あいっっったぁぁ〜・・・・・


ちょ、巴さん・・・今すっげぇ良い具合に入りましたよ。


あ、ちょ、マジ痛ぇ。


・・・でも怪我してる左頬じゃないトコに、巴の愛を感じた。


・・・・・アレ、気のせい?











『想華 拾壱』











「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」


沈黙。
見事な沈黙。
あー・・・うん、どうしよう、コレ。

「い、殿・・・」
「あ、緋村さん・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

しまったぁぁ!!緋村さんも沈黙ぅぅうう!!!
何コレ何?
この空気何?え?俺が原因?うわー・・・。

「・・・・えーと・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

3人揃って沈黙・・・!!!!
どうしよう・・・

巴を見ると、明らかに怒ってる様子。

何でこんな早くに起きてんだよお前ー・・・。
ああ、本当、予想外だよ。
つかどうして緋村さんまで!!?
巴の性格からして、わざわざ起こすなんて事しないだろうし・・・。
・・・緋村さんも偶々起きちゃった?
うっわー。何この偶然が生んだ奇跡。





「今の音は何?」





3人揃って無言で止まってたら、後ろの扉からさっきの高荷さんが出て来た。

多分、巴の渾身ビンタの音が聞こえたんだろうな。
だってアレ、すげぇ良い音したもん。

「あ、高荷さん・・・」
「あら?剣さんに・・・ええと、そちらは・・・?」
「さっき言った、俺の連れです」

紹介しようとすると、巴は少し慌てて頭を下げた。

「初めまして、雪代巴と申します。早朝に騒がしくして、すみません」
「いいえ、良いのよ・・・それにしても、今の音は・・・」
「そ、その・・・」

巴が俯く。
・・・・うん、まぁ・・・・ね。

「いや、ちょっと綺麗にブン殴られまして」
っ」
「?・・・まぁ、外で立ち話も何だわ。どうぞ」

照れる巴の手を強引に引いて、再び診療所内に突入。


・・・アレ?やっぱ、緋村さんの視線、怖い?


・・・・・うーん・・・・・気のせい、かなぁ。










「そう、お2人は京都から・・・」


高荷さんに冷やした布を貰って、頬に当てる。
あはは・・・別にそんな大袈裟なモンじゃないんだけど・・・

「ええ、まぁ」
「あ、あの・・・・・・」
「ん?」

京都から旅なんてしてませんが・・・とこっそり思っていると、ついっと袖が引かれる。
見ると、巴が申し訳無さそうに俺を見てた。

「ごめんなさい。強く叩いてしまって・・・」
「ああ、別に。いつもの事だろ?」
「も、もう!」

からかった様に言ったら、また照れて俯いてしまった。
あー・・・可愛い。
って俺!何考えてんの俺!!
こっちの世界に来ちゃってから俺やたらと素直だよ!?
・・・いや、いつも素直なつもりですがね。

殿、どうしてこんな早朝に?」
「え、えっと・・・そのー・・・」

緋村さんの声に、ちょっとビビる。


だってさぁ、声が何か冷たいんだもんよ!!!


俺何かしましたか!?俺何かしましたか!!?

「さ、散歩に・・・」
「・・・殿、巴に心配を掛けるのは、良く無いでござるよ」
「は、はい、すんません・・・」

何か説教されてしまった・・・。
いや、でも、確かに巴に心配ばっか掛けちゃあ、ダメだよな・・・。
うん、気をつけよう。

「あら、剣さんたら、巴さんには殿をつけないんですね」
「え?あ、ああ・・・まぁ、呼び易くて・・・」

高荷さんが驚いた様子で言う。
そうなんだよな、緋村さん、巴だけ呼び捨てなんだよな。
相楽君とか弥彦君は呼び捨てだけど、男だし。
んー・・・何でだろう。

つか、緋村さん、巴が自己紹介する前に名前呼んでたよなぁ・・・。

・・・・??

「でも、・・・私を起こしてくれれば良かったのに・・・」
「馬鹿、こんな早くに起こせる訳ねーだろ」
「目覚めた時、貴方がいないより余程良いわ」
「・・・・何か、気が引けるっつーか・・・・てか何でお前こんな時間に起きたんだよ」

いつも寝てるのに。
だって相当早ぇよ。太陽まだ少ししか昇ってねーよ。

「何となく・・・・貴方がいなかったからかしら」
「・・・・・あ、そ」

何この子恥ずかしい!照れるよ俺!!
ちょっとクールに返してみたけど、内心ドキドキだよ!!

「うふふ、仲が良いのね」
「へ?!え、ああ、えっと、コイツ俺の許婚なんですよ、だからまぁ・・・」
「あら、そうだったの?へぇ・・・」

高荷さんが楽しそうに見て来る。
うん、許婚です。
何でこんな美人で良い子が許婚なんだろうね。

「・・・・・・・」

あ、あれ?
また緋村さんの視線が突き刺さってるよ!?
や、やっぱアレか?
緋村さん、巴に惚れたのか?
えー・・・それはちょっと困るなー・・・

「ねぇ、ちょっと・・・話したい事があるの」
「ん?・・・ああ、じゃ、戻るか」
「あ、ちょっと待って」
「「?」」

巴の言葉に立ち上がろうとした時、高荷さんが慌てた様子で制止した。

ん?何だ?



「剣さん・・・ちょっと、良いですか?」



あ、何だ、俺等じゃなくて緋村さんにか。

「どうしたでござるか?」
「ええ、少し・・・」

何か訳ありっぽい。
んー・・・俺らがいる空気じゃねーな。

「あ、じゃー俺等、外で待ってますから」
「ごめんなさいね」
「すまんでござる」

いいえー。とか言って、巴と玄関の外に出る。


何だろ、ちょっと気になるな・・・。












カラカラ。と戸を閉めて、巴と静かに待つ。


「・・・巴」
「?」
「悪かったよ、心配掛けて」

素直に謝罪。
やっぱ、心配掛けたのは事実だしなぁ・・・。

「いいの。私も、叩いたりしてごめんなさい」
「いつもの事だろ」
っ」
「悪い悪い」

意外と巴って手ぇ出るし。
いや、俺が悪いんだけどね!

「あー・・・・で、話したい事って?」
「・・・・・実はね」
「ん」

ちょっと診療所内まで聞こえちゃうかなーとか思ったけど・・・
まぁ、緋村さん達の声も聞こえねーし、平気だろ。

「緋村さん、何だか私達の事を・・・訝しんでいる様な・・・」
「・・・・バレかかってる?」

いやでも、未来から来たなんて当てられる人いねーだろ。
エスパーだよエスパー。

「でも、私達が何処から来たと言うのを、気にしているみたいで・・・」
「アレじゃねぇ?突然旅してまーす。とか言う奴等が来たから、警戒してんじゃねぇか?」
「・・・そうだと思うんだけど・・・でも、やっぱり、1人くらい、事実を知って貰った方が・・・」
「・・・・・・まぁ、確かになー」

今が正確に何年かも知りたいし。
協力者がいなくちゃ、中々難しそうだ。
・・・でもさー・・・

「・・・信じて貰えるか?」

コレが一番問題だよ。
例えば俺の目の前に知らない奴が現れてさぁ

『私は未来から来ました。ココは何処ですか?』

とか聞かれたら取り敢えず病院連れてくもん。それか交番。
多分緋村さんも、俺が突然そんな事言い出したら診療所連れてくと思う。

「・・・、緋村さんが・・・私の話なら信じてくれる・・・・って・・・・」
「え?」
「そう、言っていたの」
「・・・緋村さんが?お前の話を?」
「・・・ええ」


コレは決定的・・・!!!


やばいって、絶対緋村さん巴に惚れたって!!
えっ、俺、こう言う場合にはどう出るべきですか・・・!?
・・・いや、まぁ、どうもしないけど・・・
だって何をどうしろって!?

「・・・・そう、か」
「・・・ええ・・・本当に、信じてくれるのかしら・・・」
「・・・・多分・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・言うとしたら、緋村さんだよ、なぁ・・・・・」
「・・・ええ」

んー・・・コレはどうしたモンか。

巴の話なら信じる・・・か。
信じて貰えて、その後は?
協力してくれっかな・・・してくれると思うけど。

つか巴の話ならって事は、俺が言ったら信じてくれないんだろうか。
・・・それは悲しい・・・。

「?・・・?」
「へ?ああ、いやいや何でも・・・でも・・・どうする?」
「・・・少し、悩んでるの」
「・・・・今日一日様子見て・・・・それから決めるか」
「・・・・・・そうね」
「多分緋村さんなら・・・大丈夫だと思うんだけど・・・」
「・・・・ええ」


多分、巴が信じて下さい!って言えば・・・信じてくれるんだろう。

本当に信用してくれなくても、一応協力してくれるなら、嬉しい。



けど・・・・



「・・・どうしたの?
「・・・・いや、何でもない」
「・・・・・・無理はしないで」
「・・・ありがとう」


巴の手が、俺の手を握る。


でも。


何だか・・・


「巴・・・」
「?」
「・・・・傍に、いてくれよ」
「どうしたの、急に・・・私はいつも、貴方の傍にいるのに」
「・・・悪い。何でもねぇよ」
「・・・・・・?」


俺等が未来から来たって、緋村さんに言ったら。


俺等がここの世界の人間じゃないって、言ってしまったら。





何かが、戻れなくなる様な気がする。





嫌な予感がする。





、顔色が悪いわ・・・お願い、何か思う事があるなら、言って?」
「・・・・・嫌な予感がするだけだ」
「嫌な予感?」
「・・・わからないけど・・・お前が、いなくなる様な気がして・・・」
「・・・・そんな事無いわ。ずっと、貴方の傍にいるもの」
「・・・ああ」


巴の手に、力が籠る。

不安にさせてしまったんだろう。


「・・・ごめん」
「ううん。・・・も、私から離れないで・・・1人にしないで」
「・・・わかってる。もし何かあったら、お前に言うから」
「・・・ええ」


俺も、少し強く、巴の手を握り返す。






でも、やっぱり






嫌な予感だけは、色濃く、俺の背筋を撫でた。





































NEXT


主人公の嫌な勘。
でも、どんな場合でも、嫌な勘とは大抵当たるもので・・・。