ゲームセンターで散々盛り上がった後、少し小腹が空いたと言う事で喫茶店に来た幽助と小兎。
全てが初めての事なので、相変わらず忙しなく視線を泳がせている小兎を、幽助は面白そうに見ていた。
 
「ンな珍しいか?」
「はい!それに、ここはとっても明るいですし・・・楽しいです!」
「そっか、そりゃ良かったぜ」
「それにしても幽助さん、さっきはすごかったですねー!」
「オメェもノッてカウントとか実況してたじゃねぇか」
 
先程の格闘ゲームはかなりの盛り上がりを見せた。
幽助の頑張りもあったが、小兎の表現力豊かな応援に、ギャラリーが増えたのだ。
自然に対戦相手も出て来たりして、かなりの賑わいだった。
 
「お。来たぞ」
「わぁ〜、可愛いですねぇ〜」
 
運ばれて来たケーキと紅茶に、小兎が目を輝かせる。
可愛いデコレーションが施されているケーキは、初めて見る物らしい。
てらてらと光る真っ赤な苺が乗った、丸い型のショートケーキ。
幽助も小兎に釣られて、モンブランなんぞ頼んでみた。
 
「モンブランなんか久々に食うな〜」
「へぇ〜・・・その瑠架さんの身体に巻きついてるの見たいなのはモンブランて言うんですね!」
「あー・・・確かに似てるかもな・・・」
 
そう改めて言われると、食べたくなくなるのが不思議な所だとコッソリ思う幽助だった。
 
 
 
 
 
 
「どーしよー、幽助達いなくなっちゃったー・・・」
 
一方のぼたんや蔵馬達は、ちょっとゴタゴタしている間に幽助達を見失っていた。
だが、もう蔵馬は相手がわかったからか、これ以上追い掛ける気は無い様子。
 
「まぁ、ほら、明日にでも幽助に事情を聞きましょうか、それでも遅くはないでしょうし」
「遅くなるかもしれないよ!?もしもの事があったらどうすんのさ!?」
「も、もしもって・・・大丈夫ですよ、小兎もそんな気は無いらしいんでしょう?」
「・・・・そうね、私、幽助の事信じる・・・・」
「螢子ちゃん!」
 
螢子の沈んだ声に、ぼたんが過剰に反応する。
 
「ほら、あの馬鹿そーゆー事には鈍いし・・・大丈夫よ」
「・・・他でもない螢子ちゃんがそー言うんなら・・・仕方ないけどさぁ」
「うん。・・・何かごめんね、ありがと」
 
そう言って、足早に帰って行く螢子。
その後姿を、何とも言えない気持ちで見送るしかない蔵馬とぼたんだった。
 
 
 
 
 
「あれ?」
「何だよ姉貴」
「あそこに座ってるの・・・幽助君と・・・誰だろ」
「え?・・・ぁあ!?」
 
喫茶店には静流と、静流に強制的にお茶を奢らされていた桑原がいた。
またしても面倒な方向に向かいそうな面子だ。
 
「あ、あれ・・・どー見ても雪村じゃねぇよなぁ・・・」
「・・・まさか、幽助君が浮気?」
「なっ、そ、そりゃあねーだろ・・・多分」
 
いまいち確信は持てない桑原。
やはり気になるのか、じーっと見てしまう。
だが幽助と小兎は気付いていないらしい。
 
「幽助さん、ケーキって美味しいんですね!」
「だろ?たまに食べるとまた美味いんだよ」
「そうなんですかぁ〜。・・・あ、幽助さん」
「ん?」
「口にクリームついてますよー」
「お、ワリィ」
 
幽助の口元についたクリームを、小兎が笑いながら指で掬い取る。
幽助も別に何とも思わなかったのか、笑い返しながら談話を再開した。
 
「のわぁぁ!!何アイツ等恋人同士みてぇな事してんだぁぁぁ!!?」
「うるさいよカズ」
「ん?・・・お、桑原と静流さんじゃねぇか」
 
流石にアレだけ大声を出された為、幽助が桑原達の存在に気が付く。
 
「何だぁ?デカイ声出しやがって・・・」
「お、お、お、オメェがンな事やってっからだろぉが!」
「はぁ?俺が何したってんだよ」
「さっき恋人同士みてーな事してたろぉがよぉ!」
「??」
 
幽助は何が何だかわかっていない様子。
桑原が幽助に突っ掛かっている間、静流は小兎に話し掛けていた。
 
「あら?貴女確か武術会の・・・」
「はい!実況アナウンサーの小兎です」
「ああそうそう、それにしても何でここに?」
「え、いやぁ・・・お恥ずかしいのですが、ちょっとした弾みで迷い込んでしまって・・・」
「そうなの・・・それで、何で幽助君と?」
「たまたま困っていた所に幽助さんが・・・それで、折角なんで人間界を案内して頂いてるんです」
 
えへへと笑う小兎に、なるほどと納得する静流。
だが桑原は会話を聞いていなかったのか、いまだ幽助に大きな身振り手振りで何かを言っている。
そんな弟の姿を見て、これ以上騒ぐと店員に何か言われると思い、静流が素晴らしい一撃を桑原の頭に叩き込む。
 
「ぐはぁっ!!」
「いい加減煩い。ほら、さっさと出るよ」
「お、おい、桑原・・・?」
「ああ、ごめんね幽助君に小兎ちゃん、煩くしちゃったね。それじゃあ」
「あ、ども・・・おい小兎、これからどうすんだ?」
「ん〜・・・そうですねぇ・・・幽助さんにお任せします!」
「ふーん・・・・じゃ、ウチ来るか?」
「良いですよっ」
「ぁあ!?おいゴラ浦飯ぃぃい!!?何女の子家に連れ込もうとしてっ・・・がほっ!!」
「煩いっつってんの」
 
再び誤解されそうな会話をされた為、桑原がすかさず大声を上げる。
だが再度静流に拳骨を落とされ、呆気なく沈んだ。
 
「・・・・・・・桑原選手よりも、お姉さんの方が強いんですねぇ」
「・・・ああ。静流さんがその気になったらその辺の三流妖怪なんか全滅させられんぜ」
 
その姿を想像し、ちょっと恐ろしくなったりする幽助と小兎だった。
 
 
 
 
 
 
 
「ここだよ、俺ん家」
「へぇ〜」
 
幽助に案内され、マンションへと辿り着く。
暗黒武術会の時のホテルにも少し似ている為、それ程戸惑った様子は無い。
 
「ここ」
「綺麗にされてるお部屋ですねぇ〜」
「そうかぁ?まぁ、これで俺がいなかったら悲惨な事になってるだろぉけどな」
「そうなんですかぁ」
 
温子のみだったなら、今頃酒の空き缶やら空き瓶やらが散乱している事だろう。
幽助はこう見えて意外と綺麗好きなのだ。
 
「ま、てきとーに座れよ、つってもベッドぐれーしかねーけど」
「はーい・・・あ、幽助さん」
「ん?」
「服、着替えても良いですか?何だかずっと借りっ放しなのも悪いような気がして・・・」
「あー・・・もう出かけなくていーなら」
「はい、今日は楽しかったですから」
「そっか」
 
それならと服の入った袋を渡す。
 
「じゃあ俺茶ぁでも淹れて来っからよ」
「あ、ありがとう御座います」
 
パタンとドアを閉めると、何となく新鮮な気分でキッチンへと向かった。
 
 
 
 
「おう、着替え終わったかぁ?」
「はい、終わりましたーっ」
「じゃ、入んぜ」
 
カチャリと片手にお盆を乗せて部屋に入る。
そこには、いつもの服装に身を包んだ狐の少女がベッドに座って待っていた。
何となく暗黒武術会を思い出し、懐かしくなる。
 
「その服装見ると、やっぱ武術会思い出すよなー」
「そうですか?・・・いやぁ、でもあの時は本当に凄かったですよ!」
「俺もあん時は無我夢中って感じだったからなぁ〜・・・ホント、今生きてるってのがすげぇよ」
「その後はドームが崩壊しましたしねぇ〜」
「もーありゃヤバかったぜ!螢子に打ん殴られて気絶しちまったし」
「あははっ、優勝者の幽助さんをノックアウトしたんだから、本当の優勝者はその螢子さんですね!」
「あははは、冗談になんねートコが笑えねーぜ」
 
懐かしい話題で盛り上がる。
あまりに盛り上がり過ぎて、日がとっぷり暮れたのも気付かない程。
 
折角幽助が淹れた茶も、すっかりと冷めてしまった。
 
 
 
 
 
「わっ・・・もう外真っ暗ですねぇ〜・・・」
「・・・つぅかさー・・・」
「はい?」
「オメー、帰り道わかんねぇんじゃなかったか?」
「・・・・・・・・・・あぁ!!そそそ、そうでしたぁっ!!!」
 
最初、帰り道がわからず困り果てていた小兎。
それがいつの間にか幽助と共に人間界観光になっていた。
いや、元々観光したいと言っていたのだが、こんなに時間が経過するとは思わなかったのだ。
 
「ど、どうしましょう・・・」
「まぁ、探せばすぐ見つかんだろ、魔界の匂いがするんなら」
「うぅ・・・そ、そうですねぇ・・・」
「おら、一緒に探してやんよ、行こうぜ」
「!は、はい!ありがとう御座いますーっ」
 
 
 
 
 
外に出て数十分、漸く歪みを見つける。
 
ほんの小さな空間だが、小兎位の妖怪なら簡単に入れるだろう。
 
「あ、あの、幽助さん、今日は本当にありがとう御座いました・・・すごく楽しかったです!」
「おう、何だか知んねーけど、俺も楽しかったぜ」
「本当ですか!?」
「おー。だから、また遊びに来いよ、待ってんぜ」
「は、はい!また絶対来ますね!」
 
幽助の言葉に、弾ける様な笑顔で返す小兎。
それに、幽助も同じく笑いながら返した。
 
「じゃあな!気ぃつけて帰れよ!」
「はい!幽助さん、今日はありがとう御座いましたっ」
 
 
しゅん・・・と、歪みに消えて行く小兎。
 
その後姿を見送った後、何となく高揚した気分で踵を返し、鼻歌を歌いながら家路を辿った幽助だった。
 
 
 
 
 
だが後日、あの後蔵馬やぼたんと出会った桑原が喫茶店での事を色々端折りながら話し。
 
そこからまた誤解が発展し、幽助が質問攻めに遭うのは・・・
 
また、別の話。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
END.