可愛い女の子4
「うわあぁぁん!むくろのバカバカバカぁ!だいきらいーーっ!!」
大泣きしながらが躯の部屋を飛び出す。
その大声に、何事だと飛影が中へと入る。
そこには放心状態の躯がいた。
「・・・・何があった」
「・・・・・に大嫌いと言われた。本当にキツイぞ、これ・・・・・」
「・・・・・・・お前も大概馬鹿だな」
躯はその場から動かない。
に大嫌いと言われたのが相当ショックの様だ。
仕方なく部屋を後にし、に事情を聞くべく彼女の部屋へと向かった。
「おい、」
コンコンとの部屋のドアをノックする。
だが、返事は無い。
てっきり拗ねて出て来ないのかと思い、暫く待つ。
だが幾ら待てど、の声どころか、物音すら聞こえない。
もし泣いているのなら、鼻を啜る音なり何なり聞こえて来る筈。
不審に思い、もう一度苛立ちながらノックをする。
「おい、いないのか?」
やはり、返事は無い。
ふと嫌な予感が過ぎり、ノックを諦めノブに手を掛けた。
「、入るぞ」
一応断ってから、ドアを開ける。
の部屋は、無人だった。
ザァッと、飛影の全身から血の気が引く。
まさか。1人で外に出たのか?
そう考えるが早く、飛影はの気配を探る。
いた。
場所はやはり外。
アレ程1人で出るなと言ってあるのに・・・と、苦い思いで舌打ちをする。
しかし、すぐにハッとした。
のすぐ背後に、邪な気配。
を狙っている。
考えるより先に、体が動いていた。
一方のは、泣き腫らした目をしながらトボトボ歩いていた。
(むくろにだいきらいってゆっちゃった・・・むくろ、、きらいになっちゃったかなぁ・・・)
ポロリ。と、新たに涙を零す。
悲しさと孤独に耐え切れず、その場に蹲り、声も無く泣き始めた。
途端、体を覆う黒い影。
驚いて振り向いた先には、巨大な妖怪。
どうやら理性が無い下等妖怪らしく、随分と腹を空かせているらしい。
「くけけ、飯だぁ・・・飯だぁ・・・」
「ひ・・・」
醜悪なその容姿に、が小さく悲鳴を上げて後退る。
それに合わせて、その妖怪もに近づく。
「や、やだ、やだ、こないで、こないで・・・!」
泣くに構わず、妖怪はを捕らえようと手を伸ばす。
だが、その手はに届かなかった。
ボド。と、生々しい音を立てて腕が地面に落ちる。
妖怪は自分の身に何が起こったか理解していないらしい。
「下衆が・・・」
低い声がそう蔑む様に呟き、瞬間、妖怪の姿は跡形もなく消え去った。
「ひ、ひえー・・・」
が、呆然としながら目の前に立っている男を呼ぶ。
その男とは勿論、の危険を察知しすっ飛んで来た飛影だ。
心底安心したの呼ぶ声には答えず、ズカズカと大股で近寄り、ヒョイと彼女を腕に乗せて持ち上げる。
そして戸惑うを、ぎっと睨み付けた。
「こンの、馬鹿が!!!」
「ひっ」
突然怒鳴られ、が竦み上がる。
そして、先程止まった涙が再び彼女の目から零れ落ちた。
「ふ、ぇ・・・ごめんなさい。ごめんなさいぃ」
「いつも1人で外には出るなと言ってるだろうが!!」
「ごめんなさい、ごめんなさいぃっ」
両手で目元を擦りながら謝るに、飛影もすぐ熱が冷める。
そして適当な木の下へと座り込み、を膝に乗せて話を聞く事にした。
「・・・もう謝らなくて良い。で?何で躯が嫌いなんだ?」
「・・・・・きらいじゃないの。あのね、かなしくって、ゆっちゃったの」
「悲しい?何がだ」
飛影が聞くと、は少し俯く。
だが、必死に言葉を探しているのだとわかっている飛影は、黙って続きを待った。
「・・・あのね、きょうね、むくろとおでかけするの」
「出掛ける?だが、今日躯は予定が入ったと言っていたぞ」
「だからね、あのね、、かなしかったの」
「?」
「ずーっと、前からやくそくしてたの。ずーっと、たのしみにしてたの」
「・・・あぁ、なるほどな」
漸く納得がいった。
ずっと前から約束していた予定を、躯が突然キャンセルしたらしい。
それが、にとっては多大なショックだったらしく、思わず怒りに任せて出た言葉だったのだろう。
「むくろのこと、だいすき。でも、きらいってゆっちゃった。むくろ、おこってるかなぁ・・・」
「怒ってなどいないだろう、寧ろショックを受けていたぞ」
「じゃあ、じゃあ、むくろ、のこときらいになっちゃった・・・?」
「嫌う訳がない」
「ホント?」
「ああ」
「そっかなぁ・・・」
「ああ。それに、今回は躯が悪い。お前は怒って良い」
「うん・・・でも、むくろにあやまる。ごめんねって、だいすきだよってあやまる」
「そうか。・・・で?何で1人で要塞を出た?」
先程の事情は良く分かった。
だが、が外に出る理由は無い筈。
それが気になり、ついでに問い掛けてみた。
「あのね、あのね、むくろにお花あげよーと思ったの」
「花?」
「ごめんねって、お花あげよーと思ったの・・・」
「・・・そうか」
「うん。おうちかってに出て、ごめんなさい」
「もう良い。ただこれからは絶対に1人では出るな。良いな?」
「うん、もう出ない」
「なら良い」
頷いたの頭を撫で、再び腕に乗せ立ち上がる。
キョトンと不思議そうな顔をするに、素っ気無く声を掛けた。
「何だ。花を摘みに行くんじゃないのか」
「ひえー、いっしょに行ってくれるの?」
「お前を1人で行かせたら、何があるかわからんだろう」
「うん。ありがとひえー、だいすき!」
「それは躯に言ってやれ」
呆れながらそう呟くと、を抱いたままふっと風を切った。
「むくろー!!」
甲板で不安そうに待っていた躯の元へ、が駆け寄る。
その声に反応し、躯はすぐにを抱き上げた。
「。悪かったな、約束を破って。だが、何故1人で外へ出た。危ないといつも言っているだろう?」
「むくろ、ごめんなさい。お花をね、むくろにね、あげたかったの」
「花?」
はいっ!と、が花にも負けない笑顔で躯に手渡す。
それを片手で受け取ると、躯も軽く微笑んだ。
「ありがとう。嬉しいよ」
「ほんと?・・・あのね、ね、むくろのことだいすきだよ。きらいじゃないよ」
「ああ、わかってる、ありがとう」
「あのね、あのね・・・さっき、おこってごめんなさい」
「いいや、俺の方が悪かったな、も楽しみにしていたのに。
代わりと言っては何だが、明日一緒に出掛けよう」
「ほんと!?」
「ああ、本当だ。今日のお詫びだ」
「やった、やった!むくろ、だいすき!」
ぎゅーと抱き付かれ、満更でもない躯。
その様子に、飛影は”はぁ”と溜息を吐いた。
「ったく・・・妖怪に食われる所だったんだぞ」
「ごめんなさい、ひえー」
「お前は悪くない」
「・・・飛影、お前も中々馬鹿だな。人の事言えないぞ?」
「うるさい、お前程じゃない」
「?」
飛影と躯の遣り取りに、は首を傾げる。
それに気付き、躯は何でもないとに笑い掛けた。
「さ、疲れただろう?今日はもう部屋に入って寝ると良い」
「はぁい。むくろ、あした、いっしょにいこーねv」
「ああ、ちゃんと約束する」
「うん。おやすみーっ」
ぴょこぴょこと跳ねる様に甲板を後にする。
今にもこけそうな歩き方に、飛影は頭を押さえながら後をついて行った。
「・・・お前程じゃない・・・か?そんな訳ないだろうが」
残った躯は、飛影の後姿を見送った後、そう面白そうに呟いた。
END.