粉雪がチラリと舞い散る。
朝の早くから降っていた為、砂糖の様なそれは随分と積もっていた。
水気の少ない、ふわふわとした雪。
夜の街を照らす街灯が、それを淡いオレンジに彩っていた。
「わぁ・・・すっかり積もっちゃいましたねぇ・・・」
人気の無い深夜の路地を歩くのは、リンク。
そのすぐ後ろには、ダンテが降り頻る雪を片手で受け止めてみながら歩いていた。
2人の吐く白い息が雪と混ざり、宙に溶ける。
厚い雲に月が隠れている割には、2人の顔が良く見えた。
「転ぶなよ」
「大丈夫ですよ。コレでも結構雪山とか歩いてるんですよ」
「・・・雪山?」
街中の話を通り越して雪山か。と、ダンテが言う。
リンクはクルリと振り返ると、軽く笑いながら指を幾つか折った。
「ええと・・・スノーヘッド・スノーピーク・・・ゾーラの里が凍った事もありましたし、廃墟にも・・・」
「ああ・・・もう良い。どうせ聞いてもわからない」
「あ、そうですね・・・」
ダンテの嫌そうな様子を見て、リンクがコロコロ笑いながら話を止めた。
その少し揺れる肩に、白い雪がショールの様に被っている。
ダンテは近寄ると、リンクに掛かった雪を柔らかく払い、そのまま彼女を自分のコートへと招いた。
身体と身体がピタリと触れ合い、リンクが気恥ずかしそうに訊ねる。
「・・・冷たくないですか?」
「ケルベロスの息吹よりは冷たくないさ」
「あぁ・・・いましたね、ケルベロス」
ダンテの言葉に、リンクは苦笑いを浮かべた。
それはつい此間の事。
彼の仕事に付き合い、数々の魔物達と対峙した時。
自分にとっての初めての悪魔退治であり、哀しい別れを目の当たりにした仕事。
コチラに来て様々な刺激を受けているが、あの出来事は一際印象深い。
その時に、ケルベロスと言う氷の魔物がいたのだ。
名の通り頭の3つある、巨大な犬の様な魔物だった。
「・・・・ここは静かですね」
暫くそのままでいたが、不意にリンクの口から静かに言葉が漏れる。
ダンテもその言葉を受けて、一度空を仰いでから答えた。
「そうだな。・・・普段たむろってる馬鹿も、雪の中出やしないだろう」
「あはは、寒いですもんね」
リンクが笑う。
雪よりは温かみのあるミルクの肌が、雪に晒されて赤くなっていた。
特に、顔。
鼻先と、柔らかな頬。
ダンテは悴んだ指先で、彼女の苺色の頬にそっと触れてみた。
「?」
「冷たいな」
「え?・・・あぁ、そうですね・・・雪に当たってましたから」
誰もいないとは言え街中。
そこで抱き締められているのも恥ずかしいのに、更に頬に触れられる。
流石に照れが大きくなり、彼の腕から逃れようと少し身体を捩じらせた。
だが、ダンテの腕は緩まない。
「どうした?」
「ど、どうしたって・・・ホ、ホラ、そろそろ帰りましょう?風邪ひきますよ」
「・・・それもそうだな」
明らかに後付けな理由に、ダンテは然して気にした様子も無く彼女を解放する。
あまりにもあっさり彼の腕が解けたので、リンクの方がかえって首を傾げた。
いつもは梃子でも離さないのに、と思いはしたが、別に何ら問題がある訳でもない。
もう夜も遅いのだし、雪の中にこれ以上いたら自分がダウンしてしまう。
そう、自分を解放してから何も言わないダンテに背を向け、一歩雪を踏みしめた。
「リンク」
彼の低い声が自分を呼ぶ。
その声に心地好さを覚えながらも、リンクは自然な動作で振り向いた。
瞬間、クッと腕を引かれる。
「わ?!」
何だと思う間もなく、再び彼の身体へと寄せられる。
咄嗟に空いていた方の手で止めたのだが、それでもダンテの身体にぶつかってしまった。
自分が悪い訳ではないが、それに謝罪をしようと顔を上げた、刹那。
雪の所為で冷えた頬に、彼の唇が軽く落とされた。
あまりに一瞬で、リンクは大きな目をパチパチとさせてダンテを見る。
ダンテは、リンクの腕を掴んだまま、いつもの食えない笑みを口元に浮かべていた。
「あ、あの・・・・」
キスされた頬を押さえながら、リンクが顔を真っ赤にする。
雪に晒されていたとは思えない程の熱が、一瞬にして体を駆け巡った。
「ん?」
「い、いえ、そのっ・・・」
「嫌だったか?」
「え、そ、そんな!嫌だなんて!」
バタバタと慌てて返答する彼女に、ダンテが肩を軽く揺らして笑う。
その彼の変わらぬ様子に、リンクもふっと落ち着きを取り戻した。
「えっと・・・・」
「何だ?もう1度して欲しいか?」
「ち、違います!」
両手を振り上げて言うリンクを軽く交わして、再び彼女の身体をコートで覆う。
そのまま細い肩を抱き、妖精の耳へ囁いた。
「俺はしたい」
「!!?」
その言葉に、真っ赤な顔のまま硬直するリンク。
本当に変な女だと、それを見てダンテがまた笑った。
「ま、コレくらいは慣れて貰わないとな」
おかしそうに肩を揺らしながら、固まっている彼女へ顔を寄せる。
そのまま、冷たい苺色の頬に、もう1度。
雪より軽いキスを落とした。
END.
相も変わらず短く、オチがない。
オチを考えず、己の本能に従いタイプする為生ずる結果である。
下書きなんてしゃらくせぇモン、しませんし。
ただその場面場面を思い起こしながら、その場のテンションで打つのみ。
と言う訳で、お題4の『冷えた頬』でした。
夜中の街に何か用だったのかとか言う野暮な突っ込みは無し。