可愛い女の子5









「ねーひえー」
「何だ」

甲板でぼーっとしていた飛影に、が控え目に声を掛ける。
いつもの明るい色が無く、飛影は訝しげに振り向いた。

「あのね・・・お外、いっしょにいって?」
「何だ、また花でも摘みに行くのか」
「んーん、ちがうの」
「?」
「あのね・・・・・・いっしょにきて」

場所を言い辛いらしく、俯きながら頼む
それに首を傾げながらも、1人で行かせる訳にもいかない。
仕方なく重い腰をあげ、を腕に乗せる。

「何処だ」
「あのね、あのね、おっきぃ黄色い実がなる木だよ」
「大きい黄色い実?」
「うん。いっぱいいっぱいなるの」

に言われ、思い当たる場所を探す。
そして一つだけ該当する場所を見つけた。

「・・・黄貝園か」

大きな黄色い実がなる木。
恐らくそれは黄貝樹。
そしてそれが密集している場所を黄貝園と言う。

が指しているのは、恐らくそこだろう。

「・・・掴まっていろ」
「うん・・・」


元気の無いを柄にも無く心配しながら、飛影は要塞を後にした。











「あそこ、あそこ!」
「あぁ」

暫く移動していると、突然が声を上げる。
やはりそこは黄貝園で、飛影は特に反応せずにその場にを下ろした。

「おい、何処へ行く」

降ろした瞬間に走り出したに、飛影は少し慌てて声を掛ける。
だが止まる様子が無く、仕方無しに後をついて行った。


不意にが立ち止まる。


そこには、2つの大きな石。


が両手で持って、やっと持ち上がるくらいの、少し、大きな。


、それは何だ?」
「えへへ。・・・・パパとママ」
「!」


その2つの石は、両親。

つまり、墓。


がすぐ近くにあった茂みから花を2輪摘んで来る。
そしてそれを、1本ずつ石の前に供えた。


暫く流れる沈黙。


少々息苦しくなり、飛影はに声を掛けた。


、その墓は自分で作ったのか?」
「うん。あのね、パパとママが死んじゃってね、ね、おはかつくったの。
いっぱい穴ほってね、それでね、パパとママ、いっしょってね、いれてあげたの」


その小さな手で、何日も掛けて穴を掘り、そこに両親を葬ったらしい。
幼い少女にやらせる仕事にしては、それはあまりに酷だ。

まだ両親に甘えたい盛りの幼女が、冷たい土に親を埋める。

一体、どれだけ心を引き裂かれる思いだったのだろう。


飛影は、苦い思いで眉を顰めた。


「こーやってね、ずーっとここにいたの。
そしたらね、むくろがをつれてってくれたの」
「・・・そうか」


もし躯が見つけなかったら、この場で死んでいただろう。


それを考えると冷たい物が背筋を走り、どうにもぞっとした。







は、石の前にしゃがみ込み、動かない。

小さな両手を握り締めて、何かを堪える様に口元に当てている。


しかし、すぐに立ち上がると、にこにこ笑って飛影に振り向いた。


「ひえー。ありがと。いこ?」


悲しいと言う感情を押し殺し、笑う
飛影に心配を掛けまいとしているのが、痛い程に分かった。

そんなの前に、飛影は膝立ちにしゃがむ。

そして、不思議そうに見ているを、なるべく優しく引き寄せてやった。


「?」
「何を我慢している」


飛影が、呆れた様に言う。

だが、優しい響き。

はキョトンと目を丸くし、飛影の言葉を聞いていた。



「泣いて良い。

親の墓を前にして、悲しいんだろう。

辛いんだろう。

なら我慢する事はない。

辛い時は泣いて良い。

誰も怒らない」



ゆっくりと、にわかる様に言葉を紡ぐ。


暫く黙っていたの顔が、辛そうに歪む。


そして、飛影の肩口に顔を埋め、ぽろぽろと涙を零し始めた。


「ぅぇ・・・っ・・・うっ・・・」


震えてしがみ付くの頭を、あやす様に撫でてやる。
肩に零れる涙は、やけに熱かった。

「どぉしてしんじゃったの・・・パパとママ、どぉして食べられちゃったの・・・?」
「・・・きっと、運が悪かったんだ」
も、いっしょに食べられればよかったよぉ・・・っ」

の悲痛な言葉に、飛影がピクリと反応する。

も食べられてしんじゃえば、パパとママといっしょだったのに・・・」
「・・・
「やだよぉ。パパとママといっしょに、しにたかったよぉ・・・っ」
。良く聞け」

泣きじゃくるに、飛影は少し強い口調で話し掛ける。

「もう二度と死ねば良かったと言うな」
「・・・・ひえー・・・?」
「お前は、親が死んで悲しかっただろう?辛かっただろう?」
「うん・・・」
「なら、もしお前が死んだら、躯だって同じ様に悲しむんだぞ?」
「・・・・・・」
「お前が死んだら躯が泣くぞ?良いのか?」
「・・・やだ・・・」

躯が悲しむと言われ、が辛そうに呟く。

「お前と同じ思いをするんだぞ?嫌だろう?」
「うん・・・やだ・・・」
「なら、死ぬな。お前が死んで、悲しいって思う奴はたくさんいるんだ」
「・・・ひえーも?」
「・・・・ああ」


飛影が頷くと、はまた少し泣いた。







暫く泣いた後に、は飛影に抱かれてまどろんでいた。

沢山涙を零し、疲れたらしい。



「なぁに?」
「もしも親を思い出して悲しくなったら、躯や俺の所にいつでも来い」
「・・・・・・」
「ちゃんと一緒にいてやる」
「・・・・うん、ありがとー・・・・」


いつになく優しい飛影に、は嬉しそうに笑う。


そして、その言葉を暖かい体温に安心したのか、そのままぬるい眠りに落ちて行った。








その後、要塞に戻った飛影とを躯が見つけ、



更にの顔に涙の後が残っているのを見て



飛影が泣かせたと誤解し、いらない騒動が巻き起こった事は・・・



は、未だに知らない。
























END.