此間、古泉が浮気をした。

まぁ機関の為(?)みたいな感じだったし、別にアイツが他の女を抱いた所で何がある訳でもない。

ただやっぱりちょっと腹立たしかったので俺も浮気してやろうと思ったんだが・・・

古泉が泣きながら大声で謝罪・・・を、土下座でしやがった為(しかも学校、朝、廊下!)に許すハメになった。

いや、良いんだけど・・・何かやっぱホラ、腑に落ちない。俺も意外と負けず嫌いの気がある。



なので、ちょっくら行ってみた訳だ。




ラブホテルとやらに。










古泉一樹の棚上










行ったのは中学の時の同級生。

コイツもコイツで色々超常現象を体験している、気の知れた男友達。

『俺、狐の彼女が出来たんだー』とか言ってるが、どうやら本気らしい。怖ぇよ狐の彼女とか。

俺も俺で、『俺は恋人が超能力者だ』と言ったら『カッコイイ!』と喜ばれた。相変わらずお前、頭おかしいな。


あーいや、そいつの話はどうでも良いんだよ。


ええと、とどのつまり、そいつとラブホの話を、メールしてた時に何故かしてしまった訳だ。

そしたらアイツも『どんなトコか興味ある』とか言って来て、俺も俺もー。とテンプレ通りの流れになってしまって・・・

なんと言うか、まぁ、入ってしまったんだよ、ホテルに!

奇しくもそのホテルってのが、古泉が浮気に使ったホテルと同じだったってのが笑える。なんて運命の悪戯。



んで結局、最後までしたのか?と問われれば、答えはNOである。

しかし、最後まで行かずとも何かしたのか?と問われれば、少々躊躇い目を逸らした後に控え目なYESを返させて頂く。



俺も同級生も恋人持ちだし、お互い単なる好奇心。(俺の場合負けず嫌い魂が発動したんだけど)

同級生の方は彼女に一応ご報告済みらしいので、色々問題は無いそうだ。
なんか条件付きだったらしいけど。最後までやるなってのと、いつか自分も連れて行けっつー・・・。
すげぇ彼女だな。古泉にもその寛大さを見習って欲しい。

まぁそんで、した事と言えば・・・最後まで行かない、所謂ペッティングって奴だ。


そりゃ多少なりとも古泉に罪悪感を抱いたりもしたが、アイツのがもっとすげぇ事してんだし。


これでイーブンにしてやろう。仕方ねぇなぁ。とホテルから出た所に・・・






あらま、どうして古泉さんの姿があったのかしら?






・・・そんな訳で、今俺の目の前には、夜叉般若も裸足で逃げ出す怖ーいお顔の古泉さんがいらっしゃいます。


「さて、ご説明頂きましょうか?」


古泉のベッドに座らされ、犯罪者よろしく取調べを受ける俺。
マジ怖ぇ。逃げたい。いや、俺としては古泉のやった事をそのままそっくり返してやっただけなんだけど・・・
俺の方が罪は軽いんだぜ?なのに何だこの威圧感!
俺だけ悪いみたいになってる!!何か腹立つ!!

「説明・・・って・・・」
「・・・まず、あの男は誰です?」
「え、いや、別にアイツは・・・」
「答え以外の言葉は要りません」

テメェどこぞの頑固一徹石頭親父か!!
素直に『ごめんなさい』と謝った所に、『何がごめんなさいなのか言ってみろ』と追い討ちをかける様な!!
俺今正にその状況!!謝ってねーけど!!

「ちゅ、中学ン時の同級生・・・」
「へぇ。中学の時の」

はい、そうです。嘘偽りは申しておりません。
ちなみに同級生は、古泉に襟首掴まれそうになってたのを俺が必死で逃がした。
悪かったな。後で詫びのメール入れるから。入れられる状況だったら。
怒り心頭の古泉の前でソイツにメールなんざ送ろうもんなら、俺は次の瞬間五体不満足になる。

だってさぁ、コイツ、俺がアイツを逃がした途端、人の腕引っ掴んで来たんだぜ?
それも、本気で。まるで俺の腕を握力計と勘違いしてんじゃねーかと思うくらいに。
ミシミシって音、初めて聞いた。まさか自分の腕から聞こえると思わなかった。
その圧力のままコイツの家まで引っ張られたモンだから、さっきから腕が自由にならない。


・・・コレ、もしかして、折れてる?

折れるまで行かんでも、ヒビ入ってる?


その証拠に、手首の形が歪だ。
腫れてる。曲がってる。右手全体が痺れて動かせない。
試しにグッパーグッパーと掌を握ろうとするが、それすら激しい違和感で儘ならん。
・・・げ。骨折れるって・・・どんだけ強ぇ力で握ったんだコイツ。怖い。

「あー、いや、古泉・・・なんだ、その・・・悪かっ」
「悪いだなんて思ってないでしょう?」
「・・・いや、だからな、あのー」

一刀両断!!
確かに思ってない。取り合えずお前の怒りを静めようとしただけだ、ごめん。
だが古泉にはそんな事お見通しの様で、更に火に油を注いだ状態に。
そんなに熱く怒ってねーけど、きっと腹の中は煮えくり返っている事だろう。
マジでヤバイ。バーサーカー状態かも。

「・・・なんで、その男とホテルに入ったんです?」
「え・・・ええっと・・・」

更に続く取調べ。
更に冷たくなる古泉の声と視線。
更に無表情になる古泉の顔。

神様ハルヒ様長門様、もう誰でも良いから助けてくれ。

でもここで黙ってたらそろそろ明確な暴力に訴えられそうなので、素直に口を開く。

「・・・こ、好奇心で」
「・・・・・・へぇ」

古泉の冷たい目がスゥっと細くなる。
怖ッ。と思わず身震いした、その時。




「っ!!?いででででで!!!!」




古泉の野郎、自分で圧し折った俺の右腕を無遠慮に掴みやがった。

激痛だ。やっぱ折れてる、コレ!!
折れた部分を力一杯握られてるんだから、もう堪ったもんじゃねー!!!
痛い!千切れる!熱い!砕ける!!

「こ、古泉!古泉!!痛い!!!」
「痛いでしょうね、さっき折りましたから」

わかってたのかよ糞ったれ!!!お前意外と最悪だな!!!知ってたけど!!!

「ってか、好奇心?ふざけた事抜かさないでくれます?」
「だ、だって!・・・いぃででででっ!!ほ、ホントの事っ、だしっ!!!」
「・・・単なる好奇心だけで、他の男とホテルに・・・ねぇ」

掴んだ腕を、更に捻る。
もう声にならない悲鳴が喉を突いた。

「〜〜〜〜っっっ!!!!?」
「で?好奇心でホテルに行って、何して来たんです?」
「っ!!っ!!!」
「答えて下さい」

痛くて答えられねーんだよ阿呆!!!!
それなのに更に腕を曲げてきやがるモンだから余計に声が出ん!!!!
良いから手を離せ!!!右手が死ぬ!!!!

「っ・・・別にっ・・・何もっ・・・」
「嘘吐かないで良いですよ。その方が腹立ちますから」
「〜〜〜〜っ!!!」


あ。と思った瞬間。




右手が在り得ない方向に向いた。




ヒィィィィ!!!コレやばい!!やばいって!!!!

変な方向行ってる!!確実に右手死んでる!!!ぎゃあああ!!!!

もう痛いとかそう言う次元じゃない!!怖い!!ただ怖い!!!動かない!!!!


「ホラ、さっさと答えないから・・・」
「って、なんで俺が悪いみたいになってんだよ!!?」

折ったのは他ならぬお前であり、俺は被害者である。
そして今回のホテル事件だって元はと言えば・・・って、そうだ!!

「だ、大体なぁ、お前が先にラブホ行ったんだろうが!なんで俺だけこんなに・・・」
「へぇ。じゃあ貴女は仕事上仕方なく、脅されて、他の男とホテルに入った・・・と言うんですね?」
「・・・いや、その・・・」

もう何言っても無駄だ。
てかもう、何か言う度に古泉の怒りメーターがMAX振り切っている様で・・・うん、もう黙ってようかな。
しかし黙ってたら黙ってたで古泉がまた怒りそうなので八方塞である。
あー、どうするべきか・・・っつーか何でも良いから右手をどうにかして欲しい。

「ね。何したんです?ホテルで」
「・・・・・黙秘権」
「ンな物、アンタにある訳ないじゃないですか」

げ。段々口調が乱暴になってきてる・・・!!
・・・でも、今この時点でコイツがまだ敬語を保っている事が奇跡の様な気がするが。
そう考えると今のこの状況が不気味に思えて来た・・・!!!

「う・・・・いや、な・・・・その・・・・」
「・・・・まぁ、そうですね・・・・突っ込まれたのか突っ込まれてないのか。
 それだけでも教えて下さいません?」
「つ、突っ込まれてない!!最後までは断じてしていない!!」

てか突っ込まれたとか言うな!!お前も俺も!!!
今更だけどお前のそのアイドル面で卑猥台詞をゲロしたら世の中の女性達が卒倒する。ショックで。


「・・・最後までは。ってのが気になりますけど・・・まぁ良いでしょう」


偉そう!!だが此処で突っ込みを入れたら本当に俺が突っ込まれる!!
それだけはなんとしても避けたい!!手首の激しい違和感でそんな気分にもならない!!!



なんてワタワタ1人で慌ててたら、突然古泉が俺を持ち上げた。



お姫様抱っこってのも、何度もされて来た訳だが・・・。

いつまで経ってもこの不安定さは怖い。いつ落ちるか不安で仕方ない!

特に今の古泉はいつ俺をわざと落とすかわかったもんじゃないからな!!!


「あ、あのー・・・こ、古泉さーん?」
「黙ってて下さいね。あんまり煩くすると落としちゃいそうですから」
「何だその理屈は!!」
「・・・・・・・・」

突然、ふっと一瞬だけ俺の体が落ちそうになる。
コイツが腕の力を緩めた為だが、俺はもう咄嗟に古泉にしがみ付いた・・・
所為で、折れた上にひん曲げられた右腕が悲鳴を上げた。しまった、動かしてしまった。

「〜〜〜っっ」
「黙ってろって言うのが、わかりません?」
「・・・・はい」

これ以上怒らせたくない。俺もう貝になる。


と、思っていたのだが、古泉が俺を抱いたまま向かったのは、風呂場。

・・・えーと、何するのかな?風呂場で。

わかりたくないなぁ。わからなくて良いかなぁ・・・!!!


「こ、古泉・・・?」
「他の男が触った所、全部綺麗に洗って差し上げますから」
「いや、洗って来た!!洗って来たから!!!」

ちゃんとシャワー浴びて来ました隊長!!!
よってここで再度身体を洗う必要は無いと思われます!!!
確かにさっきまでお前の尋問の所為で嫌な汗は掻いたけど!!!
今のお前に全裸を晒すなんて真似はしたくない。自ら望んで狼の住処へと赴く馬鹿がいるか!!!

「それに、裸の方が色々やりやすいですし」
「何を!?」

やっぱり!!!
やる気満々だコイツ・・・人の右腕折っといて・・・!!!



と、ここまでならまだ想定内だった為、こんな風にテンション高く突っ込んでいられたが・・・




「だって・・・流石の貴女でも、妊娠してれば他の男とホテル行く気なんて失せるでしょう?」




コレには絶句した。

「・・・へ?」

待て待て待て。
何?妊娠。ああ確かに今生理前でまぁ確かに微妙にアレな時期ではあるが。
・・・嘘だろ?冗談だろ?


「男の子と女の子はどちらが良いですか?きっとどちらでも可愛らしいと思いますが。
 ああいっそ男女の双子なんてどうでしょう。それが良いですね、そうしましょう」


ぎゃあああ本気だああああ!!!!
やばい、ピンチ!!これならいっそ左腕も折るとかで妥協してくれないだろうか!!!
それの方が良い!!!長門に治して貰える分マシだ!!!
妊娠した場合は流石に長門に頼む訳にもいかんし中絶なんて持っての外であるし・・・
てかそうしましょうとか、お前生まれて来る子供の性別とか決められんのか!?超能力か!!?

うん、兎に角古泉、落ち着け!!それだけはやめてくれ!!!

「はぁ!?・・・いや、ちょ、待て!悪い古泉!俺も調子乗り過ぎた!!」

もう俺の負けで良い。他の男とラブホとか入らない。
だから思い留まってくれ。な!?


「いやぁ、10ヶ月後が楽しみですねぇ、ちゃんと名前考えておいて下さいよ。
 男の子と女の子の名前両方。10ヶ月なんてあっという間ですからねー」
「ぎゃあああ!!悪かった!!俺が悪かった古泉ィィィイイイ!!!」









結局後日、長門に腕を治して貰った際に

『今回の性行為による受胎の可能性はゼロ』

と言う通知を頂くまで、俺は不安のあまりゲロとか吐いてた。

それを古泉は『もう悪阻ですか?』とか言ってたけどな。阿呆かテメェ!!!


ちなみに妊娠していないと言う事を古泉に告げると、その嫌味な程整った面を残念そうに歪めて

『それは残念です・・・では、もう1度頑張りましょうか』

とか言ってのけた。もう本当お前脳味噌クリーニング出せよ。


結局、チャラに出来る所か、古泉に完全負け試合を喫するを言う最悪な事態になってしまったし・・・

もうラブホは他の男と行かん様にしよう。

そしてコイツは意外と自己中心な男だと、再度脳味噌に叩き込んでおこう。うん。
























END.


結局被害者はキョン。
キョンは意外と浮気に対して寛大です。自分が良い男好きだから。
別に浮気したけりゃ浮気しろよ。だがSEXは微妙に蟠りが残るなぁ。程度。
なので今回も、ちょっとしたお返しのつもり・・・だったけど、結果妊娠の危機に。
古泉さんは一度ブチギレるとDV発動するので手に負えません。愛ゆえ。

ちなみに中学の同級生とは『狐の恋煩い』の主人公です。
友情出演。その内想華主とかも話に出て来たりするかも。存在だけ。