リン・・・リリン・・・リン・・・
か細くも少々喧しい。
けれど随分と涼やかな、風の鈴音。
つやりと愛らしい形をしたその硝子細工は、夏を風と共に知らせる。
白い日差しは、眩しく、視界を奪った。
「」
綺麗な声が聞こえる。
汗ばんだ額に張り付く前髪を、柔らかく掻き揚げてくれた日差し色の手。
噎せ返る様な暑さと混ざり合う、甘い香り。
「・・・巴」
「こんな暑い中で、お昼寝?」
「あぁ・・・でも、風、結構来るし」
「そうね」
巴が団扇を俺に向けて扇ぎながら、笑う。
その微笑があまりに綺麗で。
何だか照れ臭いから、ついとソッポを向いてみた。
「・・・?」
「え、あ、いや・・・何でも」
「そう・・・?」
巴が不安そうな声を出す。
悲しませたい訳じゃない。
不安にさせたい訳じゃない。
だから、少し慌てて、また、コロリと寝返りをうった。
「・・・眩しかったんだよ」
半分本当。
巴の笑顔が綺麗過ぎて。
少し、眩しかっただけ。
「あぁ、そうだったの・・・大丈夫?」
巴が少し移動する。
俺に日差しが掛からない様に、影になってくれるらしい。
巴の姿が良く見えない。
それ程に、日の光が強いのだろう。
「・・・馬鹿、お前が暑いだろ」
「平気よ」
「いーから、日陰にいろよ」
「・・・でも」
「あー・・・・俺は平気だから」
強引に、巴を日陰に押し遣る。
ふと巴に顔を向けると、非常に心配そうな視線とぶつかった。
黒い瞳が水面の様に濡れていて、少しドキリとする。
泣かせたか?
いや、まさか。
泣いてはいないだろう。泣くような事は言っていない。
「・・・・何だよ、どうした?」
「え?」
「・・・・・いや、別に」
問うと、巴は首を傾げて返して来た。
何だか聞いた自分が恥ずかしくて、また顔を逸らす。
「・・・、やっぱり、眩しいんでしょう?」
「平気だよ」
「・・・ねぇ、」
「ん?」
顔を見ないで言うと、巴は控え目に、俺の服を引っ張った。
あまりに優しいその仕草は、少し、くすぐったい。
その指につられて見てみると、彼女の膝。
「・・・・?」
「今私がいる所なら、日差しが来ないわ」
「ああ・・・そうだな」
「だから、貴方もこっちに来て?」
「・・・・え、あ、ああ・・・・」
巴に誘われるがまま、体を少し起こして、影へと滑り込む。
ふっ。と、あの白い熱が奪われ、眩暈にも似た感覚を覚えた。
巴の手が、俺の肩に触れる。
そのまま、つい。と、巴の膝へ導かれた。
「・・・暑いぞ、俺がそこで寝たら」
巴の膝を見て、言う。
この時期に、人の体温を押し付けられたら、それは暑い。
しかも巴は着物姿。
見ているだけでも暑いのに、更に。
少し躊躇っていると、巴はまた、綺麗に笑って俺の髪を撫ぜた。
「貴方の熱だもの。構わないわ」
その声と、言葉と、今だ触れる日色の指先が照れ臭くて。
顔が熱いのを日差しの所為にしながら、巴の膝に頭を預ける。
柔らかくて、暖かい。
この夏の昼でも、気にならないその暖かさ。
甘い匂いと、優しい感触と。
それら全てが、心地好い。
「・・・、どう?」
「え?」
「眩しくない・・・?」
「え、あ、ああ・・・平気」
「そう・・・良かった」
嘘。
眩しい。
巴の笑ってる顔が、かなり。
「・・・足、疲れたら、起こせ」
「ええ」
「暑くなっても、起こせよ」
「ええ」
「・・・あと、扇がなくて良いから。手、疲れるだろ」
さっきからずっと、巴は俺に向けて団扇を扇いでいる。
柔らかいその風は、巴の香りも一緒に運んで来た。
「大丈夫」
「・・・疲れたら、やめろよ」
「ええ」
嬉しそうに、巴が笑う。
やっぱりそれは、目に痛いくらい眩しくて・・・
「・・・・寝る」
「ええ、おやすみなさい」
見ていると、酷く心臓が鳴るから、さっさと目を閉じた。
巴が扇ぐ団扇の風が、頬をゆるく包む。
甘い香りが、纏わりつく。
柔らかい感触は、静かな暖かさを持っていて
「・・・巴」
「どうしたの?」
日陰の下の彼女の顔は、やっぱり眩しかった。
「・・・・何でもない、おやすみ」
「ええ・・・ゆっくり休んでね」
リンリン・・・リン・・・
また、風を教える鈴が鳴る。
少し耳に煩いが、それでも涼しい音がする。
必死に夏を知らせるそれが、急に愛しく思えた。
「・・・・暑いな」
「・・・ええ、そうね」
「・・・・夏だな」
「ふふっ・・・そうね、夏ね」
今日は、近年稀な猛暑らしい。
END.
暑くて暑くて干物になった時に書いた。
内容も無く、短い小話。
巴さんと主人公が仲良くしてるのが書きたかった。
そして巴さんが優しいのが書きたかった。
巴さんは優しい綺麗な人だから。
主人公は、いつも照れてる。