ブチッ。
と、何かを貫く感触がした。
薄い。薄い。肉の様な膜を、貫く感触がした。
酷く柔らかく、儚い何かを、自身が貫く感触が、した。
『女の疵痕』
蒼鬼はキョトンと天海の顔を見た。
薄暗い中で良くは見えないが、天海は少しばかり眉を寄せている。
どうやら、痛みに耐えている様子だった。
「・・・・え?」
何とも間の抜けた声を出す。
いいや、まさか。
でも、そんな。
一瞬思考が停止し、彼女の身体に沈んだ状態で、硬直する。
天海は、そんな蒼鬼を訝しげに見遣り、問う。
「蒼鬼・・・何をしている・・・?」
「っ・・・・あ、いや・・・・ってか、さぁ・・・・」
聞くのが、少々怖い。
けれど、何だか、やたらと彼女の中はキツイ気がする。
確認の為に、蒼鬼は少し身体を浮かせ、様子を見た。
血。
女である其処から、少量の血液が流れ出ていた。
それを見止め、バッと勢い良く身体を引く。
その瞬間、天海の身体が大きく揺れたのに、蒼鬼は気付かなかった。
「なっ・・・ア、アンタ・・・経験ねぇのか・・・?」
「?」
首を傾げる。
そんな天海の様子に、蒼鬼は益々焦った。
本来ならば、慌てる立場にあるのは天海の方であるのに。
当の彼女は至って平静を保っている。
「い、いや、だって、血が・・・」
「・・・ああ・・・男との経験か。無いな」
「な、何でンな平気そうな顔してんだよ!」
「?何を慌てている。初物では不満か?」
「ち、違うっての!そうじゃ、なくてだな・・・」
てっきり、経験している物だと思っていた。
いや、勿論、天海本人から聞いた訳ではない。
ただ、彼女は長い時を生きて来たらしいし、行為を持ち掛けた時も、動じなかった。
だから・・・と、蒼鬼は頭を掻く。
その間にも、彼女の其処からは、少しねとついた血液が滴っていた。
痛々しく、それでいて欲情がそそられる光景。
いけない。と、無意識に眼を逸らす。
未通であるのに、こんな形で身体を奪われてしまったのだ。
そんな彼女に、欲情してはならない、と。
「・・・悪かった・・・てっきり、もう経験してんのかと思って・・・」
「・・・・あぁ、確かに、以前は経験した事があったな・・・・」
「・・・・・・・は?」
天海の言葉に、蒼鬼が怪訝そうな声を上げる。
以前?以前とは何だろうか。
今し方まで清い身体であった筈。以前も何も、無いであろうに。
「以前・・・?」
「・・・・あぁ、お前は知らないか・・・・」
ふぁ・・・と、天海が欠伸をする。
珍しいその行動に、蒼鬼は彼女の眠気が相当な物であると理解した。
今にも布団に倒れてしまいそうなその身体を、慌てて抱き留める。
解けた長い白髪。
まだ香る、湯の清香。
長く生きたとは到底思えぬ、肌理細やかな雪肌。
それでいて、成熟した女のクラリとする芳気。
全てが、触れてはならぬ男の其処を刺激する。
今にも夢へと足を踏み入れそうな女に、行為を強いる訳にも行かない。
けれど、何か1つ。
1つでも彼を誘う何かがあれば、簡単にその理性は壊敗するだろうと。
天海の柔らかな身体を強く掻き抱き、耐える。
けれどそれは逆に、肉の感触を緊密に。
肌へと。肌へと。伝える。
「・・・天海、知らないって・・・どう言う事だ?」
何とか気を逸らそうと、天海に言葉を投げ掛ける。
蒼鬼の硬い肩に顎を乗せながら、天海はそれにぼんやりと答えた。
「・・・・・・私が以前、男だったと言ったら、どうする?」
空気が止まる。
蒼鬼は、何の表情も示さず、それと同じく固まっていた。
数瞬の間の後、クスクスと愉しげな微笑が聞こえて来る。
訳のわからぬままに天海を横目で見ると、細い両肩が揺れていた。
どうやら、笑っているらしい。
その様子を見て、今のは冗談だったのだ、と。
眠気の中で、寝言の類でも口にしているのだろう、と。
そう自己完結し、ほっと息を吐く。
「ったく・・・・」
つまらぬ悪戯を。と、天海の髪を指で梳く。
白い。白い。星屑の様な髪は、まるで沙の様に指間から零れ落ちて。
「冗談言えるなら、全然平気だな。アンタも」
蒼鬼が、笑う。
それを聞き、一瞬だけ。本当に一瞬だけ。
天海の瞳に暗い光が走った。
寝惚けてなぞいない。
この通り、意識も頭もハッキリしている。
先程の事を、可愛い冗談だと取った蒼鬼が可笑しく、また、笑った。
冗談ではない。本当だ。
そう言った所で、蒼鬼は端から信じぬと、わかっていた。
別に良い。
わざわざ知らせる事もなかろう。
男であった身。
しかし今、自分は女となり、男に抱かれている。
何と奇妙な事かと、また、笑う。
何だかとても愉しい気分だ。
己の女とする其処が、痛く。熱く。
それより何より、ピタリと触れる、蒼鬼の肌が心地好い。
「て、天海・・・?」
スルリ・・・と、しなやかに伸びる両腕を、蒼鬼の首に絡ませる。
それは余りに美しく、余りに扇情的で。
「・・・蒼鬼・・・」
何とも奇妙だ。
自らが破瓜の血を流す時が来ようとは。
全く持って、人生はわからないと、白んだ脳内で考える。
惚れているか。
いいや、まだ少々抵抗がある。
では何故腕を伸ばす。
さぁ、さぁ、何故かはわからぬが、この男の温もりが唯恋しい。
では何故男の身体を拒まなかった。
わからぬ、わからぬ。けれどこの男になら、女として身体を差し出したかった。
元々男であった身。
望む事も無く女となった、自分。
初めて感じる戸惑いと、初めて感じた女としての痛み。
それに、自身が心乱していると、天海は気付いていない。
「っ・・・天海・・・・・・・・もう、持たない」
先程、膜を貫いたショックで慌てて身体を引いた蒼鬼。
だが、勿論、熱が収まった訳ではない。
それどころか、天海の熱を感じ、身体を押し付けられ、どうにも我慢のならない状況。
切羽詰った声で、最後の警告を告げる。
このまま行ったら、戻れない。
このまま行ったら、自分は男では無い。
このまま抱かれたら、もう、自身の気持ちは嫌でも・・・
けれど、天海は絡ませた両腕を、更に強く。
蒼鬼の耳元に唇を寄せ、囁いた。
「・・・来れば良い・・・」
組み敷かれる中、天海は再び痛みを思い起こす。
初めての相手がこの男なら、悪くは無いかと。
女としての疵痕を刻まれた自身の身体を、他人の様に見遣りながら
完全に己は女にされたのだなと、自嘲してみた。
END.
天海さん、酔っ払ってるみたいですね。
意味の無いストーリー。ただ処女喪失が書きたかっただけでs(死んでしまえ)
女としての初体験が蒼鬼。
ほのかにエロス気味。(ダイレクトである)