朝の眩しい日差しが、開けられたカーテンから降り注ぐ。


目蓋越しに受ける白い痛みに、んんとくぐもった声を漏らす。


それでもまだ脳を支配する眠気に抗えず、ゴロリと寝返りを打って光から逃れた。



そんな私の上から、微かな笑いが聞こえる。



克哉の、小さな笑い声。



その声にはすぐに反応を示し、もう一度コロリと姿勢を戻すと、今度はゆっくり慣らす様に目を開けた。



「おはよう。起きたか?」



初めは白い光に隠れ見え辛かった克哉の顔が、徐々に鮮明になる。


眼鏡は外されていて、優しく、愛情に満ちた微笑が、眼差しが、私に向けられていた。


少々細められた眼は酷く穏やかで、まだ眠りにたゆたっている私には、それは甘過ぎる。


「ん・・・おはよう・・・」
「フッ。起きてない癖に、言うな」


半分眼を閉じたままトロリとした声で言えば、克哉がおかしそうに笑う。

段々と覚醒を始めた私がその笑みを見詰めていると、克哉は優しい声で言ってくれた。


「朝飯なら作っておいてやった。・・・ホラ、さっさと起きろ」
「んー・・・」


今日は土曜日。

休日はいつも、克哉が朝ご飯を作ってくれる。

とても簡単な物だけど、それがとても大好きで、休日の朝はいつも楽しみで仕方ない。


でも、今日は、昨晩に体力を使い果たした所為で、中々目が開けられない。


トーストの焼けた芳ばしい匂いも、克哉の優しい声も、愛情に満ちた微笑みも。

全部が心地好くて、心地好過ぎて、また夢の中へ意識を浸しそうになってしまう。


またウトウトと眠りに落ちそうになる私に、克哉が苦笑いを浮かべた。

困った様なその笑みは、いつもの意地悪な克哉からは想像出来ないくらい、可愛くて。


思わず半分眠ったままクスリと笑みを零すと、克哉もまた楽しそうに淡く微笑む。


そのまま、やれやれとばかりに身を屈め、仰向けに眠る私へと覆い被さって来た。


「・・・起きろ。折角の休日、俺との時間を無駄にする気か?」
「んー・・・やだぁ・・・」
「なら、起きろ。お前の寝顔を眺めるのも良いが・・・少々退屈だ」
「んん・・・」


甘い声で囁かれ、幸せな痺れが全身に広がる。

耳元に寄せられた唇が恋しくて、克哉の顔を見る為に、眠い目を開けて顔を向けた。


間近に、空色の透き通った、切れ長の眼。

自分と同じ色の、瞳。


その瞳が、優しく私を見つめていて、幸福感で胸がいっぱいになる。



「・・・克哉・・・」
「ん?」



甘える様な声で名を呼ぶと、幸せそうに、慈愛に満ちた微笑を浮かべながら、克哉が返してくれる。

それだけで、泣きたいくらいに幸せだ。

それでも、もっともっと、甘えて、克哉の惜しみない愛情に浸りたくて。



少し身体を離した克哉に、幼子の様に両手を伸ばし、だっことせがむ。



私の幼い動作に、克哉はおかしそうに肩を揺らすと、綺麗な眼を愛しげに伏せて、伸びた私の両腕へ身体を沈める。



「全く。仕様の無い甘えん坊だ」



そのまま私の額に優し過ぎるキスを落とすと、浮かせた背中に手を差し入れ、そのまま抱き起こしてくれた。


きゅっと克哉の首に両腕を回し、抱きついたまま、ベッドに座った克哉の膝の上に乗せられる。


「・・・おはよ、克哉」
「ああ、おはよう」


ようやく、ハッキリしてきた目で克哉を見つめ、挨拶を送る。

すると克哉も、そんな私を空色の眼に映しながら、柔らかい声色で返してくれる。


それが幸せで、でも、もっと克哉に触れていたくて。


つい。と、顔を少しだけ近づけると、克哉は愛しくて堪らないとでも言う様に、私の額に自分の額をコツンと押し付ける。

同じ色の、それでも質の異なる髪が触れ合い、こそばゆい。


「・・・克哉」
「なんだ?」
「・・・だいすき」


心から溢れる感情を、幸福な色を濃く滲ませた声に乗せ、告げる。

突然の私の言葉にも然して驚いた様子はなく、克哉はただ慈しむ様な笑みで私を見て、満足そうに返した。


「ああ、知っている」
「・・・克哉は?」
「愛してる」


好きではなく、愛してると言われ、何となく照れ臭い。

でも、それ以上に嬉しくて、だらしなく頬を緩めると、克哉が緩く弧を描いた唇に、キスを落としてくれた。


「お前は?」
「・・・さっき言ったもん」
「好きだとは言われたが、愛してるとは言われてないんでな」
「・・・愛してるよ」
「良い子だ」


言葉を話す為に離れた唇を、今度は自分で追う。

そうして、また触れるだけの軽く柔らかなキスをして、再び言葉を紡ぐ為にそれを離す。


それで、また、愛してるとキスをされ、好きと言ってキスをする。




私のお腹の時計が、小さくタイムリミットを告げるまで、この幸福で甘い時が続く。


こんな、私達の、お休みの日の朝。


























END.


超ショート、超甘い。
砂糖は小さじ一杯。と言われた所に砂糖一袋丸ごと入れたような。
更にそこに練乳を混ぜて蜂蜜で煮込んだ様な。
兎に角幸せで胸焼けがする様な克克。短編での彼らはいつも砂糖で出来ている。

こんな短い話なのに、多分連載10話分の甘味分を凝縮してもここまで甘くならない。
ってくらい甘い。良い事だ。(逆に連載はもっと甘味があって良いくらい甘く無い)