「・・・・ん?」
狗守鬼が、思い出した様に辺りを見回す。
その様子に、小兎も異常に気付いた様だった。
『お、おやぁ?皆様、ご覧下さい。
先程、酎選手と対峙する前まで、狗守鬼選手の周りには
まだ10余名程の対戦者達が犇いておりましたが・・・
今は、何と、倒された酎選手と40名の小山以外、誰も見当たりません!』
「恐らく、逃げたのだろう」
蔵馬が言う。
その通り、まだ生き残っていた対戦者達は、恐れをなして逃げたらしい。
いくら戦いが好きであろうと、”化け物”を相手にしたくは無い、と言う事だろうか。
『何と!狗守鬼選手の実力を目の当たりにして恐れをなした対戦者達!!
狗守鬼選手との戦闘を放棄し、その他4名のチャレンジャーへ標的を変更した模様!!!
これは全く予想外!!
・・・ところで、他の選手達はどの様な状況の中戦っているのでしょう?
別の場所を見てみましょう!!』
小兎の言葉を合図に、カメラがスムーズに切り替わる。
今度映されたのは、花龍の姿。
だが、今の彼女はどうにも、辛い状況らしい。
元より数が多いのに、狗守鬼の所から流れて来た対戦者。
それが数名加勢し、相手にしなければならない人数が増えていた。
更に彼女は、志保利の結界を維持する為、霊力を殆ど使えない。
自然と不利な状況、肉体的にも厳しい状況に追い込まれている。
その証拠に、身体には無数の傷跡と血痕が残されていた。
傷だらけな娘の姿に、飛影が眉間に皺を寄せる。
「おい・・・幽助・・・」
「へっ!?な、何だよ飛影・・・おっかねぇ顔して・・・」
突然、ドスの効いた声で名を呼ばれ、幽助は少し上体を引きながら問う。
「確か貴様の息子は、花龍が怪我をしない様護ると言っていたな・・・」
「え、あ、お、おぅ」
そう言えばそんな事を言っていたな。と、記憶を辿る。
そして、ついでに、嫌な言葉も思い出した。
「・・・では、花龍に怪我をさせた場合、俺がアイツを殺すと言ったのも、覚えているな?」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・俺は、有言実行するタイプだぞ」
「ま、待て待て待て待て!!!」
余興が終了したら、真っ先に狗守鬼へと斬り掛かって行きそうな飛影。
そのヒシヒシと皮膚を貫く妖気に本気を感じ取り、幽助は慌てる。
「ほ、ほら、狗守鬼も、囲まれてた訳だしよぉ・・・」
「知った事か」
「ま、待てって!落ち着けって!!」
この状態なら、黒龍波を2本位撃てるのではないか。
そう思わせるくらいに、今の飛影の妖力は増大している。
隣で見守っていた小兎は、ヒィッと幽助の背に隠れ、ビクビクと震えていた。
「っ・・・」
一方の花龍は、苦し紛れに相手の攻撃を捌き続けている。
けれど、守りが精一杯で、一向に攻撃に移れない。
結界へ霊力を費やしている今、肉弾戦でしか対応が出来ないのだ。
「・・・っ・・・」
けれど、幻海や飛影の娘でもある。
例え力が使えなくとも、そこらの妖怪ならば相手に出来る。
その証拠に、少しずつではあるが、倒れ始めた者達も出て来た。
「・・・・・・・・」
花龍が左胸を押さえる。
霊気が、身体から消えて行く。
この殺気と邪気が満ちた閉鎖空間では、それが何より厳しかった。
半妖である身。
だが、身体の殆どは、霊気によって護られている。
己の妖気ですら、自身を痛めつけるのに。
奥底に眠る妖気を解放する事も出来ず、ただジリジリとした痛みに耐える。
苦手な邪悪な気は、容赦が無い。
「!?」
途端感じた、冷たい気配。
危機を察知した花龍が、残像を残しながら飛び退く。
それでも間に合わなかった様で、彼女の左頬からは一直線に血が飛び散った。
『ぉおっと!!花龍選手、突如現れた氷の凶器を、間一髪で回避!!
けれど、微かに接触してしまったのか、白い肌からは真っ赤な血が溢れている!!!
しかし、今の氷の凶弾は何処から・・・・・』
小兎が首を傾げる。
その疑問に、飛影が憎々しい様子で呟いた。
「・・・凍矢か・・・」
酎に続き、本戦お馴染みとなっている妖怪の名に、小兎は驚きを顕わにする。
そして、実況を挟む間も無く、その名を呼ばれた彼がモニターに姿を現した。
『何と!酎選手同様、前年まで本戦常連として認知されていた凍矢選手!!
彼も、今年は予選で敗退していた模様!!!
そして、今、余興対戦者として、花龍選手の前に立ちはだかっております!!!
魔氷の使い手凍矢選手に、いたいけな美少女はどう立ち向かうのかーー!!!!』
「良く避けられたな」
「・・・・・・・」
凍矢が感心した様に言う。
その手には、先程花龍に飛ばした氷の粒が浮いていた。
花龍は視線を凍矢に遣りつつ、引っ切り無しに襲って来る妖怪達を蹴り飛ばす。
他の者達ならば何とか防ぎ切れるが、ここに来て、凍矢。
コレは、何とも手痛い事態。
「お前は確か、飛影の娘だったな」
「・・・・・・・」
「?・・・どうした、声が出ないのか?」
何を話し掛けても答えない花龍に、凍矢は疑問に思う。
だがそれは、花龍の首が横に振られた事で、答えられた。
「そうか・・・話している気分ではないか?」
「・・・・・・・」
「・・・それも、違うか・・・」
今度は何の反応も示さなかったが、どうにもそうでは無いらしい。
不思議な雰囲気を纏う少女に、凍矢は少々興味を惹かれた。
「っ・・・」
ふっと氷に息を吹き、再びそれを花龍に飛ばす。
5つ程の小さな氷の塊は、大きさに似合わず、厄介な凶器だ。
それを避け様とした花龍だったが、後ろにいた妖怪に拘束され、攻撃を諸に喰らう。
「ッ・・・・っ・・・・」
それでも、声は発さない。
もう声を出さない事が癖になっているのだろうか。
それとも、ただ単に気丈なだけなのだろうか。
凍矢は、自分で攻撃しておきながら、そんな彼女が心配になる。
「・・・・っ」
思わず止まった凍矢を気を留めながら、花龍は己を拘束している妖怪の腕を掴む。
そして、一本背負いの要領で脚を後ろに蹴り上げ、妖怪を投げ飛ばした。
それから間を置かずに、凍矢から距離を取る。
「ッ・・・・」
「!待て、何をしている!」
次の瞬間。
花龍が取った行動に、凍矢は思わず叫んだ。
『な、な、何と花龍選手!!とんでもない行動に出たーーー!!!!
凍矢選手から放たれた氷の凶器!!!
先程対戦者の拘束によって体内に埋め込まれてしまった氷弾!!
そ、それを取り除こうと言うのかっ、自ら傷口に指を捩じ込んでいるーーっ!!!』
小兎が、半分眼を覆いながらも実況を続ける。
今の言葉にもあった様に、随分と痛い無茶をし始めた花龍。
これには飛影も勿論、蔵馬や幽助も焦りの色を見せる。
「ばっ、馬鹿っ、花龍!何やってんだよ・・・」
「傷口を広げながら氷を取り除こうとしているな・・・何て無茶をするんだか」
そう眉を顰めながら言う幽助と蔵馬。
・・・が、唐突にバッと身体を引かせる。
飛影の妖気が、彼等まで巻き込みそうになった為だ。
小兎にも被害が及ばぬ様、幽助は彼女を抱える。
「ひっ、ひっ、飛影選手っ・・・?」
「お、落ち着け飛影!!じ、実況席が吹っ飛ぶってぇの!!」
「・・・・・・・・・」
飛影は何も答えない。
それが却って不気味な恐ろしさを増長させ、3人は嫌な汗を流した。
ビチャビチャッ・・・と生々しい水音を立てながら、花龍が傷口に指を捩じ込む。
そして、指が体内に消えて行く度、その穴からは鮮やか過ぎる血液が噴き出た。
徐々に穴を広げながら、花龍が傷口を抉るように手を引き抜く。
ひっ・・・と、思わず小兎が目を逸した。
それ程に痛々しい、彼女の行動。
「っおい!」
見るに見かねた凍矢が花龍に近寄り、彼女の腕を取る。
その血塗れの指先には、先程凍矢が撃った氷が摘まれていた。
コレを摘出する為に、傷口に手を突っ込んだらしい。
全く持って、無茶にも程がある行動。
「・・・・っ」
「!?」
激痛に顔を歪める花龍を、凍矢が覗き込もうとする。
だがその隙を突いて、花龍は彼を左足で蹴り飛ばし、再び距離を取った。
凍矢が大したダメージを受けていない所を見ると
攻撃の意思ではなく、ただ突き放す為だけにやった行為だと取れた。
「・・・・心配は無用。か」
「・・・・・・」
凍矢が笑う。
花龍は相変わらずの無表情で、それこそ氷の彫刻を思わせた。
「ならば、こちらも遠慮はしない」
「・・・・・・」
凍矢の両腕に、氷の刃が出現する。
その周囲も、あまりの冷気に、一部が凍り始めていた。
そして、そこにいた対戦者達も、巻き添えになる。
花龍は、まだ数発の氷が体内に残留しているのを気に掛けながらも、改めて戦闘姿勢を取る事にした。
『無茶をして、氷の凶器を取り除いた花龍選手!!
ただでさえ霊気を消耗し、既に満身創痍と言ったこの状態で
呪氷使いである凍矢選手をどう捌き切るのか!!!
どうやら凍矢選手も本格的に戦闘モードに突入した様子!!
さぁ、その傷だらけの身体で、何処まで持ち堪える事が出来るのでしょうかぁ!!!』
幽助に抱えられながらも、実況アナウンサーとしての責務を全うしようとする小兎。
その仕事魂に感服しつつ、幽助は未だ無言を貫いている飛影に視線をやった。
・・・・怒り心頭である。
肉眼で確認出来る怒気と殺気に、幽助は小兎を庇う様に背を向けた。
戦闘能力の無い者にとっては、それすらが脅威。
そんな気配に、妻を晒す訳にも行かない。
「・・・な、なぁ、蔵馬」
「・・・・何だ?」
神妙な表情で蔵馬を呼ぶ。
同じく離れていた蔵馬は、視線を遣らず声だけで答えた。
「・・・どうなると思う」
「・・・・・・・もうじき、実況席が吹っ飛ぶだろうな」
「・・・勘弁してくれよ・・・」
リアリティ溢れる蔵馬の言葉。
本当にそうなりそうで、幽助は普段使わない脳をフル回転させ
どうにか実況席が吹っ飛ばない方法を思案し始めた。
そんな幽助を心配しつつ、小兎は再びマイクを握り締める。
『ぉおっと!!遂に始まった凍矢選手と花龍選手の激しい攻防戦!!!
凄まじい攻撃を繰り出す凍矢選手を翻弄する様に、花龍選手が全てを避け切る!!
霞の様に消える美しき乙女!!
凍矢選手も、攻撃を当てる事が出来ずに苦戦している模様です!!!』
凍矢は、冷静に作戦を巡らせていた。
どうやら深い傷を負った状態でも、彼女のスピードは衰えないらしい。
幾ら先を読んで攻撃を仕掛けても、ヒラリと風の様に交わしてしまう。
それならば攻撃よりも、相手の動きを封じる事に専念した方が良い。
そう考えた途端、一気に冷気が止む。
突然の変化に、花龍の脚が、一瞬だけ止まった。
その足元へ、酷烈な冷気の発生。
「っ!!」
花龍の細い足が、氷の枷に捕らえられる。
それは膝下まで迫上がり、完全に彼女の動きを封じてしまった。
凛冽な氷の痛みが、足元から全身を貫く。
一瞬にして、足の感覚は、麻痺した。
「悪いな、だがこうでもせんと、お前を捕まえられない」
「・・・・・・・・」
「ルール無用のデス-マッチだ。怨むなよ」
「・・・・・・・・」
凍矢の右腕を、ドリル状の氷が覆う。
それは恐ろしく尖鋭で、先の氷弾とは、比べ物にならない程。
喰らった場合、身体には風穴が開くであろうな。と、花龍は冷めた頭で考えた。
「花龍・・・!」
長い沈黙を貫いていた飛影が、絞り出す様な声を発する。
流石に、娘の危機。
黙っている事さえ苦痛になったらしい。
「・・・お、おい、凍矢の奴、本気じゃねぇか・・・?」
幽助が、信じられない様に言う。
まさか彼が、単なる余興で、本気になるなぞ思ってもみなかった。
それ程までに、予選で敗退した事に苛立ちを覚えていたのか。
彼の妖気を見るにしても、本気であるらしい。
「・・・・・・・」
「・・・飛影・・・?」
またしても黙った飛影を訝しく思い、幽助が見遣る。
だが、その瞬間、後悔した。
「・・・・・ひ、飛影?」
彼の腕の包帯が解けている。
まさか、こんな所で黒龍波を放つつもりか。
と、背筋に緊張と嫌な予感が走った。
「ひ、飛影・・・?」
「案ずるな幽助・・・貴様の嫁は巻き込まん様、配慮してやる」
「ま、待て待て待て・・・こ、ここでは止めろって!!
ここで撃ったトコで、凍矢には通じねぇだろぉがぁ!!!」
額に汗を浮かべながら、幽助が叫ぶ。
だが飛影は聞く耳を持たず、解いた包帯を捨てた。
これでは花龍の前に、自分達が死ぬ。
身の危険を察知した小兎は、縋る思いでモニターを見る。
『あ・・・あぁっと!!!凍矢選手!!
身動きの取れない花龍選手に向けて、突進を開始!!!
このまま彼女は氷の刃に貫かれてしまうのか!!!!
花龍選手、絶体絶命の大ピーーーンチ!!!!』
「わ。わ。こんな時にンな実況すんなって!!」
小兎の実況に、幽助が慌てる。
「し、しかし・・・本当の事ですしっ」
「いやいやいや、俺等も死ぬぞ!!その前に!!」
幽助がそう言う間にも、凍矢は花龍に向けて氷の刃を突き出した。
「ッ・・・・・っ・・・・・!」
「!」
花龍の胸を目掛けて突き出した刃。
だがその切っ先は、花龍の身体に届いていない。
「・・・・お前・・・・」
「ッ・・・・」
花龍の両腕が、その氷の凶器を掴んでいる。
細い両腕。
凍矢の武器となっている氷のドリルよりも、更に細い。
そんな折れそうな両腕で、相当な威力があったであろう刃を、食い止めた。
「・・・なるほど・・・見た目だけで、判断をしてはならないな・・・」
凍矢が意外そうに呟く。
まさかこれを、受け止められるとは思わなかった。
相当、腕力も鍛えられているのだろう。
だが、それでも、彼女の両腕は震えている。
「痛いだろう?・・・もう、手が離れない筈だ」
「・・・・っ・・・・」
その言葉の通り、花龍の掌は、既に氷の刃に張り付き、剥がれない。
余りの冷気に、皮膚が癒着している。
それはもう冷たさでは無く、激しい痛みとして感覚を伝えて来た。
凍矢が、更に右腕に左手を沿え、力を込める。
「ッ・・・」
「さぁ、お前のその傷だらけの細腕で、いつまで耐えられる・・・!?」
幾ら細身であるとは言え、男である凍矢。
細く、更に深手を負っている花龍。
力の差は、歴然だ。
「っだー!!飛影待て!!ここで撃つなよ!?待てよ!!?」
邪眼を光らせている飛影に、幽助はいよいよ切羽詰った声で止めに入る。
もうこの実況席内は凄まじい熱さ。
この熱だけで殺されるのではないか。
と、小兎は忍び寄る死の恐怖に脅える。
「ゆ、ゆ、幽助さん・・・っ」
「いや、本当に待て!!死ぬって!!俺だって、お前の本気の黒龍波なんざ喰らったら・・!!!」
「・・・幽助、そろそろ結界を張る準備をしておけ」
蔵馬が冷静に言う。
何故お前はそんなに冷静なんだと、幽助は睨みにも近い視線を送った。
「お、お前なぁ・・・!!」
「でないと、死ぬぞ」
「わぁってるっての!!だから慌ててんだろぉが!!」
幽助ががなる。
小兎はもう、神にも祈る思いで花龍の方を見た。
そこに、希望を1つ、見出す。
『みっ、皆様!!花龍選手をご覧下さい!!!』
突然の小兎の台詞に、慌てていた幽助も、蔵馬も
そして怒りに我を忘れ掛けていた飛影も、そちらを見る。
『何と!花龍選手の周囲に、黒い妖気が立ち込めております!!!
こっ、これは、一体どう言う状況となっているのでしょうかぁ・・・!!?』
突如花龍の周囲に現れた、妖気。
それは力としては若干弱いが、それでも、恐ろしい類の。
予想していなかった事態に、凍矢は何事だと気を散らす。
だが次の瞬間、その妖気の正体を悟った。
「・・・・お前・・・・まさか」
花龍へと視線を遣る。
彼女の真紅の眼は、妖しく光っていた。
そして、徐々に溶け出す、凍矢の氷。
「・・・ッ・・・妖気も扱えるのか・・・お前・・・」
「・・・・・・・・・」
凍矢が咄嗟に距離を取る。
彼女の手に張り付いていた刃も、妖気の熱で溶け掛け、すんなりと離れた。
「・・・・・・そうか。お前、飛影の娘だからな。炎の妖気も扱えると言う訳か」
「・・・・・・・・・」
黒い妖気。
それは、彼女の身体から放出されている。
その黒い気は炎の様に熱く揺らめき、花龍の身体を守る様に覆った。
余りの熱に、彼女の足を拘束していた氷も解け落ち、水と化す。
けれど、妖気を放出し始めた花龍に向けて、飛影は慌てた様子で叫んだ。
「花龍!何をしている!!」
先にもあった様に、花龍の身体は主に霊気で構成されている。
その霊気が弱まっている、今。
苦手とする妖気を身体に満たしているのだ。
正に、諸刃の剣とは言ったもの。
普段でさえ苦痛を伴う為に、表へと出さない黒い妖気。
まして、傷だらけの、身体。
幾ら窮地を脱する為とは言え、あまりにも危険な手段。
「チッ・・・あの、馬鹿・・・!」
「ひ、飛影・・・」
先程の恐ろしいまでの熱気は収まったが、それでも油断は出来ない。
幽助は一応、結界を張っておく事にした。
「ッ・・・・」
凍矢が、顔を顰める。
呪氷使いの彼にしてみれば、彼女の黒い炎は、一番危険視しなければならない物。
まさかこんな所で、牙を剥かれるとは思わなかった。
「・・・・・・・・・・」
だが良く見れば、彼女の身体がグラリと揺れている。
清流の様な霊気を、自らの妖気で壊している。
その様子を感じ取り、凍矢は再び右腕に冷気を集中させた。
「なる程・・・捨て身の抵抗か・・・」
感心した様に言う。
まさかこの少女に、そこまでの気丈さがあるとは思わなかった。
「・・・・だが、もう動けまい」
身体を己の妖気に蝕まれた花龍は、何とか自由になった両脚で立っている状態。
次の攻撃を避けられるとは思えない。
だが、念には念を。
凍矢は、空いていた左手に、意識を集中させた。
ふっと現れた、最初に撃った弾よりも更に小さい、無数の粒子。
「さぁ、最後だ」
言葉を短く花龍へ伝えると、その粒子に息を吹き掛け、飛ばす。
あまりに細かいその氷の粒は、霧の様に広がり、凍矢の姿を掻き消した。
「!」
目の前から消えた。と思った、瞬間。
『あぁっと!凍矢選手!!氷の霧に乗じて、花龍選手の背後を取ったーーー!!!!』
花龍の反応が遅れる。
丁度振り向いた時には、もう凍矢が攻撃態勢に入っていた。
氷の刃が花龍の顔面を貫くシーンを想像し、小兎は思わず顔を覆う。
しん・・・・。と、静寂が会場を支配した。
NEXT
今回一番真面目に戦ってるのはこの子だと思う。
傷だらけ血だらけ。
他のメンバーは殆ど無傷だからね。(小瑠璃の戦闘は省いたし)