「てめェ!!何をしやがる!!」

「ふふふ◆試験官ごっこv」


パラパラとカードの小気味良い音が響く。

それは、随分と血臭に彩られた、薄い凶器だった。










『危険な関係』










「チッ・・・どこにいやがる・・・」


ヒソカを探し、霧の中に来たは良いが血の匂いに邪魔をされ居場所が掴めない。
普段、鼻は利く方であるが、それでもこの臭いはキツ過ぎるのだ。
さてどうするか。と、無意識にが思案顔になる。


そんな時不意に、ゴンの気配を近くに感じ取った。


さん!」
「ゴン・・・・」


何時の間にか近くに来ていたらしく、気配を感じ取ったゴンが声を上げた。
相変わらずこの少年も野生並だと少々ズレた感心を抱きながら、もそれに答える。

ゴンは些か不安を感じているのか、釣竿をギュッと握り締めている。
それをチラリと見遣ってから、が感情を乗せない平坦な声で促した。

「急ぐぞゴン、これ以上死人が出ない内にな」
「死人・・・?」

物騒な単語。
人の死と言う概念には、それ程触れた事が無いゴンにとって、
それは酷く現実離れした様な言葉に聞こえた。

「ああ、かなりの数が死んでる。ヒソカがやったんだろうけどな」
「・・・・・・・・・・」

淡々と語るに、ゴンは不思議な気持ちで聞き入る。
キルアもそうだったが、何故こうも死と言う単語を口にする際、無機質なのだろうかと。
まるで当たり前の様に発する彼等の言葉に、感覚があまりついていかなかった。


「・・・・・・・そろそろ近いな、ゴン、釣り竿貸せ」
「え?」


突然の言葉に聞き返す。

は、既に前を見据え、手を差し出していた。
近い。と言うのは、ヒソカの、そしてレオリオ達の居場所だろう。
何か、彼なりに考えがあるのだろうと気づき、ゴンは素直に釣り竿を渡した。


「・・・行くぞ」
「はい!!」


が駆け出す。

ゴンは、風の様に走る彼に、威勢の良い返事を返しながら、食いついて行った。
















「やっぱだめだわな」


その頃、レオリオはヒソカと対峙していた。
そこかしこに散らばる肉片、死体、血の海。
篭る様な濃厚な血の臭いの中、レオリオが決死の形相で立っていた。

そこには、ヒソカ。

綺麗な顔を汚しもせず、玩具の様なトランプを手元で弄びながら。
自分に純然たる敵意を向けて来たレオリオを、楽しそうに見詰めている。


クラピカや、他の生き残りの受験者は見当たらない。


レオリオ・クラピカ。そしてもう1人。
3人生き残り、分散して逃げる作戦を取った後だった。
それでも、レオリオは戻って来てしまったのだ。
ヒソカの元へ、自分から。


「こちとらやられっぱなしでガマン出来る程・・・気ィ長くねーんだよぉお!!」


死を覚悟で、ヒソカに向かって行くレオリオ。
それに気付いたクラピカは、急いで引き返す。
間に合わないかも知れないが、それでも仲間の叫びを聞き、無視を出来る訳もない。



「ん〜・・・いい顔◆」



それに満足そうな笑みを浮かべるヒソカ。
まるで遊び相手をしてもらって、嬉しがっている幼子の様な笑み。
その笑顔に気付く事も無く、レオリオはヒソカに殴りかかる。


けれど、ヒソカの姿はもう眼前から消え失せた後。


目にも止まらぬスピードでレオリオの背後に回り、ヒソカ手を振りかざした


その刹那










ドゴォッ!!










と、鈍い音が霧の中で響き渡る。

それは、ゴンの釣竿が、ヒソカの米神に叩き付けられた音だった。


「!?」


クリーンヒットしたそれは強力であったのか、ヒソカの皮膚を破き、出血を発生させる。


突如と出現し、レオリオの窮地を救った釣竿。


それには、ヒソカ本人よりもレオリオの方が驚いた。




しかし、それをやったのはゴンではない。

そう、確信めいた物を抱いたヒソカは、驚きよりも先に歓喜を覚える。




そして、釣竿で自分を傷つけたであろう男の名を、口元に笑みを湛えながら呼んだ。




「・・・・・・・・・・かな?」
「全員殺す気か、お前」
「ふふふ・・・違うよ、単なる試験官ごっこv」


ヒソカの呼び掛けに、は嫌そうな表情を浮かべて問う。
まるで日常会話の様な調子で。何の感情も抱かず。

それは、この死体と血臭に塗れた場に似つかわしくない雰囲気だった。



「っく・・・!」



レオリオが、隙を見て背後から襲い掛かる。

今なら、この状況を打破出来るのではないかと踏んだのだ。
ヒソカがに気を取られている、今なら。


だが、ヒソカはそちらをチラリとも見ずに、グワリと腕を振り上げる。
そのまま、レオリオの顎を砕く勢いでアッパーを食らわせた。


女の細腕からは想像もつかないような腕力に、レオリオの身体が浮き上がる。

その身体は意識を失っていた為か、何の受身も無いまま地面に叩き付けられる。

鈍い音が、また響いた。


「レオリオ!!」


の背に隠れがちになっていたゴンが、仲間の姿に叫ぶ。

けれどは反応を見せず、代わりにヒソカがニコヤカに答えた。
その仕草からは、先程まで大量殺人を犯していた人物とは思えない。


「大丈夫、殺しちゃいないよ♪彼は合格だからねv」


そう言ってしゃがみ込み、暫くゴンの顔を見つめる。
ゴンはヒソカの顔を間近で見ながら、硬直したまま動けなかった。


「ん〜・・・・うん!君も合格vいいハンターになりなよ★」


何処から結論を出したのかはわからないが、ヒソカが優しい笑みで言う。

そして彼女が立ち上がり、場に無音が満たされた所で、クラピカの叫び声が届いた。


「ゴン!」
「クラピカ!!」


戻って来たクラピカが、ヒソカに警戒しながらもゴンに近寄る。
レオリオは呼吸をしているのがわかったらしく、一先ずそこに放置する選択を取ったらしい。
じっと、恐怖と敵意をハッキリ乗せた目で、ヒソカを睨みつける。


だがヒソカの意識は、既にへと向いていた。


いままでの光景が脳裏に過ぎる、クラピカがに危険を呼びかけようとするが・・・・


「ふふっ・・・久しぶりだね・・・◆」
「変わってねぇな・・・お前も」
「君こそ。折角の再会記念なのに、遅刻するとは相変わらずだねぇ・・・」
「・・・・悪い」


どうにも危険とは程遠い、それでも和やかとは言い辛い。
不思議な空気が、とヒソカを取り囲んでいた。

クラピカとゴンは、思わず目を丸くする。

そんな2人を意に介さず、妖しい微笑みと色香を纏わせ、ヒソカがの首に両腕を回す。
艶やかな雰囲気に、クラピカは、あわあわとゴンの目を隠そうとする。
・・・が、ゴンは興味津々なのか状況を理解していないのか定かではないが、
何をしているのかと首を傾げながら見ていた。

「クス、まぁ良いけどね・・・許してあげるよ♪」
「そりゃあどうも。・・・さ、兎に角さっさと戻れ、グズグズしてると失格になるぞ」
「そうだね・・・・・君が戻れって言うなら、もう行こうかな★」
「そうしとけ」

がヒラヒラと追い払う様に手を振る。
ヒソカは素直にの言葉を受け、口角をより一層吊り上げた。




「じゃあ、無事な再会を願って・・・◆」




ヒソカが、妖しい微笑みを口元に浮かべたまま、に顔を寄せる。

そのまま、緑の口紅に彩られた唇を、彼にグイと押し付けた。




「「!?」」


ゴンとクラピカは、予想だにしていなかった行動に眼を見開く。

だが、本人達は至って冷静であり、もある程度予測はしていたらしかった。


居心地の悪い空気が流れた所で、ヒソカがからスルリと離れる。

そのまま踵を返し、気絶したままのレオリオを細い腕で担ぎ上げた。

ブラリと全体重を掛ける男の重みを物ともせず、ヒソカが濃霧に包まれる前に振り返る。

その顔にはやはり笑みが浮かんでおり、を意味深な視線で射貫いていた。



「じゃあね♪」



そう言うと、レオリオを背負って霧に消えてしまったヒソカ。

それから数瞬して、ゴンが事態を飲み込み、レオリオを追おうと足を踏み出す。

「レオリオ・・・!」
「平気だろ、多分ゴール地点まで運ぶ気だ」

心配するゴンに、が安心させるように言う。
の言葉の奇妙な自信と確信を感じ、ゴンはピタリと足を止めた。
それを見てから次に、何か言いたげな視線を投げつけるクラピカに向き直る。

クラピカの眼は、の姿を捉えて離さなかった。

「・・・・ヒソカとの関係についてか?」
「・・・・・・そうだ、ここで他人だとは言わせない」

有無を言わさぬ口調に、が軽く肩を竦める。
やれやれとでも言いたげな様子で、酷くわざとらしく。
それでも明確な答えは寄越す様子がなく、はぐらかす様に正論を述べた。


「・・・他人じゃないさ・・・ま、詳しい事はいずれちゃんと話す、今は一次試験の合格が先だ」
「「・・・・・」」


2人共、この言葉に異論はなく、急いで湿原を走り始めた。

血の臭いは、ヒソカがいなくなった辺りから、少々薄れ始めていた。












何とか無事第一次試験をクリアした合格者は、広場で二次試験の開始を待っていた。

勿論達も例外ではなく、意識を取り戻したレオリオと共に、次の合図を待つ。


腕組して立つの傍へ、クラピカが神妙な面持ちで近寄り、口を開いた。


・・・話してもらいたい」
「何を」
「ヒソカとの関係についてだ」

クラピカが鋭い視線を投げつける。
だが、は微妙な表情を返すだけで、やはり適確な答えは返って来ない。
取り合えず。と言った様子で開いた口から届いたのは

「・・・・・・あまり良い関係じゃねぇな」

と言う、何とも要領を得ない一言のみ。
案の定クラピカは首を傾げ、詳細を促す。
が、はそれ以上、詳しく答えるつもりはないらしかった。

「どういう意味だ?」
「・・・仲間じゃない。って意味」
「・・・意味がわからないのだが・・・」
「その内わかるさ」

そこで、は会話を終えた。
納得がいかないクラピカが、更に質問を投げ掛けようとした、その時








ギギギ・・・






と、重たい音を立て、扉が開く。


『!』


二次試験会場の扉が、開いた音だ。




そこで待ち構えていたのは、2つの人影。




「どお?お腹は大分空いてきた?ブハラ?」
「聞いての通り、もーペコペコだよメンチー」

情けない顔で腹の虫を鳴らしている巨漢と、スタイルの良く見目若い女性。
ブハラと呼ばれた男は腹を擦りながら女を見遣り、
メンチと呼ばれた女はそれにニヤリと笑ってから、受験生達に向き直る。
気の強そうな目をしていた。



「そんな訳で二次試験は料理よ!!」
『料理!?』



異色な組み合わせである試験官2人。
腹を空かせた大男。気の強そうな細身の女。
しかも、その二人が課した課題は”料理”。
これには受験生達も驚きを隠せない。


どよめきが沸き起こる間にも、二人の説明は始まる。


「まずは俺の指定する料理を作ってもらい・・・」

ブハラが腹を喧しくならしながら告げ。

「そこで合格した者だけが、あたしの指定する料理を作れるって訳よ」

メンチが続いて試験内容を告げる。


だが、まさかの試験内容に、受験生達は動揺を隠せない。

ゴンもそうだったのか、近くにいたに縋る様な視線を送った。


(どうしよう・・・俺、料理なんて作った事ないんだけど・・・)
(安心しろ、ここにいる奴等ほとんどそうだから)


心配そうな顔をするゴンに、慰めの言葉をかける
実際そうかは知らないが、自分は大して料理をしない。
家事はからっきしだ。と笑うと、ゴンもつられる様にして笑みを浮かべた。


「それじゃあ俺のメニューは・・・」


ブハラが舌なめずりをしながらメニューを発表しようとする。

受験生達は、一体何がリクエストされるのかと身構えて、次を待った。



「”豚の丸焼き”!!」



いかにもなメニューに、構えていた受験生全員が沈黙する。
男の好きそうな料理だ。
何と豪快で、簡単そうな料理であろうか。

何を考えていても始まらないこの状況。

一抹の違和感と不安を抱きながら、スタートの合図と共に受験生達が豚を求め走り出した。







「しっかし豚ねぇ・・・」

取り合えず、単独で豚を探し始めた
しかしこの湿原を抜けた森の中。

中々目当ての物とは出会えない。

散歩気分で煙草を蒸かしながら歩いていると、不意にの足が止まる。


「・・・・・・・・?」


近くの茂みに気配を感じ取り、無遠慮に近づいてみる。



ガサリ。と乱雑に茂みを避けると、黒い巨体がの横を擦り抜ける様に飛び出した。



そこには案の定、豚の姿。
しかしただの豚ではない、は脳の奥底に仕舞われた記憶を探り当てる。
世界で最も狂暴とされる”グレイトスタンプ”。
鼻が攻撃と防御に特化し、標的をプレスする危険な豚。

こんな物が好物だとは、あの巨体ハンターに良く似合う。
そう考えながら、は加えていた煙草を、フッと吐き捨てる。


グレイトスタンプはの姿を見つけると、猛スピードで突進してきた。

地響きの様な足音と共に、巨体がへ一直線に駆け向かう。


「っと」


それをふわっと飛んで避けると、予め知っていた弱点である頭部に、綺麗な踵落としを入れる。
するとグレイトスタンプは、何ともあっけなく、簡単に倒れてしまった。

ゆっくりと倒れた黒い塊。
それを嫌そうに見詰める


「・・・・・・で、焼くのかよ、コレ」


目の前に倒れる豚を見て、がげっそりと呟いた。







結局、ブハラは持って来られた豚を70頭完食し、その分だけ受験生が通過となった。

メンチは試験にならぬと不服そうだったが、やがて仕方がない。と言った様子で合格の銅鑼を鳴らす。


ブハラの化け物じみた食欲を目の当たりにし、慄く受験生達に向き直るメンチ。

そして、何やら企む様な笑みを顔に浮かべると、高らかに自身のリクエストを口にした。



「それじゃあ二次試験後半ね、あたしのメニューは・・・”スシ”よ!!」



聞き慣れない言葉に、全員が首を傾げる。

(スシ?一体どんな料理?)

ヒソカが視線でに問い掛けてくる。

(知るか)

だが、も首を横に軽く振るだけでそれに答える。
どうやら両者とも、聞き覚えの無い料理らしい。


そのやり取りを、クラピカやキルアがまた訝しげに見つめていた。


「ヒントをあげるわ!!中を見てごらんなさーい!!ここで料理を作るのよ!!」


メンチに案内されるまま、受験生達はゾロゾロと会場へと入る。

そこには、簡易キッチンと、料理道具。


何やら、最低限必要な道具と材料等は揃えてあるらしいが、これだけでは丸でわからない。
全員が包丁等を手に取り試行錯誤している。
脳内で構想を練るが、まず材料からして不明なのだから、想像も限られる。


そんな受験生達の姿に満足そうに笑いながら、メンチの声が会場に響いた。



「それじゃ、スタートよ!!あたしが満腹になった時点で試験は終了!!」



メンチのメニュー参加人数、70名。
























NEXT


もんのすごーく久々なRuler。
ハンター試験のみと決めているのにこのスローペース。
取り敢えずメンチの試験まで来ました。
主人公はいわゆるチートキャラ。そして色男。