「ねぇ、李君」
ニッコリ、俺が好きな優しい笑顔で言うアイツ。
大きな紫がかった眼を柔らかに細めて、綺麗な眉を少し下げて。
桜に染まった唇をゆるり三日月に描きながら。
それを見た俺は、心臓を煩いくらいに躍らせながら振り向いて。
脳内にサイレンが鳴り響く。
罠だ。
罠だ。
コレは罠だ。
「今日ね、家に誰もいないんです」
小首を傾げて、女みたいな顔をそっと寄せるアイツ。
吐息が首筋に掛かりそうなくらい近づいて、甘えた様な声で言ってくる。
だから、来てくれませんか?なんて、断り様の無い誘いを掛けて。
それを聞いた俺は、顔を真っ赤にしながら無言で頷く。
脳内にサイレンが鳴り響く。
罠だ。
罠だ。
コレは罠だ。
「・・・ベッドに行きますか?」
白い指で俺の腕を撫ぜながら、ズルく誘ってくるアイツ。
伏目がちに俺を見ながら、実はからかう様な光を帯びている事を、よく知っている。
細い両腕を俺の首に回しながら、良い匂いのする髪を揺らしながら。
触れられた俺は、コイツの華奢な身体を両腕に抱えて。
脳内にサイレンが鳴り響く。
罠だ。
罠だ。
コレは罠だ。
「あ・・・李、く・・・ん・・・っ」
悩ましげに眉を寄せながら、甘い声を零すアイツ。
白い汗ばんだ身体をくねらせ波打たせ、シーツをグシャグシャに乱しながら。
髪を振り乱して俺に両腕を伸ばして、より濃い体温を強請る。
コイツを組み敷く俺は、強請られるまま、コイツの両腕に身体を沈めて。
脳内にサイレンが鳴り響く。
罠だ。
罠だ。
コレは罠だ。
「ねぇ、李君・・・好きですよ・・・」
互いに繋がったまま、肌を密着させながら、愛を零すアイツ。
俺の眼を潤ませた瞳で見つめて、指を絡ませあって。
唇を強請る様に眼を閉じ、俺の頬へ手を添える。
誘われた俺は、吸い込まれる様に唇を塞いで、舌を擦り合わせて。
脳内にサイレンが鳴り響く。
罠だ。
罠だ。
コレは罠だ。
けれど
「・・・俺も・・・好き・・・だ」
サイレンが鳴り響くのは、いつも罠に掛かった後。
END.
甘い罠に掛かった小狼君。でも本望。
エリオル君の本心はわかりませんが、駆け引きみたいな感じですかね。
先に本気になった方が負け。小狼君は、多分罠に引っ掛かって負けたのかと。