「さ、召し上がれー」


おお、今日の飯は豪華だ。








『邪眼師のお泊り-後編-』








「おー、ハンバーグシチューだ」

しかもハンバーグがでかい。
生クリームが垂らされたシチューが美味そう。

腹も減りまくって背中とくっつきそうだった事もあり、気分上がっちゃうね。

「ホラ飛影君、座って座って」
「・・・」

俺の隣の席に無言の飛影君を座らせて、夕飯を勧める。
そう言や飛影君とはもんじゃ焼きは良く食べ行くけど、ファミレスは行ってないなぁ。
今度連れてってあげようかな。お子様ランチとか勧めたら殺されそうだけど。
まぁ肉類は嫌いじゃないだろ。だからハンバーグも大丈夫な筈。

「いただきます」
「はい、どーぞ」

手を合わせて食べ始める。
飛影君は勿論無言で食べ始めた、さすがだぜ!
もんじゃ焼きなんつーモン食べてるくらいだから、一応フォークとか箸は使えるらしい。
あんま丁寧にフォークとナイフ使ってお上品に食べる訳じゃないけど。
ちゃんと食べてるから良いだろ。俺だってテーブルマナーなんか知らない。
第一俺ん家だしな、手掴みとかやらない限りは別に驚かない。


黙々とハンバーグを食べる飛影君。

相変わらず食べるスピードが速い。いつもお腹空かせてるのかな。

熱そうな湯気がほこほこ立つハンバーグを冷ます事もせず口に入れる。


「・・・何だ」


あんまりにもじーっと見過ぎた為か、飛影君が手を止めて俺を訝しげに見て来た。

「あ、ごめんごめん。どうよ、美味い?」
「・・・食えなくはない」
「あははは!そりゃ良かった!」

味の感想を聞くと、相変わらずのツンツンした答え。
でもバクバク食ってるし文句も言わないし、コレは美味しいって事で良いんだろう。
こんなん桑原君とかが聞いてたらソッコー食って掛かるだろうなぁ。
俺も最初はビックリしたけど、飛影君と良く飯食い行ったり喋ったりする内に気にしなくなった。
悪気は無いんだよな、悪気は。いや桑原君辺りにはわざと辛辣な事言うけど。

「うふふ」

飛影君と俺のやり取りを聞いて、黙って見つめていたお袋も笑う。
お袋もかなり度量あるし、なんつーか、俺と同じく細かい事を気にしない性格だ。
今の飛影君の答えも全く気に障ってない事だろう。

「良かった、こんなの食えるかー!ってテーブル引っくり返されなくて」

ほーら、やっぱ。

飛影君は何となくバツが悪いのか、何も答えず食い続ける。
つーかマジはえー。俺だってまだハンバーグ半分も食ってないのに、もう無くなった。
ちゃんとスプーンでシチューを掬ってる辺り偉い。皿持ち上げて飲むかと思ってたのに。
飛影君の皿からハンバーグが無くなったのを見て、お袋が笑いながら手を差し出す。

「良かったらおかわりいる?」
「・・・フン」

飛影君は食うかと言われたら遠慮せず食う。
だから今回も勿論、鼻を鳴らしながらズイっと無遠慮に皿を差し出した。
うん、良く食うのは良い事だ。良い事なんだけどね。
飯一緒に食い行った時、俺の奢りだからってもんじゃ何玉も追加するのはやめてね。

はおかわりいらないの?」
「俺まだあるから。つか、どんだけ作ったんだよ」
「あら、男の子だからいっぱい食べるかなと思って」

間違いじゃねーけど。
多分バイキングとか連れてったらごっそり取って来そうで怖い。
今度連れてってみようかと思ったけどやめた。やっぱファミレスにしよう。

「そう言えば
「んー?」

ハンバーグを入れた皿を飛影君に渡しながら、お袋が俺に問い掛ける。
俺はサーモンのカルパッチョを取り分けながらのんびり答えた。
あ、俺が食おうとしたサーモン飛影君に取られた。おおい!それ俺のー!

「南野ちゃんは呼ばなかったの?折角なら一緒にご飯食べれば良かったのに」
「え、いやー、飛影君が来たのは突然だし、向こうもお袋さんが夕飯作ってんだろ」

実際電話してた時に言ってたし。
ああでも、南野を家の夕飯に呼んだ事ないかも。
前に南野のお袋さんに招待して貰った事はあるんだけど。
うーん、今度呼んでやるかなー、さっき何か拗ねてたし。

「・・・そう言えばさ、飛影君」
「何だ」
「飛影君て南野の家には飯食いに行ったりしないの?」
「誰が行くか」
「えー、付き合い長いって言うから、てっきり」

そしたら飛影君は超嫌そうに顔を顰めた。
え、何でそんな顔するの?
そういや前に南野の飯は食いたくないとか言ってたけど。何で?

「あら、飛影君て南野ちゃんのお友達なの?」
「そうそう、南野と前っから付き合いあるみたいでさー。
 俺も南野経由で知り合った感じだし」
「そうだったのー」
「・・・誰が友達だ・・・」

あ、怒ってる怒ってる。
でも多分南野に聞いたら『親友ですよねー、飛影?』とか言いそうだけど。
飛影君はいつでも南野の遊び道具・・・いやごめん飛影君睨まないで。

「でも俺とは友達だよなー飛影君?」
「・・・・・・」

今度は否定も肯定もしなかった。うん、素直!









結局3つのハンバーグを平らげた飛影君を連れて部屋に戻る。

マジ良く食うよな。まだ全然食えそうな勢いだった。

サーモンも超食ってたし、サラダももりもり行ってた。育ち盛り過ぎる。

浦飯君とか桑原君も食いそうだよなー、今度一緒に飯でも行きたいな。
そしたら南野と飛影君も連れてこう。ぜってー面白い。

「なー飛影君、今度さ、皆で飯食いに行こうよ」
「・・・皆?」
「俺と、飛影君と、南野とー、浦飯君と桑原君」
「却下だ」
「えー」

何故奴等と馴れ合わなくてはならん。
って超嫌そうに言う。まーたまた、誘ったら付いて来る癖にー。
でも桑原君と一緒だと喧嘩で飯食う所じゃないよな。
店にも迷惑だしな、行くなら南野か浦飯君と3人とかかな。


とか思ってる間に、飛影君はさっき読み途中だった漫画を手に取る。
あ、やっぱ気に入ってるんだね、うん。

そしてすぐ読むのかと思ったら、何故か俺の方を見てる。


「・・・何?」
「早く座れ、椅子」


・・・アレ、漫画読む時は俺が椅子になるの?何その決まり。



結局俺がベッドの上に座り、飛影君がまた俺の膝に乗っかる。


・・・懐いてるのかな、これって。ただの椅子扱いなんだけど。



そんな俺の切ない気持ちなんか露知らず、飛影君は漫画を開いて読み出す。

一応全巻あるんだけど、まさか全部読み切るまで帰らないとかないよね。

いやいても良いんだけどさ、その間ずっと椅子役とかマジ足死ぬ。

「・・・飛影君、漫画好きなの?」
「・・・まんが?」
「コレコレ、今読んでる奴」

漫画だって知らないで読んでたのか。
まぁ何となく気になってちょっと見て見たら面白かったんだろう。
南野の家とかでは見た事ないのかな?

「・・・暇潰しにはなる」
「あー、確かに。南野の家とかじゃ読まないのか?」
「アイツの部屋に長居する気は無い」

あ、そーなんだ。
いや確かに数え切れないくらいお泊りしちゃってますとか言われてもね!
俺も彼氏として泣きたくなるくらい悲しくなるから良いんだけどね!

「じゃあ飛影君、ゲームとかやったらハマりそーだよな」
「・・・げーむ・・・」
「あ、今度ね。今度やろうね」

漫画と同じく、ゲームも俺の膝に座ってやるモンだと思われたら困る。
何が困るって対戦とかやろうモンなら飛影君の髪が邪魔で見えない。
それに格ゲーとかレースゲームとかやらせたら白熱してコントローラー壊されそう。
かと言ってRPGとかホラーとかはくだらんの一言で終わりそうだりなぁ・・・。

飛影君は大して興味も無かったのか、ノーリアクションで漫画読むの再開してる。
うん、退く気は全くないみたいだね飛影君。
俺は早速足が痺れ始めてるよ。だって重いんだもん。
いくらちっちゃくても筋肉付いてるし、何よりちっちゃいっつっても150cmはある。
人間に・・・いや妖怪だけど、ともかく膝の上にどっかり遠慮なく座られたら重い。


暫くやる事もなく。
・・・てか膝に座られてて動けないから何も出来ないんだけど。
取りあえず飛影君とポツポツ漫画について喋ったりしながら時間を過ごす。

と、不意に飛影君が立ち上がった。

何事かと思ったけど、漫画を読み終えたらしい。


よし、今の内に立つ!


「・・・何だ」
「ちょっと便所行って来るー」


実はちょっとトイレ行きたかったんだよな。
飛影君に言えば良かったんだろうけど、切羽詰ってる訳でもなかったからなぁ。
まぁ折角のチャンスだし、手をヒラヒラ振りながら部屋を出る。



トイレも行ってスッキリ。

あー、部屋戻ったらまた飛影君の椅子かな・・・。

懐いてくれるのは嬉しいんだけどねー。と思いながら部屋に戻ろうとすると。


「あら、ちょっと」
「んー?」


お袋に呼び止められた。

何だ?と思いながらキッチンに行くと、ハイとプリンを2個渡される。

お。ここのプリン美味いんだよな。
スーパーの近くにあるケーキ屋さんのなんだけど。
なんつーの、ミルクの匂いが濃くてな、俺も超好き。

「飛影君、甘い物嫌いじゃなかったら良いんだけど。2人で食べなさい」
「おう、ありがと。多分平気だと思う」

わかんないけど。
てか飛影君が好き嫌いしてるのは見た事がない、今の所。
良く食うし、あんまりバリエーション豊かに飯食い行ってないけど。
万が一嫌いだったら俺が食っちゃおう。そうしよう。

あとついでに乾いたからと渡された飛影君の服を受け取った。
流石乾燥機は仕事が速いね。うん。




「おーい飛影くーん、プリン食えるー?」




上機嫌で部屋に戻り、ドアを開けながら飛影君に問い掛ける。

・・・あれ、飛影君がいない?


まさか帰った?マジでー?


「・・・あれ」


と、思ったんだけど、どうやら違ったらしい。


椅子(俺)がいなくなって漫画読むの止めたのか、ベッドに寝転がってる。

いや、横に2巻が落ちてるな。うん。


・・・そんでもって、どうやらもう寝てるらしい。


ちゃんとベッドのちょっと端に寄ってちょー気持ち良さそうに寝てる。
・・・そういや飛影君て寝るのも早いんだよな。
屋上とかでサボってる時とか、隣で寝ちゃったりするもんな。
普段あんまやる事無いみたいだから、基本寝てるのが多いんだろう。

なんだ、プリン無駄になっちゃったなー。と思いながら、2つテーブルに置く。

飛影君の服も取りあえず床に置き、よっと。とベッドに腰掛けた。


ギシリとベッドが揺れて、スプリングも軋んだけど、飛影君は起きない。


ここはまぁ敵なんかいないし、襲われる心配もないし。
だから安心してグッスリ眠れるんだろうな。
もし何かあっても飛影君ならソッコー目ぇ覚ましてバッサリやれるしね。

つってもまだ9時前なんだけど、いくら何でも早くねーか。

「・・・んー、でも、寝顔だけ見るとホント子供だよなぁ・・・」

ぐーすか寝てる飛影君の顔を見ると、あの鋭い眼光を持ってるなんて想像もつかない。
喋ればぶっきら棒だし声低いし、強いし目つき怖いし。
でも目さえ瞑っちゃえばカワイーもんだよな。
可愛いとか飛影君に言ったら首元に刀押し付けられるけど。


「・・・ふぁ・・・飛影君の寝顔見てたら眠くなってきたな・・・」


あんまり気持ち良さそうに寝てる人を見ると、釣られて眠くなるってもんだ。
たまには早くねて、明日の休日を朝早く起きて謳歌するのも良いだろう。
早寝早起き。早起きは三文の得ってな。うん。


折角飛影君が端っこで寝てくれてるので、俺もベッドに寝転がる。

第一、お客用の布団なんか置いてねーもんよ、しゃーない。

男の子のベッドは大きい方が良いだろうって事で、セミダブルのベッドだし。


おっと、電気消さないとな。


ベッドのテーブルにあるスイッチのリモコンで、部屋の電気を消す。

ついでに転がってた漫画もそこに置いて、飛影君に布団を掛けてやった。

俺も潜り込んで、ふぅと一息。


・・・あー、何か友達とこうして一緒のベッドで寝るとか超久々。


出来る事ならベッド入りながらお喋りでもしてみたかったけどね。

飛影君が爆睡中だから無理だな。今も規則正しい寝息が聞こえる。



・・・あんまりに心地良さそうな寝息だから、俺も眠気加速だわ。



9時就寝なんつー小学生もビックリな時間だけど、睡魔には勝てない。素直が一番。



眠気に任せて目を閉じると、あっと言う間に眠りの中に吸い込まれていった。











「んぉ・・・?」


朝の冷たい風を顔に感じ、意識がゆっくり浮上する。

んー。と暫くぼーっとしていると、不意に昨日の記憶が戻る。


・・・あ、そういや飛影君が泊まったんだ。


それを思い出しバッと隣を見ると、既にベッドは蛻の殻だった。


あれ、帰ったのか。いや帰るっつーか、飛影君に家無いけど。
なーんだ、朝飯も食ってって貰おうと思ったのになぁ・・・。
お袋、昨日の調子で朝飯も大量に作ってなきゃ良いけど。
まぁその場合は俺が昼飯に食おう。
いやもしかしたらまた飛影君が来るかもしんない。

服も着替えてったのか、俺が貸した服は床に脱ぎ散らかしてあった。
うん、飛影君らしいわ。この雑っぷり。
逆に丁寧に畳まれててもそれはそれでショッキングだからね、うん。


時計を見てみれば朝7時。すげぇ寝た。健康的。


飛影君が一体何時に起きたのかは知らないけど、まだベッドが暖かいから
出てって間もないんだろう。もうちょっと早く起きれば良かったな。


「・・・あれ?」


ベッドから降り、恐らく飛影君が出てったのであろう、開きっぱなしの窓を閉める。

と、テーブルの上にあったプリンとスプーンが1個ずつ無くなってるのに気づいた。


空の容器が散らばってないって事は、持ってったのかな?
流石にのんびり俺の部屋で食べようとは思わなかったのかどうなのか。
良くわからんけど、スプーンは今度返してね。


そんな事を考えながら着替えようとクローゼットを開ける。


すると、携帯がメールの着信を知らせて来た。

お。何だ何だこんな朝から。


服を手に取り、枕元にあった携帯を拾って見ると、南野。

おー、何だ、もしかしてモーニングコール?いやー、恋人からのモーニングコールかぁ。

なんて。多分違うよな、今まで無いわ、モーニングコールとか。
しかも今日休みだし、平日ならまだしも。時間も7時と言うね。

じゃあ何事?とメールを見て、思わず笑ってしまった。



『おはよう。

 飛影が突然来て空のプリンの容器見せながら『コレは何だ』って聞いてきたんだけど。

 餌付けが着々と進んでるね。』



・・・気に入ったんだね、飛影君。











後日、また飛影君が家に遊び来た時。

『今度ファミレス行こうよ。ハンバーグもプリンもあるよ』

と言ったら、

『・・・行ってやらんでもない』

って答えてくれた。


うん、今度連れてってあげよう。


例の漫画の3巻目を俺の膝に座って読んでる飛影君を見て、

足を痺れさせながら、そう思った。


























END.

結局主人公の家に入り浸る飛影。
南野のメールが若干辛辣なのはヤキモチ故。
彼女の私より飛影と仲良くしてるんだーへーふーん。みたいな。
主人公も生意気な弟が出来た気分で楽しんでます。