河原にて、剣心が1人、随分と難しい顔で座り込んでいる。


皆が心配してくれているのは在り難いが、やはり自分はやらねばならない。


皆を巻き込まない為にも、自分1人で。


・・・・アイツを巻き込まない為にも、1人で。



カチリ。と刀を親指で軽く持ち上げるた瞬間、背中に衝撃が走った。












『鵜堂事件』












「!!?」

思わず息が止まり、ぐっと背が反れる。
恐らく蹴りだろう。
それも、容赦のない、やる気ゼロの蹴りだ。

こんな事をするのは1人しかいない。

と、剣心はジトッと据わった眼で背後を見遣った。


「何黄昏てんだ、気色悪ィな三十路がよぉ」


そこには案の定、酒瓶をぶら提げたの姿。
背を蹴った足をそのままに、座っている剣心を見下している。
逆光で酷く見辛いが、どうせ不機嫌な面なのだろう。と、剣心は思う。

彼女は大体、顰め面か不敵な笑みを浮かべるから。

「うるさい」
「あー?・・・ま、良いや。テメーに用があるんじゃねぇ」
「何?」
「お嬢見てねーか、お嬢」
「・・・薫殿?見ていないが」
「あそ、邪魔したな。存分に黄昏ててくれや」
「待て!」

剣心の答えを受け取るや、クルリと踵を返したの腕を、慌ててガッと掴む。
は、面倒そうに振り返った。

「ンだよ」
「お前、事情くらい話したらどうだ」
「見てねーなら話しても仕方ねーだろ」
「仕方なくは無いだろう」
「あー・・・アレよ。テメーを探して出てっちゃった訳」
「・・・・・何だと?」
「お嬢の性格考えてみろよ。他人の迷惑考えずに突っ走るに決まってんだろーが」
「・・・・止めてやれ」
「いや、眼ぇ離した隙によ。だから探してんだ」
「もし、刃衛がいたら・・・・」
「だから探してんだっつってんだろぉが、理解力のねぇ野郎だなテメェもよぉ」
「・・・・・お前、少しは遠回しに言え」
「面倒臭せぇ」
「・・・大体お前、俺の事は探さなかったのか」
「何が悲しくてテメーなんぞ探さなきゃなんねーんだ。寝言は寝て言え」
「・・・・・そうだな」

いつもの遣り取りである。
まぁ、恐らく佐之助達も捜索にあたっているであろうから、心配は無いと思うが・・・

それよりも、今は鵜堂の事である。

周囲を巻き込みたくは無い。
だがやらねばならないと言う焦りもあり、何処と無く表情にも影が落ちた。

「おい」
「ん?」
「いい加減手ぇ離しやがれ、気色悪ィ」
「あ、ああ・・・悪い」
「ったく」

の苛立った声に、剣心がバッと手を離す。
はそのまま何も言わず、一度手を軽く振ると、スタスタと川縁まで歩み寄った。

「どうした?」
「んー?いや、ここの川って、結構流れあんのな」
「ああ・・・そうだな」
「テメェを蹴落としたら、良い感じに流れて行きそうかもな」
「やるなよ」
「いや、やるなっつわれるとやりたくな・・・・・・・・」



剣心の嫌そうな声に、が意地の悪い笑みを浮かべながら振り返った、その瞬間。



風の様な速さで、彼女の体が何かに捕らわれた。



剣心がそれを、見開いた眼で追う。

彼の眼に映ったのは、少し驚いた様子の



黒い笠を被った、男。



「じん・・・えい・・・!?」
「抜刀斎ィィィイ!!!この女、お前の女と見た!!!!
 さぁ、怒れ!!!あの頃の、抜刀斎の頃の貴様に戻れ!!!」
「オイこらテメェェ!!誰があの女顔の女だとぉ!!?」
!!怒る所はそこじゃないだろう!!」

の言葉にしっかり突っ込みつつ、剣心は地を蹴って追う。
だが、川の流れについて行ける筈も無い。

離れていくの姿に、叫び声を投げ付ける。

!!そいつの腕を振り払え!!」
「馬ッ鹿テメェ!大人の事情でそう言う抵抗は出来ねぇんだよ!!悟れ!!!」
「何の事情だ!!!!」


剣心の返しに、の声は届かない。

代わりに、鵜堂の放った無機質な紙が、剣心の元へと舞い落ちた。


あんな突っ込みをしている場合ではなかったのだが、仕方ない。

癖だ。癖。と自身の行動を頭の片隅に押しやり、頭を押さえる。

そして、放たれたその文にざっと眼を通し、それを苛立ちに任せて破り捨てた。


「・・・アイツの事だから、心配は無いと思うが・・・」


鵜堂の目的は、自分を怒らせる事。
怒らせ、抜刀斎に立ち戻らせる事。

だが、鵜堂。
今回は人質に取る女を間違えたな。

と、剣心は怒りを感じながらも、どこか冷静なまま考えた。

あの女が大人しく人質になる物か。
確かに、鵜堂と張れるかと言えば無理がある。
だが、大人しく怯え、自分の助けを心待ちにする様な可愛い性格ではない。

どうせ、自分の必死な様子を見て笑うだけだろう。

そんなでは、自分も抜刀斎なんぞに戻らない。
多分、鵜堂との戦いを、茶々入れしながら見ている筈だ。
きっと、自分はそれに一々苛立ちながら怒鳴り返す。
簡単に予想出来る、その展開。

そしてその予想は、大方当たりである。



そう思うと、まだ何もしていないと言うのに、ドッと疲れが体を襲った。

























END.


蝶☆短編。
いやね、鵜堂の回と人誅の回は、色々妄想掻き立てられるじゃないですか。
多分ほとんどの夢書きさんは、この回をヒロインに置き換える筈。
ならちょっと、家でもやってみようじゃないの。と、思った次第でごわす。
しかし、1つ問題があった。
我が家の彼女は、ヒロインではなく主人公である。ヒロインなんて可愛いモンじゃない。
なので、きっとお話にもなんねぇよなぁ・・・と思いながら書いたら本当に話にならなかった。

多分この後、剣心が助けに行った後ね。剣心の予想通りになるよ。