「あんこく、ぶじゅちゅかい?」


噛んでるし。








『狐の心配』









「ぶ・じゅ・つ・か・い」
「暗黒、えーと、武術会?」
「そ。正解」

おぉー。とが間抜け面で納得する。
いや納得してる場合じゃないんだけど。
大体、名前が言えた時点からが話のスタートだから。

おほん。と咳払いを1つしてから、相変わらずキョトンとしてるに言う。

「つまりね、この春休み中、私は武術会に出場する事になったの。
 10日間帰って来ないからね。まぁ、連絡くらいは出来るけど・・・」
「お、おう。・・・で、武術会って何するんだ?」
「・・・え?」
「い、いやさ、妖怪達が武術の腕を競い合う大会だってのは聞いたけど・・・」

具体的にどんなんだよ。と。
まぁ、最もなの疑問。
でも、言って良い物かどうか迷う。

何せ、命を懸けた戦いになるのだ。
生きて帰って来られる保障は何処にもない。
無論母さんやを残して死ぬのは不本意であるけれど。
しかし相手はそれなりの実力を持った妖怪達。
決勝には恐らく戸愚呂のチームが待っている事だろう。


血生臭い暴力が支配する大会で、命を落とすかもしれない。


・・・それを、に素直に伝えるか、迷う。


・・・けれど。


「・・・南野?」
「・・・・・・」


私は、にだけは嘘をつきたくない。

・・・いいや、嘘をつかないと、あの時誓った。

そして、危ない事をする時は、言い辛い事でも教える、と。

「・・・
「は、はい」
「私は、君にだけは、絶対嘘はつかない。・・・だから、驚かないで聞いて」
「・・・おう」

身構えるに、私もすぅと息を吸ってから、大会の主旨を説明した。









「・・・はぁ・・・なるほどー」
「・・・・・・」

結果。

わかってんのか?

と言いたくなる様な反応が返って来た。


あれ?私ちゃんと説明したよね?
妖怪達との容赦無用のデスマッチだって。
命を落とす可能性は十二分にあるんだって。
五体満足で帰って来られるかもわからない。
命があればめっけもの。と言った具合だって。

・・・が理解出来ているのか不安になり、今度はコチラから問う。

、理解出来た?」
「出来た出来た」
「・・・勿論帰って来るつもりだけど、無事に終わるかどうかわからないんだよ?」
「すげー危ねぇんだろ?」
「う、うん」

危ないどころではない。
今の自分では、戸愚呂はおろか、戸愚呂が率いるであろうメンバーにすら勝てないだろう。
せめて妖狐にでも戻れれば勝算はあるのだが・・・いや、今は関係ない。
それよりだ。

「・・・それに、言ってたじゃねぇか。何か、断ったらやべぇーみたいな」
「・・・まぁ」

ヤバイと言うより処刑されるんだってば。
流石に処刑と言う言葉は重過ぎたので、罰せられると言っておいたけど。
の脳内はどうにも能天気な様子だった。

「あとさ、仲間もいるんだろ?南野1人じゃなくて」
「そりゃあ、勿論…私の他に4人来るよ」

幽助に飛影に桑原君。
あと1人はわからないけど、幽助が連れて来る・・・らしい。
まぁ幽助と飛影は大丈夫にしても、桑原君は相当鍛えないとまず大会で通用しないし。
その助っ人も、一体誰が来る事やら。

「じゃあ勝てるって!5人もいるんだろ?」
「いや・・・全員で乱闘する訳じゃないから」
「あ、そっか」

ダメだコイツ。
まるで理解していない。

・・・確かに、平和な世界で生きていた一般人のにとっては、非現実的だし。
理解しようにも漫画の中の世界程度で収まってるんだろう。
確かにそんなような物だが、実際に命を落としかねる危険性がある点が決定的に違う。


「それにさ、でっけぇ声で応援がくりゃ、嫌でも生き延びようって気になんだろ?」
「・・・応援?」
「そ。応援」


・・・何か嫌な予感がする。
がお馬鹿な事言い出す前に先手を打っておこう。


「・・・言っとくけど、来ちゃだめだからね」
「何で!?」


やっぱりか!!


「あのね!戦う事が危険なんじゃなくて、大会そのものが危険なの!」
「お、おう」
「妖怪だってたくさん来るんだよ!?わかってるの!?」
「べ、別に妖怪だからって危ねー訳じゃないだろぉ?」
「此間妖怪に襲われて怪我したでしょ!」
「え、あ、ああ・・・そうだったねー」

大声で怒鳴ると、は焦ったように笑って取り繕う。
そんな事しても無駄だ。絶対来させない。
第一、あんな街中で、此間は襲われたのだ。
『裏切り者の蔵馬の男だ』と。
大会に来る大勢の観客は、恐らく人間のチームで参加する私と飛影を憎むだろう。
そこに、何の力もないが1人来たりしたら・・・。


・・・考えるだけで恐ろしい。
きっと、此間のような怪我なんかじゃ済まない。


「良い?絶対、絶っ対来ないでね!」
「えー・・・」
「・・・・・・来たら殺す」
「い、行きません!」

よし。
・・・と思うが、油断は大敵。
・・・・・・うーん、まぁ、チケット無いと会場には入れないし。
まして交通手段も限られているから大丈夫だとは思うが。
それでも不安が拭えないのは何故だろう。


「・・・はぁ・・・」
「・・・」


本当、には心配掛けたくない。
だから武術会の事だって、誤魔化したかったけど。
それでももう、彼に嘘はつかないと決めたのだ。
・・・けどやっぱり、心配させるのは心が痛い。
100%帰って来れると言えないから、余計に。

「・・・なぁ、南野」
「ん?」
「あのさ、せめて、毎日電話くれよ。時間は気にしないから」
「・・・・・・」
「応援行けないなら、せめて無事だけでも確認したいよ。
 ・・・彼女が危ない目にあってんのにさ、何も知らない彼氏って、ダサ過ぎんだろ。
 ・・・・・・心配くらい、させてくれよ」

さっきまでとは打って変わって、真剣な眼差しでそう言われる。

・・・その声に、表情に、ぎゅっと胸が締め付けられた。


思わず、の肩に凭れ掛る。


「・・・うん、毎日、電話する。試合終わってからの方が良いね」
「そうだな、その方が安心かも」
「・・・ごめんね
「何が?」
「こんな彼女で」


妖怪でごめんね。
人間だったらきっと、こんな心配掛けなかったかな。
危ない事してごめんね。
彼女が妖怪と戦って死ぬかもしれないなんて、心配どころじゃないよね。
辛い思いさせてごめんね。
私が私じゃなかったら、は妖怪に逆恨みされて怪我する事なんかなかった。
こんな風に、不安にさせて、待たせる事なんてなかったのに。


への罪悪感で頭がいっぱいになると、彼の優しい手がそっと髪を撫でてくれた。


いつも、この手に救われる。

私が妖怪だと知った時も、母さんが倒れた時も、が怪我をした時も。いつも。


ゆっくり、自分よりも大きな手で撫でられると、罪悪感や不安が融けて行ってしまう。


「・・・なぁ、南野」
「・・・何?」
「お前は、俺に、嘘つかないでいてくれるんだよな?」
「うん、勿論」


に言われ、迷わず頷く。

私は絶対にに嘘をつかない。

例え、どんなに言い辛い事でも、どんな醜い真実でも。


私の答えを見て、は少し辛そうに目を細めながら、私に問うた。



「じゃあ、約束してくれ。・・・絶対、無事で俺の所に帰って来るって」



が、私に向けて小指を差し出す。


約束を結ぶ為の、小さな契り。


嘘はつかない。

つまり、約束は破らない。


・・・破ってしまいそうな約束は、しちゃいけない。



・・・でも。



「・・・帰って来る。絶対、帰って来るから・・・だから・・・」



そんな顔しないで。

何があっても帰って来るから。
這いずってでも、君の元へ帰るから。
だからどうか、泣きそうな顔なんてしないで。



の小指に、私の小指を絡める。

頼りない細い指同士は、離れないよう、ぎゅっと寄り添いあった。



「嘘ついたら、薔薇の棘1000本飲ますからな」
「・・・針じゃない訳?」
「お前の武器の棘全部抜いて飲ましてやる。
 ・・・もう戦ったり、危ねー事出来ないように」
「・・・馬鹿」



そんな事ならば、自分はいつだって薔薇の棘を抜いて捨ててやる。


そう言いながら、絡めた小指はいつまでも離れる事が無かった。


























END.

嘘つかない&危ない事する時はちゃんと言う。
の約束の下に暗黒武術会に参加する事を素直に告げる。
でも主人公は多分半分くらい理解してません。ダメだコイツ!
そして恐らく来ちゃいます、螢子ちゃん達と。南野さんに怒られる事必至。