折角抜っさんを置き去りにしての一人旅。


漸く京都にも着いて、葵屋の面々の好意もありタダで滞在させて貰えた。


後は墓参りして、お師さんトコに酒持ってって、支度整えて・・・


まぁ、2・3日したら発とうと思ったんだけども・・・・





「・・・・・・・はぁ」










『下戸の忠犬』










「何を溜息吐いている」
「テメーの所為だテメーの」


右斜め後ろ。

ピタリと一歩遅れで付いて来る男。

何れにせよ、般若あたりが見たら情けなくて思わず男泣くんじゃないだろうか。

そりゃあ、見たくなんぞねーだろ。


崇拝する御庭番衆頭が、女の後延々と付回してるんじゃぁよぉ。


「何で付いて来んだ、気色悪ィな」
「お前を1人にさせておくと、何が起こるかわからん」
「テメー抜っさんと同じ事言ってんじゃねぇよ」

何でだ。

やっとうるせーのから離れたと思ったのに・・・

思わぬ伏兵とは言った物か。

つか、年下にこう扱われると情けないっつーか腹立つっつーかなぁ。

「大体、テメー座禅組んでなくて良いのかぁ?」
「お前の供を優先する」
「頼んじゃねぇ」
「昨日、お前言っただろう。俺の好きにしろと」

何か言ったっけ?

・・・あぁ、昨日、あんまり1人で大丈夫かだと俺がついてくだの煩かったから・・・




”あー、わぁったよ。ンなに言うならテメーの好きにしやがれ”




・・・・・言った言った。

けどなぁ、本気で付いて来る事ねぇじゃねぇか。


「暇なのかテメー」
「お前を見ているのに忙しい」
「気色悪ィ事抜かしてんじゃねぇよ仏頂面が」
「・・・別に、他意は無い」

あったら蹴り飛ばす。

「あ゛ー・・・ったくウゼェなぁ・・・じゃじゃ馬の相手でもして来いよ」
「じゃじゃ馬?」
「・・アレだ、えーっと・・・操、操だよ」
「操がどうかしたか」
「・・・なぁ、頼むから俺の話し聞いててくんねーか?」

頭目さんよぉ。

と、立ち止まって振り返ると、頭目も止まる。

・・・何だろう、この奇妙な空間。

「・・・つぅか、アレだ」
「何だ」
「テメーがいると、視線集めて仕方ねーんだよ」

デカイ男。しかも無駄に顔立ちの整った男がだ。
真昼間っから犬みてーに女の後付回してんだから、そりゃあ視線も集めるってモンよ。

そら、見ろ。

そこの娘共なんざ、羨ましそーにこっち見てるぜ。
お?なんなら代わるかお嬢サン。
実際付回されると気味悪ィけどな。

「お前1人でも十分視線集めてるだろうが」
「テメーがいると二倍なんだよこの思考回路ブツ切れ男」

言ってやると、少々小首を傾げてこちらを見据えて来る。

・・・・つまんねー・・・・

端から楽しい反応なんざ期待してねーが・・・・


・・・アレ、何だろう。抜っさんのあの過剰な反応がヤケに懐かしいなぁ。


・・・・・取り合えず、頭目は俺の苦手部類に入る。
三番も苦手っつえば苦手だが、アイツは天敵の部類だろう。
・・・つかアイツ、抜っさんの足止め出来てんのかぁ?

・・・・・何か軽やかに裏切られてる気がしなくもない。


「どうした?」
「・・・・何でもねぇよ」

あー・・・立ち止まってたら余計に視線が集まった。
さっさと行こう。

・・・行くトコねーけど。

「何処へ行く?」
「酒買う」
「・・・控えろ」
「テメーは抜っさん二号か」

口煩いのは1人いりゃあ十分だ。
いや、1人でも多いっつーのに。

「抜刀斎と一緒にするな」
「同じだろ」

性格は。
コイツのが怒鳴ったり喚いたりしない分、扱い辛いが。
あの単純な女顔が、ちょっと懐かしい。

・・・いや、でも、また一緒に過ごす事になったら、ウゼェだけだな。

懐かしい物は、懐かしいままにしといた方が良い。

「兎に角、テメーは座禅でもして来いよ、ウゼーから」
「・・・そうか?」
「ああ。それに、どうせ2日ぐれーしたら発つつもりだ。こんなトコで騒ぎ起こさねーよ」
「・・・・・2日?」

何だよ。何か問題でもあるか。

「んだよ」
「・・・もう暫く、いるのかと思っていたな」
「馬ァ鹿、旅支度整えたらさっさと失せらぁ」
「もう少しゆっくりして行けば良い」
「別に、ここじゃなくてもゆっくり出来る場所はあるぜ」

つか、ここにはあまりいたくない。
何故か。
抜っさんがすぐに追っ駆けて来そうだから。

俺としては、京都に寄った理由は簡単だし。

姉の墓があるから。
葵屋には顔利くし、タダで泊まれっかなーとか思ったから。
後はまぁ、お師さんと酒の一献でも交わせるかなーとか思ったから。

・・・こんだけだし。

どっちかってぇと、目的を果たしたらすぐに発ちたい場所だ。

「・・・1週間程いても良いだろう」
「いや、居過ぎだろ、それ」

何の為に1週間も滞在するんだよ。
時間が勿体ねぇ。

「操も、お前に会えて喜んでいたぞ」
「あー、俺が行ったすぐ後ぐれーに抜っさんが来るだろうから、良いんじゃねぇ?」

だからそれまでに発ちたいんだよ俺は。

「・・・俺も、お前ともう少し話がしたい」
「今すりゃあ良いじゃねぇか」
「茶でも飲みながら、だ」
「酒なら付き合ってやんぜ、下戸野郎」

言ってやると、黙る。
あー、静かになった静かになった。

・・・でも、歩くとやはり付いて来る。

・・・・・あー、本気で気味悪ィなぁ・・・・・

「っだー!何なんだよ、金魚の糞みてぇにへばりくっ付きやがってよォ!
 話たいってぇんなら今日の夜にでも聞いてやらぁ!ったくウゼーなぁ本当に・・・」
「今日でなくとも良い。明日で」
「・・・なぁ、俺、さっきから口酸っぱくして”さっさと発ちたい”っつってるよなぁ・・・?」
「だからだ」
「っ・・・の、っとにウゼェな年下がよぉ」
「・・・大して変わらんだろう」

あー、るせーるせー。
つか、割とコイツ性格悪ィよな・・・。
・・・何だ、あのジジイは教育間違えたんじゃねぇか?
・・・・・本当、俺の周りの男共は、性格悪ィのばっかだな。

抜っさんは他人に依存するし神経質だし融通利かねーし。
三番は、もう存在自体が腹立つよなアイツ、陰険狐だし。
んでもって、コイツも・・・暗いし、下戸だし、粘着質だし・・・。

「・・・はぁ」
「また溜息か」
「テメーの所為だテメーの」

アレ、さっきもこんな会話した?
・・・まぁ良い、だって事実だもんよ。しゃーねーよ。

「あー・・・わぁったよ。明日話聞いてやっから、取り合えず離れろテメー」
「何故だ」
「・・・本当に話し聞いてねぇなテメーはよぉ」

さっきからウゼーっつってんだろぉが。

「鍛錬でも何でもして来いよ。敵はいつ来るかわかんねーぜ」
「案ずるな」
「いや、案じちゃねーが・・・俺に負けた男がのんびりしてて良いのかぁ?」
「・・・・・・・」
「女に負けたなんっつったら笑いモンだぜ。とっとと鍛えて来いや」
「・・・ならば、少し付き合うか?」
「遠慮しとくぜ」

何が悲しくて御庭番衆頭目の鍛錬に付き合わなきゃなんねーんだ。
大体鍛錬っつーのは1人で黙々とやるモンなんだよ。


・・・あー、もう良い。ここは強行突破だ。


「ま、精々頑張って来い・・・・よッ!」
「ッ!?」



走り出すと同時に、頭目の腹を蹴り飛ばす。


少しばかり、力は込めたが・・・


どうせ、大して痛みはねーだろぉよ。

・・・・ってか、強めに蹴り入れねーよ、効かん。


「っ・・・!」
「やっぱ明日はヤメだ、今夜にでも話し聞いてやらぁ!」
「おいっ・・・」


あ、追い駆けて来ねぇ。


・・・意外とキたみたいだな、良かった良かった。

これで漸く自由気儘に・・・


と行きたい所だが・・・何だか嫌な予感がする。

何だ?

まぁ、十中八九抜っさん関連だろうけど・・・勘弁してくれよ。



「ぅお!?」


げ、ゆっくり走り過ぎた。
早っぇー・・・もう追い着いて来やがったこの野郎。

「何でぇ何でぇ、意外とタフじゃねーか」
「アレぐらいでへばる訳がない」
「ンな事言って、結構効いてたみでーじゃねーか」
「・・・・・・」

反論しない所を見ると、本当らしい。

・・・・・こう言う所はわかりやすいのに、どうして融通が利かねーかなぁ。

「はぁ・・・」
「何を溜息吐いている」
「いや、今日何度目だ?この会話よぉ」

2・3回はしてるぞ、溜息関連の遣り取り。

「つーかよぉ、本当付いて来んなってウゼーから」
「何故だ」
「あー・・・・・」

ダメだ、本気で話が通じない。
すっげぇイライラして来た。
もう一発決めてやろうか・・・

・・・・とも思うが、腐っても御庭番衆頭目だぜ?

同じ手を喰らってくれるとも思わねーんだよなぁ・・・

「・・・・・・・あ」
「?どうした」
「・・・財布がねー・・・」
「何?」
「・・・どッかに落としちまったのか・・・?」

唐突に懐を見ながら、そう言う。

案の定、生真面目な頭目は、少しばかり不安そうに訊ねて来た。
いや、テメーが不安そうな顔してどうすんだ。

「あーヤベェなぁ・・・ちょっとよぉ、探して来てくんねーか?」
「探す・・・?」
「ああ、俺は酒屋の方見て来っから、オメーは葵屋の方見て来いよ」
「ああ・・・構わんが・・・先程の道は良いのか?」
「さっき通って来た方が、酒屋の方角だろうがよ」
「・・・そうか」
「頼めるか?」
「ああ」
「悪ィな、宜しく」


手を振ると、頭目はさっさと葵屋の方面へと向かって行った。




・・・・最初からこうすりゃ良かった・・・・




頭目の姿が消えたのを確認して、ヒュッと財布を投げる。

大して高くは上がらなかったから、すぐに手元に戻って来た。


「・・・馬鹿だな、アイツ」


・・・・ちょっと考えりゃあ、気付くだろ・・・大体、突然財布の確認なんざしねーっつーの。

融通利かねー癖に、馬鹿素直だよなぁ・・・・。




「さぁてと、今の内に酒でも買い行くかな」




これは使える。
けど、2回も財布を落とすのは不自然だよなぁ・・・
ま、次に落とすモンは、考えておくか。


・・・・もしかしたら、抜っさんもこの手で誤魔化せるかなぁ・・・・


とも思ったが、ちょっと無理だな。

あの馬鹿は、歳食ってる分ヒネてて用心深いからな・・・



疑心暗鬼の三十路より、素直な忠犬の年下か。



同じ融通の利かない真面目馬鹿でも、コレ程までに差があるのか。



・・・・・ま、どっちにしろ、苦手な奴等である事には、変わりないがな。























END.