「うぉ!!?」



幻海から連絡を受け、外で待っていた幽助が大声を上げる。

理由は簡単、上から人が降って来たからだ。


だが何も、誰かが自殺を図った訳ではない。



その人影は勿論、幻海の寺から宙を伝って来た、



「お、おいおい・・・どっから来てんだよ・・・」
「上から」
「わ、わぁってらぁ!!・・・で、アンタがばあさんの言ってた・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「だ、黙るなよ・・・って、雪菜ちゃんじゃねぇか」
「お、お久しぶりです、浦飯さん・・・」


脇に抱えられたままの雪菜を目に入れ、幽助がキョトンとした顔で声を掛ける。

雪菜の方も、流石にこの体勢は恥ずかしいのか、少々顔を赤らめて返した。


「えーっと・・・ま、まぁ、外に突っ立ってんのも何だからよ・・・ま、入れって」
「・・・・・・」
「すみません浦飯さん。お邪魔します・・・きゃっ!」
「お、おいおい!」


雪菜が申し訳無さそうに言った途端、がばっと腕を緩める。



あまりに突然の事。当然雪菜は、地面に落ちる。



ドサリと尻餅をついた彼女に、幽助は慌てて手を差し伸べた。



だがそれより先に、雪菜自身がばっと立ち上がる。



「も、もう!!」
「煩い、耳元で叫ぶな」
「だ、だって・・・」
「黙ってろ」



雪菜が敬語を使わないのにも、の冷たい態度にも、勿論驚いた。



が、それよりも



(・・・コレ、桑原が見たら・・・大変だろうなぁ)



約一名、雪菜にベタ惚れの男を思い出し、はぁと深い溜息を吐いた。
















「おっし、コレで良いか?」



幽助がバサッと服を見せる。


それは、幽助にしては珍しく大人しい印象の衣装。

どちらかと言えば、蔵馬が好みそうな服だった。


恐らく、誰かから貰ったのだろう。


「俺ぁこう言うの着ねぇからよ。お前にやる」
「・・・・いらん」
「何言ってんだよ、ばあさんから聞いたぜ?今日は雪菜ちゃんと出かけるって」
「ああ」
「・・・だから、いるだろ?」
「いらん」
「??」


幽助が、の言葉に首を傾げる。


幻海は確か、妖怪が人間界を探索するから、服を見繕ってやれと言っていた。

の今の衣装は、どう見ても人間が普段着る物では無い。


コレを借りに来たのに、いらないとはどう言う事だろうか?


疑問を感じる幽助に構わず、は彼の持っている洋服に軽く触れた。





途端、の衣装がズルリと歪む。





「ぅお!?」
「・・・・・・・・・」


幽助が驚いて洋服を落とす。

だが、改めて見たの衣装は、その落とした洋服と同じ物となっていた。

あまりに突然の出来事に、幽助はキョトンと眼を丸くする。


「・・・あ、あれ?」
「俺が纏っている物は、気を物質化した物だ」
「そ、そうなのか?」
「ああ。だから、イメージさえ掴めれば、気を具現化するだけで良い」
「・・・なるほど」


人間の衣装に身を包んだを見遣りながら、説明に納得する。


「けどまぁ、そうやってっと、割と人間ぽいぞ。紅い線みてーのは誤魔化せねーけど」
「こればかりはな」


見る限り彼は、自分と同じ様な年頃の外見。

だが纏う気配から、自分より歳は上なのだろうと察する。

その為か、少々大人しいその衣装が、やたらと似合っていた。


「とっても似合ってるわ」
「煩い。世辞はいらん」
「お、お世辞じゃないのに・・・」


再びと雪菜の遣り取りを目の当たりにするが、やはり違和感が拭えない。

雪菜と言えば誰にでも敬語を使い、一線置いた風がある少女。

その少女が歳相応に、それも恋する乙女の表情で気軽に声を掛けているのだ。


声を掛けられている男と言えば、面倒そうに冷たく突き放すだけ。

うぅむ。と、幽助は奇妙な光景に少し唸った。


「何だ」
「いや・・・オメー等、仲良いんだな」
「何がだ」
「何つーか・・・雪菜ちゃんて、俺等には敬語だしなぁ」
「知らん、昔からだ」
「ふぅん・・・」


まぁ、見れば、彼等には何か深い関わりがあると言うのも、良くわかる。

きっと魔界で何かあったのだろうと、珍しく頭を回転させて思考した。


自分の中でそう片付け、改めてに向き直る。


「そう言やよぉ、まだ名前聞いてなかったな。俺は幽助っつーんだけど・・・お前は?」
「・・・・
?ふぅん」
「それで・・・幽助と言ったか。悪いが日を遮る物を貸してくれ」
「へ?」
「あ、あの・・・」


突然のの要求に、かなり間の抜けた声を上げる幽助。

それを補足するかの様に、雪菜が慌てて言葉を付け加えた。


は、強い光が苦手で・・・その、日の光を遮る・・・帽子を貸して頂けませんか?」
「ああ、そう言う事か、そうだなぁ・・・日を遮るっつったら・・・」


雪菜の言葉を受け、合点の行った幽助が辺りを探る。

日を遮る物と言ったら、やはりキャップのついた物だろう。


そう考え、今のの服と合わせてもおかしくない物を見つけた。


「コレで良いか?」
「・・・ああ、構わん」


幽助が渡したのは、黒い革のキャップ帽。

あまり派手では無いし、今の服も黒が基調なので、似合わない事は無いだろう。


「・・・借りる」
「それは具現化しねーのか?」
「ああ。コレは持っていても邪魔にならない」
「ま、確かにな・・・」
「あ、あの、ありがとう御座いました・・・」


無愛想なに代わり、雪菜が礼を述べる。

それに、幽助はからからと笑いながら、手を振った。


「良いって良いって。それより、気をつけろよぉ?」
「「?」」


幽助の意味深な言葉に、雪菜とは眼で問う。

その視線を感じ、彼はニヤリと悪戯っぽく笑った。


「桑原だよ、桑原。気をつけろよぉ?
「・・・何だソイツは、人間か?」
「そーそー。アイツは雪菜ちゃんに・・・おっと、コレは内緒だな」
「?」
「・・・ああ、なるほどな」


雪菜は首を傾げるが、の方は意味を理解したらしい。

だが別段リアクションも見せず、雪菜に冷淡な言葉を掛ける。


「お前、人間界に男がいるのに、どうして俺に拘る?」
「え・・・?」
「素直にそっちに行ったらどうだ。俺に甘えるのもいい加減にしろよ」
「??、言ってる意味が良くわからないわ・・・。私、何か気に障る事をした・・・?」


雪菜の赤い瞳が不安に潤み、揺れる。

その様子に、幽助は『余計な事を言ったか』と、少々罪悪感を感じていた。

そこで慌てて、に取り成す。


「ま、まぁまぁ!これは雪菜ちゃんじゃなくてアイツが勝手に・・・」
「ほぅ」
「だ、だから、雪菜ちゃんを責めるなよ・・・な?」
「責めてはいない。他の男に惚れたならそっちに行けば良いと言っているだけだ」
「そんな・・・私、貴方以外の方を好きになった事なんて、ありません・・・」


ますます雪菜がしょげてしまったので、幽助は誰に責められてもいないのに慌てふためく。

そんな彼を無視して、はさっさと部屋を出ようと戸に手を掛けていた。


「あ、ま、待って・・・」
「・・・幽助、だったな。悪いが、借りるぞ」
「へ?あ、ああ・・・おい、あんま雪菜ちゃん苛めるなよ!」
「苛める?相手をしてやってるだけだろうが」
「お、おいおい・・・」


その眼に劣らぬ程冷たい声で言われ、流石の幽助も臆す。

それに構わず、はさっさと外へと出て行ってしまった。

雪菜も慌ててその後に続こうとしたが、その前にきちんと幽助に頭を下げる。


「あ、あの、本当にありがとう御座いました・・・が、あんな失礼な態度を取ってしまって・・・」
「いや、別に何とも思ってねーけど・・・雪菜ちゃん、頑張れよ」
「は、はい!」


雪菜が微笑みながら、部屋を後にする。


ドアの向こうから、待って。と雪菜の声が聞こえた。





1人になった部屋で、幽助はぼーっと考える。





「・・・・雪菜ちゃんに、彼氏か・・・・」


彼氏と言うより、もっと深い関係にある様だが、詳しくはわからない。

ただ、まぁ、も酷い態度を取りつつ、雪菜を嫌っている訳では無いらしいし・・・

雪菜自身、そんな彼にベタ惚れの様だから、別に自分は何も問題無いと、思う。



が。





「さーて、桑原がどうするかなぁ・・・」





再び永遠のライバルを思い起こし、何となく自分が疲れた様な溜息を吐いた。

































NEXT.


幽助は応援してくれる派。
さて、幽助の予感は、バッチリ当たると思います。
多分この主人公、桑ちゃんには相当嫌われる。