成り行き上でデートする事になった幽助と小兎。
お互いはそんな気は無いのだが、やはり仲良く歩いていると誤解されるに決まっている。
「・・・・あ」
「どうしたんですか?」
「そう言やオメー髭剃ってねぇな」
「あ・・・そうですね・・・」
ふと見た小兎の頬にちょこんと髭が生えているのを見て、思い出す。
あまり髭が生えているのを見られるのは得策ではない。
「よし、剃るぞ!」
「えぇぇ!?ちょちょ、ちょっと待って下さいよ!刃物も何もありませんよ!?」
「あ。そーか・・・」
小兎に慌てて指摘され、幽助が頭を掻く。
剃刀の様な刃物が無ければ、髭を剃る事は出来ない。
だが、幽助は諦めなかった様で・・・
「抜くか」
サラリと痛そうな事を言ってのけた。
当然、小兎は嫌がる。
「そんな!ぼ、帽子で隠れるじゃないですか!!」
「隠れてねぇよ!いーから抜くぞ!疑われるより良いだろうが!」
「うぅぅ・・・それはそうですけどぉ・・・」
「おら、じっとしろ!」
戸惑う小兎を自分の前に立たせ、幽助が顔を覗き込む。
そして、髭を抜く為に両頬に手を当てる。
2人にしてみれば単なる髭抜きなのだが、遠くから見ると違う意味に見えるポーズだ。
そしてやはり、誤解されない訳が無く・・・
「・・・・・幽助・・・・・」
怪しいと思ってコッソリついて来ていた螢子にバッチリ目撃された。
螢子はあまりのショックで固まっている。
そこに、もっと事態をややこしくしそうな人物が現れた。
「螢子ちゃん?」
「・・・・・・・・・・・」
「螢子ちゃんって」
「えっ・・・・あ、れ、蔵馬君・・・・」
「こんな所でどうし・・・・・・・・・・・・・」
螢子が固まりながら見ていた方へ、何気なく視線を送ってみる。
途端、蔵馬もピシリと固まった。
「あれ、は・・・・幽助と・・・・・?」
「・・・幽助、さっき私に服借りに来て・・・何か怪しいと思ったら・・・」
「螢子ちゃん・・・大丈夫だよ、幽助がそんな・・・」
「でも、じゃあさっきのは・・・」
螢子が悲しそうに俯く。
彼女を可哀想に思うが、幽助が恋人を作るとも思えない。
その為、蔵馬は何も出来ないでいた。
やはり友人を疑いたくは無いのだ。
「あ」
そうこうしている内に、幽助と小兎は並んで何処かへと行こうとしている。
「・・・螢子ちゃん、追ってみる?」
「え・・・?」
「何か事情があるかも知れないし・・・ね?」
「・・・・・・うん」
何をしているのか、気になるに決まっている。
少々失礼な行為だとは思うが、2人で後をつけてみる事にした。
「ひー・・・ひりひりしますよぉ〜・・・」
「ワリィワリィ、で、何処見て回るよ」
「そうですねぇ〜・・・あんまりわかんないんで、取り敢えず楽しい所とか・・・」
「楽しい所ねぇ〜・・・つったら、ゲーセンぐれぇしか・・・」
「げーせん?何ですかそれ」
「お、そっか知らねぇのか・・・よし!ゲーセン行くぞ!」
「はーい」
探検気分でいる小兎と、自分も楽しめるので乗り気な幽助。
その楽しそうな雰囲気に、つけて来ている螢子と蔵馬は気が気でない。
「け、螢子ちゃん、そんなに落ち込まないで・・・」
「・・・ごめんなさい、大丈夫です・・・」
「ほ、ほら、行こう」
落ち込む螢子を蔵馬が宥める。
そこへもう1人、更にもっと事態をややこしくしそうな人物が。
「おやおや、2人とも何してんだい?」
「ぼたん?貴女こそ何してるんです?」
「いやさぁ、ばーちゃんトコにお茶飲み行ってたのさ」
明るい霊界案内人、ぼたん。
彼女の性格なら、幽助と小兎の事を誤解する事請け合いだ。
「・・・・・あぁ!あれ幽助と・・・・だ、誰だい?」
「さぁ・・・何処かで感じた事のある妖気なんですが・・・」
「・・・もしかして幽助の彼女・・・・・・・そんなぁ〜っ」
「ぼ、ぼたん!まだわからないんですってば」
「で、でもでも、あんな仲良さ気に歩いて〜っ」
「だから、何が事情があるのかと思って、ちょっと・・・」
「つけてたのかい?」
「まぁ、単刀直入に言えば・・・」
苦笑いして誤魔化す蔵馬に、ぼたんは少し驚く。
蔵馬がそんな事をするように思えなかったのだ。
「よぉし!あたしが聞いて来るよ!」
「え?ちょっとぼたん!」
「だって、何かわからないのなんて嫌だろ!?」
思い立ったら即行動。
たたたっと幽助と小兎のいる場所へと走る。
「ちょいとぉ!幽助ーっ!」
突然良く知る声に呼ばれ、幽助がクルリと振り向く。
「あ?・・・あれ、ぼたんじゃねぇか、どうしたんだよ」
「どうしたじゃないよっ!・・・こっちの人は?」
「オメェも知ってる奴だよ、顔見てみろ」
幽助にそう言われ、隣にいた女性の顔をじーっと覗き込むぼたん。
そして少しの間の後、ああ!と声を上げた。
「確か、武術会の審判と実況アナウンサーの・・・」
「あ、覚えていて下さったんですね?実況の小兎です」
「ちょちょ、幽助!何でこの子と一緒にいるのさ!?」
「ああ・・・まぁ色々あってさ、こいつの人間界観光に付き合ってんだよ」
「観光って・・・それだけなの?何か特別な事情とかあるんじゃ・・?」
「別に?」
「じゃ、じゃあそれってデートって事じゃないかぁ!!」
「は?ンなじゃねぇよ。これからゲーセンとか行くだけだし」
互いにそんな気が無いので、どうもデートと言う感覚ではないらしい2人。
だがそれを聞いたぼたんは軽くパニック状態になった。
「そそそ、そんなぁっ・・・」
「お、おいぼたん?どうしたんだよ?」
「うぅぅっ・・・幽助の馬鹿ぁーーっ!!」
「はぁ?!」
突然ぼたんにそう言われ、何が何だかわからぬまま呆然とする幽助。
小兎の方も何が起きたかわかっていないようで、2人顔を見合わせると同時に首を傾げた。
「うううっ・・・幽助がそんな男だなんてっ・・・」
蔵馬と螢子の元へ走って戻って来たぼたんは、ガクッと項垂れていた。
慰める相手が2人に増え、蔵馬の気苦労も更に増えた。
「ぼ、ぼたん・・・幽助は別にデートじゃないって言ったんでしょ?」
「でも、2人きりで出掛けて、しかもゲーセン行くとか言ってるんだよぉ!?デートじゃないかぁ!」
「そう・・・あ、いや、違うってば・・・・・それにしても、まさか小兎とはねぇ」
同じ狐系の妖怪として、ちょっと気にはしていた女の子。
かなり元気で活発だったイメージがある。
それに完全中立の立場だったから、自分達にも好意的だった。
「何で人間界に・・・?」
疑問は色々残るが、取り敢えず取り乱しているぼたんと更に落ち込んだ螢子を慰める事に専念した蔵馬だった。
一方の幽助と小兎は、目的地のゲームセンターに到着した。
始めて見る場所に、小兎はキョロキョロと辺りを見回している。
「よし、ここは一つ俺様が手本を見せてやんぜ」
「宜しくお願いしまーす!」
「まずは格ゲーだ!」
「かくげー?」
首を傾げる小兎を引っ張り、対戦型の格闘ゲームの所へと向かう。
そして空いている席に座ると、幽助が小銭を入れてゲームをスタートさせた。
「これで遊ぶんですか?」
「おう、まぁ見てろって」
幽助に言われ、小兎は隣でじーっと画面を見つめている。
そして、キャラクター選択の所で、あっと声を上げた。
「お?どうした?」
「この人、戸愚呂選手に似ていますねぇ〜」
「ん?・・・あ。本当だ」
ムキムキの男キャラを指し、小兎が言う。
それを見た幽助も、確かにと納得し笑った。
「んじゃ、記念にコイツにすっか」
戸愚呂(仮)を選択し、ゲームをスタートする。
すると軽いムービーの後、ステージが始まった。
「これでどうするんです?」
「コイツと戦って、どんどん勝ってくんだよ」
「画面の中で行われる試合ですね?」
「おう、何だったら実況でもすっか?」
「あはは、それも良いですね!カウント取りますよ!」
「おー、やべ、俺が疼いちまうぜ」
初めて見るゲームに興奮する小兎。
やり慣れている幽助も、今日ばかりは可愛いギャラリーの為にわざと演出を入れながらやってみたりした。
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