「・・・・・・・・・・・は?」
思わず間の抜けた声で返す。
だって、意味がわからないのだ。
キョンがそう視線で問う。
古泉は、物分りの悪い女だと吐き捨ててから、面倒そうに言葉を投げた。
下衆野郎とキ○ガイ女 -後編-
「いや、頭の直接衝撃与えてもダメだったんでね。
ここは心身共にもっと強い衝撃を与えれば良いんじゃないかなぁと思って。
まぁ所謂ショック療法ですよ。
アンタも一応女ですし、僕も女の胸だの股間だの見ればそれなりに興奮出来ますから」
ね?
と目をニッコリと細める古泉に、キョンは初めて恐怖の色を見せる。
暴力ならば耐えられる自信があった。
女に暴力って、どんだけ最低だよ。なんて、頭の中で冷めて罵っていれば耐えられる。
だが、流石に、レイプは嫌だ。
古泉に、目の前の男ではない、恋人の古泉にも何度かされた事があったが。
恋人で、大好きで、愛している彼からされるのだって勿論辛いし傷つくし、嫌なのに。
顔が恋人と同じなだけな赤の他人に。
こんな最低な男になんて、絶対に嫌だ。死んでも嫌だ。
「・・・・前者」
キョンが迷い無く答える。
古泉も予想はしていた様で、その薄っぺらい笑みを崩さない。
「蜂に刺されまくったみたいに・・・してくれたって、構わないぜ・・・?
テメェなんかに・・・顔だけ、古泉な奴に・・・他人に・・・ヤられるくらいなら・・・っ
顔面潰された方が、万倍マシだ・・・!!!」
苦々しげに、それでも気丈に言い放つキョンに、古泉は細めていた目を薄っすら開く。
そして、やたらと愉快そうな笑みを口元に浮かべたと思うと、弾んだ声で返事を寄越した。
「承知致しました」
それから間も置かず、派手な平手打ちの音が響く。
今回は、3回連続で。
嬉々とした様子で自分を殴って来る古泉に、キョンは絶望にも似た感覚を覚えた。
古泉。古泉。古泉!!
助けを求めるように、縋るように、ブレザーの恋人を思い出す。
彼は優しい笑みを浮かべていた。
作った笑みではなく、自分を愛しむように見詰めてくる笑顔。
その笑みを思い出した瞬間、ボロッと涙が零れ落ちた。
首がもげるのではないかと危惧してしまう程、力一杯に殴られる顔。
内頬に幾度も歯がぶつかり、口内は既に血塗れだった。
はぁっと息を吐こうと口を開けると、ボタボタ真っ赤な血が溢れ出す。
暫し彼女の顔を叩いていた古泉だったが、彼女が涙を零した事に気づいたらしく、まじまじと顔を見詰める。
「はぁっ・・・み・・・ん、な・・・糞、野郎・・・」
「・・・へぇ、泣いてんですか?痛かった?怖かった?可哀想ですねぇ」
「っ・・・くた、ばれ・・・っ・・・変質性癖男・・・っ・・・ハルヒに、嫌われ、ちまえ・・・・っ」
「・・・・・・アンタも、恋人に嫌われちまったらどうです?この汚い面見せて」
古泉が、少々息を荒くしてキョンに顔を近付ける。
だがその整った顔も、涙を滝の様に零しているキョンにはぼやけて見えた。
「・・・・あっ!?」
突然、下半身に異常を感じて、バッと首を動かす。
その拍子に血がバタタッと辺りに飛び散ったが、構っていられない。
見ると、自分の下着がズリ降ろされ、古泉が足の間に身体を割りいれていた。
「なっ・・・なに、す・・・だよ・・・っ・・・」
「いえ、アンタのその汚い面見てたら、ちょっと興奮しちゃって」
「はぁ!?・・・っ・・・へ、へん、た・・・っ・・・変態っ・・・変態!!!」
「アンタもでしょう?突然別世界から来たなんて言い触らす人間、変態以外の何者でもない」
「〜〜〜っっ!!!」
事実かも知れない。
事実かも知れないが。
それでもお前よりはマシだ。
そう言ってやろうと口を開けた。
なのに、出たのはその言葉ではなく。
「あああああああああっ!!!」
絶叫。
「痛い?痛いですか?僕も痛いですよ、アンタ締め過ぎ」
殴られて。
血塗れになって。
突然下着を取り去られたと思った瞬間の、男性器の挿入。
勿論、前戯などない。
濡れてもいない。
何の準備も出来ていない、そこ。
膨張したそれが強引にそこへ捩じ込まれた為、その穴は勿論ピッと裂ける。
「ひっ・・・ぃっ・・・ひぃっ・・・」
「あー・・・・ヤバイですねぇ、汚い面見て興奮って、僕もアンタのキチガイが移ったんでしょうか」
嫌だなぁ。と言いながら、抉る様な動きで腰を押し進める。
ブチブチッと入り口の肉が裂け、ひりつく痛みが全身を巡った。
顔面と身体の痛みに比べれば大した事無い程度の痛み。
だが、精神への痛みとショックは、かなり大きい。
流石のキョンも、此処に来て初めて声を上げて泣き叫んだ。
「うわああああ!!!嫌だ!!嫌だあああ!!!!!」
「うるさい」
再び平手の音。
もうすっかり真っ赤に腫れ上がった頬には、それが死ぬ程痛かった。
「ひぐっ・・・ぅう・・・っ・・・さ、さっ・・・き・・・どっちが・・・良いって、聞いたっ、癖、に・・・!!!」
「ああ、アレですか。まぁ一応アンタの要望を通してあげようと思ったんですけど・・・
なんか僕もちょっと興奮して来ましたし、それに、ショックはより強い方が良いじゃないですか。
だから、なんだったら両方とも試してみようかなぁって。ね?」
「ち、ちくっ・・・ちくしょ・・・っ・・・!!!」
まだ悪態を吐こうとするキョンに、古泉はいっそ感心したような表情を見せる。
それと同時に、ああ、阿呆な女だなと、侮蔑の言葉も投げ掛けた。
暫く勝手気儘に彼女の中を傷付けて遊んでいたが、ふと何かに気付いた様子を見せる。
そして、意地の悪い不快な笑みを浮かべ、必死に全ての苦しみに耐える彼女に顔を寄せた。
「ねぇ、アンタがもし本当に他の世界から来た人間だったとして・・・・・・・
この場でアンタの身に起きた事は、そのまま向こうの世界に戻った時にも反映されるんですか?
例えば、この額の傷とか、腫れた頬とか、切れた口とか、裂けた穴とか」
古泉の好奇心に溢れた問い掛けに、キョンは答えない。
もう口を開く事すら激痛を際立たせると言う事もあったが、それ以上に何も話したくなかった。
と言うか、わからないのだ、自分にも。
どうして自分がここに来たのか。ここで起きた事は一体どうなるのか。向こうはどうなっているのか。
答える様子の無いキョンに、古泉は早速苛立った様子を見せる。
そしてまた逆の頬を殴り、鼻で笑ってから再び口を開いた。
「ま、もし向こうの世界でも反映されるなら、大変ですよねぇ・・・
それこそ、僕に中出しされて妊娠なんかしちゃったら・・・ね」
キョンの目がこれ以上ない程に見開かれる。
何だ。今、なんて。
中出し。妊娠。古泉の顔をした男に。暴力男に。レイプされて。元の世界に戻ったら。
断片的な言葉がグルグルと頭の中に回る。
それはしっかりとした文を構成する事が出来なかったが、それでも十分に恐ろしい事だけはわかって。
ようやく意味を理解し飲み込んだ所で、キョンの脳内はいよいよ大きく混乱した。
「て、てめっ・・・何言って、そんな事、お前だって・・・っ・・・あ、い、いやだ。いやだいやだいやだ!!!」
「確かに僕も嫌ですよ。アンタの血を引く子供なんて死んでも欲しくない。
まぁもし妊娠したら、アンタが元の世界とやらに戻る手助け、全力でするつもりなのでご安心を。
適当に言い訳しときゃ良いじゃないですか。アンタ、頭おかしいんですし。今更何言ったって平気でしょう」
「やめ、やめろっ・・・っっ・・・このっ・・・下衆男っ・・・!!!!」
「あー、そんなに妊娠したいですか?ははっ、本当の変態ですね」
グイグイと腰を押し付けながら嘲笑う古泉に、キョンが両腕を振り回して抵抗する。
けれどそれすらも自身の激痛を増長させる為、大した効果は無かった。
その様子を冷めた目で見てから、古泉がふと提案する様に訊ねる。
「ね。嫌ですか?妊娠するの」
「あ・・・あたりまえだ・・・っ・・・!!!」
「そうですねぇ。じゃあ・・・1つアンタの口から言って貰いたい事があるんですよ」
それを言って下さったら、やめて差し上げますよ。
と、わざとらしく恭しい口調で言う。
その言葉に、キョンは先手を打って古泉に吐き捨てた。
「・・・っ・・・謝罪ならっ・・・死んでもしねぇ・・・からな・・・っ」
「ええ、それは結構です。今更薄っぺらい謝罪1つで許せる程、僕も寛大じゃありませんから」
本気で糞だ。
そのニコヤカな笑みに少し冷静さを取り戻したキョンが、真っ先にそれを思う。
だが口に出せば本気で妊娠させられ兼ねない為、ぐっとその言葉を口内に溜まった血と共に飲み込んだ。
「っ・・・な、に・・・言えば、良い・・・」
「簡単ですよ。本当一言です。
僕を、『古泉一樹』と呼んで下されば、それで」
簡単。
確かに簡単な一言である。
・・・が。
「・・・つまり・・・っ・・・お前の事を・・・”古泉”だって・・・認めろっつー事か・・・?!」
「ええ。だってそうでしょう?突然やって来て、気の違った妄言を喚いて、僕達を巻き込んで。
更に僕を偽者?失礼にも程があるでしょう。それくらい言っても良いんじゃないですか?
大体偽者も糞も、僕は元から古泉一樹ですけど」
どうです?と問う古泉に、キョンは躊躇う。
自分にとっての古泉一樹は、ブレザーを着ていて、超能力者で。
いつも笑顔の癖に意外と感情の起伏の激しい彼1人である。
恋人の彼だけが、自身の知る古泉一樹なのだ。
それなのに、こんな良心の欠片も感じられない様な男を、彼と同じ様に認めなくてはならない。
正直言えば、嫌だった。
先程までと同じ様に、彼の存在からして真っ向否定したい。
けれど。そうすれば。
キョンが逡巡している事に気づいたのか、古泉が不機嫌そうな表情で腰を引く。
血液を纏いながら引き抜かれたソレは、再び何の容赦も無く彼女の中へと突き刺さった。
「ひぎぅぅぅっっ!!!」
「さっさと言ったらどうです?それとも本当に妊娠しますか?」
奥に性器を埋め込んだまま動こうとしない古泉に、キョンが敵愾心に満ちた眼を向ける。
が、古泉は薄ら冷たい笑みを張り付かせたまま何の行動も起こそうとしなかった。
言わなければ、この状況は一切動きを見せない。
暫く忌々しそうに唇を噛み締めていたキョンが、ふっと、諦めたように。
それでも酷く悔しそうな色を浮かべて、唇を解く。
「・・・100歩くらい譲って・・・お前は、ホントに”古泉一樹”だよ」
キョンの言葉に、古泉の眉がぴくんと攣り上がる。
だがまだ何か言葉が続きそうだったので、殴りたくなるのを堪えて言葉を待った。
「でもなぁっ・・・お前は、俺の知ってる・・・俺の恋人の・・・っ・・・
・・・っ”俺の好きな古泉一樹”じゃあ・・・ないっ・・・!!!」
その答えを聞いた途端、古泉がふふっと笑いを零す。
ああ、なるほど。との言葉も添えて。
「それなら、納得ですよ」
「あうぅううぅっ・・・」
全身を彼女に覆い被せるように圧し掛かり、キョンの身体にわざと負担をかける。
数センチまでの距離に近づいた彼女の血塗れの顔が、苦痛を訴えていた。
それに僅かの反応も見せず、古泉がさっぱりとした声で返事を告げた。
「だって僕は、”貴女の事が嫌いな古泉一樹”ですから」
古泉の迷いの無いそれに、キョンはきょとんと彼を見遣る。
その場違いな反応に、古泉の方もつられて首を傾げた。
「何です?」
「・・・・ははっ、いや・・・・初めて、テメェと意見が被ったなと、思ったんだよ・・・」
「・・・・ああ、そう言えばそうですねぇ。被った所で、糞腹立つだけですけど」
「・・・まぁな」
短い遣り取りを終え、古泉が勢い良く彼女の中から自身を引き抜く。
ぐぼっと言う鈍い水音が響き、微かな血液が性器同士を繋ぐ様に糸を引いた。
キョンが引き抜かれた痛みに苦痛の呻きを漏らそうとしたが、叶わない。
気付いた時にはもう、古泉の唇が、自分の血に濡れた口を塞いでいた。
ガリッと言う音が聞こえ、鋭い痛みが舌に走る。
次いで、じわりと暖かい感触が再び口内に溢れかえった。
舌を噛まれたのだと理解すると同時に、彼の舌が好き勝手中を蹂躙する。
そのキスとも思えないキスを受け、ああ、やはりコイツは”俺の好きな古泉”ではないと、何処か遠くで実感した。
END.
なんかもうすみません。ホントすみません。
消失古泉は鬼畜サディストで性悪口悪最低男。でも顔は良い。
でもやっぱり”古泉”さんなので、キョンに無意識に魅かれてる。
最後のキスはそのつもり。後で我に返って、”何でキスしたんだ?”とか
悩んでしまえば良い。んで、結局キョンに責任転換。
いやしかし、汚い言葉・暴力などの表現、ホントすみませんでした。
書いてる間はなんだかとっても楽しかったです。