ああ、今日は雨か・・・



と、狗守鬼は、赤黒い空を、窓を隔てて見上げる。



人間界の雨は透明なのに、魔界の雨は赤に近い。



こんな些細な事でも、ここは異次元なのだな、と実感させられた。



いいや、妖怪にとっては、人間界こそが異次元なのだが・・・まぁ、大した違いは無い。




どうせ外には出られないのだからと、狗守鬼は腕を組みながら、ソファへと座った。









あの余興の後。


すぐに始まった本戦は、中々の盛り上がりだった。


優勝者は、誰だったか・・・と、つい先日の事ですら、狗守鬼は考えなければ思い出せない。


何故なら、興味が無いから。


興味の無い物は、全て忘れる。


覚えていても、思い出したりしないし、思い出したいとも思わない。



まぁ、優勝者は、祖父雷禅の旧友だった気がする。



父は躯に敗北した。情けない。

蔵馬は誰と当たったか。棗辺りだったろうか。それも忘れた。

飛影は・・・まぁ、同じくその辺りだろう。覚えていない。



投げ遣りな様子で、先日の本戦を思い出して行く。

別に意味がある訳ではなく、単なる暇潰しだ。



しかし、後で母に聞いた所、本戦より余興の方が盛り上がったとの事。



では、せめて別の日にやれば良かったろうに。

狗守鬼はそう呆れた記憶がある。




その余興を共に抽選された者達はと言えば。


花龍は人間界へ戻った。飛影もついて行ったらしい。

志保利は普段通り、蔵馬の所にいる。

つばきと小瑠璃は仕事があるらしく、さっさと霊界へ。



そして自分はと言えば。







雷禅の要塞に、軟禁されている。







「よォ、孫」
「何?」


雨が降っている為、余計に暗くなった室内。


そこへ、雷禅がいつもの笑みを浮かべながらゆるりと入って来た。


「ククク。どうした、暇そうだなぁ」
「暇。今日は雨だしね。雨の音でも聞いてる」
「ホント、テメェは息子に似ねぇよなぁ・・・」


雷禅がしみじみ言う。

そして狗守鬼の隣に腰掛けると、ガッと愛孫の首へ腕を回した。


「余興は、中々楽しめたか?」
「・・・ああ、そうだ、祖父さんに確認」
「ん?」


問い掛けには答えず、狗守鬼が無機質に言う。

雷禅は、大体何を聞かれるのか予想出来ているらしく、ただ笑っていた。


「見事に俺等5人が抽選されたの、祖父さんが仕組んだんでしょ?」
「良く分かったな」
「後は、躯さん?」
「ほぉ。それもか」
「いや、何て言うか、他にいないし」


本部に影響力のある妖怪なんて。と。

どうせ自分達が暇だから、こんな細工を施したのだろう。


「偶には、孫の活躍を見たかったんだよ」
「俺は良いけど、飛影さんとか蔵馬さんは、かなりヒヤヒヤしてたみたいだよ」
「みてぇだな。ったく、過保護な奴等だ」
「それは、俺の母さんにも言えると思うけどね」


狗守鬼が、呆れた様子で零した。




今雷禅の要塞に軟禁されている訳。




それは、母の”お仕置き”とやらの所為。


何でも、人間界に戻ったら、また危ない事をするのだから。

少しくらい大人しくしていけとの事だ。


危ない事とは言っても、仕事なのだから仕方ないのに。


と言っても、まぁ、心配させてしまったのなら、受けるしかない。



全く、母も心配性だからと、今日もアナウンサーとして仕事へ赴いた母を思った。



「嫁も怒ってたからなぁ・・・」
「大体、俺が抽選されたのは、父さんも関係してるだろ」
「ああ。息子もお前の番号を入れろとな」
「・・・結局俺、どっちの言う事聞いても、”お仕置き”されるからね」


自分が抽選された時、父は『自分との喧嘩を断ったお返し』と言っていた。

そしてそれを受けたら、今度は母からこの仕置き。


自分に一体どうしろと。


「ククッ。確かになぁ・・・それじゃ、俺の言う事でも聞いてるか?」
「何するの?」
「酒にでも付き合えや。偶には孫と飲みたいモンだぜ?」
「祖父さんの酒、強い奴ばっかだろ」
「お前、ザルの癖に何言ってやがる」
「別に好きじゃない」


以前、父や蔵馬達の酒に付き合わされた時。

自分が一番最後まで素面だった。

いや、何と言うか、幾ら飲んでも、酔えないのだ。

特に美味いと感じた事も無いし。


だから、狗守鬼は、好んで酒は飲まない。


「チッ・・・つまらねぇなぁ」
「悪かったね」
「ま。良いがな。いつかは付き合え」
「気が向いたらね」
「楽しみにしてるぜ」


ワシャワシャと狗守鬼の頭を乱暴に撫で、雷禅が立ち上がる。

稲妻の様に白光りする髪が、一瞬狗守鬼の耳を掠めた。


「じゃ、ちと行って来らぁ」
「何処に」
「煙鬼の野郎の所だ。優勝祝いにな」
「・・・ああ、煙鬼さんだっけ、優勝したの」
「・・・・お前、いつか俺の顔も忘れるんじゃねぇか?」


相変わらず物忘れの激しい孫に、雷禅が苦い顔をして危惧してみる。

それ程までに、彼は色々な物を忘れているから。


「大丈夫。忘れるのは興味の無い物だけ」
「・・・ま、お前らしいがな」
「どうも」
「じゃ、大人しくしてろよォ?」
「してる、してる」


ワザとらしい雷禅の言葉に、狗守鬼は既に興味が無いらしく、相変わらずの調子で返した。


それに1つ苦笑いを浮かべると、雷禅は、酒瓶を持って部屋を後にする。





狗守鬼は、途端静かになった部屋で、また、窓の外を見た。





この雨の中行くのか。

全く、まだまだ、祖父も若い。


ある意味で感心しつつ、背凭れに体重を預ける。


柔らかいソファは、それを難なく受け止め、ぐもっと背が埋もれた。






「・・・何か用、北神さん」






視線すら遣らず、狗守鬼が関心の無い声で答える。


すると、少しばかり間を置いて、声が返って来た。


「お気づきでしたか」
「気配消すなら、要塞に入る前の方が良いよ」
「・・・そんな離れた所で気付くのは、国王と幽助さん、そして貴方だけですよ」


狗守鬼の言葉に、北神は苦笑いして答える。

しかしすぐに、簡潔に用件を伝えた。


「蔵馬さんが、お見えですが」
「そうみたいだね」
「気付いてらしたんですか」
「まぁ・・・。で?何で来たの」
「何でも、貴方に用があると」
「ふぅん」
「お通し致しますか?」
「ん」


短い返事に、北神はすぐに姿を消した。







そして数分。







「悪いな、突然邪魔をして」
「良いよ。今、俺以外、いないから」


長い銀髪を濡らして、蔵馬が訪れる。

右手には志保利の手を取り。

左手には、何か、包みの様な物を持って。


「こんにちは、狗守鬼さん・・・」
「ん」


志保利は、少し照れた様子で、蔵馬の後ろに隠れている。

薄ピンクのレインコートが、何とも可愛らしい。


「座ってよ」
「ああ・・・悪いな」



狗守鬼の言葉に、蔵馬が向かいのソファに腰を下ろす。



とその時、1人の侍従が茶を持って現れた。



そのまま、2つの茶と1つのジュースを置いて、一礼し去る。



自然な動きに何も言わず、狗守鬼は出された茶を含んだ。

熱い筈だが、狗守鬼は熱さや冷たさには、鈍い。

赤く焼けた鉄を押し付けても、反応しない程だ。


「頂く」
「どうぞ」


蔵馬が茶を持ちつつ、志保利に飲み物を勧める。

本当に親だな・・・と、狗守鬼は興味の無さそうな目で見遣った。


「・・・で、何しに来たの」
「ああ・・・先日の礼をな」
「・・・・・・・・・何かしたっけ?」


蔵馬の言葉に、狗守鬼は考える。

最近あった大きな行事と言えば、トーナメントくらい。

・・・だが、礼をされる事など、した覚えが無い。


「志保利を救ってくれたからな」
「・・・・・・・?」
「・・・・余興の時だ」
「・・・・・・・?」
「・・・・最後の方、お前が駆けつけただろう?」


全く思い出す気配の無い狗守鬼に、蔵馬は呆れながら教えてやる。


だが直ぐには思い出せず、足を組み直しながら、狗守鬼は頭を捻った。




そして、蔵馬が何とか思い出させようと言葉を追加しようとした、瞬間。




ピシッ。と、軽く狗守鬼が指を鳴らす。

どうやら思い出したらしい。


「もしかして、志保利が真っ二つになりそうだった時?」
「そうだ」
「・・・・ああ、それね。・・・・それが何で、礼にまで発展してるの?」


狗守鬼が問う。

アレは別に自然な事だったし、何も礼をされる程の事ではない。

何故蔵馬が改まってここに来たのかが、まず疑問だ。


「いや・・・アレは本当に、危険な状態だったからな・・・」
「まぁ、俺が遅れてたら、頭割られてたけどさ」
「だからだ。本当に助かった」
「ふぅん・・・」


蔵馬の言葉に、狗守鬼は再び茶を含みながら答えた。

まぁ、過保護な蔵馬の事。

志保利の命を救った相手に礼をしたいと、思ったのだろう。

狗守鬼もそれを察し、これ以上は何も言わなかった。


「で?礼って何」
「これだ」
「?」


先程から彼が持っていた、包み。

何だかやたらと、大きい様な気がする。


「何それ」
「黄貝玉だ」
「・・・この時期に?」


キャベツ程の大きさがある、その物体。

ぼんやりと黄色に輝く、魔界の果実だ。

普段は、人間界で言う夏にしか生らない実。


今はそろそろ冬が終わると言うこの季節。


生っているのは、珍しい。


「育てた」
「・・・まぁ、蔵馬さん、植物使いだからね」
「2つが限度だったが」
「いや、2つ育てられるなら、凄いよ」


通りで大きい包みになった訳だ。と、狗守鬼は無表情のまま考える。

こんな物を2つも持って来たなんて、変わっているとも。


「で、何でコレ持って来たの」
「お前が好きだと聞いたから」
「誰に」
「小兎だ」
「ああ・・・そう」
「?嫌いだったか?」
「いや、好きだよ。ただ持って来られると思わなかっただけ」


大した反応を示さない狗守鬼に、蔵馬が問う。

だが、ただこの時期に見るのが珍しいだけで、嫌いではない。

寧ろ、魔界では珍しく美味と感じるこの果物。

意外と好きな者は、多い。


「だが、それで良かったか?」
「何が」
「いや・・・割られた奴にしようか、迷ったのだが」


蔵馬が、心配そうに言った。



理由は、その黄貝玉の硬さにある。



その名の通り、貝の如く硬いその実。

まるで二枚貝の様な造りのその実を抉じ開けて、中身を食すのだが・・・



如何せん、硬い。



しかも、刃物の類に触れると、すぐに実が腐ると言う特性を持つ。


だから、普通は実から直接は、食べられないのだ。

その為特殊な機械で開けられ、中身だけが売られているのが普通。


「小兎に聞くと、実のままが良いと言われてな」
「うん、そっちのが良い」
「・・・食えるのか?」
「?食べたこと無いの?」
「いや、売られている物はあるが・・・実から直接は無い」
「ふぅん・・・どうして?」
「・・・開けられないからに決まっているだろう」


狗守鬼のキョトンとした眼に、蔵馬は呆れて溜息を吐く。

恐らくコレを抉じ開けられるのは、狗守鬼や幽助、雷禅、そして煙鬼くらいか・・・

と、思い出せるのは4人しかいない。

それ程までに硬いのだ。自分では、開けられない。


「ああ、そう」
「・・・開けられるのか?」
「開けられなきゃ、食わないよ」
「・・・・まぁ、そうだが・・・・相変わらず馬鹿力だな」
「アンタがひ弱なんじゃない」
「お前が異常なんだ」


そう?と、狗守鬼は黄貝玉を見ながら言う。

それに、全く本当にコイツは・・・と、蔵馬は軽く頭痛を覚えた。


そして、少しばかり冷めた茶を、くっと流し込む。


「でもさ」
「何だ?」
「売ってる奴、不味くない?」
「?そうか?」


十分に甘かった様な気もするが・・・と、蔵馬が言う。

まぁ、確かに、少々苦味が強い部分もあるが、それでも、魔界の果物にしたら甘い。


「だってアレ、何だか苦いし」
「そう言うモンじゃないのか?」
「違うよ。空気に触れると、段々苦くなる」
「そうなのか?・・・ああ、だから、売られている物は苦味が強いのか」
「そ。・・・志保利、お前は食べた事ある?黄貝玉」


話を振られた志保利は、飲んでいたジュースをテーブルに置き、首を縦に振る。

だが、少し俯いて、付け加えた。


「でも、ちょっと苦かったです・・・」
「だろうね」
「あの、実から食べると、苦くないんですか?」
「苦くないよ。食べてみる?」


狗守鬼が軽く笑う。

志保利は少し迷ってから、コクリと頷いた。


「リョーカイ」


そう短く答え、狗守鬼がピタリと張り付いた黄貝玉の裂け目に指を差し込む。




そして、軽く、一瞬だけ力を込めた。




途端、バゴッ・・・と言う硬い音を立て、殻が2つに割れる。



中から溢れ出す薄黄色の液体に、クリーム色の果肉。



蔵馬達が何かを言うより先に、先程の侍従が人数分、皿とフォークを持って現れた。



「ありがとう」
「いいえ。では、ごゆるりと」



そう簡潔な遣り取りを終え、また、すぐに消える。


それを気にしながらも、蔵馬はじっとその果肉を見た。



「・・・随分と綺麗な色だな」
「売られてる奴は、ちょっと黄緑っぽいけどね」
「ああ・・・白に近い・・・クリームの様な色をしているな」
「コレが、本当の色」


ホラ。と、狗守鬼が皿に取り分け、志保利に渡す。


すんなり切れた所を見ると、果肉自体はとても柔らかいらしい。



志保利が少々躊躇いつつ、一口含む。



すると、表情がぱぁっと明るくなった。


「とっても甘い・・・すごく、美味しいです!」
「そ。それは良かった」


志保利の嬉しそうな反応に、狗守鬼は軽く笑みを浮かべて返す。

そして蔵馬も、自分で切り取った実を、一切れ食してみた。


「・・・本当だ・・・とても深い甘味があるな。確かに、売っている物とは全く違う」
「だろ?」
「・・・だがコレを一度食べると、売っている物は食えないな」
「苦いのが好きな奴は、あっちのが良いんだろうけどね」


俺はこっちのが好き。と、狗守鬼も自分で切り分けて食べ始める。

狗守鬼の場合、コーヒー等は無糖でも飲めるが、果物系は甘い方が好きらしい。

グレープフルーツも、余り好かない。


「意外と果肉は少ないんだな」
「うん。だから、2つは結構嬉しい」
「喜んで貰えたなら、良かった」


狗守鬼と蔵馬が話す間にも、志保利は黄貝玉が気に入ったらしく、中々食が進んでいる。

その様子を見て取り、狗守鬼がさり気無く聞いた。


「志保利、食べられるんなら、もう少し取るけど?」
「え・・・でも、それは、狗守鬼さんに・・・」
「良いよ。どうせ俺以外、食べないし」
「そうなんですか?」
「酒を飲むのに、甘い物はいらないんだとさ、父さんと祖父さんは」


母さんはダイエット中だとか言って、甘い物食わないし。

果物なら平気なのにね。と言いつつ、狗守鬼は志保利の皿を取る。

彼女は何も答えていないが、雰囲気で悟った。


「あ・・・」
「ホラ、食べな」
「あの、ありがとう御座います・・・」
「良いよ」


志保利が微笑む。

相変わらずふわふわした雰囲気の子だなぁと、狗守鬼は軽く思った。


「悪いな、狗守鬼」
「別に。ほっといたら、どうせ苦くなるし」
「そうだな」


蔵馬が志保利を見る。

やはり子供は、甘い物を好むのだなと、再確認させられた。

彼女が好むなら、用意してやりたい所だが・・・

生憎、自分では割れない。



腕を組んだ蔵馬を見て、狗守鬼は茶を飲み干してから無関心に言った。



「まぁ、実さえ持って来てくれるなら、また割ってあげるよ」
「・・・・悪いな」
「アンタも、中々親馬鹿だよね。前からだけど」
「煩い」


その言葉に苦笑いしつつ、蔵馬はすっかり冷めた茶を含む。


狗守鬼も久しぶりに口にした実を、また一口放りながら、外を見た。




雨は、まだ降っている。











「さて・・・そろそろ、行くか」
「はい」


他愛ない話で盛り上がっていたら、もう1時間が過ぎていた。


先程よりも酷くなった雨を見て、蔵馬が志保利に言う。


「ではな、狗守鬼。先日は助かった」
「俺も、コレ、ありがとう」


黄貝玉を指しながら、狗守鬼が返す。

そして、よっとソファから立ち上がると、まだ手のつけられていない黄貝玉を手にした。


「?どうした?」
「いや、俺も用があるんだよね」
「用・・・?」


蔵馬が首を傾げる。

それに、狗守鬼は軽く肩を竦めながら答えた。


「実はさ、此間のトーナメントの後、躯さんに捕まってさ」
「躯に?」
「そ。んで、今日来いって言われてたの、さっき思い出した」


随分と重要な約束を忘れていた彼に、蔵馬は呆れる。


「・・・お前、ついに約束まで忘れるようになったか」
「偶々だよ。偶々」
「全く・・・」
「でさ、ま、行くついでに、黄貝玉食わせてやろうかと思って」
「成る程・・・それは、良いんじゃないか?」


躯が果実を好むかは知らんが。と、蔵馬が言う。

狗守鬼は、特に考えずに、また、返す。


「此間話した時に、好きだって言ってたよ。
 ただ、コレは殻が硬くて、食えなかったんだってさ」
「躯も割れなかったのか・・・やはり、お前は異常だな」
「皆が力、弱いんじゃない?」
「そんな訳あるか」


狗守鬼の一言に、蔵馬ははぁと深い溜息を吐いた。

全く彼は、自分の事をわかっていない。


「ま。だから、途中まで一緒に行くよ」
「ああ・・・そうか」
「いつ志保利が襲われても、良い様に」
「俺がいるから、大丈夫だ」


蔵馬がキッパリと言う。

それに、狗守鬼はまた、肩を軽く竦めた。

やっぱり過保護で親馬鹿だ。と。


「・・・・お前こそ、良いのか?」
「何が」
「躯の所に行くなど・・・小兎が怒るんじゃないのか?」
「・・・知り合いのトコに遊び行くだけだから、平気」


実際には、暴れざるを得なくなるのだろうが、敢えて触れない。

あくまで、”遊びに”行くだけだ。


その姿勢を見て、蔵馬が笑う。


「いつもいつも、お前は誰にも似ていないと思ったが・・・」
「?」
「自分のやりたい事はやる。そう言う所は両親の血だな」
「・・・かもね」



確かにと、納得。



そのまま、黄貝玉をポンポン掌で弾ませながら、再度窓を見る。




雨はまだ降っている。


この大雨では、もしかしたら、母が早めに帰って来るかも知れない。




軟禁生活が、また少し長引くかもな・・・




と、先を歩く蔵馬の背を追いながら、また、肩を軽く竦めた。





























END.


後日談狗守鬼編。
母に謹慎喰らった雨の日。
黄貝玉ってのは、架空の果物です。
一回だけ、夢小説の中にも出て来た果物。


残す所あと1話。
花龍の後日談で終わりです。