わたわたと慌てて着替えをする。
まさか、こんな事になるなんて。
さっき、幽助さんから電話があった。
まだ人間界で言う、午前の5時過ぎ。
魔界だって一応時間はある。
外を見てみれば、まだまだ薄暗かった。
そんな所に、幽助さんが『今から来い!』って、強引に。
すぐに電話は切られてしまったから、私はもう大慌て。
慌ててパジャマを脱いで、前日に用意していた人間のお洋服を着て。
そこで思う。
幽助さん、どうして11時じゃ駄目だったのかしら。
元々会う予定だったのに、何か急な用事でも出来たのかな・・・。
でも、何も教えてくれないまま電話は切れてしまったから、どうしようもない。
兎に角、30分以内だと言われたからには、急いで支度。
化粧は元々しない方だから、それは良い。
顔を洗って、歯を磨いて、髪を梳かして。
たったそれだけの行動なのに、時間は怖いくらい早く過ぎ去っていく。
結局、家を出れたのは20分後。
ここから空間の歪みまでは5分くらい。
ギリギリ間に合う。
でも本当に、こんな時間にどうしたのかしら。
すごく急いでいる様子だったし。
まさか、何か大変な事でも?
そう考えると、少し気持ちが焦る。
駆け足で空間の歪みを目指し、その穴を抜けた。
抜けたその先には、いつもの通り幽助さん。
何だか顔が赤い。熱でもあるのかも・・・
そう思って、大丈夫ですか?と声を掛けてみたら、何でも無い!と素早く返答されてしまった。
とてもそうには見えなかったけど・・・幽助さんがそう言うのなら、何も言えない。
それ以上言葉が出て来なくて黙っていたら、幽助さんが頭を掻きながらごめんと一言。
え?と聞き返すと、朝早くから呼び出した事への謝罪だった。
全然大丈夫。そう笑うと、幽助さんは赤い顔のまま、笑ってくれた。
でも、どこか、雰囲気がおかしい。
何かあったのかしら。やっぱり、大変な事が?
不安になっていると、幽助さんは突然、私の目の前に小さな箱を差し出した。
首を傾げて幽助さんを見ると、さっきよりも真っ赤になっている。
この箱は何だろう。
小さな箱。掌に収まってしまいそう。
それでも、何だか手触りの良さそうな箱で、とても綺麗。
どうやら私に下さる様だったので、オズオズとそれを受け取とった。
そんなに重くない。
ますます、この箱の正体がわからない。
悩んでいると、幽助さんはソッポを向きながら、私に一言。
「・・・サイズが合わなかったら、作り直すから」
サイズ?
サイズって、何の?
そう視線で聞いてみても、幽助さんはこちらを見ない。
・・・開けても良いのかしら。
少し不安だったけど、そうしないとコレの正体がわからない。
ちょっと躊躇ってから、静かに箱の蓋を開けてみた。
中には、指輪。
思わず、キョトンとしてしまった。
透明度の高い、吸い込まれてしまいそうな青い指輪。
それは、何処かで見た事があった。
・・・そう、確か、幽助さんが持っていた・・・
・・・・・瑠璃丸。
それを思い出した瞬間、ばっと幽助さんの顔を見た。
彼はまだ、顔を逸らしている。
瑠璃丸を削ったのかしら。
・・・きっと、そうよね。瑠璃丸の指輪なんて無いもの。
・・・・サイズが合わなかったら、作り直すって・・・・
・・・・・・幽助さん、自分で削ったの・・・・・かな。
「あ、あの、幽助さん・・・」
「あー・・・・・・その」
「?」
彼の顔は、更に赤く。
何だか私までつられて赤くなって来てしまった。
だって、指輪。
それも、こんな風に綺麗に包装されてしまったら
それは、いらない事を考えてしまう。
「・・・わかんなかったんだよ、サイズ・・・」
「え?」
あまりに照れ臭かったのか、ついには不貞腐れた様に言う幽助さん。
頬を掻きながら、今度は後ろを向いてしまった。
そして、私が何かを言う前に、自棄になった様に叫んだ。
「だから、お前の薬指のサイズがわかんなかったんだよ!」
その内容に、私の顔に熱が篭る。
薬指・・・指輪・・・。
・・・・これって。
目をパチパチさせながら幽助さんの背中を見詰める。
流石に彼自身も恥ずかしかったのか、慌てて取り繕う様に言って来た。
「だ、だから・・・その、サイズ合わなかったら・・・また作るから」
「あ、あの・・・・・えっと・・・・・あっ」
そう言う彼に、何とか安心して貰おうと、慌てて指輪を左薬指に嵌める。
そしてそれを見せ、私まで慌てて口早に告げた。
「ホ、ホラ、見て下さい!ピッタリです!」
その空色の指輪は、見事な程ピッタリ。
嵌めた心地も良く、彼の手先が器用なのだと知らされた。
「・・・・・・・・・・・・」
「あ、あの・・・・?」
ようやく振り向いてくれたけれど、その顔は何だか呆れている。
頬は赤いまま。でも目は少し呆れ気味。
どうしたのかしら。
「・・・・普通、俺が嵌めるんじゃねぇ?それ」
「・・・・・・・・・あ」
言われて、恥ずかしくなる。
両手で頬を覆ってみると、指輪の冷たさが良くわかった。
・・・でも、幽助さんから嵌めてくれる・・・って、やっぱり・・・
「あの・・・やっぱり、コレ・・・」
「・・・・・・いや、まぁ、何だ。俺等も知り合って結構経つしよォ。
・・・・・・・・・・・い、嫌ならそれ返せ」
「えっ、嫌だなんてそんな!嬉しいですよ!!」
「・・・・・・あ、そ」
「は、はい・・・・・」
何だか、突然静かになってしまった。
と言うより、今のはやはり・・・・・・・
・・・・・・・そう、なんだろう。
「あ、あの・・・・・・・・・」
「・・・・・・・い、今から出かけるか!」
「えっ、今からですか!?」
「早朝にブラつくのも良いだろ、人少ねーしよ!」
「え、ええ・・・」
幽助さんが、赤い顔のまま言う。
照れ臭さを誤魔化している様子だったけど、あまりこちらを見てくれない。
その代わり、指輪を嵌めた私の手を、強く握ってくれた。
・・・でも、幽助さんの指には、指輪は無い。
「・・・・・・・・・あ、あの」
「な、何だよ」
「えっと・・・・・お返事なんですけど・・・・・」
「・・・・・・・・今?」
「えっ・・・あの、えっと・・・」
少し緊張した様なその声に、私も言葉が痞える。
「・・・・・・この指輪の作り方、教えて下さい」
私の言葉が意外だった様で、幽助さんは目を丸くする。
けれど、直ぐに照れた様な微笑みを浮かべると、家に行こうか。と誘ってくれた。
私は幽助さんの様に器用じゃないから・・・
ちゃんと、幽助さんの指のサイズを、聞いておこう。
END.
色気も糞も。
プロポーズの言葉は結局『薬指のサイズがわからなかった』か。
うん・・・でも、グダグダなプロポーズが一番似合ってるかと。
小兎ちゃんも、幽助に同じ指輪を作ってあげたいらしい。
でもきっと難しいから、幽助が手伝いと称してほとんどやるんだろう。
やっぱ2人、こんな感じ。