鏡の様な満月が、今にも零れ落ちて来そうだった、夜。


人在らざる異形の血に塗れながら、そんな狂気に満ちた月を見上げる。


どうしようもない高揚感が全身を駆け巡り、知らずに鼻歌が零れた。


満月の夜には、何か面白い事が起きる予感がする。


冷たい風を心地好く享受しながら、まだ名すら付けられていない自身の店へと道を辿る。




そこに1つ。

俺やこの街には随分不釣合いな、穢れなく輝く落し物があった。




それは、一際蒼い月光に照らされていた、女。

まだ契約手続きをしたばかりの店の前に、1人眠る様に倒れていた女。

まだ開店すらしていないのに、客だろうか?

それとも、単なる酔っ払い?

やれやれと肩を竦めながら近寄ると、どうにも違う様子だった。

試しに肩を揺らしてみる。

反応は無い。


「・・・おい」


声を掛けても、返って来るのは規則正しい呼吸。

酒の匂いも血の匂いもしないって事は・・・


「・・・ったく、家出でもしたか?」


俺と同じ歳くらいに見える女。

月光の所為か、顔色はやけに青白い。

蜂蜜色の髪は、蒼白い光に照らされて濡れた様に輝いている。


顔に掛かる前髪を退けてやると、随分と美しい顔立ちをしていた。


不気味な程に白く輝く肌。

長く豊かな睫毛が、蒼白い肌に深い影を落としていた。

通った鼻筋。

ふっくらとした唇。

けれど耳を見てみると、それは三日月の先の様に尖っていた。


悪魔?

魔物?


いいや、それにしては随分と綺麗なお嬢さんだ。

それに悪魔独特のあの禍々しい気配がない。

寧ろ、それとは真逆なその空気。


そんなお嬢さんが、なんで俺の店の前なんかに。


よりにもよって。と自分で言うのもなんだが、倒れる場所を間違えている様な気もする。



まぁ、これが男だったりしたら、このまま此処に放置したかも知れないが・・・



幸い美女であるし、暫く自分の元に置く事になったとしても何ら構いはしない。

金を取る気もない。礼が貰えるなら熱い抱擁やキスの1つで十分だ。

もしこの女が自分に害をなす様な真似をしたのなら、その時対処すれば良い。

・・・何にせよ、こんなスラム街に置いておくのは勿体無い。



普段他者と関わりを持つ事を厭う自分が、随分珍しい事を考えた物だ。

何処か他人事の様に思考しながら、女の身体を抱き上げる。

恐ろしく軽く、柔らかい身体。

月の色に輝く姿からは、ふわりと甘い香りがした。



女の顔を見詰め、フンと笑う。

この女の正体が誰であろうと、今は別に興味はない。

此処でコイツが倒れていたのも何かの縁か。



満月の下で出逢った女。


何か、面白い事が起きそうな予感がする。






先程よりも数段上機嫌で、また鼻歌を歌い出す。


血に塗れた両手で、穢れの無い女の肢体を抱いたまま


月明かりの差し込む名も無き店の中へと身を躍らせた。

























END.


見ず知らずの人をお持ち帰りしてはいけません。(普通しない)
ダンテさんとリンクさんの出逢い。リンクさんは失神してますが。
ダンテさんは面白い出来事好きそうだし、美女も好きそうだし(失礼)。
何より、何かがあっても対処出来ると言う自信を持ってるので、何でもやっちゃいそう。
これから、長く深いお付き合いが始まると思います。