例えば、サラサラでツヤツヤの黒髪。

風に靡く様は思わず見惚れるくらい綺麗で、指通りが良いのも気に入ってる。

今指先に絡みつくこの髪を鋏で切ってしまえば、他の奴等に見られる事もないだろう。



やっちまえ。やっちまえ。



例えば、スベスベで真っ白な肌。

陶器の様になめらかで、指を滑らせると吸い付くような感触を教えてくる。

今なぞっているこの肌を全部焼いてしまえば、他の奴等に見られる事もないだろう。



やっちまえ。やっちまえ。



例えば、髪から見え隠れする形の良い耳。

俺の呼ぶ声を必ず聞き取ってくれる、コイツが俺の声を認識出来る唯一の器官。

今俺が名を呼ぶのをすぐに聞き取ったこの耳を引き千切れば、他の奴の声を聞く事もないだろう。



やっちまえ。やっちまえ。



例えば、大きくて丸い黒紫の瞳。

普段は大きくて愛らしい癖に、長い睫毛が影を落とすと憂いを増す綺麗な眼。

今俺だけを映してるこの眼を抉り取れば、他の奴等を視界に映す事もないだろう。



やっちまえ。やっちまえ。



例えば、スラリとした華奢な両腕。

指先も細くて白くて、何でも器用にこなす、そんなコイツの手に触れるのが好きだ。

今俺に縋っているこの両腕を切断すれば、他の奴等に触れる事もないだろう。



やっちまえ。やっちまえ。



例えば、桜色の小さな唇。

柔らかくて暖かくて、優しい声を零すコイツの唇は、花弁の様に小さくて可愛らしい。

今俺の舌を受け入れているこの唇を噛み切れば、他の奴の名を呼ぶ事もないだろう。



やっちまえ。やっちまえ。



例えば、細くて白い首。

少しの衝撃で折れてしまいそうな頼り無い首筋は、赤い痕が随分綺麗に見える。

今舌でなぞったこの首を圧し折ってしまえば、他の奴の名を呼ぶ事もないだろう。



やっちまえ。やっちまえ。



例えば、トクトク音を刻む左胸。

白くて薄っぺらいコイツの胸は、規則正しくトクトクと心臓の音を俺に伝えてくる。

今耳を押し当てているこの左胸を食い破ってしまえば、他の奴を感じる事もないだろう。







「どうしたんですか?李君」


色んな所を触ってますけど。

なんて、柊沢は少し戸惑った様に笑う。


いつもなら”何でもない”とはぐらかす所だけれど。


「・・・なぁ、柊沢」
「はい?」


優しい笑顔。



きっと頬の肉を削ぎ落としてしまえば、コイツは他の奴に笑いかける事もない。



「さっきから、頭の中で声が聞こえるんだ」
「声?頭の中?」


柊沢が訝しげな表情を浮かべる。

よもや呪詛の類では。と、術師の顔つきになって思案している。


その声は、どんな事を?と問う柊沢に、何て事ないように答えてやった。




「・・・やっちまえ。って」

「・・・・・・・・・え」












耳を劈く様な柊沢の悲鳴と被って、また頭に声が響く。





やっちまえ。


やっちまえ。





何度も繰り返し、悪魔の声で囁かれる、悪魔の言葉。





でもそれは何だか、俺の声に良く似ていた。
































END.

超ヤンデレ李君。『真っ黒』よりレベルアップ。
悪魔の声が自分の声=自分の心の中に棲む悪魔は自分自身。
最後エリオル君が絶叫したのは、李君が実行に移したからでしょう。
首に手を掛けたのか、腕を折ろうとしたのか、眼に指を突っ込もうとしたのか。
多分このお話の結末はエリオル君ダルマ化エンドかと。
ダルマの意味がわからない貴女は、どうか美しいままで。