「あ、ねぇ李君、射的ですよ射的」
「ん?あぁ・・・」
手を繋ぎ、寄り添いながら歩く縁日。
エリオルが女物の浴衣を纏う所為か、何ら違和感の無い恋人同士。
幼い恋仲の2人を微笑ましそうに見つめている周囲に構わず、エリオルが声を上げた。
「李君、射的はお得意ですか?」
「まぁ、割と」
「なら、やって行きませんか?折角のお祭りですし」
エリオルの提案に、小狼が射的屋を見る。
やはり去年と同じくぬいぐるみが多い。
去年は1人で来て、射的で大量に景品を取った思い出がある。
・・・それと比べると、今年の何と色のついた事か。
隣で微笑み、指を絡めて来る恋人を見つめ、小狼が思う。
そんな視線を感じ取ったらしく、エリオルは優しい微笑みで首を傾げた。
「李君?」
「え、あ、いや・・・何でもない、やるか」
「ええ」
小狼の答えにエリオルが笑みを零し、並んで射的屋へと赴く。
店主は、可愛らしい2人が来た事を喜び、おおらかな笑顔で迎えてくれた。
「お、可愛い恋人さん達だなぁ。坊主、可愛い彼女連れてるねぇ」
「えっ・・・え、あ、まぁ・・・」
「2人でやるのかい?」
「はい、2人共、一回ずつでお願いします〜♪」
エリオルの高い声に、小狼がゲッソリとした視線を向ける。
その嫌そうな目に気付いたのか、エリオルはニコニコしながら問い掛けた。
「どうしました?李君」
「・・・いや・・・久々に聞いたから・・・その声」
「そうですかぁ?・・・あぁ、夏休みで学校がありませんでしたからねぇ」
学校で使うような。いや、学校で使っているよりも更に高く細い声。
それこそ本当に女の子の様な声を出され、ある意味感心してしまう。
普段、正体を知る者の前で使う地声とは、まるで同じ声の主と思えない。
もうずっと、地声の方ばかり聞いているから、時折この声を聞くと、やる気が失せる。
しかしお陰で店主には気付かれなかったらしく、気前良く弾をオマケすらしてくれた。
「可愛い恋人さん達には、一発オマケだよ!さぁ、頑張って!」
「・・・柊沢、何が欲しい」
「おや、取ってくれるんですか?」
「ああ」
小狼の言葉に、エリオルはリクエストの品を探し始める。
と言っても、ぬいぐるみを貰っても、荷物になってしまうし。
かと言ってお菓子類も同じ事。これからカキ氷や何やらも食べたい。
手ぶらで来ているのだから、なるべく持たなくてすむ様な物が良いのだが。
そう思考していると、ある物が目に留まった。
「じゃあ、あのブレスレットが良いです」
「ブレスレット?・・・あぁ、あの中段の奴か?」
「ええ。アレなら、つけていられるじゃないですか」
「・・・そうだな、わかった」
恋人のリクエストに答え、小狼が銃を構える。
そして、ピタリ照準を合わせると、思い切って引き金を引いた。
「おぉー!坊主、大当たりー!彼女に良いトコ見せたねぇ!」
「う・・・」
店主の歓声に、小狼が顔を赤くして俯く。
いつのまにか周囲に出来ていたギャラリーからも、拍手が沸き起こった。
隣のエリオルも、ニコニコしながら、拍手をしている。
「・・・お前な」
「おや、どうしました?」
「・・・何でもない、ホラ!」
「ありがとう御座います」
ビーズで出来たブレスレットを、小狼が渡す。
それを嬉しそうに手首につけ、エリオルがニッコリ笑ってみせた。
「似合います?」
「ああ、似合う」
「おや素直。では、今度は私が貴方の欲しい物を取りましょう。何が良いですか?」
「・・・同じの」
エリオルの問いに、小狼が照れた様子で小さく答える。
それに、はい。と笑顔で答えると、やたら慣れた様子で、エリオルが銃を構えた。
揃いのブレスレットをつけ、また手を繋ぎながら、人込みを掻き分ける。
するとまたエリオルが、楽しそうな声を上げて小狼を呼んだ。
「ねぇ李君、何か食べませんか?」
「そうだな・・・何が良い?」
「私は、チョコバナナが食べたいです」
「ああ・・・そこにあるな。じゃあ俺は、隣のたこ焼きでも食うか」
「じゃあ、並びましょうか」
手をスルリと離し、エリオルがチョコバナナの屋台に並ぶ。
小狼の方も、温もりが離れた自分の手を見つめてから、たこ焼き屋に並んだ。
「美味しそうですねぇ」
「そうだな」
人気の無い場所を探し、エリオルと小狼が並んでベンチに座る。
湯気を立てるたこ焼きにプスリと楊枝を刺すと、まずエリオルの口元に運んだ。
「頂いて宜しいんですか?」
「ああ。・・・熱いから、気をつけろよ」
「はい」
ついと唇をつついて催促してやると、エリオルの小さな唇が開く。
大きなたこ焼きを精一杯頬張ったのだが、やはり出来たて、相当熱かったらしい。
エリオルが瞬時に涙目になり、口に手を当てて熱を追い出す。
「はっ・・・ふ、ぅっ・・・」
「だから、熱いって言っただろ」
「ん・・・らっへ・・・はふぃ・・・」
「あー・・・飲み込め飲み込め」
暫く手を当て、ヒィヒィと悶えていたが、ようやく飲み込めたらしく、ふぅと息を吐く。
大きな眼に涙をいっぱい溜めながら、エリオルが小狼をじぃっと見つめた。
「・・・ひどい」
「気をつけなかったお前が悪い」
「うぅ・・・もう、舌、火傷してません?」
エリオルが、べ。っと舌を出して小狼に見せる。
少し赤くなっているものの、火傷まではいかなかった様だ。
しかし小狼は、瞬時に顔を赤くして、パッと視線を逸らす。
「・・・李君?」
「な、なんでもない。火傷、してないから・・・」
「そうですか?」
突然顔を逸らした小狼に、エリオルが首を傾げる。
しかしすぐにピンと来ると、相変わらず悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。
「・・・李君も、チョコバナナ食べます?」
「い、いや・・・俺は、いい」
「おやおや、美味しいのに」
エリオルがニヤリと笑いながら、チョコバナナを口につける。
そのまま、少し唇を窄める様にして、ゆっくりそれを飲み込んでいった。
「・・・っお前なぁ・・・」
エリオルの意図がわかったのか、小狼が少し声を荒げて止める。
けれどそんな事はお構い無しに、瞳を涙に潤ませたまま、彼を上目遣いに見つめた。
「っ・・・」
「・・・李君?」
チョコバナナを口から離し、エリオルがついっと顔を近づける。
小狼は当然の如く少し仰け反ったのだが、それすらも構わず、エリオルが舌を出す。
赤みを帯びた舌先で、今まで咥えていたバナナの先端を、チロリと舐め、また、小狼を見つめた。
「〜〜〜っ・・・お・ま・え・は!」
「ふふっ、面白いですねぇ」
「・・・アホ」
「貴方が意地悪するからです」
顔を赤くして怒る小狼に、エリオルが堪えきれず肩を揺らす。
それからようやく普通にチョコバナナを食べ出した。
甘い物が好きな彼は、それはそれは至福そうだ。
「美味しいですねー」
「・・・良かったな」
「食べます?」
「いい」
再度勧めるが、再度断られる。
しかし予想していたのか、エリオルは然して気にした様子もなく、またバナナを食べ始めた。
お互い暫く食事に専念していたが、ふと、小狼が思い出した様に呟く。
「・・・そう言えば、そろそろ花火だな」
「ええ、そうですね。皆さん、良く見える場所に移動しているのでしょう」
「そうだな」
祭りも酣。
そろそろ醍醐味とも言える、打ち上げ花火が始まる。
それぞれが良い場所を探し、そして大勢の人間と共にそれを見る。
エリオル達も勿論興味があるのだが、それでもまだ腰は上げない。
「李君、この裏、行ってみません?」
「裏?」
「ええ。ちょっと登れば、良く見えそうではありませんか?」
「・・・確かに、見晴らし良さそうだな」
エリオルの提案に、小狼が頷く。
この辺りは神社から少し離れている為か、人がいない。
特にこの裏の山ともなれば、まず誰もいないだろう。
しかし、そこから花火が見えるならば、特等席と言うより他にない。
「・・・行くか」
「ええ。・・・それに、ね」
「ん?」
エリオルが、立ち上がり、ゴミを捨てた小狼に寄り添い、そっと囁く。
「人がいない方が、良いでしょう?」
「っ・・・な、何が・・・」
艶の含まれた、悪戯っぽい囁きに、小狼が驚いた様に問い返す。
しかし、彼の言わんとしている事がわかっているのか、顔は真っ赤だ。
「・・・さっき、エッチな事、考えてたでしょう」
「っ!!?おっ、お前なぁっ・・・!!」
「ふふっ」
明らかにからかわれているのに、小狼は思わず大きな声で返してしまう。
とどのつまり、図星だ。
最初から、可愛らしい女物の浴衣で現れるし。
やたらと身体を近づけてくるし。
下着もつけていないと言うし。
挙句、先程のチョコバナナの件。
健全な青少年に、何も考えるなと言うのも、少々酷な話である。
それを見透かしている彼は、楽しそうに笑みを浮かべ、更に続けた。
「・・・花火終わった後でなら、ちょっとしても良いですよ?」
首筋にキスを落としながら、エリオルが色を含めて誘いを紡ぐ。
顔を赤くしたまま黙り込んだ小狼に微笑み、さぁ花火だ。と、エリオルが身体を離す。
瞬間、ブレスレットが飾る細い手首を、小狼の手が掴んだ。
「えっ・・・」
「・・・今が良い」
「・・・え、え!?」
小狼の予想外の言葉に、今度はエリオルが驚いた声を上げる。
しかし小狼は答える事なく、掴んだエリオルの腕を引き、裏の山へと足を進めた。
引き摺られるエリオルも、抵抗の1つすら出来ず、そのまま木々生い茂る暗闇に姿を消した。
NEXT.
ほれ見た事か!(学習しないお方!)
アニメでの小狼君の射的の腕は証明されていましたね。悲しいくらいに。
しかし、屋台のたこ焼きって超熱いですよね。猫舌には地獄。
そしてそれすら少年をおちょくるのに使うエリオル君が愛しい。
次は浴衣エッチ編なので裏に展示。