サラサラの黒い髪。

少し青みがかっているのが、深い海の底みたいで、綺麗だ。

指で梳いてみれば柔らかく零れ落ちていく細い髪の毛。

ゆっくりその動作を繰り返して、そのまま指先で項の辺りを擽ってみる。

すると柊沢は、くすぐったいですよ。と、コロコロ笑いながら言って来た。



ポトリ。



見ようによっては黒にも見えて。

見ようによっては紫にも見える。

コイツの大きくて、常に憂いを帯びた輝きを宿す眼も、綺麗だ。

水晶みたいな瞳に俺の顔だけが映ると、やたらドキドキする。

良く見たくてフィルター代わりの眼鏡を外すと、はにかむ様な笑顔を見せて来た。



ポトリ。



黒い髪が良く映える、真っ白な肌。

俺より細くて柔らかい身体を、ぎゅっと抱き締める。

髪と言わずコイツの身体からふわりと漂う甘い香りが、脳味噌を痺れさせてきた。

クラクラしながら、柊沢の細い首筋に顔を埋める。

柊沢が抱き締め返して来た時、思わず目の前の甘い雪肌に歯を立ててしまった。



ポトリ。



悪戯が好きなコイツは、良く他人から腹が黒いと言われる。

でも、実の所、腹の中は別段黒い訳でもなく。

ただ純粋に、人に悪戯するのやチョッカイ出すのが好きなだけ。

俺がこんな風に突然痛みを与えて来た時には、驚いた様にビクリと震えるくらい。

顔を離して覗いたコイツの表情は随分怯えていて、そこには計算も打算も一切無くて。



ポトリ。



「な、に・・・李、くん・・・?」



突然噛み付いた俺に驚いたのか、柊沢は黒紫の眼を揺らして俺に問う。

黒い服の襟元から覗いた真っ白な首筋に、赤い歯形がくっきり浮き出て、随分痛々しい。

次第に血が滲むであろうその傷痕は、微かな恐怖を映し込んだコイツに良く似合っていた。



ポタポタポタ。



コイツが笑う度、俺を見る度、名前を呼んで来る度。

少し怯えたり、怖がったり、不安そうにしたりする度。



一滴ずつ胸に滴り落ちる、黒い何か。


白かった胸の中の紙切れに、墨を垂らした様に黒いそれは急激なスピードで染みを広げて。



段々早くなる。

黒い雫が落ちる速度が。黒い染みが広がる速度が。



「李君?・・・李君、どうしたんですか・・・ねぇ・・・」



様子のおかしい俺が怖いのか、少し躊躇う様に手を伸ばして来る柊沢。


その指先が俺の頬に優しく触れる。



ポタポタポタポタ。



頬を撫ぜてきた手を無遠慮に掴む。

反射的に手を引こうとした柊沢を、逆に引っ張り込んで。



「ひっ・・・」



細くて折れそうな手首を握り締めながら、引き寄せた柊沢の顔を見つめる。

見開かれた大きな瞳は、驚愕と恐怖に怯えながらも、俺だけを必死に映していた。



ポタポタポタポタ。



ああ。

胸の真っ白い紙切れが、コイツの好む黒に染まっていく。

雫が零れるのが止まらない。

どんどん、どんどん黒が滴って、もう紙切れはほぼ黒一色。





残るのはあと、一滴分の余白。





「やっ、李君!やめて下さい!やめて、や、あ、やああああっ!!」





無理矢理、乱暴に、無慈悲に。

身体を暴かれる柊沢が、聞いた事の無い悲鳴をあげる。





ポタリ。





真っ黒。




























END.

ドS(若干ヤンデレ入り)李君と、痛い事されるのがわかって怖いエリオル君。
李君は超サディストでも良いと思う。愛ゆえです。愛ゆえ。
スイッチ入った時は酷い事されるのでエリオル君は逃げ腰です。
最後は暗転。エリオル君の目の前も真っ暗です。