自分が恋をするなんて、思わなかった。








『狐の恋煩い』








妖狐の時は、男なんてその辺にゴロゴロいた。

別に何にも興味無くて、欲求が溜まった時だけ利用していただけ。

恋愛感情なんてある訳ない。

黄泉は私に好意を抱いていた様だけど、私にしてみれば、単なる手駒だったのだし。



だからまさか、自分が男に恋をするなんて、思ってもみなかった。



しかも、人間の男に。






「おっす南野」
「え、あ、おはよ・・・」

声を掛けられ、柄にも無く緊張する。
まったく、これがあの妖狐蔵馬だと知れたら、周囲はどんな顔をするのだろうか。

「なぁ、今日数学小テストだろ?お前、山掛けとかしてくんねぇ?」

彼が話し掛けてくる用件と言えば、大抵こんな感じ。
特に色気のある話は、無い。
それでも良い。それが楽しかった。

「今更?勉強は?」
「俺が勉強するとでも思ってんのかよ・・・」
「思ってないけどね」
「けっ、南野さんには敵わないなぁ〜っ!!」

わざとらしく言う彼に、自然と笑みが浮かぶ。
こんな風に話しているけど、本当は体が震えそうな位に緊張しているのだ。
あの蔵馬が。人間の男相手に。

「お前は勉強なんざしなくても、どーせ満点だろ?」
「さぁね・・・今回は自信ないなぁ」
「ンな事言って毎回満点取ってる癖によぉ・・・」
「ふふっ・・・あ、ホラ、誰か呼んでるよ」
「あ、ホントだ・・・じゃあな南野」
「うん」

他のクラスの男子が彼を呼んでいた。

折角話していたのに・・・。なんて思ってしまう。

まぁ、仕方ないし・・・。

こんな事を考えてしまう自分が奇妙で、すぐに諦める様にしている。






彼は高校で知り合った、まだ日の浅い友達。

偶々席が近くなって、話し始めたのが切っ掛けだったかな・・・。


『俺、。宜しくな』


初めて交わした言葉はコレだけだけど。

それから色々と話していく内に、何でだろう・・・惹かれていたのかな。

良く、『人を好きになるのに理由はいらない』なんて言うけど、結構本当かも知れない。


・・・1000年以上生きて来た中で知る事の出来なかった感情を、たった16年で知ってしまった。


それを考えると、何とも微妙な気持ちになる。


でもまぁ良いか。

悪くは無いし。








「南野さん、ちょっと良いかな」
「?」

同じクラスの男子生徒に呼ばれる。
何の用だろうかと思いながら、ついて行った。



暫くして着いたのは、校舎裏。



大体、用件は見当がついた。


「あのさ、南野さんて・・・付き合ってる人いる?」
「いないけど・・・」
「じゃあ、さ・・・良かったら、俺と付き合ってくれませんか」

ほら、来た。

さてと、これがまた厄介なんだなぁ・・・。

別に断るのは造作も無い事だし、さっさとこの場を離れれば良い。

でも、自分も人を好きになっている立場だから、ほんの少し、胸が痛んだりする。


「ごめん・・・その気持ちは嬉しいんだけど・・・好きな人いるから」
「そっかぁ・・・・・・・・じゃ、仕方ないか」

少し傷ついた顔をする相手。
そんな顔をされても、好きな人が他にいるから、仕方が無い。

「悪かったな、突然」
「ううん。別に良いよ」

それだけ言うと、相手はさっさと何処かへ行った。








「で、いつまで隠れてるの?」








私がそう声を掛ければ、物陰に隠れていた人物が1人顔を出す。


「げ。何だよ、気付いてたのか?」
「まぁね」


顔を出したのは、やっぱり
結構最初の方からいたけど・・・気付かない振りした。

「悪ぃな、別に聞くつもりじゃなかったんだけどさぁ・・・」
「別に良いよ。聞かれて困る事でもないし」
「あ、そ」
「・・・・教室戻る?」
「そぉだな・・って、うっわぁ・・・次数学じゃんか」

嫌そうに言う
でも、ちょっと無理しているのがわかる。

「別に気にしないでよ」
「・・・・いやまぁ、うん、気にするって」
「何で?」
「え?いやさぁ・・・お前、さっき好きな奴いるとか言ってたじゃん?」
「・・・あぁ、うん」

言った言った。

「それが、何か意外だなぁ・・・とか思って」
「そう?」
「かなり」
「なんで?」
「いや・・・全然そんな素振り見せないし」
「そりゃそうだよ」

わざわざそんな素振りしない。
恥ずかしいし。



「・・・で、は好きな人とかいないの?」



私がそう言ったら、は気まずそうにそっぽを向いた。



・・・・・・・いるんだ。



「へぇ〜」
「な、なんだよ・・・」
「何か意外だなぁ・・・とか思って」
「あ、コノヤロ」

さっきのの真似をしてみれば、軽い調子で頭を小突かれる。

触られた所が、何かじんじんとした。

「・・・誰?」
「は?おま、それ聞くかぁ?」
「気になるし」

私がそう言ったら、意外にもは少し考える素振りを見せた。
てっきり、断固拒否すると思ったのに。


「・・・・・・・お前が教えてくれたら、俺も教えてやるよ」


・・・・困った。
流石に、本人に突然言うのも、何かなぁ・・・。

どんな強大な妖怪と対峙するよりも、緊張する。

「どぉよ」
「・・・・・・・・・どうしようかな」
「ま、別に俺はどっちでも良いけど〜?」

が、からかう様に言う。
それを聞いた途端、少しムキになる自分に気付いた。

「・・・・良いよ」
「え、マジか?」
「うん」

案の定は、目を軽く見開いて私を見る。
自分から言った癖に。
と、視線で言ってやったら、バツが悪そうに頭を掻いた。

「・・・・・・・・・・・じゃ、お前先攻な」
「良いよ」



・・・まぁ、さっきの人だって勇気を振り絞って私に言った訳だし。



私も、言うかな。












「私が好きなのは、だよ」












が固まった。


何かこう・・・言ってしまうと、案外ほっとする。


返事がどうであっても。









「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほら。の番」


ちょっと声が震えてしまった。
やっぱり緊張するし。

返事がちょっと怖いなぁ・・・なんて、思ってるから。


「・・・あーっとぉ・・・・・・・・・・・・あー、何だよー」
「何が?」







「好きな子に先に告られたら、カッコつかねーっってーのに・・・・・・」







「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

良く聞こえなかった。

いや、聞こえたけど、頭が混乱して訳わからない。

「何て?」
「いやさぁ、お前が誰か別の男の名前言ったらちょっとカッコつけてさぁ・・・
 『あーあ、俺、失恋かぁ〜』とか言おうと思ったんだけど・・・さ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・て事は?」
「俺が好きなの、お前だから」


・・・・・・・・何て言おうかな。

いや、何か言わなくちゃいけないんだけど・・・・・・・


本当、どうしたんだろうか、私は。


「・・・・・・・そう」
「そ」
「・・・・・」
「・・・・・」


これから何を言えば良いんだろう。


・・・・もしも今が妖狐の時だったなら、混乱して冷静に計画なんか企てる事も出来ないだろうなぁ・・・・なんて。
ちょっと現実逃避。


「・・・・・・えっと・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「ま、これからも宜しく?」
「・・・・・・どう言う意味で?」
「あ〜・・・・・何つぅか、まぁ、そーゆー事だろ」
「・・・・こちらこそ」





今この様子を黄泉が見ていたら、嘆くのだろうか。


あの頃の蔵馬は、何処へ行った・・・と。


飛影が見たら笑うだろうか。


これがあの妖狐蔵馬か・・・と。




まぁ、別に良いかな。









取り敢えず今、幸せだし。



























END.


青、春・・・?
主人公と南野さんの告白場面。
あんまり劇的な感じではなく、グダグダなまま終了。
あの、極悪非道とまで言われた妖狐が、こんなん。
でも家の南野さんは、常にこんな感じ。
高校生恋愛して貰いたいとか思ってます。

余談ですが、背景素材、校舎裏の白背景とか探したんだけど見つからず・・・
でもこの青空も気に入ってます。綺麗。
時期的に夏頃をイメージしてます。高1の夏。休み前。