「付き合え」
「え・・っと、良いよ、何処に?」
ぺちん。と、頭を叩かれた。
えーっと・・・・・何で、だろう・・・・・?
『カムフラージュ』
春。
桜の舞う、気持ちの良い季節。
ほんのちょこっと髪が伸びて、何だか新しい気分。
そんな感じで、私は2年生になりました。
新しいクラスは3組で、晴子と松井ちゃんとは離れちゃった。
でも、離れたって言っても2人は4組だし、隣だから・・・良いか。
私のクラスには、バスケ部に復帰した桜木君と、そのライバル流川君。
それと、水戸君が一緒。
やっぱり喧嘩が絶えなくて、賑やかなクラス。
私はちょっと離れた所で傍観してるだけだけど・・・。
まぁ、平穏な新しい1年を始めようとしていた。
そんな矢先の出来事。
2年生になって、半月程経った・・・今日。って言うか、今、放課後。
教室で、流川君に呼び止められた。
そして、沈黙の後に言われたのが、さっきの一言。
「付き合え」
・・・だった。
私はてっきり、職員室か何処かに行くから、それに付き合えって言われたのかと思った。
何で私に声掛けたんだろう?先生が私を呼んでたのかな?
とか思いながら、何処に?って聞いてみた。
そしたら、頭をぺちんと叩かれた。
別に痛くなかったけど、突然の流川君の行動に目を白黒させる。
「な、な、な、何・・・?」
「どあほうか、お前」
「ど、どあほうって・・・」
それは桜木君に言う台詞でしょう・・・じゃなくて。
「え、えっと・・・じゃあ、何に付き合うの?」
バスケの相手とかは無理だよ。
「・・・俺」
「え、だから、流川君の何に付き合えば良いの?」
「だから、俺」
「・・・え?」
俺・・・って事は、流川君に付き合うんだよね。
うん、だから、流川君の何に付き合えば良いんだろう。
「俺に。じゃなくて、俺と」
「あ、そっか、流川君と付き合う・・・・・・・・え?」
「そ」
「・・・え?え?」
「だから、そーゆー事」
あれ?ちょっと待って?
流川君が言ってる付き合うって言うのは何処かに行くのに付き合うんじゃなくて。
流川君とって事はえーとそのー・・・つまり・・・
「・・・か、彼女になれ、と?」
「そー」
「えぇぇえ!!?」
ななな、何で・・・!?
え、何だろう、あれ?えっと・・・
「・・・な、何の罰ゲームですか?」
「は?」
「あぁぁ、えっと、あのっ・・・」
「アンタが何考えてんのか知らねーけど、別にゲームじゃねぇよ」
「え、だって・・・だって・・・」
「何」
「な、何で・・・?」
まず、疑問。
もうこの際、晴子の事とか周りの事は一旦置いて・・・。
取り敢えず、訳だけでも、聞こう。
「・・・・」
「?」
「・・・今年、増えた」
「は?」
「うるせーのが、増えた」
「うるさいの・・・・って、もしかして、親衛隊の人達・・・とか?」
「そー」
あぁ・・・一応、うるさいって思ってはいるんだ・・・。
いつも気付いてない様な感じだったし。
・・・そりゃあ、気づくよね、アレだけうるさければ・・・うん。
「増えた・・・って、あ、そっか・・・新入生が・・・」
「・・・・手に負えない」
「あ、あはは・・・そ、それで、どうして私が出て来るの・・・?」
あれだけすごい声援を送ってる人達が、また増えた。
それだけで流川君は面倒なんだろうなぁ・・・。
・・・て言うか、ホント、きつそうだもん。
・・・・・それで、どうして私?
「彼女、いたほーが、アイツ等諦めると、思う」
「・・・・・・・あ、なるほど」
漸く一つ、疑問解決。
そうか、彼女がいれば、諦めるだろうね・・・・って
「私、危険じゃない!」
「何が」
「し、親衛隊の人達に怨まれる・・・」
イジメとか受けそう。
あぁ・・・そんなの嫌だよ・・・。
「じゃ、一緒にいれば良い」
「よ、良く無いよ!」
「一緒にいれば、嫌がらせも何もねぇだろ」
そ、そーだけど・・・それはそれで怖い。困る。
「で、でも、じゃあ、私じゃなくても・・・」
「アンタが一番良い」
「でも、でも・・・そうだよ、晴子とかがいるじゃない!」
晴子は流川君が好きだ。
1年の頃からずっと想っている。
バスケ部のマネージャーでもある訳だし・・・適役ではないか。
なんて・・・あ、でもそうしたら晴子がイジメの対象になっちゃう・・・。
「誰」
「へ?」
「晴子って、誰」
・・・えー・・・
・・・・まぁ、うん、流川君、人の名前覚えるの、苦手なんだよね・・・・
多分。
「マネージャーになった子よ。私といつも一緒にいる・・・赤木晴子!」
「・・・・・あぁ、マネージャーか」
「そ、そう」
「・・・ヤだ」
「な、何で?」
「赤木先輩の妹だし。何か、合わない」
・・・あぁ、赤木先輩・・・か。
怖いもんね、確かに・・・
特に晴子の事可愛がってるから、流川君が彼氏になったら・・・どうなるんだろ。
うぅ、恐ろしい。
「じ、じゃあ、松井ちゃんは?」
「誰」
「あー・・・私と、いつも一緒にいる・・・2つ結びのコ」
「・・・・あぁ、いたな」
「そ、その子は」
「知らねーし」
「そ、それは私にも言えた事でしょ・・・?」
「アンタ、同じクラスだろ」
そ、そーだけど・・・。
あぁぁ・・・どーしよー・・・
「ほ、他には・・・」
「アンタ、そんなに嫌?」
「えっ?」
「俺と付き合うの」
い、嫌って言うか・・・何て言うか・・・
私にとって、デメリットしかないような気がする・・・。
「わ、私、流川君の事全然知らないし・・・」
「俺だってお前の事知らねー」
「仲だって良く無いし・・・」
「同じ」
「・・・だ、大体、何で私なの?」
「アンタ、一番静かそーだし、騒がなそう。
それに、練習とか試合とか見に来てたろ。だから、丁度良い」
そ、そりゃあ静か・・・って言うか、気が弱いって言うか・・・
騒がないのも、確かかも。
練習だって試合だって見に行ってたけど、それは晴子の付き添いで・・・。
・・・でも、それだけで・・・
「それともアンタ、好きな奴でもいんの?」
「えっ、いないけど・・・」
「なら良い。アンタが好きな奴出来たら、別れれば」
「えー・・・」
あぁ・・・今、嘘でもいるって言っておけば良かった・・・!
後悔しても遅い・・・何とかして逃げなきゃー・・・
「ほ、ほら、流川君、部活良いの?行かなきゃ・・・」
「アンタが返事くれたら、行く」
「えええーー・・・・」
あーどーしよー・・・っ!!
誰か助けて下さい・・・!!
「別に、何もしなくたって良い」
「う、うん・・・」
「ただ、彼女って言っててくれれば良いだけ」
そりゃあわかってるけど・・・怖いし・・・。
「うー・・・・・」
「返事」
・・・・・いくら言っても、肯定以外の言葉は聞かないつもりね、流川君。
・・・・・・・・・あぁぁあもーっ
「わかった、わかったよぉ!」
「なる?」
「な、なります・・・でも、本当に私、イジメとかあったらやめるから!」
「ヘーキ」
平気じゃないから言ってるのにー!
「さっき言ったろ」
「え?」
「一緒にいれば平気って」
「そ、そうだけど・・・」
「一緒にいないと、俺もアンタと付き合う意味なくなる」
・・・まぁ、女の子避けだもんね、私。
確かに一緒にいないと大変だけど・・・お互いに。
「・・・・・・・・じゃあ、えっと、取り敢えず、お願いします」
「どーも」
「ほ、ほら、もう部活行きなよ・・・!」
「お前も来るんだよ」
「え?」
「・・・・お前、大丈夫か?」
「だ、だって・・・別に、明日からでも・・・」
「・・・体育館にも、女来るんだけど」
その中で私に一緒にいろと!?
「そ、そんな・・・」
「・・・行くぞ」
「・・・・・・・・・・」
・・・神様。私、何か悪い事しましたか?
「おい流川、おせーぞ」
「すんません」
あぁ・・・視線が痛い。痛い。痛い・・・!
そりゃあそうだよね、流川君が部活に遅れて来て・・・しかも私が一緒なんだもん。
うわぁ、晴子まで見てるー・・・;;
違うのよ晴子。誤解だよー・・・なんて心で叫んでも伝わらないよね・・・。
「どーした流川、今日は・・・」
「ス、ちょっと・・コイツと」
「コイツ?」
あーっ、私を見ないで・・・!!
流川君お願いだから私を巻き込まないで下さい・・・!
「えーと・・・あ、藤井さんだっけ」
「は、はい」
「どうしたの?流川になんかされた?」
「宮城部長・・・俺、何かするよーに思えます?」
「あはは、いやいやそんなんじゃなくてよ」
十分したじゃない!
嫌がらせかと思うほどだったよ、本当・・・。
いや、でも今は何とか誤魔化さないと!!
流川君が遅れたのは、まぁ、本人の責任だけど・・・私も早く返事しなかったし。(出来なかっただけだけど)
「あ、あの、私、先生に提出するプリントの整理が終わってなくて・・・
そ、それで、流川君が手伝ってくれたんです」
「へー、流川も良いトコあるじゃねぇか」
「・・・・ども」
・・・ふぅ、良かった・・・合わせてくれた・・・。
宮城さんも納得してくれたみたいだし・・・・はぁ・・・・。
「ま、そーゆー事なら大目に見てやるか。よし!じゃあ練習始めっぞー!」
『ウース!』
わぁ、すごい人数・・・最近あんまり来てなかったけど、増えたなぁ・・・。
・・・また、減っちゃうのかなぁ・・・ううん、そんな事ないよね。
だって桜木君や流川君の活躍知ってるもんね、皆。
それに憧れて来てるんだから・・・。
「よ、藤井さん」
「あ、水戸君・・・」
「珍しいじゃん、流川と来るなんて」
「う・・・うん」
水戸君が、何とも言えない不機嫌そうな顔で声を掛けて来る。
あぁ・・・どうしたんだろう、私、何かしちゃったかな・・・。
でも、何したんだろ・・・まともに話してもいないのに。
「プリント整理かぁ・・・」
「う、うん、た、大変だったの」
「・・・ウチのクラス、プリントなんか出たっけ?」
「えっ!?・・・あ、あれよ、あの、個人的に渡されたプリントなの」
「へー・・・」
「せ、成績の事とか、進学について、ちょっと記入ミスがあったみたいで・・・」
「・・・そんな大事なのを、流川に手伝って貰ったんだー」
「・・・・・・・・うん」
水戸君は、私から視線を逸らさない。
・・・怖いよぉ・・・;;
て言うか、完全に嘘だってバレてる・・・!
「・・・で、本当は何?」
「あ・・・・えっと、あのー・・・・ど、どうして?」
「んー?気になるから」
「・・・・・・・・ほ、ほんと、だよ?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ま、良いけどさ」
ほ・・・・良かった、深入りしないでくれて、ありがとう。
「でも」
「え?」
「何かあったら俺に言ってよ。俺も花道も力になるから」
「あ、う、うん、ありがとう」
じゃあ、流川君の彼女になってあげて下さい。
・・・なんて言えないよねー・・・
・・・・・本当、助けて欲しいよぉ・・・・・
これからが怖いし・・・
何より親衛隊の人達の・・・・・
・・・と、そこまで考えて、ふ。と気付いた。
あんまり視線を感じない。
何となしに見てみれば、水戸君が親衛隊の人達から、壁になる様に立っていてくれた。
その心遣いに、ほ・・・っと心が暖かくなる。
だからわざわざ、逆の方に移動したのか。
「・・・水戸君」
「ん?」
「ありがとう」
「・・・さぁ、何がかな?」
「ふふっ」
わざとらしく肩を竦める水戸君に、思わず笑ってしまった。
そしたら、水戸君も笑ってくれた。
うん、何か良いなぁ・・・こーゆーのも。
男の子の友達とかって、出来た事なかったから・・・何だか楽しい。
「よーし!5分休憩ー!」
走り込みが終わって、いつもの5分休憩。
その隙に、タタタッと晴子が寄って来た。
しまった、晴子には何て言おう。
「ね、ね、藤井ちゃん!」
「な、なに?」
「良いなぁ〜、流川君と一緒にプリントやってたの〜?」
「え?」
・・・あ、そうだ、そーやって言い訳したんだ。
「そ、そーなの。手伝ってくれたんだ」
「そっかぁ〜・・・良いなー・・・」
「フジイさん!」
あれ、今度は・・・桜木君?
どうしたんだろう。
「おう、花道」
「桜木君」
「おう洋平、ハルコさん!」
「あ、こんにちは桜木君・・・えっと、どうしたの?」
もしや流川君について文句言ったり?
いやいや、私に言われても・・・何も出来ないんだけど。
「フジイさん!」
「は、はい」
「プリントの整理なんて、俺に言ってくれれば手伝ったのに・・・」
「え?」
「ルカワなんぞにやらせなくても、この天才が・・・」
・・・あ、流川君に対抗心燃やしてるのかぁ。
んー・・・でも、困った。
そう言ってくれるのはありがたいんだけど・・・。
「あ、あはは・・・きょ、今日はたまたま流川君が最後まで残ってたから・・・」
「でも、何かあったら言って下さいよ」
「う、うん、その時は宜しくね」
「任せて下さい!」
良いなぁ。こんな明るい性格になりたいな。
晴子は良いじゃない、こんな素敵な人に想われて・・・。
私なんか、好きでもないし、好かれてもいない人が仮・彼氏なんだよ・・・。
「まぁ、桜木君たら、優しいのね!」
「ハ、ハルコさん・・・いやぁ、それ程でも!」
・・・・でも、ハルコは流川君一筋で・・・・結構、その人懐っこさが残酷だったりして;;
・・・・・・まぁ、頑張って、桜木君。
「おーっし!練習開始するぞー!」
「あ、私も戻らなきゃ、ゆっくり見てってね藤井ちゃん、水戸君!」
「この天才の勇士、篤とご覧下さいねフジイさん!」
「あ、は、はい、頑張って、晴子も桜木君も・・・」
そー言った途端、流川君と目が合った。
そのまま見詰め合っても気持ち悪いだけなので、そっと逸らさせて頂きました。
・・・ごめんなさい、流川君;;
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