雪の降り頻る外を、窓越しに見詰めてみる。

暗い路地を照らす街灯がぼんやり映り込むだけで、彼の赤い姿は見えなかった。



空が茜に染まる頃、彼は唐突に店を出た。

ついて行こうとする私に、やんわりとした制止を投げ掛けて。


仕事ではないから、来なくても良いと。

外は寒いから、風邪をひいては困ると。

夕飯はいらないと、何か企んだ子供の様な笑みを浮かべて、言っていた彼。


そんな彼の顔を思い出している内に、すっかり夜も更け。

事務所のソファにストンと腰を降ろし、ただ、何処へ出かけたかもわからない彼の帰りを待っている。




時計の針がそろそろ12を指そうと言う時頃。

窓の外。白く染まる闇夜の中に、一際目立つ赤色を見つけた。

咄嗟にソファから立ち上がり、最近修理したばかりの扉へと駆け寄り、ドアを静かに開ける。

裂く様な冷気が、頬を撫ぜた。


「お帰りなさい、ダンテさん」
「ああ、ただいま。良い子にしてたか?」


扉を潜るなり、子供に投げる様な言葉を掛け、私の髪にキスを落とす。

彼にとっては何気無いその動作も、私にとっては、とても気恥ずかしい。

思わず顔を赤く染めると、彼はさも可笑しそうに、肩を揺らして笑う。


「わ、笑わないで下さい」
「ああ・・・悪い悪い、良い物買って来てやったから、機嫌直せ」
「・・・良い物?」


そう言えば。と改めて彼を見る。

雪を被った彼は、珍しく荷物を持っていた。


1つは、大きめの箱。

もう1つは、小さい箱。

そして、袋が2つ。



さて、何であろうか。と思案すると、ダンテさんは雪を被ったままテーブルへと向かう。


慌ててそれについて行けば、彼はその荷物をドッカとテーブルに無造作に置いた。


キョトンとして見ていると、ダンテさんが私へ1つ問うて来た。


「リンク、クリスマスって知ってるか?」
「?・・・くりすます・・・?」


私が首を傾げると、ああ、やはりか。と彼は肩をわざとらしく竦める。

クリスマス。聞いた事が無い。

彼が持っていた荷物と何か関係があるのだろうけど。生憎、見当がつかない。


「イエス・キリストの生誕日・・・っつっても、わからねぇよなぁ」
「は、はい」
「まぁ、要するにだ。家族で過ごす特別な日って事だよ」
「??・・・家族と?」


些か要領を得ないので、再び首を傾げる。

するとダンテさんは、ふと優しい笑みを口元に湛え、私の頭を撫ぜてくれた。


「普段仕事で忙しいパパも、愛する子供や妻と共に、楽しい団欒の一時を過ごす為の日って訳だ」
「へぇ・・・そうなんですか」
「ああ、ケーキを食べて、子供達にプレゼントをあげて、子供が寝たら、自分の妻と過ごして」


そう言いながら、頭を撫ぜていた手を私の肩へと移動させると、そのまま彼の方へと寄せられた。
先程まで外を歩いていた彼の身体は、酷く冷たかった。

「そ、そう、なんですか・・・素敵な日ですね」
「だろう?・・・まぁ、悪魔の俺が祝う日でもないんだがな」

全くおかしな話だ。
そうダンテさんは自嘲気味に言うが、その意味は良くわからない。
取り合えず、素敵な日なのだと、そう納得しておいた。



「と、言う訳でだ」



ダンテさんが私の肩から手を離し、テーブルに置いた大きめの箱を開く。


中にあったのは、ワンホールのケーキ。


真っ赤な苺のたくさん乗った、美味しそうな白いケーキだった。


「わぁ・・・美味しそうですね」
「折角だ。アンタとクリスマスを過ごそうと思ってな。偶にはこう言うのも良いだろう?」
「はい。ありがとう御座います、ダンテさん」
「なんでもレディ御用達の店らしくてな、今日は付き合って貰った」

ああ、なるほど。
ケーキを買う為に、そして私を驚かす為に、1人で出かけたのかと合点が行く。

レディさんも付き合ってくれたのだろう、彼女にも感謝しなければ。


「それと・・・」
「?」
「ホラ、アンタにだ」


続いて、袋を2つ、私に渡して来る。

何かと見れば、ダンテさんは軽く笑って言った。

「さっき言ったろう。プレゼントを渡すって」
「あ・・・・。えと、もしかして、コレ・・・・」
「赤い袋がレディ、緑のがエンツォからだ」
「わあ・・・開けても良いですか?」
「そりゃあ、アンタにだからな」

渡された2人からのプレゼントを抱え、ソファに座る。

すぐにダンテさんも隣に腰を降ろし、私の肩を抱きながら、一緒にプレゼントの中身を見ていた。


「レディさんからは・・・あ、オルゴール」


女性らしい繊細な贈り物に、思わず頬が綻ぶ。

試しにゼンマイを巻き、音を聞いてみると、とても優しい音色が零れ落ちてきた。

「素敵な音色ですね・・・」
「ああ。そうだな。どうやら、子守唄みたいだ」
「どうして、柔らかいメロディだと思いました」

子守唄だと言うそれを聞いていると、心がとても穏やかになる。
思わずまどろみ掛けて、慌てて目をパチリと開けた。
危うく、ダンテさんに凭れ掛かったまま眠ってしまう所だった。

レディさんから貰ったオルゴールをそっとテーブルに置き、次にエンツォさんからの袋を開ける。


「・・・・・?」
「・・・・っ、あの野郎は・・・!」


中から出て来たのは、随分と透けた衣服。

良くわからないけれど、ダンテさんは何やら怒っている。

・・・それにしても、こんなのを着たら、身体が丸見えの様な気がするけれど。

「・・・ダンテさん、コレ、いつ着る服なんですか?」
「・・・・いいや、着なくて良い。と言うか、着るな」
「??でも、可愛いですよ」

確かに布は透けているし、胸元には大きくスリットが入っているけど。
薄いピンクで、フリルやレースがあしらわれているのも可愛らしいし。
細いリボンも、何だかお洒落な感じがする。

下着とやらをつけていれば、着られるのではないだろうか。

そう思ったのだが、ダンテさんは私の言葉を聞くと、とても苦い表情を浮かべた。

「?ダンテさん?」
「・・・・着たら、襲うぞ」
「!?」

なんだったら、朝まで付き合ってもらおうか。と、耳元で囁かれる。

その言葉に以前の記憶が走馬灯の様に蘇り、慌てて首を横に振った。


死ぬ。死んでしまう。


私が首を振り否定したのを見ると、ダンテさんは私の手からその衣服を引っ手繰り、袋に戻してしまった。

ああ、そんな乱雑にしまっては、皺になってしまうのに。

そう思いはしたけれど、ダンテさんが私の事を睨むので、口にするのはやめておいた。


「ったく・・・どういうつもりだか・・・」
「??」
「・・・いや、何でもない、気にするな」
「は、はぁ・・・」


これ以上は聞くなと暗に言われ、仕方なく納得する。


そして最後。

残った1つの小さい箱を手に取り、ダンテさんに見せてみた。


「あの・・・これは?」
「それは俺からだ」
「え?」


思わず、目を丸くする。

ダンテさんからのプレゼント。

私に、何をくれたんだろう。


「えっと・・・・・開けても、良いですか?」
「ああ」


おずおずと小さい箱を、丁寧に、丁寧に、カパリと開ける。



「わ。・・・わぁ・・・」



中にあったのは、綺麗な指輪。

白銀に光る、細身の指輪は、雪の様に、彼の髪の様に綺麗な輝きを宿していた。


「あ、あの。こ、こんな高そうな物・・・」
「何だ、嫌か?」
「そんな、嫌だなんて。・・・ただ、私、ダンテさんに何も用意していないのに・・・」


意図せず、耳をシュンと垂れ下げ、項垂れる。

住まわせて貰って、世話をして貰って、いつも迷惑を掛けているのに。

何もしていない私が、こんな高価な物を、貰える訳がない。


そうモゴモゴと告げると、ダンテさんは可笑しそうに肩を揺らし、再び私を引き寄せ、低い優しい声で言う。



「アンタがこれからもずっと、傍にいてくれれば良い。

 それが、俺にとっての最高のプレゼントだ」



出来れば家族として。

なんて、そう囁かれながら指輪を嵌められてしまっては。


顔に熱が集うのを、どうにも抑えられる筈が無く。


ただ。


「Merry Christmas」


そう、とても綺麗な声で告げられ、とっさに私も。


「メ、メリークリスマス。・・・ダンテさん、嬉しいです。ありがとう御座います」


と返すと、ダンテさんは笑って、真っ赤に染まったままの頬に軽い口付けを落としてくれた。




















END.


今年は小説でメリークリスマス。
ダンリンです。よりにもよって悪魔をクリスマスに使うと言うミスキャストっぷり。
でもダンテさん半分人間だから多めに見て下さい。
ダンテさんはリンクさんに、奥さん(家族)になってくれって、遠回しなプロポーズ(?)
リンクさんが気付いているかは定かではありませんが取り合えずラブラブです。

ちなみにエンツォさんからのプレゼントはベビードール。
後日ダンテさんから殴られると思います。