「・・・ぅ・・・」


体中がギシギシする。

中でも一番痛むのは、腰。あと、言葉にするには憚られる、あらぬ場所。

試しにそっと触れてみるが、どうやら出血はしていない様子だった。


・・・出血しない程、慣れてしまったのか。


そう考えると、長きに渡った命を自ら絶ちたくなるが、ぐっと堪える。

堪えた瞬間腰にピリリとした痛みが走り、別の意味で歯を食い縛った。

なるべく酷使した腰に負担を掛けない様動いてみるが、今度は別の嫌な感触。


何とか出血しないで済んでいたソコから、血液とは違う体液が流れ出す。


それも自分の物ではない。出された物だ。

・・・誰の何かって、それは私の隣を見て頂ければ理解頂ける。



「・・・ん・・・」



あどけない寝顔を無防備に晒すのは、まだ幼い少年。

・・・何せ、年齢だけで言えば私の35程は下だ。見た目は同じであるが。

純粋で、一途で、随分と照れ屋な性格の少年・・・の、筈・・・だ。

・・・純粋で照れ屋な少年が、同性を抱ける物だろうか。

異性であったって、この年頃の少年がそんな行為を働くのは驚きだと言うのに。


ああ、世の中は変わった。と、思わず遠い目をしてしまう。


その最中にも少年の穏やかな寝息は続き、思わず羨んだ。

私は貴方の所為で眠れないのですよ、主に痛みが原因で。


項垂れても状況は変わらない。痛みは変わらずだ。後で治しておこう・・・今は気力が沸かない。


この少年に組み敷かれるのはもう何度もあるが、相変わらず、こう言う時には無駄な手際の良さを発揮する。


いつもは無口で、からかうとすぐに真っ赤になって。

時に敵対心競争心を剥き出しにして来るのに、少し状況が変わればこの様子。


体育の授業、私が勝ったとなると子供らしく不機嫌そうな顔をするのに。

ピアノを弾いた時、うっかり聞き惚れてしまったらしく、慌てて顔を逸らしていたのに。

弁当を作ってやれば、照れ臭そうに黙々と食べていたのに。

少し頬を突付いたり、顔を寄せてみるだけで、顔を真っ赤にして照れていたのに。



そんな少年をからかい、その反応を見るのがとても楽しかったのに。



なのになのに、コレは一体どうした事か。

体育の時よりも大胆かつ適確な動きで、授業よりも激しい運動をさせられるし。

ピアノの旋律よりも大きな、ファルセットかと言う様な声をあげさせられるし。

食事の準備をしていたって、料理より先に私自身が食されてしまう事もある。

少し戯れに触れよう物なら、スキンシップにしては色のあり過ぎる触れ合いが待っていて。


私がからかった分、倍・・・いや、5倍くらいにして全て返されている。釣りを出しても良いくらいに。


いくら私が同じ子供の姿とは言え、現役10代にかなう物か。

体力は圧倒的にあちらが上。しかもコチラの事など考えず我武者羅に動いてくるのだから、堪った物ではない。



・・・いやまぁ、確かに。

この少年が私に友情ではない好意を寄せてくれていると知っていて。

更に私もそれを受け入れた上、だ。別に無理矢理と言う訳でもないし、嫌と言う訳でもない。


ただただ、身体がついていかない。あと、少々悔しい。


だって、最初は私がリードして、からかっていたのだ。

純粋な少年をからかって、ちょっと悪戯して、初心な反応を楽しんでいて。

それでも毎日成長していく少年を見ているのが、とても楽しかったのに。


彼を振り回していた筈の私が、何時の間にか彼に振り回される様になっている。


いつも予想外な好意や行動を示してくれて、お陰で私は気が休まらない。

・・・予測できない事が楽しいだなんて思う事もあるが、それはそれ、これはこれ。

少々前の少年は、逆に私の悪戯に気が休まらなかったろうが、此処まで酷い事をした覚えはない。



ああ、いい加減、そろそろ反撃せねば。

幼い少年に何を。と自分で呆れるが、それだってこのままでは、私の身体が壊れる。

頑丈さに自信はあるが、生憎と普段物を入れない様な場所まで丈夫ではない。

最初の内は裂けていたのに、最近はロクに慣らしもしないで大丈夫になった点は・・・触れないで置こう。


いまだスヤスヤ眠る少年の頬をツンと突付き、シャワーから上がったら悪戯でも仕掛けてやろうと心に決める。


・・・また5倍にして返されるかも知れないが、その時は何とかして逃げよう。

ともかく、全ては汚れを落としてから。

と、まだズキズキ痛む腰を擦り労わりながら、ゆっくりベッドから抜け出そうと、身を起こした




・・・途端、唐突に腕を掴まれ、あっさりベッドに引っ張り込まれる。




「ぅわっ!?」




ボスッ、と、柔らかいクッションに押し付けられ、腰とあらぬ場所が悲鳴を上げる。

痛い。いくら柔らかいと言ったって、衝撃は辛い。堪える。痛い。

小さく呻いても、どうやら目覚めたらしい少年はお構いなしだ。

と言うか、いつから起きてたんだ。目覚めたばかりにしては随分と俊敏な動きではないか。


「お、起きたんですか、李君・・・もう少し眠っていらしても・・・」


お疲れでしょう?と、表面上ニッコリ。

私の方が5倍は疲れているが、それでもそれを隠して、少年に促す。

だって、折角悪戯してやろうと思ったのに、起きられていては水の泡。

子供は子供らしく、ゆるりと夢の世界に浸っていて欲しいのだが。


「・・・あの、李君・・・?」


・・・いや、ちょっと待て。

おかしい。この状況はおかしいだろう。

この少年が目覚めてしまったのは百歩譲って良しとしよう。



・・・だが何故、私の上に乗っかっているんだ?



・・・ああ、やっぱり彼は子供だ。

体力の回復速度が半端じゃない。40過ぎの私にはとても追いつけない。

だからどうか、労わってくれ。お願いだから。



「・・・もう一回」
「えぇぇ!?ちょ、ちょっと、何回目だと・・・っ!!」



そしてやっぱり、まさかの事態。

本当に私を驚かせてくれる。こんなサプライズ嬉しくない。

スピネル、ルビー、ああ、なんだったらユエやケルベロスでも良い、誰でも良いから助けてくれ。



「ま、待って下さい李君!あ、ま、まって、まっ・・・」



結局言葉が続かず、あられもない声が混ざり出し、羞恥に口を噤む。


すると少年は戯れに私の口を舌で抉じ開けるのだ。


何処で覚えたんだ。私か?私はこんな事を教えただろうか?



ああ、もう、何にせよ。


どうやら今回もまた、この少年に振り回されてしまうのは、確定らしい。



























END.

でも多分エリオル君が悪い。(元を辿れば)
きっと悪戯まがいに誘うような真似でもしたのかと。
小狼君元気だから何回も復活されて身体ズキズキ。
もうなんか性別とか乗り越えて妊娠するんじゃないかと危機感を抱くと思う。
でも高校生になったらもっと振り回されます。平気でセクハラしてくるよ!