縁側。
相変わらず月は紅く哂っている。
そんな中、と雪菜は寄り添いながら話していた。
「なぁ雪菜」
「なぁに?」
「お前、良く無事だったな」
「それは私の台詞よ」
は雪菜にポツリと話し掛ける。
雪菜はの肩に頭を預け、微笑みながら返した。
「そうだな」
「あの後、どうしてたの?」
「・・・気付いたら、肩の傷は塞がってて・・・それから、弟探しを続けた」
「・・・見つかった?」
「見つかった。でも死んでた」
「・・・・・・」
「だから、墓前に花だけ供えて・・・今度は、お前を探してた」
の言葉に、雪菜は驚いたように顔を上げる。
「本当?」
「だからここまで来たんだろ」
「・・・・そう」
「お前は?」
「え?」
「兄貴。見つかったのか?」
雪菜の顔が曇る。
その様子に、まだ見つかっていないのだと悟った。
「・・・そうか」
「ええ。近くにいるとは思うの。でも、現れてはくれなくて・・・」
「・・・きっと見守ってるんだろ。お前の事」
「そうだと、嬉しい」
猫の様に額を摺り寄せる。
雪菜の柔らかい髪の感触を肩に感じながら、は月を見上げる。
「・・・お前が、生きてて良かった」
ポツリと零した言葉に、雪菜が一粒宝石を落とす。
真珠の様なそれは、の膝の上に転がった。
「・・・も、生きていて良かった・・・」
「自分でも不思議だ」
「またこうして会えるなんて、夢にも思わなかった・・・」
「俺も」
静かな音が聞こえる。
それは草の音か、風の音か、月が堪え切れず嘲笑った音か。
「もう、行く」
「え・・・?・・・何処へ・・・?」
「魔界に戻る。俺はもうここにいるべきじゃない」
「な・・・んで・・・何でそんな事を!!」
突然の言葉に、雪菜が叫ぶ。
「俺はきっと、いるべきじゃない」
「何で・・・」
「今、お前幸せだろ?」
「?」
「なら、それで良い」
「・・な、何が・・」
「お前を愛してくれる奴がいる。住む所がある。心安らぐ場所がある。
ちゃんと、お前は幸せに暮らしている。
それなら、俺は必要ないだろう」
「そんな事・・・!」
「俺はお前の邪魔をする気はない。
お前はお前なりに幸せに暮らしていてくれれば良い」
残酷な位に優しい言葉。
それを聞いた雪菜は、少し黙った後に搾り出す様な声を出した。
「・・・どうして、私の幸せを貴方が決めるの・・・?」
震える声に、が初めて雪菜を見る。
雪菜は、紅い瞳に涙を溜めていた。
「雪菜?」
「私の幸せを、貴方はわかるの・・・?」
「・・・・・・」
「貴方がいなくちゃ、本当の幸せなんか掴めないのに!?
私は、私は、一体どれだけ貴方に逢いたかったか・・・!
そして、今こうして・・・漸く逢えて・・・やっと共にいられると思ったのに・・・!!
貴方は、私を幸せにしないつもりなの・・・!?
勝手に幸せを決め付けて、私をまた1人にする気なの!?」
「大丈夫だ。お前はもう1人じゃないだろ」
「貴方がいなければ、私はいつも1人と同じ・・・心に孤独を抱えたままだわ!
だからお願い・・・もう私から離れないで。一緒にいて!!」
雪菜の悲痛な声に、が黙る。
そして、ポロポロと氷泪石の泉を作る雪菜を、そっと包み込んだ。
「悪い」
「・・・・・・」
「そうだな。お前の幸せは、俺には決められない」
「・・・・・・」
「じゃあ・・・ちゃんと聞く。
・・・お前の幸せは何だ」
の言葉に、雪菜が笑いながら言う。
「私の幸せは・・・貴方と永遠に・・・共に、生きる事です」
互いに額をつけ合い、笑う。
そんな2人を、今度こそ声に出して嘲笑いながら、紅い月が祝福していた。
END.
雪菜ちゃんは、主人公には敬語使いません。
ただ1人、心も身体も許した男ですからね。
冷たい闇も、全て彼に曝しているのです。(妄想)