「本当に綺麗だったねー!」
「そうですわねぇ、本当に素晴らしかったですわ」


夕焼け空の向こう側が、徐々に群青に染まって来た頃。

俺の前を歩くさくらと大道寺が足を止め、興奮を抑え切れない様子で口を開いた。


「絵画展って、すごく素敵なんだね!」
「有名な画家の方の作品ですもの、一度は見ておきたい物ですわ」


そう。

今日俺は、さくらと大道寺と3人で、絵画展とやらに行って来た。

正直芸術関連についてはあまり知識もないし、興味も薄いんだけど。

それでも行って来たのは、絵画展のチケットを渡して来たのが柊沢だったからだ。



『さくらさん達と、見に行って来たらいかがです?』



そう言って、3枚のチケットを渡して来たアイツ。

ならお前と行きたい。と言ったのだが、アイツは申し訳無さそうに所用があると断ってきた。

折角くれたんだし、アイツの好意も無駄にしたくなかったし、取り合えず2人を誘ったんだけど。

・・・まぁ、喜んで貰えたなら良かった。


「でもあの絵画展、天使の絵ばっかり飾ってあったね」
「ええ、あの画家の方は天使の絵を描く事で有名になった方ですから」
「へぇ〜・・・でも綺麗だったなぁ、天使の絵!」


見て来た絵は確かにどれも綺麗で、素直に感動する物だった。

でも、あくまで感想はそこで終わり。そこからの発展は無かったが。

けどこの2人、特にさくらは甚く感銘を受けたらしく、しきりに眼を輝かせながら言葉を続けた。


「天使かぁ。でも、天使って結構、みんな似たイメージだよね」
「そうですわね。天使。と言われてパッと思い描くのは、大体似通ってますわ」
「うーん、ふわふわクルクルの金の髪、だよね」
「後は青い眼とか、真っ白な羽に真っ白な衣ですわね」
「うんうん!やっぱりそうだよね!」


2人して”天使”の特徴を指折り挙げながら、不意に俺の方へ振り返る。



「ねぇ!小狼君は、天使ってどんなイメージ?」



さくらの期待に満ちた問い掛けに、一瞬言葉を失う。

天使。

あんまり想像した事も無かったし、今2人の挙げた特徴がどうしても当て嵌まってしまう。


でも、それではつまらないと、少し思案して。


自分の中で”天使”に結びつくイメージを、思いつくまま答えてみた。



「・・・俺は・・・」















「絵画展はどうでした?」


美味い夕飯を作って待っていてくれたアイツが、優しく笑って聞いてくる。

今日のメニューは・・・なんだっけ、コレ、名前が長くて覚え辛いけど、フランス料理らしい。

・・・そうだ、ブッフ・ブルギニオンとか言う奴。コイツが作ったフェットチーネも添えてある。

相変わらず無駄に凝ると言うか、妥協しないと言うか。

まぁ、何処のレストランで食べるより美味いから、別にそれでも良い。


柔らかくトロトロになった肉を1つ頬張ってから、柊沢の問いに答える。


「まぁ、綺麗だった。さくらと大道寺も喜んでたし。お前に礼を伝えてくれって」
「それは良かったです」


柊沢が嬉しそうに言う。にっこり笑った顔が綺麗だと思った。


間違っても”天使”の様な清純な微笑みじゃないけど、それでも俺にとっては。


俺の視線に気付いた柊沢が、不思議そうに首を傾げる。

それに慌てて俯き、添えてあったフェットチーネをパクリと一口含む。

卵の香りがふわりと広がり、動揺した心も少し穏やかになった。


「ふふっ、私の顔に、何かついてますか?」
「・・・別に」


悪戯っぽく笑うコイツは、”天使”と言うより”小悪魔”の方が正しい気もするが。

でも俺は、コイツのその笑顔が何より好きだったりする。


「・・・強いて言うなら、顔じゃなくて服」
「え?」
「エプロン、つけっぱ」
「・・・早く言って下さいよ」


俺が意地悪く言ってやれば、今度はバツが悪そうな顔をして、着たままだったエプロンを脱ぐ。

黒いエプロンを脱いだ下は、やっぱり黒い服だ。

コイツは黒が好きだと言うだけあって、所持品や衣類は黒が多い。


間違っても”天使”が着るような色ではないけれど、それでも俺にとっては。


「・・・そう言えば、明日はどうするんだ」
「明日は雨の様ですし、お出掛けはやめましょうか。部屋でのんびりしましょう」
「それでも良いけど・・・」
「でも、ベッドの中からは出して下さいね」
「・・・・・・わかってる」


夕食を綺麗に平らげ、デザートに出された木苺のクラフティに進む。

菓子作りが趣味なだけあって、本当に美味い。店でも開けば繁盛するくらい。

パクパクと忙しなく口を動かしている俺を見て、柊沢はまた優しく笑う。



その笑顔を見て、ふと、帰りにさくらが言った言葉を思い出した。



「・・・なぁ」
「はい?」
「お前はさ、天使って、どんなイメージだ?」
「天使・・・あぁ、絵画展に展示されていた絵ですね」
「そ。さくらが、天使って言われて、どんなのを想像するか・・・って」


俺が皆まで言わずとも理解したのか、柊沢は意を得たと言わんばかりに頷く。

そして、少し考える仕草を見せてから、お決まりの答えを寄越してくれた。


「やはり、金髪碧眼の子供、もしくは女性と言ったイメージが強いのではないでしょうか。
 ウェーブの掛かった髪に光る輪っか、真っ白な羽根に真っ白な天使の衣・・・とか」


ありきたりですけど。

と締めて、俺に反応を求める。

まぁ、俺もそう思うし、さくら達も想像した様にメジャーな想像図だろう。


でも。


「・・・ふーん」
「おや、貴方は違うんですか?」
「まぁ・・・俺にとっての天使ってのは、結構違う」
「興味ありますねぇ、どんなイメージをお持ちで?」


好奇心を擽られたのか、猫の様に目を細め、気紛れな笑みを作りながら俺に顔を寄せる。


真っ白な頬とピンク色の唇が、桃みたいで可愛かった。


「?」
「・・・俺のイメージは」







『ねぇ!小狼君は、天使ってどんなイメージ?』

『俺は・・・サラサラした黒い髪で、黒紫の眼をしてて・・・いつも黒い服を着てるイメージ』







さっきまで白かった頬を、唇と同じ桃に染めて俯く、俺にとっての”天使”に。


ついでに明日のデザートは桃のタルトが良いと告げると、ツンと額を突付かれた。

























END.

初っ端からバカップルフルスロットル!
俺にとっての天使はお前なんだぜ。ですね、わかります。
無敵なエリオル君の唯一の弱点はドストレートな甘い言葉とかだと良い。
それはもう聞いてるコッチが恥ずかしい!みたいな愛の囁きとか。
エリオル君じゃなくても弱点ですよね、よく考えると。(考えなくてもそうだ)