「あら燕ちゃん、お弁当?」
「え・・・あ、は、はい」


今日は、赤べこの定休日。

それにも関わらず、燕は台所である物を作っていた。


彩り豊かな、弁当である。















『恋は思案の外2 前編』















「珍しいねぇ。あら、だから昨日お買い物行ってたん?」
「は、はい・・・」
「うふふ。誰にあげるん?弥彦君?」
「い、いえ。あの・・・えっと・・・」
「あらぁ、他に・・・誰か?」
「え、えっと・・・は、はい」
「そうやったん?」

妙が、意外そうに呟く。



彼女が手料理を贈る相手なぞ、弥彦くらいしかいないのに。



それでないとするなら、誰だろうか。

剣心か。

それも違う。

薫か、佐之助か。

それでも、彼女が手料理を渡す相手ではない。


妙は、首を傾げた。


「あ、あの・・・ちょっと、出掛けても良いですか・・・?」
「ん?勿論ええけど・・・お弁当渡す人?」
「は、はい」
「そう・・・ん、ええよ。行ってらっしゃい」
「い、行って来ます」


燕がエプロンを外してから弁当を包む。

そして、にこやかな笑顔に見送られながら、赤べこを後にした。














「え、いらっしゃらないんですか・・・?」


燕が向かったのは、警察署。

彼女が弁当を作ったのは、先日の礼を斎藤にする為だった。

勿論、彼は拒否するかも知れないが・・・

何もしないよりはマシだと、彼女にしては珍しく行動に出たのだ。


・・・が


「ああ、今は昼を取りに出ていらっしゃるぞ」
「そ、そうですか・・・あの、何処へ行かれたかは・・・」
「さぁな、蕎麦屋辺りにいるんじゃないか」
「わ、わかりました・・・ありがとう御座います・・・」


生憎、斎藤は不在。


しかも、昼を取りに行ったらしい。




弁当を作ったのが、無駄になってしまった。






「・・・・お蕎麦屋さん・・・・」






燕が、弁当箱を持って呟く。


そのまま俯きながら歩いていると、トンっと誰かにぶつかった。


「あ、ご、ごめんなさい!」
「おっと、すまんでござるな、拙者も余所見をしていて・・・」


慌てて顔を上げると、そこには赤べこ常連の剣心。

見知った顔だったので、燕はほっと頬を緩めた。


「おろ?燕殿・・・いつもの着物ではないのでござるな」
「あ、はい・・・今日は、お店がお休みなので・・・」
「おお、そうでござったか。・・・それで、そんな荷物を持って、何処へ?」
「え・・・えっと・・・」


剣心の質問に、燕はもじもじと俯く。

そして、答えをゆっくり待つ剣心に、ポツリポツリと訳を話した。


「その・・・お礼がしたくて・・・」
「礼?」
「先日、お巡りさんに、助けて頂いたんです。その、お礼を・・・」
「ああ、なるほど。それで警察署の方から来たのでござるな」
「は、はい。・・・でも、お巡りさんが、いらっしゃらなくて・・・」
「それは残念でござったな」
「はい。でも・・・何処へ行ったかは聞いたので・・・今から」
「そうか。それは引き止めて悪かった。なんだったら送ろうか」
「で、でも・・・」
「構わぬ。もし何かあったら大変でござろう?」


柔らかい申し出に、燕は少し考えたが、コクリと頷く。

それに、剣心が笑いながら歩みを促した。


「さぁ、行こう。それで、その警官は何処に?」
「えっと・・・お蕎麦屋さんにいると・・・」
「蕎麦屋・・・でござるか・・・この辺では、そこの角の店でござろうか」
「た、多分・・・」
「そうか。では、行こうか」
「はい・・・」


並んで、歩く。


燕はもう一度、手にある弁当の包みを見た。





「それで、警官の名はわかるのでござるか?」


ゆっくり歩きながら、剣心が燕に問う。

燕はその質問に、ふるふると顔を振った。


「おろ」
「わからないんです・・・なので、特徴だけで・・・」
「特徴・・・そんなに特徴のある者だったのでござるか」
「はい」
「ほぅ・・・」


特徴のある警官。




そう言われて真っ先に思い当たるのが、あの男。

新撰組三番隊隊長だった、奴。




「・・・まさか、な」
「え?」
「ん?ああいや、何でもないでござるよ」


だが、彼が燕と関係があるとも思えない。

剣心はすぐに自身の答えを打ち消した。


「しかし、燕殿も優しいのでござるな。わざわざ礼を用意するなど・・・」
「いいえ・・・私、その・・・たくさんご迷惑をお掛けしたので・・・」
「だが・・・」
「け、怪我の手当てもして頂いたし・・・歩けない私を運んで下さったり・・・
 その・・・・私が泣きやむまで、一緒にいて下さったりして・・・」


燕の顔が赤らむ。

それを見た剣心は、彼女がほのかな想いをその者に寄せているのだと思った。

あぁ、コレは弥彦が可哀想だ。とも。


「そうでござったか」
「は、はい」
「ふむ・・・・お。あそこの蕎麦屋でござるかな」
「あ・・・」


話しながら歩いていると、すぐにその蕎麦屋へと辿り着いた。


だが此処からでは、中にその警官がいるかはわからない。


「ここからではわからんな・・・」
「あ、あの・・・」
「ん?」


顎に手を当てて思案する剣心に、燕が控え目に声を掛ける。


「えっと・・・あの、この辺りで、大丈夫です、その・・・ありがとう御座いました」
「ああ、いや、拙者は構わぬが・・・大丈夫でござるか?」
「はい。もうお店も目の前ですし・・・」
「そうか、わかった。ではまた店にも顔を出す。妙殿にも宜しくと伝えて欲しい」
「はい。お待ちしてます」


剣心が手を振り、その場を後にする。


燕もそれに一礼し、クルリと蕎麦屋へと顔を向けた。








だが、入る勇気が無い。








何せ、蕎麦を食べに来た訳でも無いし、客としては入れない。

だがそれだと単なる冷やかしになってしまうし・・・

それに、中に探している警官がいるかどうかはわからない。

いたとしても、蕎麦屋に弁当を持って入るのも如何なものか。



グルグルと、燕の頭の中でマイナスな思考が働く。



そのまま、弁当を持って右往左往していると、ガラリと蕎麦屋の戸が開いた。










「あ」










そこから出て来たのは、探していた警官の姿。


思わず燕が、小さい声を漏らす。


向こうの警官・・・斎藤も彼女の存在に気付いた様で、相変わらず無表情のまま問い掛けた。


「お前は・・・燕だったな、そんな所で何をしている」
「え、えっと、あの、その・・・えと・・・」
「?」


突然問い掛けられ、燕が口をパクパクとするが、言葉が出て来ない。

顔は真っ赤になるばかりで、頭が混乱している様子だった。

だが斎藤はそんな彼女に構わず、手に持っている物を見る。


「何だそれは。誰かへの荷物か」
「えっ・・・えと・・・そ、その」
「・・・で、何だ。蕎麦屋に用事か」
「いっ、いえっ。お蕎麦屋さんじゃなくて・・・」
「?・・・じゃあ何だ。まさか、俺にだとか言うんじゃないだろうな」
「えっ・・・そ、その・・・っ」


燕があわあわと視線を逸らす。


別に斎藤は怒っている訳では無いのだが、燕には不機嫌だと取れたらしい。


待っていた自分が悪い様に感じられて、思わずバッと頭を下げた。






「す、すみませんでしたっ!!」
「?!」






斎藤が驚く間に、燕は弁当を持ったまま脱兎の如く駆け出してしまった。


ハッと斎藤が止めようと思っても、もう彼女の姿は消えた後。







「?・・・何なんだ、一体・・・」







斎藤は1つ首を傾げると、煙草を取り出し、口へと銜えながら考え始めた。





























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UPした後でおかしい表現に気付き訂正。
まったく、コレだから眠い時に書くとダメなんだよね。