さぁてと、誤解を解かねば・・・。
いや、それよりも、泣き止ませねば。
好きな子の泣き顔を見るのは、やっぱり堪えるし。
『想華 漆』
思わず巴の肩をぐわっと抱いて走って来てしまったが・・・驚いたろうな、緋村さんと薫さん。
すんません、すぐに戻るんで。
「えーっとだな・・・訳っつーのは・・・昼に行った赤べこに、燕ちゃんて子いたの、覚えてるか?」
俺が聞いたら、巴が俯いたまま頷いた。
それと同時に、涙が零れ落ちる。
・・・ごめん巴、マジ、泣かすつもりじゃなかったんですよ・・・。
「その子がさ・・・ガラ悪い奴等に絡まれててさぁ・・・そんでこう、助けに・・・」
「・・・それで、怪我したの・・・」
「そー。だから、別に俺が何かしたって訳じゃなくて・・・あー、でも、まぁ怪我しちまったし・・・悪かった」
謝ったら、巴が首を横に振った。
でも泣き止む気配はなくて、俺はじっと待つ。
照れ臭いけど、頭撫でたり肩に手ぇ置いたりして・・・慰めてみた。
「・・・、ごめんなさい・・・私、突然泣いて・・・女の子を助けただけだったのに・・・」
「いーって。俺もごめんな、巴が心配してるってわかってんのにさ」
「・・・・」
巴はまた首振って、今度は俺にしがみ付いて来た。
突然の事にちょっとパニくったけど、何とか落ち着いて・・・ちょっと抱き締めてみたりして・・・!
うわっ!俺ってばちょっと大胆じゃない!?
だってさぁ、ここ俺ん家じゃなくて人の家だからね!しかも昔の人の!!
どうしちゃったの俺!ぎゃーっ!今更ちょっと恥ずいよ俺!
・・・あ、良い匂い・・・
って俺は変態ですか!!?
違います断じて違います変態じゃありません決して、決して!!!
「・・・」
「・・・巴・・・」
って何見つめ合っちゃってんの俺等!!
しかも何か名前とか呼んじゃったしねお互い!もーマジ恥ずい!!
「・・・・・」
「えっ・・・」
いやあの、え?巴さん?何で目ぇ瞑ってんの・・・??
あ。これはもしや、うん、もしかして、いや、もしかしなくてもさぁ・・・
「・・・・良いの?」
「・・・うん」
キキキ、キッ・・・いやちょ、俺純情だからそんなん言えないよ馬鹿っ!!
アレだよ、この時代的に言うと接吻だよ!!うわ言っちゃった!!!
「・・・・・」
「・・・・・」
や、やばい。手ぇ震えて来た・・・。
落ち着け俺!!落ち着いて、顔ゆっくり近づけて・・・
!!!!!
ガバァッ!!と、もー少しでくっつきそうだった巴から急いで離れる。
あ、危ねぇ危ねぇ・・・。
「い、・・・?」
「い・・・・いやぁ・・・・あははは・・・・」
驚いてる巴に笑って誤魔化し、耳元でボソリと教えてやる。
(あそこの影。弥彦君と相楽君がいる)
「えっ・・・!?」
(隠れてるけど、もー気配でバレバレ)
うん、ホントにバレバレだよお2人さん。
人の色恋沙汰が気になるのは分かるけど、気配は消そーね。
いや、無理か。うん。
「さぁ巴!緋村さんと薫さんトコに戻ろーではないか!」
「え、ええ・・・」
ちょっと残念そーな巴。
俺だって残念だよ!!良い雰囲気だったのにさーっ!!
ま・・・良いか。
今度しよ・・・って、やっぱ俺恥ずいよ今日!!ちょっと、どーしちゃった!?
・・・うん、でも残念だからちょっと制裁。
「えー、そこのお2人さん?覗く時は気配を消しといたほーが良いぞー?」
俺が言ったら、ガタガタッと物音がした。
多分バレてビビったんだろうな。
・・・だからバレバレなんだって!最初から!!
・・・ま、良いけど。
「えー、お騒がせしました」
「ごめんなさい。突然泣いたりして・・・」
「良いのよ!突然怪我して帰って来たら、誰だって動転するわ!」
緋村さんと薫さんのいる部屋に戻って、事情を説明する。
ま、何とか一件落着・・・ふぅ。
「それにしても、さんたら無茶するわね。刃物相手にそんな・・・」
「でも、やっぱ見ちゃった以上見て見ぬ振りとか無理だし」
「そうだけど・・・」
「まぁまぁ、無事だったんだから良いじゃないすか」
納得いかなそうな薫さんを無理矢理納得させ。(出来てないけど)
あははと笑えば何とかその場が有耶無耶になった。うん、オッケ。
「それじゃあ、明日のお昼は赤べこに行くのね?」
「あ、はい。どーする?巴も来るか?」
「ええ、また喧嘩なんかされたら堪らないもの」
「し、しねーよ」
「うふふ、どうだか」
「信用ねーなぁ・・・」
まぁ、信用もクソも・・・今日喧嘩して来たってのな。
そりゃ疑うわ。うん、ごめん。
「あらやだ、そろそろお夕飯の準備しなくちゃ」
「あ、でしたらお手伝い致します」
「そんな、お客様に・・・悪いわ」
「良いんです、今日泊めて頂くんですから・・・お礼と言っては失礼ですが」
「う〜ん・・・そーぉ?それじゃあ、お願いしますね」
「はい。それじゃあ、大人しくしていてね」
「ばっ・・・お前ホント、良い性格してきたな・・・」
「うふふ」
俺の反応に笑うと、巴と薫さんは一緒に部屋を出て行った。
ったく、何が大人しくしててね、だよ!!
大体緋村さんと2人で何騒げって・・・・・・って・・・・・・・あ。
・・・・今、緋村さんと、2人きり・・・・!!?
やばい、怖い。
だってさ、さっきから何だか睨まれたり(?)してるし・・・。
俺マジ何かしたのかなぁ、それともやっぱ気のせい・・・??
つか気のせいでも何でも話す事ねーよ・・・。
「・・・・・殿」
「は、はい!」
うぉう。緋村さんから話し掛けて来た・・・!!
どぉしよ、マジ緊張!
「殿と巴は、何処から来たのでござるか?」
あれ、巴って呼んでんだ。
ふーん・・・薫さんは殿つけなのになぁ・・・。
ま、良いか。
「え・・・っと・・・何処からって言われると・・・答え難いんですけど・・・」
「?答え難い?」
「あ、は、はい・・・あのぉ・・・えー・・・ち、ちょっと遠い所です」
「遠い・・・」
な、何て答えれば良いんだよーっ!!!
・・・ち、地名だけ言ってもバレないかなぁ・・・。
何つーんだろ。東京に住んでたけど、今は京都です。みたいな。
うーん・・・ガキの頃東京で10歳ン時に・・・いや、そこまで詳しく言わなくても良いか。
アレ?東京とか京都ってこの時代存在してるのかな?まぁ、してるよな、多分。
「えーっと・・・元々東京だったんスけど、今は京都に住んでます」
「!」
「そ、それで・・・京都、から、その・・・まぁ、旅を・・・」
してないけど。
うん、ホントね。すんません。騙してすんません。
「・・・では、今日東京を訪れたのは、里帰りの意もあったのでござるか?」
「え!?え、ええ、ま、まぁ・・・」
え?何、え?ここ東京なの!!?
・・・えーーー!!?し、知らなかったよーーー・・・。
そ、そっかぁ・・・ここ東京かぁ・・・・やっべ。
「でで、でも、やっぱ暫く経つと街の景観とかガラっと変わりますねー!」
「そうでござるな」
だから知らない場所ばっかでも納得してやって下さい。
うん。やっべー・・・余計な事言わなけりゃ良かった。
ホント、京都に住んでますだけで良かったじゃん俺!!
「京都・・・か」
「は、はい」
な、なんだろ、緋村さんがしんみりしちゃった。
話題変えないとなぁ・・・しかし話題がないと言うこの状況。
ど、どーしよ・・・巴ー、マジ戻って来てー・・・。
「殿と巴は、確か長い付き合いなのでござったな」
「あ、はい。もー14年です」
本当長いよなー。14年だぜ14年。
4歳ン時が初対面だったし。
あ、そー言えば・・・
「緋村さんと薫さんて、えーと、恋人同士とかなんですか?」
「え?」
って俺何聞いてんの!?
い、良いじゃん別に恋人であろうと無かろうとさぁ!!
「いいや、違うでござるよ」
「え、あ、そーなんですか」
「拙者の想っている人は・・・・」
「え?」
「・・・いや、何でもないでござるよ」
「そ、そーすか・・・」
何だろ、他に好きな人いんのかな。
まぁ、詮索するもんでもねーし・・・良いか。
誰が誰を好きになろうと、自由だしな。
「殿」
「はい?」
「もし差し支えなければ、殿と巴の話を聞かせてくれはせんか?」
「え?お、俺と巴の?」
「差し支えなければ」
「は、はぁ・・・良いですけど・・・面白くないですよ?」
「それでも」
「そ、そー・・・れなら」
な、何だろう・・・俺と巴の話?
ンなの聞いて楽しいのかなぁ・・・楽しくないと思うけど。
まぁ、聞きたいんなら・・・話そうかな。
「えーっと・・・俺と巴が初めて会ったのは4歳の時で・・・お互い東京に住んでました。
許婚だって言われたけど、その時は意味わかんなくて、あー、この子と結婚するんだーみたいな・・・。
巴、ずーっと無表情で無口だったから、怖かったなー・・・なんて。
・・・で、そのー・・・まぁ、一緒にいる内に段々相手の事わかって来て・・・。
ホントはすごく優しくって、良く喋って笑う子で・・・人の事考えてあげられる女の子なんだって。
巴、ホントは弟が生まれる筈だったんスけど、巴が9歳ん時におばさんが流産しちゃって・・・
落ち込んでた時とか、一日中、便所我慢してまで一緒にいたりして・・・あはは。
えーと・・・んで、10歳の時に事情で一緒に京都に住む事になって・・・そのまま、今も・・・。
・・・・んで、まぁ、色々喧嘩したりとか、許婚取り消しにされそうな事もあったりして大変で・・・・
でも、2人で何とか乗り越えて来られて・・・・・本当、一番大事な人だなーなんて・・・・」
・・・・・・って、俺何惚気てんの!!!?
あれ?俺と巴の話ししよーと思ってたのに、いつのまにか惚気に・・・!!
あああ、すんません!こんなん聞いてても楽しくもクソもないですよね!!!
「ひ、緋村さん?」
「え?ああ・・・すまない、つい話しに聞き入っていた」
「え?あ、あの、聞いてて楽しいですか?こんなの・・・」
「勿論」
ど、どの辺に楽しさを見出したんだろう・・・。
謎だ。いや、楽しんで貰えたなら良いんだけど。
「巴は」
「え?」
「巴は・・・良い子なのでござるな」
「あ、はい、かなり」
「・・・そうか・・・」
??
何だろ。緋村さんちょっと変・・・?
いや、何つーか・・・何か考えてる??
「最初は、無表情だったのでござろう?」
「はい、もー無表情で話しかけても返事しか返って来ねーし・・・怖かったかなー、最初は」
「あはは、それは怖いでござるな」
「そーですよね〜。ずーっと黙って座ってるんですもん、ガキの頃は怖いですよ」
「・・・しかし、打ち解けると優しいのでござるな」
「はい。良く笑ってくれるし・・・すごく優しいから・・・料理も作ってくれるし。気配り上手だし」
「そうでござるか・・・」
緋村さんの表情は穏やか。
良かったー、俺睨まれてないよ!
やっぱアレは具合悪くて機嫌が悪かったか、俺の思い過ごしだな!!
うん、ホント良かった〜・・・
なぁんて、あんまり浮かれ過ぎていたから・・・・
「変わっていないな・・・巴は」
緋村さんが何を呟いたのか、俺は聞き取る事が出来なかった。
NEXT
ちゃんと聞いとけよ!!(主人公への突っ込み)