どうしたものか。

と、自称剣組の面々は頭を捻った。

それと言うのも・・・




「どうして剣がちっちゃくなっちゃったんだろうなぁ・・・」




全員の前に、幼くなった剣がいるからだ。









『泡沫の日々』









それは突然。

今朝、起こった事。

いつまで経っても起きて来ない剣を心配して様子を見に行った所・・・


幼くなった剣が眠っているのを発見したのだ。


さてさて、それには大騒ぎ。

医者の恵や、何か知識があるかと斉藤も呼んで診て貰ったが、原因は不明。


着物は仕方なく、すずめの物を借りた。
すずめの着物が合う所を見ると、4・5歳になってしまったらしい。


しかも、更に困った事がある。



「どう、しようか・・・」
「どうしようって・・・」
「・・・なぁ、剣よぉ、いい加減、泣き止んでくれよ・・・」


剣が、大泣きしたまま、口を利こうとしないのだ。


記憶も何も全て消えてしまっているらしく、更に、従来本心から人を信頼する事が出来ないのか、人見知りが激しいらしい。

その為、今薫や佐之助、弥彦、恵や斉藤は、全く見知らぬ人物。

それが怖くて、泣き止まないのだ。


「ひくっ・・・うっ・・・えっ・・・」
「あー・・・泣かないで、剣さん」

薫が慰めようとするが、それも怖がって逃げる。
先程着替えさせるにも、かなりの労力を要したのに、頭に等触れられる訳がない。

「どぉしたモンかなぁ・・・」
「・・・・・・・」

一方の佐之助と斉藤。
剣に懸想を寄せている男としては、何とも複雑らしい。

目の前には懸想を寄せる女。
しかしその女は、可愛らしい幼い姿になっている。

何か、良からぬ感情が競り上がって来る様な気がしてならないのだ。



「え?なぁに?」



不意に、薫が声を上げた。

その声に、全員が反応する。


「ひっくっ・・・・えっ・・・・ぅっ・・・・ぉ、・・・」
「なあに?誰を呼んでるの?」

薫が、怖がらせない様に気を配りながら、耳を澄ます。

「し・・・ぉは・・?っ・・・ししょぉは・・・??」
「師匠?・・・比古さんの事・・・よね」
「ふぇっ・・・ししょぉ〜っ・・・」

ぽろぽろと涙を流しながら、師匠と呼ぶ剣。
恐らく心の奥で、唯一信頼しているのは、比古なのだろう。
ほとんど無意識の内に呼んだらしい。

「これじゃあ・・・比古さんが来ないと、どうにも出来なさそうね・・・」
「そうみたいね・・・」

恵と薫が、唯一剣が名を出した比古を思い浮かべる。
確かに、師でもあり、親の様な存在である比古なら、せめて泣き止む位はしてくれるだろう。

「兎に角・・・比古さんに来て貰わないと、話は始まらないわね・・・」
「今から急いで連絡を取っても・・・来て貰えるのは、明後日・・・いえ、明々後日位かしら」
「そうね、比古さんの事だから・・・来てくれるかどうかも、わからないわね・・・」

あの様子では、きっと面倒がって来ない事も考えられる。


しかし、今は比古に頼るしかないのだ。


そう決め、すぐに文の用意をし出した。








「・・・・・はぁ?」


文を受け取った比古は、思わず間の抜けた声をあげた。


「・・・大事だぁ?何だそりゃ」


その手紙には具体的な内容は記されておらず、剣の身に大事が起こっている。
すぐに東京へ来て貰いたい。としか書いていなかった。

これには首を傾げるしかない。

だが、わざわざ手紙を寄越すのだから、本当に何かが起こっていると言うのは確かだ。


「ったく・・・・何処まで面倒掛けんだ、あの馬鹿弟子は・・・」


そう溜息を吐くと、面倒そうに重い腰を上げた。




道中、比古は考える。

あの馬鹿の事だから、人を殺したとかではないだろう。

だが、病に罹っただけならわざわざ自分を呼ばないだろうし・・・。


色々と考えてみても、自分を呼び出す様な事態を予測出来ない。


一体何なんなんだと頭を捻りながらも、心なしか早歩きで山を降りた。































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