「前立腺マッサージと言うものをやってみても良いか」
「は?」
相変わらず突拍子もない彼女の言葉。
彼女の口から零れる一字一句、全てを愛せる自信はあるが、流石にコレには驚いた。
・・・ってか、言い知れぬ恐怖に引いた。
ご存知無い方の為にご説明致しましょう。
前立腺とは、男性のみに存在する器官の名称です。一応生殖器官に分類されるんでしょうか。
具体的な機能はいまだ未解明だと聞きます。別に僕も興味ありませんし。
しかしその前立腺と言うのは、男性のGスポットであると言われる程敏感な器官でもあります。
事実、発生学でも女性のGスポットと同義であるらしいし・・・。
まぁ、幾度か正しい方法で刺激を与えなければ性感帯として快楽を拾う事は難しいと思いますがね。
さて、ここが問題なんですよ。
性感帯として目覚めさせる為の刺激。
マッサージを目的としての刺激。
明らかに用途は違えど、前立腺に接触する方法はまるきり同じな訳です。
その前立腺の存在する場所ですが・・・
膀胱の下。
尿道や精嚢のごく近く。
そう、体内にある訳ですよ。
女性の場合、膣の方が場所的には近いのでしょうが、生憎僕は男性です。
断じてアンドロギュノスと言う訳でもなく、女性器など存在しないし、そこからの異物挿入は不可能。
と、言う事はですよ。
前立腺に刺激を与える方法。
それは。なんと言いますか。
男にとって。少なくとも僕にとって。
いっそ死んだ方がマシ級な屈辱を味わう訳で・・・
・・・まぁ、端的にゲロさせて頂くのなら・・・(キョンさんの口調が移った)
ケツ穴に指を突っ込んで刺激する。って事です。
古泉一樹の抵抗
「理由をお聞きしても構いませんか」
まず、何故彼女がこんな事を言い出したのかを知るのが先決だ。
理由が何であれ断る事には変わりないが、知っておいた方が対処法もわかるだろう。
・・・でも多分、彼女の事だ・・・下らない理由なんだろうな。
てか貴女は男のケツに指を突っ込む事に抵抗は無いんですか。
「んー?いやさぁ、此間ハルヒが漫研から借りたホモ本、読んでみてさぁ」
「捨てて下さい」
まだ持ってたのか!!
あの忌々しい本。僕は読んでませんけどね。読んでたまるか。
その本の所為で僕は散々な目に遭ったんだ。忘れたくても忘れられない。
「古泉の奴、この本の所為で野郎にケツ狙われたんだなぁー、とか思ってさぁ」
「思い出させないで下さい、貴女のケツ穴犯しますよ」
本気で。なんだったらまたフィストでもしてやろうか。
なんて、腹が怒りで熱くなるのを感じながら、なんとかそれを抑え、再度彼女の言葉に耳を傾ける。
「そしたらその本の中に、野郎が前立腺っつーのを弄られて悦んでるシーンがあったんだよ」
「そうですか、僕にとって全く利益にならない情報提供ありがとう御座います」
「それでだ。前立腺弄ったら、お前でも見っとも無く喘ぐのかなー。とか思って」
「そうですか、貴女が僕に犯されたいと言うのが良くわかりました」
言い捨てて、彼女を無理矢理押し倒そうと肩を抱く。
が、キョンさんはスルリと僕の腕をすり抜けて、鞄の中から何やらビンを取り出した。
・・・・ベビーローションですね、何に使うんでしょうか。
僕もまぁ貴女に良く”下半身野郎”とか罵られますが、それでも今は用途を理解したくありません。
・・・・ああ、何故ローションと一緒に滅菌手袋を取り出すんでしょうか。
本気で犯しますよ、後ろ。
「でもまぁ別にお前のケツ穴を性的に犯したい訳でもないからな。
単なる知的好奇心を満たすってだけだし、マッサージにしよう。と」
「わかりやすい思考のご説明ありがとう御座います。ふざけんな」
「マジだぜ?」
「尚悪い」
最悪だ。
単なる好奇心の為に処女を捧げて堪るか。
しかも最愛の彼女に。いや、最愛の彼女ならば構わないのだろうか?
・・・いやいや、一応僕にも男としてのプライドがある。
そう言う趣味は無い。自分がサディストであると言う自覚だってある。
彼女のケツを犯すのは良しにしろ、自分のケツを差し出すなんて・・・舌噛んで死ぬ。
「良いじゃないか、減るもんじゃないし」
「ええ、確かに減る物ではありませんね、消失する物です」
「何をだよ」
「処女とプライドと心の平穏を保つ為の大切な何かを」
「何ら問題は無いじゃないか」
「本当に愛しいですね貴女は」
もう殺してしまいたいくらいに。
そこまで行かなくても泣かせてやらないと気がすまないくらいに。
後で覚えておけよ。
・・・まぁ、彼女の泣かせるのは後だ。
今は僕の貞操を守るのが最優先。
なんとか諦めさせようと、普段から酷使している脳味噌をフル回転させる。
・・・が、あまり良い文句が浮かんで来ない。混乱し過ぎているからか。
兎に角、真っ先に浮かんで来た言葉を、そのままストレートに彼女に伝えた。
「・・・腸内洗浄をしていませんよ」
「・・・滅菌手袋、してんじゃねぇか」
「わかってませんね、洗浄を行っていない。つまり、排泄物が腸内に溜まっている訳です」
「・・・・糞がつくぞ、と?」
「ええ、端的に言わせて頂ければ」
いくら貴女でも嫌でしょう。
僕も嫌だ。凄く嫌だ。だからやめましょう、ね?
「・・・・・・・・・・・・」
案の定、キョンさんは少しばかり難しい顔をして考え込み始めた。
その調子で自身の好奇心への疑問を感じて下さると幸いです。
泣かせるのはその後にしますから。
「・・・古泉」
「はい」
キョンさんの真面目な声。
良かった、過ちに気付いて下さったんですね。
今更気付いたってもう遅いですが、少しは手加減して差し上げますよ。
「お前は確かにベソは掻く、鼻は垂らす、ション便もする、ゲロも吐く。
あまつレイプだの自慰だの下半身もフル回転だ」
喧嘩売ってんのか。
さっき手加減するとか言ったけど前言撤回だ。泣いて謝っても許してやらない。
「けど・・・糞だけはしない。イビキと糞だけはお前にとって無縁だ。そうだろう?」
「誠に残念ですが、正直申しますと本日僕は下痢気味です」
嘘だけど。
大体何ですか、糞とイビキって。
確かに僕はイビキは掻かない体質ですが、大は普通にしますよ。
毎日快調です。貴女と同じく。
「・・・・マジか」
「大マジです」
「・・・・・・・」
「そんな状態で、指なんか突っ込んだらどうなると思います?
ダムの決壊よりも凄惨な光景を目の当たりにする事必至ですよ?」
「・・・・だよなぁ・・・・」
・・・・良かった・・・・。
不承不承に引き下がった彼女を見て、心底安堵の息を零した。
本当に良かった。僕の処女は守られた。
取り合えずキョンさんに仕置きをさせて貰おう。
そして明日学校に行ったら真っ先におぞましいホモ本を焼却炉にぶち込もう。
そう僕が決意していると、キョンさんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
・・・また何か悪巧みをしているな。今度は何だ。
今度また突拍子もない事言ったらケツに腕突っ込みますよ。
「糞が溜まってるなら、全部出せば良い。浣腸でもしてやろうか?」
・・・さて、次の言い訳はどうしようか。
取り合えずキョンさん、貴女正しい浣腸の仕方なんか知らないでしょうから・・・
「それは嬉しいですね。ではまず、貴女の身体で正しいやり方をレクチャーして差し上げますよ」
キョンさんの顔がざっと蒼くなる。
先に言ったのはそっちだ。先に喧嘩を売ったのはそっちだ。
貴女が用意したローションも滅菌手袋も、僕がちゃんと使って差し上げますから。
「さ、お風呂場へ行きましょうね」
精々泣いてろ、このやろう。
END.
恥じらいの欠片も無いキョンさんと汚い言葉をふんだんに使う古泉さん。
もうこいつ等割れ鍋に閉じ蓋過ぎる。ベストカップル。(色んな意味で)
大体、悪戯を最初に仕掛けるのはキョンさん、でも最後は被害者。
古泉さんが最初に何かやらかした場合は、キョンさんは同じ事をそのまま遣り返す。
目には目を、歯には歯を、浮気には浮気を、みたいな感じで。
てか、小説内でケツケツうるさくてすみませんでした。