「何無茶してんの、花龍」






あくまで冷静な声が、モニターから響く。






その声に、小兎はバッと顔を上げた。


そして、慌ててマイクを口元に当て、明るい調子で叫ぶ。




『みっ、皆様!!ご覧下さい!!!

 絶体絶命と思われた花龍選手。
 その氷の刃が彼女を貫かんとした正にその時!!!

 駆けつけた狗守鬼選手が間一髪でその刃を受け止めましたーーー!!!!』




対戦者が逃げ出し、暇になった狗守鬼が、花龍の護りに入る。


予想外の人物の登場に、会場は一気にヒートアップ。

あわや絶命か。と危惧していた幽助達も、思わぬ助っ人にほっと胸を撫で下ろした。


「ナイス狗守鬼!!」


幽助が笑いながら言う。

蔵馬も何も言わないが、安堵に満ちた表情を浮かべた。


「チッ・・・あの野郎、来るのが遅い・・・」


そして飛影も。

先程までの異常な殺気を収め、悪態を吐く。

だが、それでも、彼の登場は正直助かるのだ。







「・・・・・・・・狗守鬼」


花龍が、驚いた様子で名を呼ぶ。

初めて聞いたその美声に感心する凍矢だったが、今はそれ所ではない。


「ッ・・・貴様は・・・」
「どぉも、初めまして」

無気力な調子で、狗守鬼は言う。


その右手で、凍矢の刃を鷲掴んだまま。


「・・・・っ・・・・」


凍矢が慌てて刃を引こうとするが、狗守鬼の力に負け、ピクリとも動かせない。

それでも強引に引いた所、ボキリと鈍い音を立てて、氷の刃が折れた。


「なっ・・・」


自らの氷が折れ、凍矢は信じられないと言った表情を浮かべる。

アレはただの氷ではない、呪氷だ。

例え岩盤に叩き付けたとしても、折れる事は無いのに。


それなのに、いとも簡単に。



「案外脆いね、その氷」



狗守鬼は何て事無さそうに呟く。

そして折れた氷の先。

握っていたそれを、ゴトッと地面に落とす。


皮膚には、張り付いた形跡すら無い。


「貴様は・・・・」
「狗守鬼」
「・・・・浦飯の、息子か・・・・」
「正解。良く知ってるね」

恐ろしいその妖気に、凍矢は思わず冷や汗を浮かべる。

それは、全盛期の雷禅。

闘神と呼ばれた彼を思わせる、凄まじい圧迫感。



無意識に感じる恐怖に、思わず手が震えた。



「っ・・・・」
「そんなに怖がんないでよ。別にとって喰う訳じゃ無いんだから」
「フッ・・・全く、言ってくれるな」

呆れた様子の狗守鬼に、凍矢は口角を吊り上げた。


遥か年下の男に、まるで赤子扱いされる。


屈辱と言えば屈辱かも知れないが。

それでも、この妖気の持ち主に、勝てる気なぞ微塵も沸き起こらないのは、事実。



「ホラ花龍、掴まれよ」
「・・・・・・」

ふらつく彼女の肩に手を添え、寄せる。
傷だらけの彼女は、安心した様に狗守鬼へ凭れた。

「っと・・・さぁ、今度は俺が相手だよ。宜しく」
「・・・・・・・・・・」

凍矢が距離を取る。


だが、幾ら離れても、彼の妖気は薄れない。


化け物とはコイツの事だな。と、皮肉交じりに考えてみた。



「さっきの酔っ払いはすぐ終わっちゃったけど・・・アンタは、どうだろうね」



狗守鬼の一言に、全く厄介な相手に捕まったな・・・と

凍矢は思わず自嘲気味な笑みを浮かべた。






『さぁ、狗守鬼選手の登場で形勢は一気に逆転!!
 転じて凍矢選手が不利と言う状況に立たされました!!

 それにしても、狗守鬼選手が現れるだけで、こうも安堵感に包まれるとは・・・
 何とも不思議かつ、恐ろしい。
 もしも彼が敵へと回ったなら、敵う者はいないでしょう!』


小兎が、精神的に落ち着きを取り戻し、通常通り実況を開始する。

幽助の腕からも、下ろしてもらった。


「ホントだよなぁ・・・何だろ、あの安心感」
「アイツが強過ぎるからだろう」

幽助の言葉に、蔵馬がサラリと言う。
今の自分ですら、狗守鬼の本気には敵わないかも知れない。

それを考えると、この余興、彼1人だけでも十分に乗り切れるだろうと、考える。

「な、なぁ飛影」
「何だ」

飛影も、普通の受け答えをするまで落ち着いた。
けれど幽助は、少々ビクビクしながら、持ち掛ける。

「確かに花龍には怪我させちまったけどよぉ・・・。
 こうして助けたんだから、狗守鬼の事は許してやれよ?な?」
「・・・・・・・・・」

幽助の言葉に、飛影は考える。


そして暫しの間の後、フン。と、腕を組んだ。


どうやら、了承したらしい。

それに幽助は、漸く本当に一息つく。



『おっと、ここで、またしてもカメラが変わりましたね!!
 ただ今映っているのは・・・っ!!ば、爆発していますね!!
 爆発と言う事は・・・つばき選手でしょうか!!』











「た〜まや〜!」


そう花の様に声を張り上げながら、爆弾を投下するのは、つばき。

鋤に乗っている為、誰も攻撃へと移れないらしい。


時折羽根を持つ妖怪が襲い掛かるが、彼女の爆弾に皆迎撃され、敢無く落下。


その為に、つばきは殆ど無傷である。

「やぁねぇ・・・弱っちぃ男ばっか。やっぱ、パパくらい強く無いとね」

彼女の父。
鴉である。

支配者級の妖怪なぞそうそういる筈も無く、つばきにとっては全てが弱者に映る。


「ん〜・・・後10人くらいかしら。早く花火になっちゃえ!」


そう笑顔で、一つ目のついた不気味な爆弾を投げ落とす。

勿論威力は弱めてある。

仮にもトーナメントを最終予選まで勝ち抜いた彼等だ、死ぬ事は無いのだろうが・・・


それでも、相当なダメージを被っている様だ。


「手加減してあげてるのに、ダメねぇ。男は強くなくちゃ、モテないわよぉ?」


和やかに、まるで空中散歩でもするのかの様に宙を漂うつばき。





その為に震動は感じなかったが、嫌な気配だけは、しっかり察知した。





「!」





耳を劈く様な、死者達の断末魔。


次いで襲い掛かって来た、無数の髑髏達。


それなりのスピードで飛んでいたつばきは、慌てて急ブレーキを掛け、Uターン。


「いやぁ〜ん!何よあのグロテスクな物体は〜〜っ」


軌道を変えつつ逃げるが、髑髏達はピッタリとついて来る。

コレは埒が明かないと悟ったのか、つばきは再び止まると、クルリと向き直る。



「吹き飛べーー!!!」



その声を合図として、つばきの周りに無数のトレースアイが出現する。

それらは一斉に、髑髏達へと突っ込んで行った。




凄まじい爆音と共に、眩しい閃光が辺りを包む。




『おぉっと!!コレは凄まじい爆発!!
 突如現れた髑髏の大群を、つばき選手の作り出した爆弾が一気に殲滅!!』


つばきは、髑髏達が消えたのを見て、地上へと降り立つ。



そこには、1人の見目麗しい男がいた。



「アンタね、今の骸骨寄越して来たのは」
「フン、良く避けられたな」

つばきの言葉に、男は然して何とも思っていない様子で答える。

「んん〜〜〜?・・・アンタ、どっかで見た事あるわねぇ・・・」

その答えを貰い、つばきは男の顔をマジマジと見つめ、言った。


彼女が悩んでいる最中、小兎は再び実況を挟む。


『何と、彼は死々若丸選手ではありませんか!!
 彼も勿論、本戦の常連となった顔!!
 今年は何でしょう、前年の本戦出場者達が何名も予選敗退している模様。
 一体、何があったのでしょうか!?』

小兎の実況にもあった通り、今つばきと対峙しているのは、死々若丸。
彼も先の2人同様、本戦の常連であった筈なのだが・・・

今年は、多くメンバーが入れ替わっているらしい。


「貴様・・・単なる妖怪ではないな・・・」
「んん〜〜〜あとちょっとで思い出せそう〜〜〜・・・」
「・・・・・その微弱な霊気・・・霊界の住人か?」
「んんん〜〜〜〜・・・・・・」
「・・・・・・おい貴様、聞いているのか!?」
「ああぁぁ!!!!思い出したぁ!!!!」


自分の世界に入っていたつばきが、嬉しそうに死々若丸に指をさす。

それに、苛立っていた死々若丸は、不機嫌そうに怒鳴った。


「指をさすな!!この無礼者が!!」
「うるさいわね!!え〜〜っと・・・牛若丸!!!」
「死々若丸だ!戯け者!!!」
「大して変わらないじゃない!!細かい事気にしてたらモテないわよ!!!」
「何だと!!!」


怒鳴られたら怒鳴り返す。

そのポリシーで、つばきも勿論大声で言葉を投げ返した。

名前を間違えられた死々若丸も、額に青筋を立てながら、更に怒鳴る。



『え・・・えぇ〜・・・死々若丸選手、つばき選手の両名。
 戦闘をすっかり放棄し、口喧嘩を始めてしまいました・・・。
 何と申しますか・・・和やかな雰囲気ですねぇ・・・』

先程の狗守鬼・花龍と連続で激しいバトルが繰り広げられていたのに。

ここにきて、まさかの口喧嘩。

これには小兎も、安心した様な、気が抜けた様なで、苦笑いを浮かべる。

「あの辺りはぼたん譲りだよなぁ、つばきも」
「ああ・・・だが、あの妖力は、鴉そのものだがな・・・」

幽助の呟きに、蔵馬は苦々しく言う。

鴉。未だに苦手な妖怪らしい。

「何だよお前。支配者級に会えたのは嬉しい。とか言ってたじゃねぇか」
「・・・・良く覚えているな、何百年前の話だ」
「いや、暗黒武術会は、しっかり覚えてんだよなぁ・・・」

小兎も、こうやって実況してたし。

と、幽助が頬を掻きながら、思い出す。

「・・・惚気なら聞かんぞ」
「ばっ・・・ち、ちげぇよ!!」

蔵馬の呆れた一言に、幽助は顔を真っ赤にしながら怒鳴り返した。




幽助同様、こちらもまだ怒鳴り続けている。


「何よ何よ!!予選で敗退してる癖に!!!」
「貴様こそ、トーナメントに参加も出来ない弱者だろうが!!!」
「出来ないんじゃないわよ!!してないだけよ!!霊界だってねぇ、色々忙しいの!!!
 アンタみたいに、毎日毎日戦いに時間を費やせる程暇人じゃぁないのよぉっ!!!」
「誰が暇人だこの小娘!!!」
「アンタ以外に誰がいんのよ!!年寄り!!!」
「貴様ァァ!!!!」


暫し口喧嘩を続けていたが、遂に死々若丸が脱落する。

そして手にした刀をつばきに向けると、そろそろ乾いて来た口で、尚怒鳴る。


「其処へ直れ!!手打ちにしてくれるわ!!」
「やれるモンならやってみなさいよ!!!」

つばきも鋤を消し、代わりに妖気を最大限に放出する。



支配者級から受け継いだ、紫色の妖気。



勿論狗守鬼には遠く及ばないが、それでも、通常より遥かに強い。

これは予想していなかったのか、死々若丸は、軽く瞠目した。


「なるほど・・・この妖気、遥か昔に感じた事がある・・・。
 ・・・・貴様、鴉の娘だな・・・・?」
「え?パパを知ってるの?」

つばきが、キョトンと聞き返す。

その素顔を見せた様子は、どうにも、素直な少女だ。

何かの間違いではないだろうかと、死々若丸は少しばかり疑問を抱く。

「フン・・・妖気は似ているが、性格は似ておらんな」
「アラ、そんな事ないわよぉ。これでも結構、似てるって言われるのよぉ?」

つばきがコロコロ笑いながら走り出す。

先程の拗ねた顔は何処へやら、友人と遊ぶかの様に、楽しげで。


死々若丸は、首を傾げる。


「・・・何だ?あの女は・・・」


ただ単に人懐こいだけなのだが、そこには思考が行かなかったらしい。

もしかしたら何かの罠かも知れないと、無駄な警戒をし始めた。



「フン、スピードは大した事無いな・・・」


先へ走っていたつばきを、死々若丸が追う。

その差は見る見るうちに縮まり、あっと言う間につばきに並んだ。


「どうした、ジョギングでもしているつもりか?」
「ふーんだ!ちょっとした準備運動よぉ!!」
「ほぅ・・・なら、俺も付き合ってやろう!!」
「!」

死々若丸の刀が、鋭い一閃を描く。

それに、つばきがヒラリと飛び退いた。

「女の子に刀向けるなんて、アンタやっぱりモテないわよっ」
「貴様には俺の顔が見えんか」
「男は顔じゃないもの。顔と強さと性格の良さが揃って初めてモテるのよ!」
「貴様・・・俺にはそれが揃ってない、と?」
「今のトコ、クリア出来てるのは顔だけね!失格ぅー!!」

可愛らしく人差し指でバツの形を作り、舌を出す。

その簡単な挑発に、既に頭が熱くなっている死々若丸は、すぐに乗った。

「ならば・・・貴様を叩き伏せれば、合格か?」
「それでも2つしかクリア出来ないわよぅ。だってアンタ、性格悪そうじゃない」
「フッ・・・・その良く回る舌、引っこ抜いてくれる!!!」


死々若丸が地面を蹴る。


「きゃぁっ!」
「ホラ、どうした!!」

小振りな刀が、容赦無くつばきを襲う。

それを悲鳴を上げつつ、全て紙一重で交わしていくつばき。

動きは読めている様で、死々若丸もすぐそれに気付く。


「ほぉ・・・反射には申し分無いな」
「うぅん、アンタも、顔だけなら申し分無いのよねぇ、牛若丸ぅ」
「死々若丸だと言っただろう!!」
「いや〜ん!」

大きく斬り掛かる死々若丸に、つばきはピョンっと飛び上がる。


そして振り下ろされた刀の刀身に、花弁の様に着地した。



唐突な重みに、死々若丸が刀ごとグッと下がる。



「なっ・・・」
「えーい!!」


可愛らしい掛け声と共に、つばきが再び飛び跳ねる。


そのまま死々若丸の頭に着地し、また、そこから跳んだ。


「きっ・・・貴様ぁ!!!」


頭を踏み台代わりにされた死々若丸が、眼を剥いて怒鳴る。

つばきはワザとらしく怖がると、すぐに悪戯っぽい笑顔を浮かべ、死々若丸に言う。


「顔は良いって言っても、パパやお兄ちゃんの方がカッコ良いわよぅ。
 世間じゃあどうか知らないけど、あたしにしてみれば、残念賞〜〜vv」
「何だと・・・貴様、俺を愚弄するか!!」
「あぁん、賞貰ってるだけ有り難いと思いなさいよぉ。
 景品あげるからっ!ハイv残念賞の景品は、コチラで〜〜す♪」


チュッ。


と、控え目な音を立てて、つばきが投げキスを死々若丸に送る。



つばきの唇から、ふわふわと漂う、小さい真っ赤なハート。



「!?」



勿論それは幻覚ではない。

実体だ。



予想だにしなかった物体の登場に、死々若丸は狼狽とする。



だがすぐに刀を振り、そのハートを真っ二つにしてみた。









バァン!!!









瞬間、強烈な爆発が死々若丸を襲う。


その衝撃に刀は勿論、死々若丸自身も吹っ飛んだ。



先程つばきが投げキスと共に飛ばしたハートは、彼女が作り出したオリジナル爆弾。



「っ・・・くっ・・・・・・貴様っ!!」
「ちょっとォ、女の子のハートを真っ二つにするなんて!!
 やっぱりアンタ、性格悪いわよぉ!!!」
「そう言う・・・問題では・・・無いわ!!この馬鹿者が!!!」

解けた髪を気にもせず、死々若丸が跳ね起きる。

そして、プリプリと拗ねているつばきに向かって再び怒鳴り散らした。

「大体、何だあのふざけた物体は!!!」
「ふざけたって何よぉ!!アレは、あたしが作った可愛いハート型爆弾!!!
 威力もあって、彼氏に渡すには持って来いのアイテムじゃない!!」
「貴様は意中の男を殺したいのか!!!」
「しっつれーねぇ!!芸術と恋は爆発って相場は決まってんのよぉ!!」
「馬鹿か貴様!!」
「馬鹿って何よ馬鹿ってぇ!!馬鹿って言った方が馬鹿なのよこの馬鹿ァ!!」
「煩い!!人を馬鹿馬鹿言うなじゃじゃ馬が!!!」
「何ですってぇーー!!!言ってくれるわねこの・・・えっとぉ、えっとぉ・・・中途半端顔!!!」
「誰が中途半端な顔だ!!人の事が言えるのか貴様!!!」
「何言ってんのよ!!こんな美少女捕まえて!!!眼ぇ悪いんじゃないのォ!!?」
「美少女と言うのは幻海の様な女を言うんだ!!良く覚えておけ!!!」
「何ですって・・・・・・え?幻海?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


ポロリと出た名前に、つばきは眼を丸くする。

一方の死々若丸も、しまった。と、バツの悪そうな表情を浮かべた。




『おやぁ?再び始まった口喧嘩の第二ラウンド。
 死々若丸選手の口から零れた予想外の名前に、一旦終止符が打たれた模様!
 それにしても幻海・・・とは、飛影選手の奥様のお名前ですが・・・
 死々若丸選手とは、一体どの様な関係が・・・・ヒィッ!』

漸く普通の実況が出来る様になったのに、またしても小兎は幽助の後ろに隠れる。


飛影の妖気が、またしても放出された為だ。


「お、おいおい飛影・・・冷静に考えろよ・・・幻海とアイツが、関係ある訳ねぇだろ・・・?」
「そうだぞ飛影。恐らく、死々若丸が勝手に恋慕しているだけだ」
「く、蔵馬!後半部分いらねぇって!!」


蔵馬の余計な一言に、更に飛影の妖気が増大する。


また始まったか・・・と、幽助は再び小兎を抱えながら、呆れた調子で溜息を吐いた。





「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・ププッ」
「!」


暫し続いた沈黙を破ったのは、つばきの笑い声。

それに、死々若丸は顔を赤くして反応した。


「きっ、貴様・・・!!!」
「あぁん、生き物って見た目じゃ判断出来ないわねぇっ。
 そんな可愛らしい反応されちゃったら、笑うしかないじゃなぁい!」
「な、何だと!!?」
「可哀想っ。叶わない恋って、一番長く続くのよねぇ。
 だから、ショックでしょぉ?幻海さんが、1人の子供を産んじゃってるなんて・・・」
「・・・貴様・・・!!!」


本当にショックだったらしい。



思わず感情が最大限まで高まり、2本の角が死々若丸の頭に生える。



それを見て、つばきは不満そうに呟いた。

「何よ何よぅ。そんな角なんか生やしたってキュートでもクールでも無いわよっ!!」
「己っ・・・まだ俺を嬲るか!!!」
「嬲ってないわよっ、ただ叶わない恋は辛いわねって理解を示しただけじゃない!!」
「それが愚弄だと言うのだ!!!」
「フーンだ!何よ、恥ずかしがっちゃって!そんなつまんないプライド持ってるからモテないのよ!!
 モテないどころか、下らない意地張ってるから、本命だって捕まらないのよ!!」
「下らんだと・・・!?」

死々若丸が、先程吹き飛んだ刀を拾い、つばきに向ける。

「フッ・・・貴様・・・俺の逆鱗に触れた事を・・・あの世で後悔すると良い!!!」
「何言ってんのよ!あたしは元々あの世の住人よ!!」
「煩い!!」
「煩いのはどっちよ!!アンタのが声デカイじゃない!!」
「貴様の方がデカイだろうが!!!」
「ぜーったいアンタのがデカイわよ!!あたしは可憐だから、おっきい声なんか出ないの!!」
「可憐?貴様脳が腐っているのか?いっぺん辞書を引いて来い!!!」
「なぁんですってぇ!!?意味ぐらい知ってるわよ!!可愛くて守ってあげたくなる女の子の事よ!!!」
「ほぅ!そこまで意味を理解して置きながら何故そんな戯言が言えるのかが知りたいな!!!」
「全部あたしに当て嵌まってるからに決まってるじゃない!!!」
「貴様の何処に何が当て嵌まっていると言うんだ!!!」
「顔と体と性格よ!!全てが可愛くて守ってあげたくなるでしょぉ!!?」
「爆弾女なぞ、逃げたくはなっても守りたいとは断じて思わぬわ!!!」
「ちょっとぉ!!!逃げたいって何よ逃げたいって!!!!逃げたらトレースアイで追っ駆けてやるわよ!!!!」
「そんなだからじゃじゃ馬だと言うのだこの魯鈍女が!!!!!」
「そんな難しい言葉使われたってわからないわよ馬鹿!!!!」
「だから辞書を持って来いと言っているんだ低脳娘がァァ!!!!」






「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

モニターを見ている幽助達が、呆気に取られた様に黙り込む。

恋人の痴話喧嘩か。はたまた子供同士の口喧嘩か。



何にせよ、平和な事、この上ない。



小兎の方も、幽助に抱えられたまま、静かに実況を挟む。



『えー・・・死々若丸選手とつばき選手の口喧嘩、第三ラウンドが幕を開けました。
 両者とも、完全に戦闘を放棄している模様ですね・・・。
 まぁ、偶には、こんな試合もあって宜しいのでは無いでしょうかね・・・』



本当にそれで良いのだろうか。


そんな疑問を押し殺しつつ、小兎は困った様な顔で、モニターに映る2人を見つめた。





























NEXT


つばきと死々若は犬猿の仲。
やっぱり頑張ってるのが花龍のみと言うミラクル。