貴方の事が、嫌いでした。
僕と同じ顔を持つ、貴方が嫌いでした。
蝋人形の様な肌をして。
アメジストの様な眼を持って。
その名の通り、鴉色の髪を持つ。
僕と良く似た顔を持つ、貴方が嫌いでした。
貴方の事が、嫌いでした。
命を簡単に奪う、貴方が嫌いでした。
小鳥だって。
花だって。
人間だって。
妖怪だって。
玩具の様に壊す、貴方が嫌いでした。
貴方の事が、嫌いでした。
母を放っておく、貴方が嫌いでした。
母はいつでも貴方を待っているのに。
貴方を心から必要としているのに。
貴方はいつも、母を放っておきますね。
母の眼が貴方を探すのを、僕は良く知っています。
それなのに放っておく、貴方が嫌いでした。
貴方の事が、嫌いでした。
妹を放っておく、貴方が嫌いでした。
妹は貴方をとても慕っているのに。
貴方の事が大好きなのに。
貴方が帰って来る度、大喜びするのに。
貴方が去る度、大泣きするのに。
それなのに放っておく、貴方が嫌いでした。
貴方の事が、嫌いでした。
僕を放っておく、貴方が嫌いでした。
僕は貴方を慕っていたのに。
貴方の事が大好きなのに。
貴方が帰って来る度、喜んでいたのに。
それなのにすぐに消えてしまう。
そんな貴方が嫌いでした。
貴方の事が、嫌いでした。
いつもいない、貴方が嫌いでした。
いつでも一緒にいたいのに。
たくさん話したいのに。
たくさん遊びたいのに。
親子として過ごしたいのに。
いつも何処かで旅をする、貴方が嫌いでした。
貴方の事が、嫌いでした。
時折帰って来る、貴方が嫌いでした。
いつまでも一緒にいたいのに。
いつまでも話していたいのに。
いつまでも遊んでいたいのに。
やっと親子として過ごせたのに。
すぐに何処かへ消えてしまう、貴方が嫌いでした。
貴方の事が、嫌いでした。
自由を愛する、貴方が嫌いでした。
自由を愛するから貴方はいない。
自由を愛するから家にいない。
自由を愛するからすぐに消えてしまう。
自由を愛するから僕達を置いて行く。
自由の意味すら教えてくれない、貴方が嫌いでした。
貴方の事が、嫌いでした。
いつも1人の、貴方が嫌いでした。
誰も連れて行かない。
誰にも自由を見せない。
誰の手を引いて行かない。
家族にすらも、誘いを掛けない。
僕の事を連れて行ってくれない、貴方が嫌いでした。
貴方の事が、嫌いでした。
家族を愛する、貴方が嫌いでした。
母の事を愛して。
妹の事を愛して。
僕の事を愛して。
家族の全てを愛して。
その癖すぐに消えて行く、貴方が嫌いでした。
僕の頭を撫でておきながら。
優しく微笑み掛けておきながら。
僕に愛情を与えておきながら。
僕が父を大好きなのだと知っておきながら。
大好きだから、憎ませてもくれない貴方が。
僕はとても、大嫌いでした。
END.
本当は父が好き。
だからこそ、大嫌い。
一緒にいて欲しい時にいなくて、でも、時折そう言う時に帰って来る。
そして、もっと一緒にいたいと思った時に、ふらりと消えてしまう。
そんな大好きな父が、大嫌いなのです。