相変わらず、川は綺麗に流れてる。


何だったら、今の俺のこの心も、全部流してくれれば良い。


俺の心を映す様に、空の色も灰色へと染め上げられて来た。


・・・・・・・俺が泣いた時、空も泣くのだろうか。











『想華 廿壱』











さっきの緋村さんの話し。


きっと、事実なんだろう。




巴の前世は、緋村さんの・・・・・・




・・・・・・緋村さん、どうして。


・・・・・・・・どうして俺に、話したんですか。




いいや、理由なんかわかってる。




宣戦布告・・・とか言う奴だろう。




でも、緋村さんの話しだと、巴は前世と姿が変わってないらしい。

名前すらも・・・同じ。




緋村さんに、焦がれるなと言うのも無理な話だ。




人生を変える程に愛した人が。

自らの手で奪ってしまった人が。




突然、また、目の前に現れたんだ。




・・・・・・焦がれるに決まってる。


・・・・・・・・・・巴を見ている時の緋村さんは、凄く幸せそうだし。




・・・・・・・・・・・・・・・・




・・・・・俺は、どうすりゃあ良いんだ。






緋村さんの苦痛を想像すると・・・・


再び愛した人に回り逢った時の気持ちを考えると・・・






俺、邪魔?






実際さぁ、巴は緋村さんの奥さんだった訳で・・・・

出逢いで言ったら、俺のが後な訳だし・・・



・・・・俺、本当どうすりゃ良いんだよ・・・・






『お巡りさん!!こっちだ!!』
『何事だ!!』
『大変だ!!兄ちゃんが倒れてるぞ!!!』






〜〜〜っでぇぇえい!!!


人がシリアスに考え事してる最中に煩せぇなぁチクショウ!!!

ちょっと黙ってろっての!!!

俺今巴と緋村さんの事で頭いっぱいなんだよ!!!



・・・・・あー・・・・・



・・・・ホント、どうするべきか・・・・











!!!」











え?


「・・・・・・・・・巴?」
!!」


声がした方を見てみると、巴が蒼い顔でこっちへ走って来てた。

おいおいおい、大丈夫か。


・・・良かった・・・」
「な、何だよ、ンな息切らせて・・・」

ハァハァ言ってるし。
着物姿で走ったのか?
道場からここまで!?

「だ、だって・・・・乱闘騒ぎが起きたって・・・・」
「え?あ、ああ、何か向こうで騒いでたけど・・・・
 ・・・・何だよ、俺が騒いでると思ったのかぁ?」

信用ねーな本当。
・・・・いやまぁ、昨日とかも喧嘩しちゃったけどさ・・・・

「・・・もしかしたら、巻き込まれてるんじゃないかと思って・・・」
「んで、走って来たのか?ったく馬鹿だなぁ」
「・・・心配、だったから・・・」



巴が、息の荒いまま、俺を見上げて微笑む。






『打ち解けると微笑みを見せてくれる優しい人だった』






「もし、怪我でもしていたら、どうしようかと・・・」






巴の黒い髪が、少し乱れている。






『とても美しい黒髪をしていた』






「そう思ったら・・・いても立ってもいられなくなって・・・・」






クスリと小首を傾げて笑うと、綺麗な良い香りがした。






『白梅香の香りを漂わせる、本当に美しい人だった』






「・・・っ」



巴の顔を見る度に、緋村さんの言葉が脳裏に響いた。



・・・・それが怖くて、思わず目を逸らす。



「・・・・・・?」



巴の不安そうな声が、突き刺さる。

そんな声しないでくれ。

・・・・今は、お前の顔を見たくないんだ。


、どうしたの・・・?」
「・・・・・・・・」
「お願い・・・こっちを向いて・・・」


クイと服を引かれるが、見ない。

見られない。見たくない。



見たらまた・・・・緋村さんの言葉が浮かびそうで。



・・・・・・緋村さんに、何か言われたの?」
「っ」



思わず、肩が揺れた。



「・・・そうなのね・・・お願い、何を言われたの?教えて・・・」
「・・・・・・何でもない」
「嘘を言わないで。・・・・・・貴方は今、とても傷ついているんでしょう?」
「・・・・・・・・・・・」
「お願い・・・・・・・・教えて」


巴が、俺の背に手を添える。


声が震えているのは、泣いているからだろうか。





泣くなよ。巴。





「・・・・・・・・・教えて、くれないのね」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・それじゃあ、私が聞いてくるわ」
「っ馬鹿、よせ!」


巴の言葉に、思わず弾かれた様に振り向いた。


巴の顔は、真剣で・・・



真剣で、綺麗で・・・・






『俺は、今でも彼女の事を愛している』






クソッ・・・ダメだ・・・・






「・・・・・・・・・」
っ・・・」
「ダメだ、聞くな」
「どうして・・・どうして・・・・?」
「緋村さんの話を聞いたら・・・・・聞いたら・・・・・お前は・・・・・」






巴は?






緋村さんの所へ・・・・・・・・行ってしまう?






「・・・?」
「・・・・・やめておけ。お前の方が、傷つくぞ」
「それでも良い」
「やめろって」
「貴方が受けた傷を私も受けられるのなら、どれ程辛くても構わないわ」
「・・・・・・・・巴」


どうして、こんな良い子が俺の所にいるんだろう。



初めから、巴に会わなければ。



・・・・・・・・・・・・・俺は










「おう、巴にじゃねぇか」










唇を噛み締めた時、不意に誰かの声が聞こえた。



巴と揃って見ると、そこには相楽君の姿。




「あ、ああ・・・相楽君・・・」
「どうしたんでぇ、こんな所でよ」
「相楽君こそ・・・どうしたの?」
「いや、俺ぁちょっくらそこで暴れてたんだよ」
「・・・・もしかして、あの乱闘騒ぎ・・・・」


あぁ、どうりで汚れている訳だ。

さっきの騒ぎに、関わってたんだろう。


「それより、どうしたんだよ。・・・・おい」
「あはは、別に。・・・・それより相楽君、ちょっと頼まれてくれる?」
「?おう」


無理に笑って、未だに俺の背に手を添えてる巴を、グイと相楽君の方へ押す。


「えっ・・・」
「巴を、道場まで送ってやってくれる?」
・・・?」
「俺ぁ構わねーけど・・・どうしたんだよ」
「・・・・・・・・・・・・ちょっとね」
「・・・何か、訳ありみてぇだな・・・」


相楽君は無理に追及して来なかった。


追求された所で素直に答えられる訳でも無いし、ありがたい。



「・・・・俺はちょっと、頭冷やしてるからさ」
「・・・・・おう、わかった」
「ごめん。ありがとう」
・・・、どうして・・・!?」



巴が俺に縋る様な声を上げる。



振り向いて、訳を話してやりたい。





でも。





「ごめん、巴・・・・今は、お前の顔を見たくない・・・・見られない」
っ・・・・・・・・お願い、こっちを見て・・・っ」
「・・・・・・・・悪い」
っ!!!」






巴の泣きそうな声を聞きたくなくて、地を蹴る。



巴の声から。


巴の気配から。


巴の香りから。





逃げる様に。







一際大きな巴の叫びが聞こえ、耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。







ダメだ。



巴と話し合える勇気が無い。



緋村さんに、未来から来たと言う事を言う時も、緊張したけど・・・






今回は、下手したら・・・・






巴を、失う事になる。










嫌な予感は、当たった。



巴がいなくなる様な気がすると、自分自身の考えが。












ポツリ












と、頭に何かが落ちる。



空を見上げてみると、その灰色の雲からは、透明な雫が降り注いでいた。




それは見る見る内に、激しく、酷く。




先程俺の心が曇った時、空も曇った。




ではその空が泣いた今、俺自身も気付かぬ内に泣いているのだろうか。







試しに眼に手を当てたが、ただただ冷たい雨が流れ込んで来るだけだった。












っ!!!』












その代わりに




巴の泣いた顔が






脳裏に、霞んで見えた気がした。




































NEXT


Q.緋村の話を聞いた主人公が取った行動は?
A.巴さんを突き放す。

主人公ジャストモーメント!!!その選択間違ってる!!!
巴さん完全トバッチリです。可哀想だ。男どもに振り回されて・・・。
主人公の事しか見てないのに、その男に突き放された巴さん。
ダメだなこの男ども!!!
しかし主人公、一体どうやって自己満足的なネガティブ思考から抜け出すんだろうか。