「もー、李くーん、怒らないで下さいよ〜」
「・・・・・・・・・」
「ラ、ランティス・・・その、本当に、こんなつもりじゃ・・・」
「・・・あ、あぁ」


まだ情事の香り残るエリオルの部屋。

エリオルはYシャツ一枚辛うじて羽織ったまま、小狼の膝に乗り、
不機嫌そうに顰めっ面を作る小狼の機嫌を取り繕っている。

クレフは、ランティスが即座に自身の上着を掛けてやり、それに包まりながら
ランティスに抱っこされている。ランティス自身は、状況がいまいち飲み込めないらしい。

「李ーくーん」
「・・・浮気者」
「えっ、ち、違いますよ!それは本当違います!」

睨み付けられ、吐き掛けられた言葉に、流石のエリオルも慌てて否定する。
どうやら自分からクレフに戯れを誘った事など、彼はとっくにお見通しの様で。
その事実の前には、性別が変わっている事など何ら問題ない様子だった。
これしき程度の悪戯、小狼にとっては慣れっこだ。

「お前、そいつとヤりたいから俺等の事追い出したのか?」
「違いますってば!ただ、クレフさんと一緒に女の子になって、それを見た
 お2人を驚かそうかなー。って思ってただけで・・・」
「私はそれすら知らなかったがな!!」

弁解するエリオルの言葉にクレフが突っ込む。
確かに実質、彼も被害者だ。
何せほぼ騙された形で女性にされてしまったのだから。
だがエリオルとの戯れで快楽を求めてしまった負い目もあり、強く言えない。

「クレフ・・・だが、本当に何をしていたんだ?」
「えっ・・・そ、その・・・いや、浮気、とか、じゃ・・・」
「・・・クレフ?」

ランティスの当然の問いに、クレフは口篭る。
まず彼は、自分の恋人が女性化している事すら謎なのだ。
勿論エリオルの単なる悪戯に過ぎないのだが、彼にはその理由が理解出来ていない。
魔法を扱えはするが、そんな事に術を使う事もないし。

それに、戯れていた、と言うが。
確かに色濃く情事の香りが残っているのはわかる。
しかし、クレフがそんな事をする訳が無いと言う考えが頭にあるのだ。
エリオルから浮気に誘ったと言うのも、考えにくい。事実彼はそれを必死に否定している。
クレフも浮気をしたのではないと訴えているし、それを信じてやりたいのだが。

・・・となるとやはり、何故あんな風にあられもない姿でいたのか。

それが気になる。
だから、答えを聞きたいだけなのだが・・・
クレフは俯いたまま、口を開こうとしない。
見えそうな胸元を、ランティスの上着で必死に隠している。
小さな胸は勿論谷間など作る事はないが、柔らかそうにふにゅりと潰されていて。
答えを求めてクレフを見つめていたランティスは、すぐに視線を逸らした。


「じゃあ何であんな格好してたんだ!」
「だ、だからアレは、クレフさんが・・・」


その間にも小狼とエリオルの言い合いは続いていたらしく、ランティスの耳にそれが入る。

そこに、クレフの名が出てきて、ついそちらへ視線を向けてしまった。

「クレフが・・・どうかしたのか?」
「えっ?・・・あ、いえ・・・そのぉ・・・」
「・・・言ってみろよ柊沢。やましい事なんか、無いんだろ」
「うっ・・・」

ランティスに問われ、小狼から圧力を掛けられ。
エリオルがチラリとクレフを見遣る。
クレフの方は、エリオルが何を言い出すのか気が気でないらしく、怯える様に彼を見て来た。
その様子が捨てられた子猫の様で、思わずエリオルが噴出しそうになる。
・・・が、こんな場面で噴出したら小狼に何をされるかわからないので、笑いをぐっと飲み込んだ。

それから、クレフに口パクて”ごめんなさい”と告げる。

もうこうなれば道連れだ。開き直った。
自分の所為でこうなったのだから、せめてクレフに被害はいかないようにしたかったのだが。
よって最初に謝っておく。後はどうなっても知らない。

そんな旧友の心の声を一字一句違わず読み取り、クレフが慌てて声を上げた。

「ちょ、ちょっと待てエリオル!お前何を言うつもりだ!?」
「え?何って・・・ありのまま、事実を」
「や、やめろ馬鹿!あ、あんな恥ずかしい事・・・っ!!」

そこまで言い募り、ハッと口を塞ぐ。
そのままチラリとランティスを見上げるも、既に彼の視線はコチラを捉えていて。
・・・その目は、確実に真相を知りたがっている。
しまった。と冷や汗を掻くも遅し、クレフがうぅと小さく唸った。

「・・・で?」
「えぇっとぉ・・・まぁ最初は、お互い服脱がせあっただけなんですけどね」
「ち、ちが!お、お前が最初に脱がしてきたんだろう!」
「その後すぐ、貴方も私の服脱がせてきたじゃないですか」
「うっ・・・そ、それは、そうだが・・・」

この時点で既に話が怪しい。
よもや本当に浮気かと、ランティスが少し眉を顰める。
だが今クレフは取り乱している最中なので、そんな彼の変化に気付けなかった様だ。
一方の小狼は、まだエリオルを睨み付けながら言葉の続きを待っている。
だが、服を脱がせあった。と言う言葉を聞いた時点で、内心怒りが倍増した様子だった。

「・・・それから?」
「え?それから・・・まぁ、クレフさんが、胸が小さいと言う事で落ち込んでしまって・・・」
「〜〜〜っ!エ、エリオル!!」
「別に恥ずかしい事じゃないですよ、クレフさん」
「恥ずかしいに決まってるだろうが!!」

あはは。と明るく笑うエリオル。明らかに悪意がある。
クレフはもう半分涙目になりながら怒っているが、反比例して恋人達の気配は冷たくなっていく。
本当にこの2人は、自分達を追い出して何をしていたのかと。
エリオルは女性化しているのを見せて驚かせたかったと言うが・・・。
流石にそれだけが理由ではないだろう。と、疑ってしまう。無理もない。

「ですから、胸を大きくするにはマッサージが良いと言う事で、私が胸を揉ませて頂いて・・・」
「あーっ!エリオル!もう言うな!!なぁ、もう良いだろう2人とも!!」

顔を真っ赤にして叫ぶクレフに、小狼もランティスも何の反応を示さない。
そのリアクションに驚き、慌ててランティスを見つめるが、彼はふぅと息を吐くだけだ。

「ラ、ランティス・・・?」
「・・・いや・・・エリオル。続けて貰えるか」
「なっ、ラ、ランティス!何で・・・!」
「貴方を疑いたくはないが・・・状況が状況だからな」
「うっ・・・」

冷たい声に、クレフが涙の浮かぶ眼を彷徨わせる。
確かに、少々行き過ぎた戯れだったし、自分も結局快楽に負けてしまったが・・・
それでも断じて、浮気しようと思っていた訳ではない。それは本当だ。
エリオルとの間に強い絆はあるが、それはあくまで友情であり、親愛だ。
恋愛感情は一度とて抱いた事が無いのに。

「へぇ・・・で?」
「あーえーそのー・・・そしたら、クレフさんが物凄く可愛い声を上げ始めたもので・・・」
「エ、エリオル!!」
「だって、凄く気持ち良さそうだったじゃないですかー」
「う、う、う、うるさい!!」

確かに気持ち良かった。
気持ち良かったけれど・・・言うべき事ではない。
恋人にも、そして友人にも、誰にも知られて良い事柄ではない。
羞恥で死ねる。もう死にたい。
クレフがこれ以上ない程に顔を赤くし、エリオルを睨む。
だがエリオルは小狼にも睨まれている。
どちらの睨みが怖いかと言えば、小狼の方に決まっているのだ。

「それにホラ、私も男ですから。ねー」
「・・・ねー、じゃ、ない」
「う。だって・・・物欲しそうにされちゃったら、何もしない訳にもいきませんし」
「お、お前なぁ!私の所為か!?」
「いえいえ、私の所為ですよ。貴方が、ソコをグショグショに濡らしていたのも、ね」
「〜〜〜っ!!?」

今度こそ、クレフが固まる。
何処まで暴露する気だ、この阿呆。
そう叫びたくとも、あまりのショックで声が出ない。

「・・・で、ヤったって?」
「さ、流石に最後までは・・・って、お互い女性じゃ、最後まで出来ませんよー、ね?」
「・・・じゃ、何処までやったんだよ」
「何処までと言われましても・・・えぇと・・・触りはしましたけど、指は中に入れてません」
「あ・の・な!」

真顔で答えるエリオルに、小狼が言葉を強めて言う。
ランティスの方も大体事情が見えたのか、じっと眼を細めてクレフを見詰めた。
その視線を受けてようやく我を取り戻したのか、クレフが泣きそうになりながら首を振る。

「ち、ちが・・・ランティス・・・浮気じゃな・・・」
「・・・だが、貴方は触らせたんだろう?抵抗もせずに」
「う・・・だ、って・・・」

アレは気持ち良過ぎたのだ。
思わず無意識に、エリオルの指を中に招き入れようとする程に。

・・・そんな事、口が裂けても言えないが。

だが、クレフが言わずとも、もう周囲を巻き込む気満々のエリオルが言わない訳がない。

「クレフさんは入れて欲しかったみたいなんですけど」
「っ!!?ばっ、馬鹿!エリオル!!」
「そこばっかりじゃイヤ。って、腰押し付けてきたのは何処の誰ですか」
「〜〜〜っっ!!そ、そ、そ、それはっ・・・ちがっ・・・!!」

あられもない姿を恋人に告げられ、クレフが顔を覆う。
出来る事なら今すぐ舌を噛み切ってしまいたいだろうが、それも出来る筈がない。
ただただ身を焼く様な羞恥に悶え、ランティスの冷たい空気を間近で感じるのみ。

エリオルの方も小狼の怒気をビリビリ感じているのだが、コチラは平然としている。
勿論、見た目のみが平然としているだけだ。

しかし、クレフの眼には十分平気そうに見え、キッと涙に濡れた瞳でエリオルを睨む。

それから、彼も破れかぶれになったのか、大きな声でがなった。

「だ、だったらお前はどうなんだ!お、お前だって、胸を触られて、声上げてただろうが!」
「えー、だって、突然胸掴んでくるから・・・まぁ気持ち良かったですけど・・・」
「な、なら、私だけじゃないだろう!私の事ばかり・・・っ!」
「そうですねぇ、ずっと私の胸をギュウギュウ握ってくるから、痛気持ちいと言えば良いでしょうかねぇ」
「・・・やっぱり、言わなくて良い・・・」

ニッコリ笑って言うエリオルに、クレフがゲッソリと返す。
もっと慌てるものかと思えば、随分余裕そうだ。
コレでは大したダメージも期待出来まいと、早々に諦めた。
何より自分は、秘部を触られはしたが、エリオルのソコは触っていないし。

・・・いや、触っていても、とても言えた事ではないけれど。

「まぁ、そんなんでクレフさんが1人でイっちゃった所で、貴方達が帰って来て・・・」
「ふーん・・・あ、そ」
「・・・李君、あのー・・・本当、浮気じゃないですよ?本当ですからね?
 ただクレフさんの胸を大きくしてあげる為にマッサージして、その延長の様な・・・」
「事情はよーくわかった」
「え?」


膝の上に乗っていたエリオルの身体が、ヒョイと抱き上げられる。

その拍子に胸が揺れ、一瞬小狼の視線を奪った。

が、すぐに視界が動き、その細い身体が乱暴にベッドに放り投げられる。


「あ、あの・・・何を・・・?」
「お仕置き」
「えぇぇ!?だ、だって浮気じゃないのに・・・!」
「浮気だろうが。その気がなくても、互いにそんな事してる時点で十分仕置き対象だ」
「り、李君、落ち着いて・・・ね!?」
「アンタ等、部屋使いたいなら自分の部屋にしてくれよ」

小狼の言い分も、最もである。
恋愛感情が無いにしろ、明らかにそう言った意味を持って、戯れ合っていたのだから。
クレフは最初嫌がっていたらしいが、話を聞く限り、その内ノリ気だった様だし。
と、小狼がいっそ無表情で告げる。

こうなるともう止められないとわかっているのか、エリオルは冷や汗を掻いて彼を見上げた。

「俺は今から、コイツにちょっと色々聞くから」
「ああ・・・わかった。行こう、クレフ」
「えっ・・・ま、待ってくれランティス!」

同じくヒョイと身体を抱えられ、クレフが思わずランティスに縋る。
しかし早くも彼が部屋を出ようとしている事に気づき、必死の思いで呼び止めた。
だが彼の長い足は、愛しい人の声にも止まらない。


「エ、エリオル!エリオル!!」
「あー・・・えっと、頑張って下さいクレフさーん」
「ふざけるなぁぁあーーーっ!!!」


苦笑いで手を振ったエリオルに、助けを求めたクレフが叫ぶ。
こんな事態にして、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、それか!と。
だが無情にもランティスは部屋を出てしまい、扉は無機質にバタンと閉められた。


「あ・・・ラン、ティス・・・あの・・・」
「・・・俺も色々、貴方に聞きたい事があるからな」
「うっ・・・ぅ・・・」


冷たい声に、クレフが俯く。

そのままどうか、自室についてくれるなと思ったが。

残念ながら自分の部屋は、エリオルの部屋の隣であった。

























NEXT.

エリオル君が酷いですが、仕様です。
もう楽しいなら何でも良いや。貴方も一緒に!精神。まさに外道。
でもこの後痛い目みるのでまぁプラマイゼロかと。
クレフさんもこんなエリオルには慣れっこです。旧友。
事情を知らない人が2人の会話聞いたら怪しむ事必至です。
と言うかペッティングしたのは事実なので、彼氏ズお怒り心頭。
次はガッツリ女体化エロなので、2話連続裏に展示。お仕置き編です。