「っだー!!!もう我慢出来ねぇ!!!」
「へっ?」


西域国王の、久方ぶりの『人間の頃の様な』叫びに、小兎が間の抜けた声を零す。

何が我慢ならないのか。
と言うか、普段割に静かな仮面を被る夫の突然の叫びは何なのか。

疑問符を盛大に頭上へ浮かべながら首を傾げると、国王、夫である幽助と眼が合う。

その眼は、随分と不貞腐れていた。


「ゆ、幽助さん?」
「・・・小兎」
「は、はい」


静かな声で名を呼ばれ、小兎が肩を揺らしながら答える。

一体、何を言われるのか。自分は何かしただろうか。


緊張感を張り巡らせながら、幽助の次の言葉を待つ。


「・・・一体いつまでお預けなんだよ」
「・・・え?」


しかし、何だかかなり予想外な言葉。

それを子供の様に拗ねた声で寄越されては、またしても間抜けな声をあげるしかない。

お預け?何の事だろうか。


「あ、あの、それって・・・?」
「・・・1つ聞くけどよ、俺等って、暫く2人の時間が無かったよな」
「は、はい、そうですね」

幽助は会議で忙しい。
何せ西域国王である身なのだ。
雷禅はもう隠居すると言い、要塞で穏やかに過ごしている。
となれば、政治は主に幽助が行わなくてはならず、多忙な日々を送っていた。

こうして2人きりで過ごせるのも、数ヶ月ぶりである。

「よーやく休暇が取れて・・・今日で3日目」
「そうですね、楽しい時間は早く過ぎてしまいます」
「そうだよな。でもさ、俺、ひとっつだけ不満があるんだ」
「はい?」

小節を入れながら幽助が言う。
小兎は、皆目見当がつかぬ様子で、大人しく夫の言葉を待った。




「なんでお前、夜になると別の部屋で寝るんだよ!!?」




シン・・・と、怒声に似た声の後に、奇妙な静寂が訪れる。

暫く言葉の意味合いを把握しかねていた小兎だったが、次第に顔を赤く染め上げ始める。

そして、湯気が出そうな程赤く顔を火照らせると、アナウンサーにあるまじき度盛りぶりで弁解を始めた。


「だだだ、だって、そ、そのっ、ひ、久々過ぎて、は、恥ずかしい・・・!」
「何が恥ずかしいんだよ!!折角その気でいたのに、肩透かしも良いトコだぜ!!」
「そ、そんな事言われても〜っ!!」


わたわたと慌てながら言う小兎に、幽助が盛大に溜め息を吐く。

いや、まぁ、わかってはいた。

昼間は嬉しそうに隣に寄り添って、他愛ない話で盛り上がるのに。
夜になると、早々に、おやすみなさいと言って別室に移ってしまう。

コソコソと、逃げる様に。
顔を可愛らしくピンクに染めながら。

きっと彼女の性格、恥ずかしいのだろうと、思ってはいたのだ。


けれど、自分だって男である。

愛しい妻との、久々に訪れた二人きりの時間。

昼は他愛ない話で盛り上がり、夜は夫婦としてそれなりの愛を確かめ合いたい。


ただでさえ数ヶ月ご無沙汰である。

自分も、まだまだ若い。

期待していた心と身体は、予期せぬ妻の拒否に、相当なショックを受けているのだ。


「良いじゃねぇか、初めてって訳でもねぇんだし!!」
「で、でも、なんだか恥ずかしいですし・・・」
「最初だけだってのンなの!何度もしてりゃ慣れるって!!」
「な、何度もですか!?」


一度じゃないのか。と、驚き愛らしい眼を見開く小兎に、何を当たり前な事を。と幽助が睨む。

その眼に、また、小兎は恥じらいを覚えたのか、もじもじと俯いてしまった。


「・・・やっぱり、恥ずかしいです」


小さく、ぽそ。と呟く小兎。

それでも、そこに微かな迷いを見て、幽助がよしと意気込む。


彼女だって、別に幽助との営みが嫌な訳ではない。

ただただ、猛烈に恥ずかしいだけで。

きっと、互いに触れ合ったら、恥ずかしくて、訳がわからなくなってしまいそうだ。


でも。


小兎としても、やはり数ヶ月ぶりの時間。

・・・触れ合いたいと言う想いと、恥じらいが、鬩ぎ合う。


それを見抜いて、幽助が少し低い声を出しながら、優しく囁く。


「・・・なぁ。恥ずかしいなら、電気だって消してやる。なんだったら、眼瞑ってたって良い」
「は、はい・・・」
「・・・そんだけ、限界なんだよ。・・・折角好きな女と一緒にいるのに」
「・・・・・・」


照れて顔を上げない小兎の耳に、幽助が口元を近づける。




そして、意図して掠れた声を低くしながら、普段滅多に出さない甘い声で言う。




「・・・お前が、抱きたい」




小兎の口が、何かを言いたげにパクパクと動くのがわかる。

俯いていて見えないけれど、こう言った時、彼女がどう言った行動を取るか。


・・・一番知っているのは、幽助だ。


耳元に置いていた唇をそのまま滑らせるように、オレンジの髪に押し当ててやる。

すると、小兎の身体から力が抜け、ついでと言う様にその愛らしい顔がコクンと頷いた。

本当に小さい、小さい、肯定。



それを受けて、幽助が愛情に満ちた軽い笑みを浮かべながら、彼女の柔らかい身体を腕に収める。



「今日は寝れると思うなよ」
「う・・・あんまり、何度もはダメですよ・・・」
「なんでだよ。ここ数ヶ月分プラス3日分だ」
「えぇ!?な、何回するんですか!!?」



慌てる小兎をキスで黙らせて、腕に抱いていた身体を素早く抱き上げる。

突然宙に浮いた自身の身体に恐怖し、竦みながら幽助へと縋る小兎。

その眼は、戸惑いに揺れながら幽助の顔を見つめていた。


「あ、あの・・・?」
「そうと決まったら、さっさと行くぞ」
「え?・・・あ、の・・・まさか、今から・・・」
「・・・誰も、”今夜”なんて、言ってないだろ?」
「そ、そんなぁ〜〜っ!!」


ようやく、『普段の国王』の、静かな笑みを浮かべて、幽助が言う。


しかし、その足は静かでありながらも速く。


向かう先は、国王と妃の、久しく2人で使われなかった寝室。



「ま、ま、待ってください、幽助さぁあ〜〜んっ!!!」



幽助の叫びが無くなった代わりに、今度は小兎の悲鳴が。


しっかり閉じられた寝室の向こうから響き渡った。























END.


突発幽兎。
チルドレン拍手絵を描いていたらなんとなく。
やっぱりこの2人はほのぼのイチャイチャラブラブで。
本当は営みシーン描写ありで裏に展示しようかと思ったのですが・・・
どうにもこっ恥ずかしく、コメディ調で終了。意気地なし!!
やはりラブラブエロシーンは描けない。描くなら陵辱物に限る。(この2人で陵辱物は嫌だ)