701


4559


4560


7564


8263






この5つの数字が、モニターに爛然と輝く。





その途端、怒声とも落胆とも取れる様な声が、会場から次々に上がった。

それは余りに多く、全てが合わさり、1つの巨大な雑音となる。





『さぁ!この番号をお持ちの方!!
 中央の特設ステージへお越し下さーーい!!!』


小兎がマイクを握り締め、叫ぶ。


観客は、一体誰が当たったのだと、睨みにも似た眼で辺りを見回す。





瞬間、同時に4つ。





影が集団の中から飛び上がる。




てっきり雑踏の中を掻き分け、走って来る物だと思っていたら・・・


何とも意外な登場の仕方に、周囲は勿論、小兎や控え室のメンバーも驚きを隠せない。





その軽やかに飛び上がった4つの影。





1つは、狐色の耳と尻尾を揺らした少年。


1つは、長い艶やかな黒髪を持った少女。


1つは、鋤に乗った空色の髪の少女。


1つは、鴉を思わせる黒いコートを着た少年。


ちなみにもう1人いる筈なのだが、その少女は鋤の後ろに乗っていた。





4つの影が、ほぼ同時に中央のステージに舞い降りる。





そのあまりに見覚えのある顔触れに、小兎は軽く眩暈を覚えた。





「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」


ステージに上がった狗守鬼、花龍、小瑠璃は、互いの顔を見合わせ、沈黙する。


「きゃーっvv凄い凄い!皆一緒に選ばれちゃったよ志保利ちゃーんvvv」
「すっ、凄いですねっ・・・びっくりです・・・!」


手を取り合って、可愛らしく驚いているのは、つばきと志保利。


観衆は、何とひ弱そうな奴等が選ばれたのだと、驚く。

けれどその反面、喜んだ。

これなら、全員が辞退してもおかしくないメンバー。

そうすれば、抽選はやり直し。

自分達が選ばれる可能性も、大いにある。


「・・・・・・仕組まれたね」
「仕組まれましたね」


狗守鬼と小瑠璃は、同時に溜息を吐く。

こうまで見事に引き当てられたのだ。
恐らく、何らかの細工が施されていたのだろう。
まぁ、大方、見当はつく。

「躯さんかな?」
「さぁ。貴方の御祖父さんじゃぁ、ないですか?」
「かもね。それくらいしか、思いつかないし」


2人の予想は、当たっている。

自分達に全く関係無い、つまらぬ余興。

それを少しでも面白くしようとしたのだろう。

雷禅と躯の計らいだ。


「全く、面倒な事してくれるね」
「同感です」


狗守鬼と小瑠璃の会話が一段落した時


ステージに、チャレンジャーにインタビューをする為の司会者が上がって来た。



「さぁ!それでは、今回選ばれましたこの5名に、インタビューをしたいと思いまーす!」



彼女は樹里。

小兎の、後輩に当たるアナウンサー。

少々頼り無いのが玉に瑕だが、審判としての腕は一流である。



「まず、一番左の方から!番号とお名前を!」

樹里が、まず狗守鬼にマイクを近づける。
狗守鬼は少々間を置いてから、淡白な口調で答えた。

「・・・4559番、狗守鬼」
「狗守鬼選手ですか!・・・狗守鬼?」
「そう」
「・・・もしかして、貴方、小兎先輩と浦飯選手の、息子さん・・・?」
「良く知ってるね」

狗守鬼の冷静な回答に、樹里はオーバーなリアクションで驚きを表す。

そして、狗守鬼の言葉には、会場も大きく沸いた。



浦飯の息子だと。

何だと。では、雷禅の孫か。

なるほど、どうして、随分と恐ろしい妖気を持っている。



ざわざわと混ざり合う、噂。

狗守鬼は一瞬耳を左右に揺らしてから、ふぅと溜息を吐いた。




『こっ、こらーー!!狗守鬼ーーー!!!』




途端キィィン・・・と機械音と共に響いた、小兎の声。

その声には会場も、そして狗守鬼達も即座に反応し、モニターを見る。


『どうして貴方がそこにいるの!!!』


すっかり仕事の事を忘れている母に、狗守鬼はやれやれと言った様子で頭を掻く。

そして樹里からマイクを借り、実況席にいるであろう母に向かって答えた。


「どうしてって・・・抽選されたからだよ」
『あぁぁもう!!狗守鬼!良い事、きちんと辞退なさいよ!!!』


この言葉には答えず、はい。と、樹里にマイクを返す。

樹里は数瞬戸惑ってから、再び狗守鬼に質問を投げ掛けた。


「えー・・・狗守鬼選手」
「何」
「先輩・・・実況の小兎さんが言った様に、辞退する事も可能です!
 この余興は、命を落とす可能性もある非常に危険な物です。
 さぁ、狗守鬼さん!ここが最後の決断となります!
 貴方はこの余興に参加しますか?辞退しますか?」



辺りが、一斉に静まる。



全員が狗守鬼の回答に興味がある様子で、それは異常な程の静寂だった。


勿論、小兎も。

控え室にいる幽助達も。


固唾を呑んで、狗守鬼の答えを待つ。






「参加する」






ぶっきら棒に、一言だけ伝える狗守鬼。


その途端、観衆は大きく沸く。


自分が選ばれなかったのは、勿論腹立たしく、残念である。


だが、浦飯の息子。

雷禅の孫。


それの戦いを間近で見られるのだ。

こんな良いチャンスは無い。



『こっ、こらぁーー!!!辞退しなさいって言ったでしょう!!!!』



息子の答えに、小兎は大きく腕を振り上げて叫ぶ。

そんな母に狗守鬼は、再び樹里のマイクを借り、返す。


「あー・・・ごめん」
『あ、謝るくらいならさっさと辞退しなさーーい!!!』
「ま、精々良い実況、宜しく」
『こらーーー!!!!!!』

辞退する気の無い息子に、小兎は泣きたい気持ちになる。

何が悲しくて、自分の息子が危険な戦場に身を投じるのを見なければならないのか。

これでは実況所ではない。

いや、最早、試合をまともに見る事すら、出来ないかも知れないのに。



『えっ・・・あっ』



キィィン・・・と、再びマイクの音がしたかと思うと、モニターに違う人物が映される。

その意外な人物に、会場は大盛り上がりを見せた。


『よォ狗守鬼ぃ!すげぇなぁ、抽選されちまったじゃねーか!』


その人物とは、狗守鬼の父、小兎の夫、幽助だ。

小兎のマイクを奪い、やたらとワクワクした様子で、息子に話し掛ける。


「あぁ、父さん・・・ねぇ、もしかして、父さんも加わった?」
『あ?・・・さーて、何の事かなぁ?』
「・・・事情は、良く分かったよ」


雷禅と躯に加担したのか、との問いに、幽助はわざとらしく答える。

それは即ち、肯定を意味していた。

一方マイクを奪われた小兎は呆然としていたが、その言葉にすぐ覚醒する。


「まっ・・・まさかっ・・・ちょっと幽助さん!!何て事を!!!」
「まぁまぁ・・・」


顔を真っ赤にして怒る小兎に、幽助は苦笑いを浮かべる。

そして再び狗守鬼のいる方に向き直り、更に付け加えた。

『でもよぉ、俺はお前の番号を入れてくれつっただけだぜ?
 花龍とか志保利さんとか、他の奴等が抽選されたのは、俺の所為じゃねぇからな!』
「わかってるよ」
『ま。期待してるぜぇ?此間、俺との喧嘩を断ったお返しだ』
「・・・リョーカイ」

まったく子供の様な父だ。
と、狗守鬼は呆れ果てる。
けれど、まぁ、そんな父が好きなのは、自分なのだけれど。

「・・・と言う訳で、いい加減仕事に集中しなよ、母さん」
『だっ、誰の所為ですか!!』

幽助からマイクを返して貰い、小兎ががなる。
だが、もう何を言っても無駄な様だ。

そう認めさせられ、項垂れる。

そしてガバッと顔を上げると、司会者の口調で続けた。


『何と、この度私の息子、狗守鬼が抽選されてしまいましたっ!!
 ここは母として何としても止めたかったのですが、それも無駄な様子。
 ならば、私に出来る事はただ1つ!
 これから始まる熱き死闘を最後まで見届け、心が沸く様な実況を皆様にお届けするのみです!!』


小兎の台詞に、観衆の拍手が沸き起こる。

それに合わせて、狗守鬼も無表情で拍手をしてみた。
特に何も、考えていないのだが。
まぁ、母の一大決心だ。と、一応。



狗守鬼の問題が一段落したので、樹里は次に花龍へとマイクを向けた。


「えー、貴女の番号とお名前を教えて下さい!」
「・・・・・・4560・・・・花龍・・・・・・」

透き通る声に、樹里は思わず聞き惚れる。

しかし会場は、またしても予想外の名前に、一際ざわめいた。

「えっとぉ・・・花龍さんって事は、もしかして・・・飛影選手の・・・」
「・・・・・・・・・娘」

ポツリ。
と、雫の様に答える花龍。
一方の樹里は、恐ろしい邪眼師の姿を思い描き、思わず顔が蒼褪めた。

「えっえぇぇ!?浦飯選手の息子の次は、飛影選手の娘・・・!!?」

何とも豪華なメンバーだ。
と、少し身体を引かせながら驚く。



途端、またしても、マイクの甲高い機械音が響き渡る。



また小兎だろうか。と、樹里がちらりとモニターを見た。
が、その瞬間に、彼女はヒィッと頭を抱えて蹲ってしまった。



『花龍!何をしている!』



モニターに映っていたのは、その恐ろしい邪眼師。

第三の眼を最大限にまで開放させた、飛影の姿である。



「ちょちょちょ、ちょっと、飛影選手!!」
「おー飛影、お前も来たんか」

実況席では、小兎が慌てながら幽助にしがみ付いている。
その幽助はカラカラと笑いながら、状況を楽しんでいる様だった。

更に其処に、怒り心頭の飛影。

何と言うか、実況席がやたらと狭そうである。


『花龍、今すぐ辞退をしろ』
「・・・・・・・・」

飛影のドスの効いた声に、花龍は首を傾げる。
何故父がそんなに怒っているのかが、良く分かっていないらしい。

「え、えぇぇ・・・っとぉ・・・か、花龍選手・・・」
「?」
「ひ、飛影選手はそう仰っていますが・・・さ、参加なされますか・・・?」

樹里がビクビクと脅えながら、マイクを差し出す。
出来る事なら、辞退して欲しい。
これ以上飛影の怒りを買うのは、何としても避けたかった。


「あぁ、コイツ、参加するってさ」


花龍が何か答えるより先に、隣の狗守鬼が短く言う。

それに、樹里はキョトンと目を丸くし、言葉を詰まらせた。

そこに再び、飛影の声。


『・・・貴様には、聞いていない・・・!』


地響きの様な暗く低い声に、樹里はもう半泣き状態でマイクを握り締める。

一方、そんな飛影に睨まれている狗守鬼は、さも当然の様に返す。

「本当の事だし」
「えっ、えとぉっ・・・か、花龍選手っ・・・ほ、本当に、参加なさるんですか・・・?」

樹里が、一応確認の為に、縋る思いで聞く。

すると花龍は、小さく頷いた。

「ほっ、本当に良いんですか・・・!?」
「・・・・・・・」

また、頷く。
狗守鬼はその様子に、軽く肩を竦めてみた。

「ほらね」

狗守鬼と花龍は、視線で会話をする。

その間にも、飛影の黒い妖気は増大し、観客席にまで伝わって来た。


『花龍・・・!』
「・・・父者・・・応援、してね」

無色の美しい声色で、飛影に一言だけ伝える。
その言葉に、飛影はグッと黙った。

「お。流石の飛影も、娘にそう言われちゃあ、何も言い返せねぇか?」
「ひ、飛影選手・・・?」

悔しそうな飛影の様子に、幽助は笑い、小兎は心配そうに問う。


「あー・・・おーい飛影さん、聞こえるー?」


狗守鬼が樹里のマイクを借り、モニターに向かって話し掛ける。

途端、飛影の眉間に皺が寄った。

『・・・貴様に用は無い・・・!』
「まぁ、聞いてよ。花龍が怪我しない様に、なるべく守ってみるから、安心してって」
『何だと・・・?』
「・・・多分だけど」
『ふざけるな・・・貴様に娘を任せられるか!』
「だって、それしか無いだろ」


まるで、義父と娘婿の様な会話。

お嬢さんを下さいと言われ、それを断固拒否する父の様な。

そんなピリピリした険悪なムードが漂う。


これには、あれ程沸いていた会場も、違った意味で興味がある様子だった。


「えっえっとぉ・・・そ、それでは・・・花龍選手は・・・参加で宜しいですね?」
「・・・・・・・・」
「わ、わかりました・・・く、狗守鬼選手に続き、花龍選手も参加決定です!」

樹里が混乱しながらも、そう片手を上げて進行する。
会場は、再び大きな拍手が沸き起こった。


『・・・良いか、貴様、花龍に怪我なぞさせてみろよ・・・殺すぞ』
「・・・・・・まぁ、善処する」
『貴様・・・!!』
「そっ、それではっ、次の方のインタビューに移りたいと思います!!」

また始まりそうな飛影と狗守鬼の険悪な会話を、樹里が無理矢理遮る。
飛影の方は、チッと舌打ちをしてから、乱暴に小兎へマイクを返した。

『えっ・・・えー・・・様々なアクシデントが発生しておりますが・・・
 狗守鬼・・・選手、花龍選手の2名は、参加を表明し、残るは後3名!
 さぁ、一体どうなるのでしょうか!?』

自分の息子に”選手”とつけるのは些か抵抗があったのか、少し妙な間が空く。
しかし、それは大して気にされずに、樹里のインタビューへと全員の気が向いた。


「はいはーい!あたしとこの人のインタビューは、同時で良いで〜す!!」


マイクを向けられ、樹里が何かを問う前に、つばきが明るく宣言する。
どうやら早く余興本番へと入りたいらしい。
樹里は少々驚きつつ、隣の小瑠璃へ視線を送った。

「あの〜・・・宜しいんでしょうか?」
「ええ・・・構いません」

小瑠璃の了承も得たので、樹里は気を取り直してマイクを2人の間に向ける。

「それでは、左の方から順に、番号とお名前をお願いします」
「はぁ〜い!7564番!和むよって覚えて下さいっ、つばきで〜す!」
「えー・・・8263番、小瑠璃です」

ハイテンションなつばきとは対照的な小瑠璃。
その2人に興味を引かれたのか、樹里が司会者らしく質問を投げ掛ける。

「ご一緒にインタビューを受けている所を見ると、お2人は何か関係がおありなんですか?」
「あたしとこの人は、兄妹で〜す!あたしは妹、こっちは実の兄!」
「あ、そうなんですか!あまり、似てらっしゃらないんですね」
「そうなんですぅ。あたしはママ似で、お兄ちゃんはパパ似でーす!」

華の様な印象を受けるつばき。
静かな鴉を思わせる小瑠璃。

この2人の親は、特に今の魔界で有名な訳でもない。

その為、辞退の対象は、自然にこの2人に向いた。



おぅい、テメェ等みてーなひ弱そうな奴じゃ話にならねぇ。

とっとと辞退しろぉ!俺等に順番回しやがれ!!



その様な声が、渦となって会場を包む。



と、その途端。






「!!!」






凄まじい爆音が轟く。


次いで、真っ赤な火柱と黒く大きい煙。





どうやら、会場の一部が爆破され、消し飛んだ様子だった。





一瞬にして、水を打った様にしんとなる。


樹里も、その予想だにしなかった爆音に、腰を抜かしたらしい。


その時に落としたマイクをつばきが拾い、先程とは打って変わった冷たい口調で喋り出す。



「劣等生物は黙って指銜えて観てなさい。
 余計な事言ってないで、馬鹿みたいに騒いで盛り上がってりゃあ、それで良いの。
 無駄な事言う為に口なんか開いたら、さっきの爆弾突っ込んで喉笛吹っ飛ばしてやるわ。
 その後アンタ達全員、ミンチにして魔界魚どもの糞にしてやっても良いのよ?」


零度の声に、まるで汚物を見下すかの様な冷えた視線。

先程の能天気な少女のイメージからは掛け離れ過ぎていて、観客は軍隊の様に姿勢を伸ばし、固まる。


少しばかり間を置き、グルッとつばきが樹里へと視線を向けた。


「ヒィッ・・・わ、私は何も言ってません!何も言ってませんんん!!!」
「いやぁん、わかってるわよぉ。ハイ、マイク。勝手に借りちゃってごめんなさぁい」
「はっ・・・はひっ・・・」

相変わらず床に尻餅をついたまま、樹里は震える。
そして、何とか小瑠璃の手を借り、立ち上がる事が出来た。

「大丈夫ですか?すみません、この子、突然スイッチが入るもので・・・」
「いっ・・・いえっ・・・」
「えぇと・・・まぁ、僕もつばきも参加しますので・・・もう、インタビューは良いですよ」

脅え切っている樹里に、小瑠璃は苦笑いしながらも、優しい口調でそう答える。
それに、樹里も少し安心した様で、ふぅっと溜まっていた息を吐いた。

「そ、それでは・・・つ、つばき選手、小瑠璃選手も、参加を決定致します・・・!」




「あっはっはっはっは!!つばきもやるよなぁ!!」
「も、もう!幽助さん!笑い事じゃありませんよ!!」

未だ実況席にいる幽助は、つばきの過激な行動が気に入ったらしく、大笑い。
小兎は、そんな幽助を慌てて諌めていた。

「フン・・・あの女は相変わらずだな・・・」

同じく、まだ実況席に居座っている飛影も、呆れた様に呟く。
だが、大して興味は無い様子だった。



「さ、さて・・・最後のチャレンジャーにインタビュー・・・・あ、あら?」



漸く最後だ。
と、樹里が勇んでインタビューをしようとした、が・・・

その最後のチャレンジャーの姿が、見えない。


「え、えーっとぉ・・・?」
「ここだよ。俺の後ろ」


キョロキョロと探す樹里に、狗守鬼が冷めた様子で言う。

その言葉の通り、志保利は狗守鬼の足にしがみ付き、隠れていた。


「さっきの爆発が怖かったんだってさ」
「あぁん、ごめんねぇ志保利ちゃ〜ん!」

狗守鬼の説明に、つばきが苦笑いしながら志保利に謝る。
志保利は、軽く頷くだけで、狗守鬼の後ろから出て来ようとはしなかった。


「えー・・・それじゃあ、番号とお名前を教えて貰えますか?」


樹里が少し背を屈めながら、志保利にマイクを差し出す。

志保利は少し戸惑った後、蚊の鳴く様な細い声で答えた。


「701番・・・志保利です・・・」
「志保利選手・・・と、言うと、確か・・・」


樹里が思い出すより先。

そろそろお馴染みとなった、あのマイク音が響く。

今度は誰だ。と、樹里がモニターを見上げると、邪眼師と似た恐ろしい妖怪の姿があった。


「きゃあぁっ!!よ、妖狐蔵馬選手・・・!!!」
『志保利、やめるんだ。危険過ぎる。すぐに辞退しろ』


冷たい銀色の妖狐が、少々焦りの混ざった声で言う。

その手に握られているのはやはり小兎のマイクで、いる場所は実況席。

幽助・小兎・飛影そして蔵馬の4人。

本来実況と解説の2人しか入らないこの席は、流石にギュウギュウ詰めである。


「フン、貴様も来たのか・・・」
「当たり前だ。志保利を出させる訳には行かない」
「俺は、花龍に押し切られたがな」
「・・・狗守鬼に、じゃないのか?」
「・・・・・幽助、貴様、もっと息子を教育したらどうだ・・・・・」
「あ、あはは、そう怒るなって・・・」

実況席で、大物選手が揃う。

それだけで、静まり返っていた観衆は、再び沸き始める。

『志保利!』
「え・・・っと・・・」

いつになく鋭い声の蔵馬に、志保利はビクリと脅える。

その様子が伝わったのか、蔵馬はハッとした様子で、溜息を吐いた。

『すまない。だが、これは本当に危険なんだ。辞退するんだ、良いね?』
「えー・・・志保利選手、蔵馬選手はああ仰ってますけどぉ・・・」

樹里が、冷や汗を掻きながら、志保利に問う。
飛影の時と同じく、彼の怒りは買いたくない。
それに彼女は人間の少女、参加したら、間違いなく命を落とすだろう。
その意味も含めて、辞退してくれるよう、心の中で願った。



「で、でも・・・・・やっぱり・・・・・出ます・・・・・」



樹里が飛び退く。

それと同時に、ミシッ・・・と、マイクが軋む音がする。

それは樹里のマイクではなく、蔵馬が握ったマイクの音。


『志保利!何を考えている!!』


刃の様な鋭利な声が、会場中に響き渡る。
その声に、志保利はぎゅっと狗守鬼の足にしがみ付いた。

それを見て、狗守鬼は溜息を吐いてから、樹里にマイクを貸す様に言う。

オドオドした様子の樹里からマイクを受け取ると、狗守鬼はやおらしゃがみ込む。
そして、普段と変わらぬ淡々とした口調で、問い掛けた。

「志保利、本当に出るの?」
「は・・・はい」
「どうして?」
「・・・み、皆さんが出るのに・・・私だけ、辞退するなんて・・・嫌です・・・」
「蔵馬さん、怒ってるみたいだけど?」
「・・・・ごめんなさい。でも、でも・・・・参加、します」
「死ぬかもよ?」

狗守鬼の直球な言葉に、志保利の肩が揺れる。
だが、少しの間の後、震える声でしっかりと答えた。


「だ、大丈夫です・・・が、頑張ります・・・」


その回答を聞き、狗守鬼がスッと立ち上がる。

そのまま、観客席に向けて、一言マイクを通じて言い放った。






「と言う訳で、以上抽選者5名。全員参加を決定します」






非常に冷めた口調で、わざとらしい敬語で。

表明した狗守鬼に、今日一番の盛り上がりを見せる、観客席。


そのまま、呆然としている樹里に、マイクを投げる。


「わっ、わっ」
「って訳で、後は宜しく」
「え!?え、あ、はい・・・!」

何が宜しくなのかはわからないが、取り合えず返事をしておく樹里。


ステージや観客席は綺麗にまとまり盛り上がっているが、問題なのは実況席だ。


『志保利!!』

蔵馬が、叫ぶ。
けれど志保利は、控え目な笑顔を浮かべ、手を振るだけだった。


「・・・何て事だ・・・」
「・・・・蔵馬、貴様も、俺の気持ちがわかっただろう?」

項垂れる蔵馬に、飛影が哂う様な口調で言う。
貴様も道連れだ。とでも言いたげに。

「・・・小兎」
「は、はい」
「確認するが・・・第三者が介入するのは、禁止されていたな?」
「そ、そうです」
「・・・・・・・破った場合、何か罰則はあるのか?」
「い、いえ・・・特に決めてはいませんが・・・」
「そうか」

小兎の答えに、蔵馬は軽く笑みを浮かべる。
飛影も、同じ様子で、蔵馬を見遣った。

それに、幽助は呆れた様子で割って入る。

「お、おいおいお前等よぉ・・・まさか・・・助っ人に入るつもりかぁ?」
「当然だ」
「それ以外にあるか」
「そ、それじゃあつまんねぇだろ・・・」
「貴様は良いがな。どうせあの男は、殺しても死なんだろう」

飛影が、狗守鬼を指す。
確かにあのメンバーの中で、一番の実力者は彼だ。

「志保利なぞ、ただの人間の少女だぞ。危険過ぎる」

蔵馬も、飛影に同意した様に言う。


幽助と小兎は顔を見合わせ、ううんと悩む。


「け、けどよぉ・・・一応、決まりだから・・・助っ人は無しな?な?」


幽助が苦笑いを浮かべながら2人に念を押す。


けれど、蔵馬と飛影は、もう聞いている様子ではなかった。




そんな2人を見て、幽助と小兎は同時に肩を落とし、深い溜息を吐いた。
































NEXT


志保利さんがどうなってしまうのか。
飛影と蔵馬はハラハラ。
幽助と小兎は違う意味でハラハラな展開に。