明日は休みだ、と気分が嫌でも弾む金曜の夕方。
平穏は予期せぬ訪問者に破られた。
『邪眼師のお泊り-前編-』
「ふお!?」
突然、部屋の窓がガラリと開いた。
いやおかしいだろ、窓が突然開くかよ!ここ5階だぜ!?
泥棒?ガッツありすぎんだろ何で5階の部屋選んだんだよ。
それとも心霊現象でも起きたんだろうか。マジやめて。妖怪だけでお腹いっぱい。
そんな事を一瞬の内にバーッと考え、突然の出来事に固まったまま窓を見る。
「・・・あ、れ?・・・飛影君?」
開けられた窓。
ベランダになっているそこに立っていたのは、黒い服に黒い髪、そして赤い目の男の子。
・・・飛影君だ。
「・・・どーしたの、飛影君・・・」
「別に、用は無い」
武術会で知り合った彼。
何だか南野とは昔からの知り合いのようで、まぁ、悪い子じゃない。
つか、良い人。うん、俺はかなり飛影君に感謝している。
何故なら以前妖怪に襲われた所を、彼に助けて貰ったからだ。
その日から、何だかんだ交友が続いてる。
俺が学校の屋上でサボる時には大抵来るし。来て何する訳でも無いけど。
ポツポツ取り留めのない話をしたり、一緒に昼寝してみたり。
時には俺の昼飯を横取りしたり。うん、これはやめて欲しい。
一度南野の手作り弁当だった時はその事を説明したら一切食べようとしなかった。
飛影君曰く『よくアイツが作った飯を警戒心無しに食えるな』と言われた。
え、美味しいよ?と言ってみたら、そうじゃないと言われた。どう言う事だかいまだに不明だ。
んで、妖怪から助けて貰ったお礼に、飛影君が好きだと言ってたもんじゃ焼きを奢ってからは
ちょくちょく一緒にご飯とか食べ行ってる。南野が部活の日とか、飛影君が食べたいって言った時。
そんな訳で、あの武術会で知り合った面々の中では一番仲の良い飛影君・・・。
・・・なんだけど・・・。
こんな風に突然家に来られるのは、流石に始めてだ。
てか、俺の家何で知ってんの?あれ?教えた?いや教えてない。
まぁ邪眼で探せば一発なんだろうけど、そこまでするか?
だって今、飛影君、用は無いって言ったし。
飛影君が何故此処にいるのかいまいちわからず、ぼーっと彼の姿を眺める。
と、飛影君が何も言わず、遠慮も無く、ズカズカと部屋に入って来た。
・・・土足で。
ちょぉっとストップーー!!
「ちょちょちょ、飛影君!靴!靴ダメ!脱いで!」
「うるさい」
「いやいやいやいや、ここ日本なの、欧米じゃないの!土足厳禁!ホラ!」
脱がないと俺が脱がすぞ!と言うと、飛影君はこれ見よがしに舌打ちして立ち止まる。
そして、ちょー面倒そうな感じで靴を脱ぐと、ベランダに放った。
何て投げやり。・・・まぁ、脱いでくれたから良いか・・・。
飛影君が閉めてくれなかったので、自分で立ち上がって窓を閉める。
その間に飛影君はさも当然のようにベッドに座っているので、もう一度此処に来た訳を聞いてみた。
「いやぁ、それにしてもどーしたんだよ、用無いんだろ?」
「フン。偶々近くを通った際、貴様の間抜け面が見えたから寄っただけだ」
「・・・目、良いね、飛影君・・・」
間抜け面と言われたのはまぁ置いておこう。飛影君はいつだって一言多い。
確か武術会でも桑原君にいちいち突っ掛かってた気がする。
その言動から、とんでもなく捻くれた子なのかと最初は思ってたけど・・・。
・・・飛影君、意外と素直なんだよなぁ。
南野に言わせりゃ、『それはにだけだよ。珍しいよ素直な飛影なんて。何があったの?』と
逆に心底不思議そうに聞かれてしまったくらい、普段は捻くれてるらしいけど。
うーん・・・一緒に飯行こうって言えば行くし、俺は辛辣な事あんま言われないしな。
今みたいに間抜けとかは言われるけど、その他は特にない。普通に会話するし。
何せ妖怪に襲われたら助けてくれたくらいだから、それなりに好意的だとは思うけど。
まぁ、そんな素直な飛影君だから、多分本当に用なんて無いんだろう。
偶然俺を見掛けて、此処が俺の部屋だとわかったから興味本位で来たみたい。
・・・それならそれで、別に良いんだけど。
・・・そう言えば。
飛影君は確か、決まった場所に住んでないと聞いた。
てか、元々人間界に住んでる子じゃないから、住所不定なのはしょうがないのかな。
前に気になって聞いたら、大体公園とか廃ビルとかで寝てるって言ってたし。
だからご飯誘うと毎回しっかり付いて来てしっかり食う。普段あんま食べてないのか?
今はまだ6時だ。
俺もコレから飯か風呂か。と言った具合。
・・・うん。
「なぁ飛影君」
「何だ」
俺のベッドで超寛いでる飛影君に声を掛ける。
そうだ、折角来てくれたんだし、飛影君さえ良いなら。
「飛影君、俺のトコ来てる時間あるって事は、特に他に用事ないんだろ?」
「・・・ああ」
「じゃあさ、俺ン家泊まってきなよ。外で寝るより良いだろ」
「・・・何だ、突然」
俺の提案に、飛影君が軽く首を傾げる。
そうしてるとマジで中学生、下手したら小学せ・・・いや、やめとこう。
「良いじゃん、折角だしさ、親睦を深めよーぜ」
「いらん」
「えー・・・何だよ、飯出すぜ?な?」
「・・・」
飛影君は答えない。
いやぁ、折角武術会以降仲良くなりつつある訳だし。
南野曰く既に相当仲良しらしいんだけど、もっと友達!みたいな感じでも良いだろ。
どーかなー。嫌かなー。
と思いながら黙ったままの飛影君を見てると、不意にフンとソッポを向いた。
「ん?」
「・・・好きにしろ」
「お、そー来なくちゃ!」
やっぱり素直な飛影君にガッツポーズで笑いながら、そうと決まればとドアへ向かう。
「何だ」
「お袋に飛影君の分の飯も用意して貰うんだよ、一応、友達来たって言っとかなきゃな」
「・・・誰が友達だ」
「俺と飛影君」
「・・・フン」
心外だ。とでも言う風に問われたので、超笑顔で答えてやった。
飛影君は何だか居心地悪そうに鼻鳴らしてたけど、照れ屋さんめ。
そんな様子に笑いながら、大人しくしてろよー。と言い残し、
お袋に窓からの訪問者の存在を知らせにリビングへと急いだ。
窓から友達が来たと言っても驚かないお袋は流石だと思う。
そんな遺伝子流れてるから俺も南野が妖怪だって知ってもへー。ってな感じだったんだろう。
意外な所で血の繋がりを感じながら、お袋に出して貰った俺のお古の服を持ち部屋に戻る。
飛影君の服は洗濯するつもりだし、今の俺の服じゃサイズ合わないし。
中学の頃のシャツとジャージを出してみた。コレなら大丈夫だろ。
「お待たせー」
「遅い」
部屋では相変わらずベッドにどっかり座ってる飛影君が、大人しく待ってた。
辺りを物色した形跡もないので、本当にそのまま待ってたんだろう。
うん、やっぱりものすごーく素直な気がする。
「・・・で、何だそれは」
「ん?コレ?飛影君の服」
「?」
「夕飯出来るまでまだ結構時間あんだ。だから先風呂入っちゃいなよ」
丁度沸いてるし。一番風呂譲っちゃうぜ。
「・・・そんな物はいらん」
「いらんじゃないってば。まだまだ朝晩冷え込むぜー?折角だしさ、な?」
「・・・おい、貴様、引っ張るな」
「はいはい、風呂こっちなー」
お決まりの「いらん」を返して来た飛影君に構わず、腕を引っ張って風呂場まで案内。
本当に嫌で仕方ないなら振り払うなり何なりするだろうし。
結局引っ張られるまま来たって事は、ただ面倒だっただけなんだろう。
風呂場に着き、飛影君の替えの服を籠に入れる。
そして脱いだ服は全部洗濯機に入れてくれよー。と告げ、そのまま脱衣所を出た。
飛影君は何も言わなかったけど、大丈夫かな。
いや、武術会のホテルには、ちゃんとシャワーがあったんだ、使い方はわかるだろ。
出たら服と一緒に置いたタオルで拭くようにと付け加え、飯の出来具合を聞く為リビングへと向かう。
すると廊下で、出かけようとしていたお袋と鉢合わせた。
・・・あれ?夕飯は?
「お袋、どっか出かけんの?」
「うん、お友達が来たなら、ちょっと豪華にしようと思って!」
「あー、そっか、ありがと」
「いいのよ、ちょっと足りない材料買って来るだけだから、すぐ帰るわ」
「はいよ、いってら」
行って来まーす。とお袋が手を振りながら外へ出て、ドアを閉める。
ガチャン。とドアが閉まった音。
・・・と、ほぼ同時に、風呂場からデッカイ声が聞こえて来た。
「!おい!ちょっと来い!」
「へ!?ななな、何だ!どうした飛影君!」
飛影君に呼ばれ、何事かと風呂場へすっ飛ぶ。
よっと。と風呂場へのドアを開けると、そこにはずぶ濡れの飛影君。
・・・いやまぁ、風呂入ってたからずぶ濡れで正解なんだけどさ。
一体何事かと問い掛ける・・・前に、目に入った物があった。
「・・・何で取ったの、それ」
何故かシャワーのヘッドが取れ、飛影君の後ろでホース状のシャワーが踊ってる。
しかもヒンヤリとした空気が伝わってきたって事は、アレ多分冷水だ。
そして極め付けに飛影君が泡を纏ってる。頭だの身体だの全部。
・・・香り的に、多分、いや確実にシャンプーだ。
シャンプーで全身洗っちゃったよ!ヌルヌルだよ!!
「おい、コレは何だ。行き成り暴れ出したぞ」
「あー・・・うん、飛影君、ちょっと待ってて、俺も服取って来るから」
「?何がだ」
・・・多分飛影君1人で風呂に入らせたら、風呂場ゴチャゴチャになるから。
「・・・俺も一緒に入る」
「飛影君、風呂の感想はどーよ」
「フン、悪くは無い」
2人で無事ホカホカ湯気を出しながら部屋に戻る。
お袋は俺達が風呂入ってる最中に帰って来たらしく、料理の途中だった。
あら、2人で入ってたの?仲良しねぇ。と笑われたが、気にしない。
飛影君は超不服そうだったけど、仕方ねぇよ、風呂の無事が最優先だって。
風呂入ってる最中に聞いてみたら、飛影君は武術会の時、シャワー使わなかったそうだ。
だから勿論、普段川とかで行水してる彼が使い方を知る由も無く。
結果ああなってしまったらしい。うん、先に聞けば良かった。凡ミス。
タオルでガシガシ頭を拭きながら、今度はベッドじゃなく、床に座る飛影君。
濡れた所為か、いつもツンツン尖ってる髪はしんなりぺったんとなってる。
それに加えて俺のシャツ着てジャージはいてじゃぁ、マジ少年。南野より身長低いもんな。
髪が逆立ってないから本来の身長が良くわかる。多分150cmくらいじゃないか。
まぁ、小さくてもすんげー強いし、本人も特に困ってないみたいだしな。
てかジャンプ力もぱねぇんだから身長とかいらなくね?ってなモンよ。
と、1人で納得しながら、渡したペットボトルを飲んでる飛影君の後ろに座る。
いきなり背後に座られて何事かと思ったのか、飛影君が無言で振り向いた。
ホント目つき鋭いよなぁー、多分本気で睨まれたらチビるね。
南野の本気の睨みも超怖いけど。あれは目で殺されると思った。
「よっと」
「?」
コンセントを差し、よし。と確認。
相変わらず目で疑問を投げかけて来る飛影君に、フフンと笑い掛けた。
「今から髪乾かすから、動くなよ?」
「?・・・!?」
何が。とでも言いたげな飛影君を無視して、ドライヤーのスイッチオン。
ブオオー。と鈍い音と共に熱風が放出され、飛影君の濡れた髪に当たる。
・・・瞬間、ちょービビったのか、飛影君が反射的にドライヤーの方へ向いてしまった。
「なん・・・わぶっ」
「あっははは!だから動くなって言ったのに」
顔面に熱風直撃で、思わず笑ってしまう。
いや反応が素直過ぎるだろ。正直こうなるって期待してた面もあるけど。
ギュッと目を瞑った飛影君は、次第に慣れたのか、明らかに抗議の色を映して俺を見て来た。
「何だコレは」
「ドライヤー、熱風発生させて濡れた髪とか乾かすんだよ。ホラ、前向いて」
「・・・いらん、放っておけば乾く」
「それじゃ冷えちゃうだろ。いーから、なすがままになってなさい」
空いてる方の手で飛影君の頭を掴み、クルンと前を向かせる。
すると飛影君からまた抗議が上がるかと思いきや、すんなり前を向いてくれた。
それから、こっちを向く様子も止めろと言う様子もない。
さっき風呂の感想を聞いた時も『悪くない』って言ってたし。
あったかいのとか、結構好きなのかも知んないな。
ホラ、飛影君て火の妖怪?らしいし。何か良くわからんけど。
そんな事を考えながら、大人しくなった飛影君の髪にドライヤーの風を当てる。
反対の手でワシャワシャ髪を解しながら乾かしてやれば、徐々に逆立つ黒髪。
すげー、形状記憶合金みてー。
乾くとすぐあの髪型戻るんだな。超頑固な癖っ毛。
しかもシャンプーにコンディショナーにトリートメントとバッチリやってやったから
艶ってるわー。サラサラになった筈なのに何でこう綺麗に逆立つんだか謎過ぎる。
軽く頭皮マッサージとかしながら、大分乾いた髪越しに飛影君の様子を見る。
・・・ちょー大人しい。寝てる訳じゃないんだけど、大人しい。
多分こんなん、南野とか浦飯君とかが見たらびっくりすんだろーなぁ。
ちょっと見せてやりたい気分。
そんな事を思ってる間に飛影君の髪も乾き、よしとドライヤーを止める。
すると飛影君がはたと気づいたように顔を上げ、こっちを向いて来た。
「・・・終わったのか」
「おー、ばっちしよ」
「フン」
それだけ言うと、すっくと立ち上がり、何処かへ一直線に向かう。
ん?と思いながら、俺も自分の髪にドライヤーを当て始めると、飛影君が何かを持って戻って来た。
あ。漫画だ。
さっきから気になっていたらしく、ちゃんと1巻を持って来ている。
つか飛影君、漫画読むのか?意外ってか、何処で読んでんだ。
とか思ってたら。
「うお!」
飛影君が座った。
いや、座るのは良いけど。
・・・何で俺の膝?
・・・良いんだけどさ、何か弟出来たみたいで楽しいし。
弟は兄貴の膝に座って漫画読むのかって言われたら多分否定するけど。
飛影君て、俺の事お兄ちゃん的な感じで思ってるとか?甘えちゃう的な?
「動くな、椅子」
あー、椅子扱いですね!オーケーオーケー、アイシーアイシー。
ちっくしょう人がドライヤー掛けてっからって!
俺がさっきから飛影君を好き勝手弄繰り回してる腹いせだろうか、仕返しだろうか。
何にせよ、胡坐を掻いた上に座られてんで、逆立った髪の毛が邪魔だぜ!
そんな俺の心の叫びにも構わず、飛影君はパラパラと漫画を読み始める。
その漫画面白いけどね。
そりゃもう南野や飛影君達みたいな超能力武術の達人達の戦うお話ですよ。
少年漫画の王道だね、高校生の男の子が力に目覚めて仲間達と戦いの渦中へ・・・みたいな。
うんうん、と思っていると、不意に、ベッドの上の携帯が光ってる事に気づいた。
何だ、メール着てたのか。
誰かな?と思い携帯を開くと、南野だった。
『今日一緒に帰れなくてごめんね、今度埋め合わせするから』
と言った、まぁ普段通りの内容。
今日は何だか部活の緊急会議とかってんで、一緒に帰れなかったんだよな。
早く終わる日は俺も待って一緒に帰るんだけど、今日は何時に終わるかわかんないっつってたし。
飛影君も、昼休みにも帰りにも来なかったから、1人で何処にも寄らず帰っちまったんだよな。
そんなに気にしなくても良いのに。
いや、もしかして一緒に帰りたかったって思ってくれてんのかなー。
なんてニヤニヤ浮かれながら返事を返そうとして、思いつく。
今の状況、送ってやろーっと。勿論飛影君に無許可で。
漫画に夢中な飛影君を見て、心の中で笑う。
さーて、信じてくれっかなー。どんな反応すっかなー。
『気にすんなよ、また月曜一緒に帰ろうぜ。
それよりさ、今飛影君が家に泊まり来てんだ!
一緒に風呂まで入っちまったよー。
今は俺の膝に座って漫画読んでるよ。飛影君て甘えたなんだな』
ふふふ。さぁ、どんな返事が来るかなー。送信!
いやー、こう言う相手の反応が楽しみな時って、返事来るまでの間ワクワクしちゃうな!
突然ニヤニヤ笑い出した俺に、飛影君が訝しげに振り向く。
「・・・何を笑っている、気色悪い」
「へ?いやいや、何でも。なぁ、その漫画面白いだろ?」
「フン、下らん内容だ」
「何だよー、俺けっこー好きだぜ?特にホラ、コイツ!すげー強くてさー」
「・・・この程度、俺の敵ではない」
「漫画のキャラと張り合うなって」
そりゃ飛影君強いしさー。と笑いながら返す。
と、携帯が着信を告げる音が聞こえ、ドライヤーを止めた。
・・・あれ、メールじゃなくて電話だ。
南野から電話が来て、飛影君との会話を切り上げ携帯に出る。
「はいよー」
『ちょっと!今のメール何!?冗談じゃなくて!?』
あ、やっぱり!そうそうこの反応、良いねー。
南野の心底驚いた声が携帯の向こうから聞こえ、腹を抱えて笑いたくなる。
・・・まぁ残念ながら飛影君が膝に乗ってるから出来ねぇんだけど。
飛影君は南野の声が聞こえて一瞬反応したけど、すぐに漫画に集中し出した。
・・・思いのほか気に入ってらっしゃる?
『!?』
「あぁ、ホントホント、今も漫画読んでるし」
『な、何がどうしてそうなったの・・・君、対飛影専用のフェロモンでも持ってるの?』
俺はマタタビか。
飛影君相手にそんなん持ってても嬉しくねーわ!
「いやなんか、暇だから来たっぽい。で、折角だから泊まっちゃうー?みたいな」
『・・・飛影が君に懐いてるのは知ってたけど・・・此処までなんて』
「そんな深刻な」
『深刻も深刻!・・・だって私、まだの家、泊まった事ないんだよ?』
「そそそ、そりゃそーだろ!」
俺達まだ清い仲!しかも高校生!
お泊りなんてそんなアレよオメー、若い男の子には毒!
まだ一線越えるにゃ早いだろ!?越えても良いなら喜んで越えるけど!
いや嘘ですすみません!
『私より飛影と仲良くなってるんだねー・・・ふーん・・・へー・・・』
「・・・あれ?南野さん?」
何か話が変な方向に。
『カ・ノ・ジョ・の私すら、の家に行ったの数える程度なのになぁー』
「い、いや、飛影君だって今日初めて来たし・・・」
『ふーん、まぁ、良いけど。・・・今度、の家泊まり行っちゃおうかなー』
「へ!?」
『彼女差し置いて、飛影とそーんなに仲良くなってるなんて、何か悔しいなぁー』
「み、南野さーん?もしもーし?」
拗ね出した?え?おかしい、相手飛影君だぜ?
・・・それとも、もしかして俺に嫉妬?飛影君と仲良くしたいとか?うっそー。
それはそれでショック!でもどっちだかわかんないトコが怖い!
『・・・あ、母さんがご飯出来たって呼んでる。じゃ、また月曜ね。
明日また、飛影の様子教えてよ。どんなお泊りだったか』
「お、おう・・・」
『私もそれ参考にして、の家に泊まりに行くから♪じゃあおやすみ』
「はい!?ちょ、え、南野!?」
・・・切れた・・・だと・・・?
・・・アレ、俺の期待した反応と違う方向に話が行ったきり戻らなかったぞ?
てか参考って何参考って!何を参考にするの!?
お前も膝の上乗るとか言い出すの!?風呂一緒に入るの!?俺の理性が弾け飛ぶ!!
そして結局どっちに嫉妬してたの南野さん!?
「・・・南野ぉー・・・」
「うるさいぞ貴様」
「えー・・・だってさぁー・・・」
微動だにせず漫画を読み続けてる飛影君に突っ込まれ、うーと唸る。
ついでに飛影君の手元にある漫画を覗き込むと、もう半分くらい読んでいた。
やっぱ気に入ってるだろ。それ。
コンコン。
部屋のドアがノックされ、飛影君と揃ってそっちを見る。
ドアは開く事はなく、一枚の扉越しにお袋の声が聞こえた。
「ー、飛影くーん、お夕飯出来たわよー」
「あ、はーい」
お袋から夕飯の時間を知らされ、握っていた携帯を置き、くーと伸びる。
そして飛影君の手から漫画を取り上げると、ちょっと不満そうな顔で見られた。
「・・・」
「ちゃんと栞挟むよ、今は飯だ飯!腹減ったろー?」
「・・・フン」
やっぱり気に入ったらしい漫画を素直に諦め、飛影君が立ち上がる。
それに続いて立ち上がろうとしたら足が滅茶苦茶痺れてた。
胡坐とは言え、流石にずっと飛影君を膝に乗っけてたからな!
「いってぇ〜・・・痺れた・・・」
「フン、軟弱な奴」
何だと、誰に所為だ!
と言ってやろうと思ったら、既に飛影君はリビングへと向かっていた。
・・・ホントに椅子扱いだったんだね、俺。
NEXT.
飛影のお泊り。
武術会で知り合う→その後妖怪に襲われた所を助けられる→仲良しみたいな流れ。
主人公は飛影の友達と言える数少ない(と言うか唯一の)存在。
飛影も主人公に懐いてます。何故か。
そして南野がヤキモチ焼きます。ぷぅ。