!!」
「なーんで一緒に入らなアカンねん・・・」
「ケ、ケロちゃんの所為じゃない!!」
「あーそーでっか・・・ぜぇーんぶワイが悪いんですぅー」
渋るケロちゃんを何とか説得して、一緒にお風呂。
だって、だって、1人でなんか絶対入れない。
ケロちゃんは、『今人間の姿だから』って戸惑ってたけど・・・
でも、ケロちゃんはケロちゃんだし、今までだって一緒にお風呂入ったりしたし。
その時はぬいぐるみ姿のケロちゃんだったけど、あんまり変わらないよ。
お父さんやお兄ちゃんと一緒に入ってた時みたいで、何だか懐かしいし。
それに、着替えだって寝るのだってケロちゃんと一緒だったんだから、今更お風呂くらい。
とにかくケロちゃんがいてくれるから、お風呂も怖くない。
元々ケロちゃんの所為でもあるんだし、これくらい我慢して貰わないと。
「そうだ!ケーロちゃん、背中洗ってあげる!」
「え・・・あ、あぁ、おーきに・・・」
なんだか元気のなケロちゃんの背中を、泡立てたスポンジで洗っていく。
おっきい背中。乗っかるとポカポカしてて、すごく安心する背中。
こっから羽根が生えたりするんだよねぇ・・・すごいなぁ・・・。
「・・・なぁ、さくら」
「ん?なぁに?」
「・・・とーちゃんとにーちゃん、ホンマに明日の朝まで帰らへんの?」
「うん、そう言ってたよー」
「・・・さよか」
お父さんもお兄ちゃんも、私の事すごく心配してたけど。
夜1人で残すなんて不安だから、どっちかが早く帰って来るって・・・。
でも、2人とも忙しいんだし、私なら大丈夫だから!って言って、無理に送り出したんだっけ。
本当に大丈夫なんだから。だって、ケロちゃんがいてくれるもん。
いざとなったら近くにエリオル君や小狼君だっている。何も不安なんかない。
でも逆に、ケロちゃん達がいなかったらすごく不安だろうなぁ・・・
・・・そう思うと、目の前の泡だらけになったおっきな背中が、すごく頼もしい。
思わず、ペタ。っと、ほっぺをつけてしまった。
「うわ!?なんやさくら、逆上せたんか?」
「違うよぉ、ただ、ケロちゃんの背中おっきいなぁ・・・って」
「・・・そら、ユエに比べたら広いかもなぁ」
「ふふっ、ケロちゃんの背中、安心するんだぁ」
「背中だけかい!」
「ううん、全部だよ」
ほっぺを泡まみれにしながら言うと、ケロちゃんが黙り込んでしまった。
・・・私、何か悪い事言ったかな・・・。
不安になって、ほっぺを離してからケロちゃんを呼ぶ。
「・・・ケロちゃん、どうしたの?」
「あー・・・さくら、ワイ、今人間の男やねんで?」
「?うん」
「・・・・・・いや、ええわ。頭洗ったる。こっち来ーや」
「うん!」
よくわからないけど、ケロちゃんが頭を洗ってくれるらしい。
それに喜んで、あんまりケロちゃんの沈黙は深く考えない事にした。
ケロちゃんの足の間に座って、俯く。
きっと1人だったら怖くて出来なかっただろうけど、ケロちゃんがいるから大丈夫。
おっきな手が泡を纏って私の髪を優しく洗ってくれる感触。
すごく気持ち良くて、これから誰もいない日はケロちゃんに洗って貰おうかな。なんて思っちゃった。
きっとケロちゃんはまた渋るんだろうけど、一緒に入るのは楽しいし。
丁寧に耳の裏まで洗ってもらった所で、シャワーを浴びせられる。
綺麗に泡が落ちてサッパリしたから、いよいよあったかいお湯の中に。
先にケロちゃんが入って、ケロちゃんの胸を背もたれみたいにして、私が入る。
2人で無理に入った浴槽からは、たくさんのお湯が湯気を立てながらザバーっと溢れ出た。
「もったいないなぁ・・・」
「しょうがないよ」
「まぁせやけど・・・さくら、なんでこの位置なんや・・・?」
「ほえ?だって、向かい合わせになると足で蹴っちゃうもん」
「いや、せやかてコレ、お前、何処に座っ・・・まぁ、ええわもう・・・」
「?」
ケロちゃんの胸にピッタリ張り付いた私の背中。
そこから微かにケロちゃんの鼓動が伝わる。
・・・なんだか早いけど、お風呂だからかな?
「んー・・・ケロちゃん、お風呂から出たら、アイス食べよう?」
「お!えぇなぁ、ワイはバニラな」
「私チョコにしようかなぁ〜」
食べ物の話題を振れば、ケロちゃんはすぐに笑顔で答える。
それはそれは楽しそうで、こっちまでにっこりしちゃうくらい。
でも、何だかそんなケロちゃんを見てると、さっき怖がらされた事に対して、ちょっと仕返ししたくなる。
さっきだって、折角楽しく食後のデザート。と思ってたのに・・・。
そう企んで、何のアイスを食べようか想像して笑ってるケロちゃんに言ってみた。
「でもケロちゃん、さっきクッキー1人で食べちゃってたからアイスなし!」
「はぁ!?なんでや!!」
「私クッキー食べてないもん。ケロちゃんがさっさと食べちゃったじゃない」
「いやアレはホラ、さくらが怖がって全然手ぇつけへんかったからやろ!」
「それは元はと言えばケロちゃんの所為でしょー!」
「くっ・・・」
「だから、アイスなし!私がバニラ食べちゃうもんね」
ぐぅ、と悔しそうなケロちゃん。
勿論本当にお預けしようだなんて思ってない。
ただ、ちょっとした仕返しに言ってみただけ。悔しそうなケロちゃんが見れただけで満足。
だから、嘘だよ。お風呂上がったら一緒に食べよう?って、言おうと思った・・・のに
「・・・なぁ、さくら」
「?」
ケロちゃんが、一瞬無言になった後、何やら驚いたような引きつった顔で、私を呼ぶ。
どうしたんだろう?と思って、首を傾げながらケロちゃんの言葉を待つ。
すると、お風呂のドアの方を指差しながら、震えた声でこう言った。
「今・・・ドアの所に・・・変な女の顔が・・・!」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・女の、顔?
・・・・・・・・・・・・。
「いっ・・・いやあああぁぁあーーーーっ!!!!」
反射的に身体を反転させ、ケロちゃんの胸に飛び込む。
バシャバシャお湯が跳ねて、足が滑りそうになるのもお構いなしに。
目からは恐怖のあまり自然と涙がポロポロ零れ落ちて、必死にケロちゃんに助けを求めた。
「いあああーー!!やだ!!やだああーー!!助けてーーーっ!!!」
「ちょ、まっ!さくらっ!落ち着け!落ち着けって!!今のは嘘・・・」
「やあああーーーっ!!!」
取り乱して暴れる私を、ケロちゃんが何とか押さえつけようとする。
もう、何が何だかわからない!!ケロちゃん、助けて!!何とかして!!!
と、悲鳴と一緒に叫ぼうとした、その時。
「さ、さくらさん!どうしました!!」
「さくら!!どうした、何があった!!!」
バン!と、大きな音を立てて、お風呂のドアが開いた。
・・・今ここにいる筈の無い、お父さんとお兄ちゃんの声と一緒に。
NEXT.
擬人化ケロちゃんと桜ちゃん。
なんと言うマイナーカプ…いつもの事です。
寝床もお風呂も一緒だなんてもう恋人以上じゃないすか…!
そしてNEXTとしておきましたが続くか不明です。
続くとしたらケロちゃんが五体満足でいない可能性が高い。
このお話では桜ちゃん処女ですが、基本家では非処女設定です。