あー、清々しい朝だ。まだ太陽ちゃんと昇ってねーけど。


何つーの。白んだ空と古き良き時代の建物のコントラストが良いね。


・・・この時代でコントラストとか言っちゃったら、それ何処の言葉?


とか聞かれんのかなぁ・・・。











『想華 玖』











結局、昨日は巴と話し合ったけど、結論は出なかった。

緋村さんになら、話しても良いんじゃないか。

いや、話さない方が良いのかも知れない。

緋村さんに話して、何か良い方向に行くかな?

その前に、未来から来たなんて信じて貰えるかな?



ずっとそんな会話ばっか。



疲れて寝ちゃったんだけどね・・・。

だってさぁ、ホラ、次の日朝寝坊とか出来ねーし!!


・・・いや、別に寝坊しても良いんだけどさ・・・


巴が起きねー内に、パッと探してパッと帰らないと・・・ね。


え?何をって?そりゃあ、勿論、元に戻る方法。


昨日は結局巴に阻止されて、戻る方法探せなかったし。
ちょっとぐれー外出たって・・・良いよな?
ちゃんと巴の枕元に置き手紙残して来たし!!



・・・・帰ったら、殴られるかなぁ・・・・。













んー、昨日は確かこの辺りにいたんだよなぁ・・・・

・・・・・夢オチとか期待したけど、やっぱ、うん・・・・無駄だったしね。


さて、と・・・昨日はどう言う状況だったっけ?


確か・・・今日は休みだから、一緒に出掛けよう。とか言う話になって・・・・・

プラプラ散歩してて・・・何となく山の方行ったんだよな。

冬になると、雪化粧してマジ綺麗で・・・突っ立ってると、雪が頭に積もるくらい。

最近はそこまでの道も、ちゃんと舗装されて、お年寄りの散歩コースになってるし。

ちょっと開けた、何も無い広場みたいな空間が良いんだよなぁ。木々に囲まれてさぁ・・・


・・・って、そうじゃなくて!!


・・・・で、その開けた場所に着いて、ぼーっとしてたら・・・・






そうだ・・・






雪。

雪が降ったんだよ、時期外れな。

一瞬鳥の糞かなとか思ったけど、足元に落ちて・・・溶けて・・・


それを目で追って、地面から視線を上げたら、もう、この世界。


本当に一瞬。

・・・けど、特別な事なんて何もして無いのに。

山に雪・・・何か、関係があるのか・・・?





ブーン・・・・





うおっ、小蝿!?
ひ、人の周りをブンブン飛びやがって・・・

げっ、頬についた!?

こ、このっ・・・・




ベシッ




「〜〜〜〜っいっ・・・ってぇぇっ・・・・」


しまった!昨日怪我したトコだった・・・!!!!!

痛い、痛いってコレ!!昨日切られた時より痛い!!

ホラ、アレだよ。階段から落ちて頭打つより、角に小指ぶつける方が痛いじゃん・・・!?

ああぁぁ・・・マジ、痛ぇ・・・!!




「ちょっと貴方、大丈夫?」
「え?」




あ、すみません道端でしゃがんじゃって・・・と。

あ?女の人?

・・・こんな時間に?


「え、あ、す、すみません・・・平気っす」
「頬がどうかしたの?・・・ちょっと!ガーゼに血が滲んでるじゃないの」
「へ?・・・あ、叩いちゃったから・・・」

自分じゃ見えないけど、ガーゼに血が染みてるらしい。
あっちゃー・・・傷が開いたか。

「菌が入ったら大変よ、ちょっといらっしゃい」
「え?え、ど、何処に?」
「あぁ・・・私は医者をやってるの。近くに診療所があるから」
「は、はぁ・・・すんません」

ってか、お医者さんが何でこんな朝早くに?

・・・まぁ、良いか。














「さ、コレで良いわ。それにしても、深く切ったのね・・・」
「え、ええ・・・まぁ・・・あ。わざわざありがとう御座いました、えっと・・・」
「ああ、申し遅れたわね、私は高荷恵、この診療所に勤めているの」
「高荷さん・・・どうも、俺はです」
「そう・・・それにしても貴方、こんな時間に何をしていたの?」
「え?えーっと・・・」

元の世界に戻る手掛かりを探してました!

・・・こりゃあ、怪我だけじゃなくて頭まで診察されちゃうね、危ない危ない。

「早く目が覚めちゃったんで、早朝の散歩に・・・」
「あら、そうだったの」

嘘つくのが上手くなって来たね俺。
しかし巴にだけは未だに嘘が吐けない。
惚れた弱みか。うん。

「えーっと、高荷さんは・・・?」
「私は、急診の帰りだったのよ。発作が起きたと訪ねて来た方がいらしたから」
「あー、そうだったんですか」

お医者さんて大変だなぁ。
まぁ、それは現代でも変わらないけどね。



「そう言えば、貴方この辺りじゃ見ない顔ね。着物も珍しいし・・・」
「え?あ、ああ・・・実は旅をしてて・・・昨日、ここに」
「旅?お1人で?」
「い、いえ、連れがいます」

その連れは多分まだ寝てると思います。
起きたら殴られると思うので起きる前に帰りたいです。

「ああ、そうなの」
「え、ええ・・・まぁ、今はご好意で神谷道場ってトコに泊まらせて貰ったんですけど」
「え?・・・あら、そこ、私の知り合いの所なのよ」
「そーなんですか?へぇー」

意外。
まぁ、でも、あんだけデカイ道場だしなぁ。
知り合いいてもおかしく無いよな。
俺ン家だって、近所の人達は大体知ってるし。

「あら?それじゃあ、お連れさんは道場に?」
「え、ああ、多分まだ寝てると思いますけど・・・」

うん、起きてないよ、な?
・・・・いや、多分だけど。
起きてたらどうしようかなぁー・・・。
泣かれるのは覚悟だな。後は殴られるかな。
アイツはああ見えて意外と手が出たりする。

・・・俺に限定だけど。

つか俺以外に手ぇ上げたりしたらヤベェよ。
巴さんは優しい子だからね。・・・俺には厳しいが。
いやまぁ、俺が心配掛ける様な事ばっかしてっからいけないんだけどさ・・・。
・・・ごめんよ巴。

「?どうしたの?」
「え?あ、いや、何でも」

すみませんちょっと考え事を・・・。

・・・・・・考え事してる場合じゃねぇんだよ!!

とっとと戻らねぇと巴が起きる・・・!!!

「あー・・・っと、あの、ありがとう御座いました。俺、そろそろ行きます」
「そう・・・気をつけてね。あまり無理しない方が良いわ」
「はい」
「また何か怪我したら、いらっしゃい」
「わかりました。えーっと・・・朝っぱらから、お世話になりました」


頭を下げて、そのまま診療所を出ようと戸に手を掛ける。




・・・そうだ、この高荷さんにも、ちょっと聞いておこう。




「あの、すみません」
「どうしたの?」
「えーっと・・・何かこの辺りで、変わった物とか見ませんでした?」
「?・・・変わった物?」

すみませんアバウトですみません。
でもそれしか言い様が無いっつーか俺も良くわからないんですけど・・・

・・・ノンブレスで思考を巡らせたら、何だか実際に息が切れた。

何これ何の特訓?

「っとぉ・・・例えば、いつも見無い様な穴が突然開いてたとか・・・」
「それは無いわね。・・・特に、何も変わっていなかった様に思うけど」
「そうですか・・・・・あ、突然変な事聞いて、すみません」
「いえ、良いのよ。・・・それより、大丈夫?」

頭がですか?
それはちょっと無理ですね。手遅れです。

「あ、頭はちょっと・・・」
「え?・・・いえ、そうじゃなくて・・・」
「へ?あ、えっと・・・じゃあ、何でしょうか」

頭以外は、特におかしいトコ、無いつもりですが。




「何だか貴方、影が薄い感じがするの・・・」




・・・・えぇえぇえ!?

俺地味!?地味ですか!!?
これでも結構弾けてるつもりなんですがね!!

「え・・・あの、え?」
「あ、ごめんなさい、ちょっと語弊があるわね」
「は、はぁ・・・」
「何て言うのかしら、変な言い方して申し訳ないんだけど、存在が違うのよ」
「??」
「・・・ごめんなさいね、何だか、貴方が周囲の人達とは、違う気がするの」
「!」

何だろう。お医者さんて、第六感とかも優れてんのかな。

・・・・・ちょっと、ドキッとした。

「あ、あはは・・・まぁ、自分でも、そんな感じしますよ」
「?」
「・・・・またいつか、怪我したら、宜しくお願いします」
「え、ええ・・・ごめんなさいね、変な事を・・・」
「いえいえ、だってそれ、強ち間違っても無いですし」
「え・・・?」
「それじゃ!」


余計な事言った俺ーーー!!!


驚いてる高荷さんから逃げる様に、ピシャン!と戸を閉め切った。




あー・・・やべぇ。コレで今度会った時、頭心配される事間違い無しだな。






・・・・ん?






何と無く慌しい足音に気付いて、俯かせていた顔を上げる。


正面の方には、絶対に起きてて欲しく無かった許婚が、こっちに向かって走って来てた。


しかも後ろには緋村さん付き☆



うわあぁぁあ・・・怖い。俺殺される。だって緋村さん、巴の事気にしてるみたいだし!!!



!」
「うぉ!?」



巴が俺の目の前まで駆けて来て、止まる。

んで、俺が、何か言い訳をしようと考えを巡らせたその時








パァン!!








すっげぇ良い音と同時に、右頬に鋭い痛みが一瞬走り抜けた。





































NEXT


頭は割りと手遅れな主人公。
恵さんはちょっと霊感的な物が働いたらしい。
そして巴さん起きてた。ケアレスミス。
あまり巴さんに心配掛けると緋村がキレるぞ主人公!