は疲れていた。


まぁ、散々雪菜を探して歩き、人間界へ辿り着いた翌日。


強引に慣れない人間界を、苦手な太陽に晒されながら歩いているのだから、無理も無い。



だが、彼が今疲れを感じるのは、その所為ではなかった。



「おいテメェ!!ダンマリたぁ良い度胸じゃねぇか!!」



・・・幽助の想像が、今、現実となった為だ。





「か、和真さん・・・」
「雪菜さん!!コイツぁ一体誰なんですか!?」
「い、いえ、その・・・」
「カズ、落ち着きな」

桑原が怒鳴れば、雪菜が慌てて止めに入る。
その横ではが呆れた様に溜息を吐き、静流はそれに興味を示していた。

「ふぅん・・・キミ、妖怪?」
「ああ。・・・お前は人間の様だな・・・それと・・・」
「あぁん?」

が静流を指した後、桑原へと視線を向ける。

「・・・こっちは何と言う妖怪だ?」
「ぁああん?どっからどう見たって人間だろぉがよ!」
「そうか?余りにも見るに耐えん見てくれだったから、下等妖怪の一種かと思った」
「なぁぁあにいぃいい!!?テメェ!!この世紀の美男子を前にして良くも・・・!!!」

初対面の相手に貶され、桑原の頭から湯気が昇る。
だがは、全くと言って良いほど意に介していない。
それどころか、退屈の為欠伸を噛み殺している程だ。

「・・・・で、何だ。まだ何か用なのか?」
「あぁ大有りでぇ!!テメェ、さっき雪菜さんに何つったぁ!?」
「さっき?」

桑原に言われ、先程雪菜に投げた言葉を順に思い出す。
そして、相変わらず不機嫌な表情のまま、淡々と記憶にある言葉を口にした。


「・・・煩い。黙れ。邪魔だ。黙ってろ。殺すぞ」
「そぉだ。良く覚えてんじゃねぇか・・・」


桑原が此処まで怒り心頭な理由。


それは何も、嫉妬だけでは無い。

勿論主な感情はそれなのだろうが・・・

突然見ず知らずの男が、心優しい雪菜に暴言を吐いたのが、何より許せないらしかった。


だがと雪菜にとっては、この遣り取りは日常。

特にの方は、雪菜が人間界でどう言う少女として捉えられているかも知らない。


だから、桑原がそこまで怒っている意味も、わかっていない。


「・・・で?それが何だ」
「テメェェ!!雪菜さんを傷付けるのがそんなに楽しいかこの・・・」
「か、和真さん!もうやめて下さい!」

青筋を額に浮かべている桑原を、雪菜が大声を張り上げて止める。

その珍しい大声に、桑原も、そして静流も、雪菜をじっと見遣った。

「ゆ、雪菜さん・・・」
「あの・・・彼のそう言う言葉は、悪気がある訳じゃないんです・・・」
「で、でも・・・」
「昔からです。・・・これが、私にとっては普通ですから・・・」

雪菜の言葉に、桑原はショックを受ける。
それはその内容ではなく、ある一言に。


「む、昔から・・・って・・・」


昔から。
2人は、以前から、何かしら関係があったと言う事。

それには流石に、少し、ショックだった。


「ふぅん・・・それで、キミ、名前何て言うの?」
「・・・・だ」
君か・・・あたしは静流、よろしくね。雪菜ちゃんの、友達さ」

静流が軽い笑みを浮かべて言う。
はただ視線をやるだけで、何も答えない。
静流の方も特に返答は期待していなかったらしく、雪菜の方へと眼を向けた。

「雪菜ちゃん」
「は、はい」
君とは、長い付き合いなの?」
「は、はい・・・魔界にいる頃から・・・」

ポポッ。と顔を赤らめた雪菜に、静流は、2人の仲を悟る。

の方はつっけんどんだが、雪菜の方は彼に惚れているらしい。

これは弟に勝ち目は無い。と、今だ興奮状態にある弟を見た。

「おらカズ、いつまで威嚇してんだ」
「こ、こいつ・・・いっぺん打ん殴らねぇと俺の気が・・・!!」
「やると言うなら構わん。・・・死んでも知らんぞ」
「しゃらくせぇ!!この桑原和真様の霊剣の威力を・・・」
「や、やめて!!」

ぎゅっと、雪菜がの腕を掴む。



だがは、邪魔臭そうにその腕を振り払った。



「あっ・・・」
「煩い」
「で、でも・・・」
「黙ってろ」
・・・っ」
「・・・何度言わせる気だ」


の低い声に、雪菜は口を噤む。
その様子が、また桑原の神経を逆撫でした。

「テメェ!!雪菜さんを悲しませるたぁ・・・」
「フン、ならば貴様が慰めてやったらどうだ?」
「きゃっ」


ドンッ。と、が雪菜の背を突き飛ばす。

その細い身体は、桑原の腕へとスッポリ収まる。


雪菜も、桑原も、静流も、の意外な行動に、一瞬キョトンとなった。


「・・・・・・?」
「雪菜、お前はその人間共と、散策なり何なりしているんだな」
「ま、待って・・・待って!」


さっさとその場を後にしようとするに、雪菜が泣きそうな声で呼びかける。

だが彼は足を止めず、雪菜は桑原の腕を振り切ってその背を追おうとした。



っ」
「来るな」
「えっ・・・」



一言冷たく返され、雪菜の足が止まる。


それに視線すらやらず、背を向けたままは続けた。



「用事が出来た」
「よ、用事・・・って・・・?」
「・・・お前には関係ない事だ」
「ま、待って!!」
「・・・その人間達といる気が無いなら、とっとと幻海の元へでも戻るんだな」
!!!」






それだけ言うと、彼は風の様にざっと姿を消してしまった。






「・・・・・・・・・・」



残された雪菜は、悲しそうに俯き、ポツリと名を呼ぶ。


突然の出来事に、あれ程までに怒りを覚えていた桑原も、一抹の罪悪感を感じる。

確かに彼は気に食わないが、雪菜に罪は無い。

だが、結果的に彼女を悲しませる結果となってしまった。


俯いて動かない雪菜にそっと近寄り、躊躇いがちに声を掛ける。


「ゆ、雪菜さん・・・」
「・・・・・すみません、和真さん、静流さん・・・・・」
「い、いや!雪菜さんは何も悪くないですよ!!」
「・・・ごめんなさい・・・私の事は気にしないで・・・お買い物の、途中だったんでしょう?」
「そ、そうですけど・・・でも・・・」
「・・・・・私、を待ってますから・・・・・」
「え?」


雪菜はまだ俯いている。


だが、足が動く気配はない。


まさか、ここで待つと言うのだろうか。

いつ戻って来るかもわからない彼を。

何をしに行ったかもわからない彼を。


あそこまで、雪菜を冷たく突き放した彼を。


「ゆ、雪菜さん!でも、アイツを待つんですか?戻って来るかもわからないのに・・・」
「待ってます。・・・彼は、戻って来てくれます」
「だ、だめですよ!1人でこんな所で・・・俺も一緒に・・・」
「良いんです。・・・は・・・戻って来てくれますから・・・」


雪菜の、彼に対する信頼感。

それは何物にも揺るがぬ、深い物らしい。


その様子に、桑原は掛ける言葉を失くす。



「・・・雪菜ちゃん、大丈夫だよ」



しんとなったその場に、静流の優しい声が響く。



君、すぐに戻って来るさ」
「はい、そう信じています・・・」
「・・・じゃあ、またね。たまにはこっちに遊びにおいで」
「はい。・・・ありがとう御座います・・・」
「行くよ、カズ」
「アイデデデデデ!!」


いまだ俯く雪菜に優しい眼差しを送ってから、弟の耳を引っ掴み、引き摺る。




雪菜はまだ、地面を見詰めていた。










「姉貴!!何すんだよ!!!雪菜さんを1人にして・・・」
「なんだ、気付いてなかったのかカズ」
「な、何が」


煙草の煙を吐き出しながら、静流がふふっと笑う。


そして、全く気付いていない弟に、事実を教えてやった。




「雪菜ちゃんの周り・・・結界が張ってあったよ」
「け、結界ぃ?」
「そう。人間には気付けないくらいのね。・・・きっと、君だろうよ」
「・・・・・・・・・・・・」




彼もちゃんと、雪菜ちゃんの事をわかってるのさ。

彼女があそこで、自分の帰りを待ち続ける事くらいね。





静流の言葉に、桑原は先程が消えて行った方を見る。








今度会った時は、まぁ名前くらい呼んでやろうかと、少し思った。

































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桑ちゃんは良い奴なので、一応認めてくれるかと。
ただ、主人公の性格自体合わないと思うんだ。
だから会う度に桑ちゃんが突っ掛かって行きそう。
主人公はスルー。我関せず。