※正式エンド『傷華』の後日談です※












あの奇妙な体験から、早3年。



・・・俺は、父になった。











『帰華』











20歳になって、俺は巴と正式に一緒になった。


・・・明治の世から、帰って来て・・・2年後の事。

今から、1年前に。


あの後は大変だった。

4日も何処へ行っていたのかと、親父やジジイに問い出さされて・・・。

今では、笑い話だけど。




でも、やっぱり、アレは夢なんかじゃなく。




俺の左頬には、いまだ、ジクリと疼く十字傷がある。








今日は巴が、病院から帰って来る。


割と大きい病院だったからか、1週間程母子揃って入院していた。


・・・巴は、無事に、男の子を産んだらしい。


2人共健康だと聞き、本当に安心したのを覚えてる。



本当ならすぐにでも病院に行って、巴と子供の顔を見たかったけど・・・



ちょっと色々な事に巻き込まれて、会いに行けなかった。

その代わり、電話は毎日入れたりしていたが。

巴の顔も子供の顔も、俺は未だに見ていない。



健康ならばそれ以上何も望まない・・・んだけど・・・



昨日の電話で、巴の様子がおかしかった。



何か、不安を抱えているような声だった。



・・・何かあったのだろうかと、思わず背筋が震える。













、ただいま」
「・・・・巴?」



ウロウロと縁側を歩いていると、玄関から巴の声が聞こえた。

アレ?巴1人で帰って来たのか?

巴のお袋さんが、迎えに行った筈なのに・・・

いいや、もしかしたらここまで送って、お袋さんは戻ったのかも知れない。




玄関に迎え出てみると、やっぱり巴1人だった。




・・・いいや、巴と、子供の2人。




実際に見てみると、何だか気恥ずかしいと言うか、実感が沸かない。




「・・・お帰り巴。・・・悪かったな、会いに行けなくて」
「ううん。良いの。貴方が無事なら・・・」
「・・・そうか、お疲れ」
「ええ」




巴を部屋に連れ、2人向かい合って座る。




1週間ぶりに顔を合わせて、何だか新鮮な気持ちだった。





「・・・で、その子?」
「ええ。・・・貴方の子よ」
「俺以外の子だったら困るけど」
「もう・・・」


巴が困った様に、それでも、嬉しそうに笑った。


俺も、嬉しい。


幸せとはこう言う事を言うんだろう。





・・・緋村さんは、この幸せを、巴と得られなかったんだ・・・





左頬が、痛んだ。





「・・・・・・・・・・
「・・・どうした?」


巴の表情が、途端に曇る。


・・・不安が、胸を支配した。


「・・・・・・・・その」
「・・・お前、昨日の電話でもおかしかったな。何があった?」
「・・・・・・この子、ね」
「・・・・・うん」



巴が俯く。

腕の中にある、子の顔を見ている。




何だ、どうしたんだ。




まさか、何か病気でもあるのか。

何か、子の身にあったのか。









「・・・・・、この子の顔を、見て欲しいの・・・・・」









巴が、神妙な面持ちで子を俺に渡す。


外の世界に放り出されて、まだ新しい命は、怖いくらいに軽かった。




「・・・・顔?」




巴の言葉に引っ掛かりを覚えて、その通り子の顔を見る。
















背筋が、凍った。
















「・・・・・・・・・コレって・・・・・・・・・」













この子のまだ瑞々しい、左頬に。













十字の、痣。













「・・・・巴・・・・」
「・・・・・その子の髪色がね、赤い茶色なの」




彼を思い出した。




俺の左頬に傷を残した。




俺と同じ傷を持つ




この子と同じ傷を持つ、彼を。




「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」




巴と2人、あまりにあまりな運命に、黙るしか出来なかった。








ねぇ、緋村さん








貴方はいつまで、俺達を縛るんですか。










その、十字の傷痕で。










・・・・」
「・・・・お前は、昔・・・緋村さんの妻だった」
「・・・・・・・・」
「・・・そして、今度は・・・」




怖いと、思った。




運命と言う言葉では、説明のつかない。











恐ろしい、魂の輪廻。











100年前、巴は彼の妻で。


この時代で、俺と一緒になって。


彼は、100年前巴を妻として愛して。





そして、今・・・・その愛した妻の元に・・・・















『怨みや強い念が籠った傷とは、一生消えぬ物』















あの時の緋村さんの言葉が、脳裏に甦った。











「・・・・ねぇ、
「・・・・ん?」
「・・・・その子の名前・・・・まだ、決めていないの」
「・・・・・・ああ、そうだったか」
「ええ・・・・貴方に・・・・聞こうと思って・・・・」



名前。



この子の顔を見るまでは。



この十字傷を見るまでは。



色々な名前を考えていた。



俺の名前から取ろうか。

ジジイや親父の名前から取ろうか。

巴の名前から取ろうか。








でも・・・・・・・もう、良い。









つけなければならない、名前がある。









「・・・・・・巴・・・・・・」
「・・・・わかっているわ。・・・・私は、構わないもの」
「・・・・・・・・・・わかった」



巴がしっかり見返して来た。




その表情は、既にもう、母のソレの様な気がした。





俺は笑い掛けてから、もう一度子供の顔を見る。








その白く柔らかい左頬には、痛々しい程くっきりと


十字の傷痕が刻まれていて・・・・










ふと、思い出す。













貴方は最後に、言いましたよね。
















『・・・・出来ればもう、会いたくは無いでござるな』















でも・・・・・・・・・・・・







・・・・・・また、会っちゃいましたね。
























「お久しぶりです・・・・・・緋村さん」


























次の日、ジジイの筆で書かれた名前が、居間の壁に貼ってあった。











『命名・剣心』











出来れば、2度と呼びたくなかった名前。



けれど、呼ばなくてはならない名前。



俺と巴を戒める、名前。












「・・・宜しくな。・・・・剣心」












・・・左頬の十字傷が、痛んだ。




































END.


そして再び、歯車は動き出す。


さて、これが本当のラストです。
十字傷を刻まれ、彼の影に縛られ。
それでも幸せを求めた主人公と巴に訪れたそれ。
もう何処にも逃げられませんね。

息子『剣心』のお話とかイラストとか、また隙を見て追加したいと思います。
・・・が、想華本編はコレにて完結となります。
今までお付き合い下さった皆様、本当にありがとう御座いました。
宜しければ、あとがきの方にも目を通してやって下さいませ。

それではまた、短編&続編でお会い致しましょう!(普通の更新はやってますが)