彼が私の着物を肌蹴る。
素肌を晒すのには、まだ微かな恥があるけれど。
それでも彼に晒すのならば、悪くはない。
彼は私の肌を、死人の様だと言った。
氷女に良く似合う肌色だと嘲った。
彼の手もそれは冷たい色をしているけれど、綺麗だ。
雪の様な色をしていて、綺麗だ。
私の様に死んだ色はしていない。
彼の指先が私の首筋を撫ぜる。
ゾクリとした何かが私の背を伝った。
彼の指先は、私よりも冷たい。
血の通う様を思わせない、絶対の冷たさ。
彼の指先が私の胸元を撫ぜる。
奇妙な感情が私の底に溢れた。
触れられた場所が熱を持つ。
その熱に、私の呼吸ははしたなく乱れる。
血がゴポリと音を立てながら、私の身体を掻き回す。
彼が私の首筋に顔を寄せる。
彼の血色の髪が鼻先に香る。
けれども香るのは、悲しい雨の匂い。
彼が好きだと言う、雨の匂い。
私はこの香りを感じる度、彼を近くに思う。
彼の鋭い牙が私の皮膚を破る。
耳元に、プチリと弾ける音が届き、私は思わず身悶える。
やたらと鮮烈なその痛み。
首筋に焼ける様な熱が灯る。
しかしそれを与えているのが彼だと思うと、それは酷く甘美に感じた。
彼が私の血液を吸い上げる。
身体の奥から熱が奪い取られていく様な錯覚に陥る。
目の前が急速に暗くなる。
身体の自由が利かなくなって行く。
それでも彼の一部が私の中にあるのだと。
そう思うだけで、心の臓は狂った様に踊るのだ。
彼の牙がズルリと抜ける。
瞬間、ぶるりと震える私の体。
肉の内壁を牙で擦り上げられ、どうしようもない痛みが私を襲う。
けれどそれは、彼の身体が離れていく寂しさよりは辛くない。
彼が私の首筋を舐める。
ポッカリと空いた首筋の穴から、私の血が溢れ出す。
氷の女と呼ばれる私でも、血だけならば暖かい。
その流れ出た紅い血を、彼は丁寧に舐めあげる。
ザラリとした冷たい舌が、私の肌を擦る。
自分でも良く理解の出来ない感情が沸き起こり、彼の身体を掻き抱いた。
彼の腕に抱かれる。
私から血を啜った後は、彼が私を抱き留めてくれる。
この時間が、私は一番好きだった。
氷の様に冷たい彼の肌。
その冷たさを自身の肌で感じるのが、とても好きだった。
月の無い夜に一度だけ、彼が私の血を求める。
彼にこうして触れて貰えるのは、あと一月後。
その時間が、酷くもどかしく感じた。
END.
超短編。
しかも名前変換が無いと言う暴挙。
”彼”で全て済んでしまった。
いや・・・主人公、吸血種族にしたから、食事シーンをと思い・・・
書いてみたんですが話が思い浮かばずこうなってしまった。