カランカラン カランカラン。


軽やかな下駄の音が、静かな街に響き渡る。


それを鳴らすのは、随分幼い1人の少女。


背に大きな得物を背負った、ピョンピョン髪を揺らす、少女。










『鳳梨少女』










頭のてっぺんに、1つチョコンと髪を結わき、ピョコピョコ揺れるそれ。

何とも可愛らしく、目を引くのもわかる。

この少女が通れば、町の者は皆彼女を目で追うのだ。


だが、少女が注目されている訳は、それではない。


彼女が背負う、得体の知れぬ物体。


それはあまりに巨大で、少女の身の丈の倍はある、不恰好な鉄の塊であった。

刀と言うのはあまりに乱暴過ぎて、鉄屑と言うにはあまりに鋭利な。

布に包まれてはいるが、明らかに齢7・8つ程の少女が持つ物では無い。


そして、少女が歩く度に鳴る、軽やかな下駄の音。


カランカラン。と、乾いた音は、彼女の履く漆塗りの一本下駄。


慣れた者でなくては歩けぬ筈の、高い高い一本下駄。

歯は通常よりも、少々長い。

その高い一本下駄を履き、巨大な鉄を背負う、小さな小さな少女。



これが注目されぬ訳が無い。



だがその少女はそんな周囲の視線を介さず、ただただ楽しそうに街中を駆けるだけ。


そしてその不思議な出で立ちをした少女は風の如く消え、皆時の内に忘れてしまうのだ。





彼女は、旅人である。












!」



男性にしては高い声が、1つの名を呼ぶ。


その声に、少女はクルリと振り返った。



「あーっ!十字のにーちゃん!」



そう、彼女も呼び返し、カランカランと彼の元へ駆け寄る。

その際、ドタンと派手に地面へと転げ、を呼んだ彼は慌ててそれに近寄った。


「な、・・・大丈夫でござるか?」
「う、うぅー・・・痛い・・・けど、オイラ泣かないぞ、平気だもん!」


がヒョイッと立ち上がる。

その様子に、彼・・・緋村剣心も、安心したような微笑を見せた。


彼女が転んだ時、彼は手を貸さなかった。


それは別に彼が非情な訳ではなく、手を差し伸べた所で、助けにならない為だ。




彼の力では、彼女の体を支えられない。




その理由は、彼女の重さにある。

いいや、彼女自身ではなく、彼女の背負う鉄が重過ぎるのだ。

剣心がいくら抱えようとしても、重さでビクとも動かない。


それだけの重さがある鉄を背負い、一本下駄で軽やかに走る


その細く小さい体の何処にそんな怪力が眠っているのか、剣心にもわからない。


「おぉ、偉いでござるな」
「オイラ痛いの平気だもーん」
「おろ」


アレだけ重い鉄を背負って転んだのに、彼女はあっけらかんと笑った。

そんな少女に、剣心は苦笑いを浮かべる。


「さ、。明日にはもうここを発つでござるよ」
「おう!」
「宿に戻ったら、ちゃんと荷物を整理するでござる」
「ん!」
「・・・本当にわかったでござるか?」
「わかってらぁい!」


眩しい笑顔を満面に浮かべ、が返事をする。

その反応に一抹の不安を覚えながらも、穏やかな気持ちで彼女の手を取った。



彼女は、剣心と旅をしている。










、次はどんな所に行きたいでござるか?」


宿の一室。

とても静かな場所で、2人は気に入っている。


・・・だが、いくら気に入っていても、明日には発たねばならない。


いつも、それの繰り返しだ。


「んー・・・楽しいトコ!」
「楽しい・・・か、中々難しいでござるな」
「そうかぁー・・・じゃあ、美味しい物があるトコ!」
「美味しい物・・・ここには無かったでござるか?」
「あの婆ちゃんが作ってる団子は美味かった!」

の笑顔に、剣心も笑う。


何故こんな幼い少女が1人で旅をしていたのか、詳しい事は知らない。


ただ、両親を亡くしている事、背負った得物は父の物だと言う事。

そして、1人寂しく、森で蹲っていたと言う事だけ。


彼女は母をコロリで亡くしたと言う。

そう言えば、自分の両親もそうだったと彼女に言ってやったら、彼女はお揃いだと笑っていた。


そんな彼女を放っておけず、剣心は共に旅を続けている。


「では、明日は団子を買ってから行こうか」
「そーする!」
「・・・次も、美味い物があると良いでござるな」
「おぅ!」

はいつも楽しそうだ。
いつも太陽の様な笑顔を浮かべ、幸せそうにしている。
剣心は、それが少々不安に思う事もある。


「んー?」

先程、剣心に言われた通り荷物の整理をしているが、ニコニコしながら顔を向けた。
剣心は、少し顔を逸らす。

「いままで旅をしてきて・・・ずっとここにいたいと、思った場所もあったでござろう?」
「んー・・・あったかも知れないけど、別に何とも思わねーぞ」
「そうでござるか?」
「十字のにーちゃんは、ずっといたいトコがあったのか?」

逆に、問われる。
そうなると、剣心も特に思い当たる場所がなかった。

「・・・いいや、拙者は無いでござるな」
「だろぉ?オイラも、十字のにーちゃんと一緒だ」
「・・・そうか」
「うん!」

自分は良い。
何せこの歳である。腰を据えたいと考えた事もあるが・・・
だが、今まで何度も別れは繰り返し来たし、これからもそうするつもりだ。

だが、この少女はどうだろう。

まだ7・8つだと見える。
彼女自身も、歳は忘れたが、その辺りだと言っていた。
幼く、父や母の愛情を突然失った少女に、これは良いのだろうか。

何が良いのかなんてわからないが、それでも、あまりに環境が変わり過ぎるのも・・・と

剣心は、偶に、頭が熱くなる程考える。



けれどそれは、大体の明るい声によって、遮断されるのだ。



「よぉし!十字のにーちゃん!風呂入ろう!!」
「え?・・・まだ少し早い時間でござるよ」
「明日は出発するんだろぉ?なら、早く風呂入って、飯食って、寝る!」
「・・・そうでござるな」

変わらずニコニコと笑うに、剣心も笑う。
暫くすれば、先程考えていた事が馬鹿らしくもなる。
・・・また数日すれば、考えてしまうのだけれど。


「十字のにーちゃん、オイラが背中流してやるよ!」
「え?」

の言葉に、剣心は考える。

・・・だがまぁ、彼女の場合、いつもの事だ。


すぐに思考を終え、笑いながら腰を上げる。


「・・・では、頼む」
「おう、任せとけ!」


は更に、屈託の無い笑顔を剣心に向けた。











宿がある時は良い。

屋根も布団も、風呂もある。


だがほとんどは森や林の中で夜を明かす為、剣心は心苦しい思いをする事が多い。


こんな幼い少女に野宿を強いるのは、やはり嫌なのだ。

だからこうして宿に泊まった後、彼はの様子を心配する。


・・・自身は、特にどうとも思っていないのだが、


「おりゃ!」
「!?」


うだうだと考えていると、が元気良く体当たりをして来た。

泡塗れになった幼い体が、剣心の背にへばりつく。


何せ幼い少女であるから何とも思わないが・・・


「・・・
「んー?」
「まだお主が幼いから良いが・・・大きくなったら、こう言う事は止すのでござるよ」
「何がぁ?」
「・・・男と風呂に入る物ではないと言う事でござる」
「??オイラとーちゃんが生きてた時は、一緒に入ってたぞー?」
「・・・いや、家族ならば構わぬが・・・」
「じーちゃんも入ったぞ!でもとーちゃんのがデッカイんだ!」
「・・・・・・あえて何がとは聞かぬよ」


折角の風呂なのに、少々疲れた様子で、剣心はガクリと肩を落とした。


「何だよぉ、もう眠いのかぁ?」
「・・・あ、ああ、今日は疲れたから・・・」


訝しげなの声に、取り合えずそう返す。

そして湯を被り、解いたままの緋色の髪をぎゅっとしぼると、を連れて湯船へと浸かった。


「おーし!100まで数えるぞー!」
「おろ、10ではないのでござるな」
「だって、10秒だけ浸かっても意味ないだろー?」
「・・・確かに」

いーち。にーい。と、指を折りながら数えるを、剣心は見る。

彼女はただただ、楽しそうで、幸せそうだ。


「・・・
「はーち・・・ん?」
「ああ、すまんな、邪魔をして」
「別にいーよ。で、何?」
「・・・・・・・・・・」


相変わらず、ニコニコと剣心を見てくる


剣心も、それにつられて、少し笑った。



「・・・次の町も、楽しい所だと良いでござるな」
「おう!」



バシャッ!と、湯を弾きながら腕を振り上げる



剣心は、今は解かれている彼女の黒髪を、そっと撫でた。









彼等は、また、流れる。































END.


また明らかに恋愛に発展しないドリーム。
まぁ20歳差だしね。仕方ない。斎藤×燕より酷い。
このパイナポー少女、結構昔からいました。(私の脳内に)
緋村とは親子と言うか兄妹と言うか相方と言うかコンビと言うか。
何つーんでしょうね。どっちかが動いたら片方も一緒に動く。
みたいなね。ナイスコンビネーション。