ねぇお母さん。
どうして私にはお父さんがいないの?
以前、そうお母さんに聞いてみた事がある。
お母さんは、ちょっと困った顔をして、優しく答えてくれた。
お父さんはね、元々いないの。
私やお前の様な種族にはね、父親はいてはいけないの。
そう言う種族なの。男はいてはいけないのよ。
わからなかったけど。
わからなかったけど、でも、納得しなくちゃいけなかった。
だって、お母さんの顔が、とても辛そうだったから。
ねぇ雨菜。
お前は、お母さんだけじゃ、嫌?
ううん、そんな事無い。
お母さんがいてくれれば、それで良いの。
お母さんは、私を抱き締めてくれた。
ありがとうって、笑った。
ごめんねって、泣いた。
皆に、聞いてみた。
お父さんって、どんな物?って。
どうしても、気になって。気になって。
まず、狗守鬼さんに聞いてみた。
狗守鬼さんは、別に。って、一言だけ答えてくれた。
私が首を傾げると、頭を掻きながら、少し詳しく教えてくれた。
『父親は、男にとっては見本となる者。
女にとっては、初めて触れる異性。
けど、俺にとっての父さんは、友達みたいな物。
あまり、親と思った事が無い。父さんは成長しないから』
って、言っていた。
女にとっては、初めて触れる異性・・・。
私にとって、初めて触れた異性は、狗守鬼さんだった。
その次に、お母さんのお兄さんの、飛影さん。
・・・アレ?男の人がいる。
お母さんは、私達の種族には男はいないって、言ってたのに。
どうしてだか、聞きたいけれど。
でも、怖い。
また、お母さんが悲しそうな顔をするんじゃないかと思うと、怖い。
『そうか。お前には、父親はいないんだな。
氷女だから、仕方ないけど』
狗守鬼さんが、最後に零したこの言葉。
氷女だから?だから、お父さんはいないの?
聞いてみても、狗守鬼さんは答えてくれなかった。
知りたいなら母に聞けと、教えてくれなかった。
次に、花龍さんに聞いてみた。
花龍さんは、首を傾げていたけど、短く、教えてくれた。
『・・・守ってくれる存在・・・』
守ってくれる人。
私は、皆の様に強い力が無い。
だから、いつも、守られる立場にある存在。
お父さんも、私が弱いから、守ってくれるのかな。
次に、小瑠璃さんに聞いてみた。
小瑠璃さんは、少し、困ったような笑顔を浮かべて。
それでも、ちゃんと、教えてくれた。
『父親と言うのは、普通は手本となる、一家の大黒柱でしょうね。
生憎、家の父は放浪癖があって、普段会う機会がありませんが
総じて、尊敬すべき人物にあたるんじゃ無いでしょうか』
尊敬できる人。
私は、皆、尊敬している。
狗守鬼さんも花龍さんも、小瑠璃さんもつばきさんも志保利ちゃんも。
勿論、お母さんも。
お父さんがもしいたなら、一番尊敬していたのかな。
次に、つばきさんに聞いてみた。
つばきさんは、んーと指を口に当てながら、教えてくれた。
『息子には厳しく、娘には甘く!なーんてね。
でも、父親って、女の子には、中々甘そうじゃない?
パパはあたしに甘かったわよ。お兄ちゃんはパパが嫌いみたいだけど』
女の子には、甘い人。
お母さんは、女だけど、私に十分甘く優しく接してくれている。
男の人に甘やかされるって、どんな感じなのかな。
飛影さんは優しくしてくれるけど。
それと、お父さんとじゃ、違うのかな。
次に、志保利ちゃんに聞いたみた。
志保利ちゃんは、少し、困った様子だった。
どうしたのか聞いてみると、父親はもういないって、教えてくれた。
ごめんねって謝ると、志保利ちゃんは笑って首を振っていた。
『ううん。でも、お父さんじゃないけど、蔵馬さんが近いかしら。
いつも見守ってくれる、優しい方だもの
本物のお父さんより、お父さんみたいよ』
お父さんじゃなくても、お父さんだって感じる事があるのね。
まだ良く分からないけど。
でも、いつかわかるかな。
いつも見守ってくれている人を、お父さんみたいに思う時が来るのかな。
皆、お父さんの事、好きみたい。
友達みたいだって。尊敬出来るって。守ってくれるって。
羨ましいけど、そんな事、思っちゃダメ。
だって、お母さんが悲しむもの。
ねぇ雨菜。
なぁに、お母さん。
もしも男の人を好きになっても、その人とは結婚出来ないのよ。
どうして?
もしそうしたら、お前はね。
うん。
・・・・ううん。何でも無いわ。ただ、お母さん、悲しいもの。
大丈夫。私、お母さんの傍にいるよ。
ずっと、傍にいるからね。
悲しくないよ。大丈夫だよ。
お母さんは笑ってくれた。
でも、とっても、悲しそう。
でもね。
でもね。
お母さんがいてくれれば、それで良い。
でもね。
でもね。
どうしてだかは、気になるの。
どうして私は誰かをお父さんって呼べないのって。
お母さんは悲しむよね。
でもね。それでもね。
いつか、誰かを
お父さんって、呼んでみたいの。
お父さんって、甘えてみたいの。
皆と同じに、なってみたいの。
END.
自分が”当たり前”と違う。
皆と同じになりたい。当たり前になりたい。
そんな小さい子の思考。
そして相変わらずオチが無い。力不足。